dark legend   作:mathto

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「じゃ、出発するか。」

「はい。」「おう。」

ジルの掛けた声に残りの4人は元気よく返事した。

「あ、そうそう。ジル、先に言っとくけどイデア教の神殿に行くまでに

獣王の森を抜けることになるからな。」

「獣王の森?」

「そうだ。この魔界でかなりの実力を持っている獣王キングレオ

の縄張りだ。イデア教の神殿からけっこう近いがあいつらもそう簡単に

手が出せずにいるみたいだぜ。」

キッシュが思い出したようにジルに伝えた。

「そうか。まぁ、イデア教以外の奴とはそんなに争いたいとは思わないが

戦わないといけないかもしれないってことだな。」

「出来れば、味方にしたいですよね。」

「それは無理だと思うな。獣王は自分の縄張り以外のことには関心を

示さない。もしイデア教がやつの縄張りを荒らすようなことがあれば

話は別かもしれないが。」

「ふ~ん。」

ブランの話をあまり関心なさげにジルは聞いていた。

「まぁ、俺たちだけで十分だろ。イデア教を倒すのは。」

3魔剣士はジルの言葉に頷く。

そうしてしばらく歩いているうちに森へとやってきた。

5人は森に足を踏み入れた途端に違和感を感じた。

それは森全体を覆いつくすかのような強烈な血の匂い。

少し足を進めただけで大量の獣の死体を嫌がおうにも見てしまう。

ジルとマルクはお互いに顔を見合わす。

「ジル、この感じは見覚えがありますね。」

「ああ。俺たちは知っている。まさか死神がここにいるっていうのか!?」

「おい、死神ってお前ら何言って...。」

リゴットがそう言おうと2人の顔を見たとき、2人のあまりの緊張感に

言葉が止まった。

「しかし、ここは進まないわけには行きませんね。」

「そうだな。」

5人は緊張感を高めたまま死の森と化した獣王の森を歩き続けた。

「...何かいるな。」

神経を尖らせていたジルは前方から気配を感じていた。

他の4人も同様に感じていた。

5人は恐れを懐きながらもその場所へと向かっていく。

するとすぐにそこから獣の叫び声のようなものが聞こえた。

「行くぞ。」

5人は気配を殺すようにゆっくりと近づいていく。

 

 

 

森の中で一際存在感を示すモンスター。

八本の足を持ち、そのうち4本で人間のように立ち

残りを腕のように構える。頭はライオンそのもの。

その巨大な体と獲物を見ただけで身動きとれなくしそうな

ほどの目をしたそれは獣王の風格を醸し出していた。

「貴様、よくも俺の家来たちを皆殺しにしてくれたな。

ただ殺すだけでは済まさんぞ。後悔するほどの痛みと苦痛を

与えて半殺しのまま見せしめにしてやる。」

獣王の視線の先にいたのは眼鏡をかけたおとなしそうな青年だった。

「へぇ、そうなの。」

青年は獣王の脅しに全く動じず平然と答えた。

「でも獣王キングレオ。君の希望は叶えられそうにないなぁ。」

「何。」

「だって僕が今この場で殺してしまうから。」

キングレオは怒りで口より先に一本の腕が青年を殴りにかかる。

「グギャー。」

キングレオの顔が苦痛に歪む。

キングレオが青年を殴りかかろうとした手に光の針が刺さっていた。

その部分から血が流れ出ていた。

「そろそろお客さんが来そうだからもうあっさりとやっちゃうよ。」

青年は手から十数本の光の針を出現させる。

キングレオは今刺さっている光の針のダメージの大きさから

次に来る攻撃を受ければ致命傷になることが分かり、

冷や汗を流して緊張していた。

「どうせならちょっとぐらい抵抗したほうがいいんじゃない?」

青年は余裕の表情で挑発する。

「グォォォォォ!!」

キングレオは恐れを抑えて青年に全力でぶつかるように攻撃を仕掛ける。

ズバッ!ズバッ!!

キングレオの全身に光の針が深く突き刺さる。

その途端にキングレオは身動きがほとんどとれなくなってしまった。

「ぐ、ぐぅぅぅl...。まだだ、まだ倒れんぞ。」

キングレオは必死の力を振り絞って立ち続けた。

「さすがは獣王。ご立派だね。でもこれで終わりだよ。」

青年はそう言うと針よりも遥かに大きい光の槍を出して手にする。

そしてそれを身動き取れないキングレオへ勢いよく投げつける。

グサッ。

光の槍はキングレオの腹を貫き、キングレオはそのまま何も言わずに

その場にバタッと倒れた。

そこへジルたちがやってくる。

3魔剣士はその場の光景に大きな驚きを見せたが、ジルとマルクは

状況を理解していた。

そして2人は青年の方をじっと見つめる。


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