「そう急ぐな。ゆっくり説明してやるから。まずお前は今まで邪神の力を
頼りに戦ってきたはずじゃ。」
「うん、まぁそれはそうだな。」
「それを使えたというのはお前がうまく邪神のオーラを感じておったから
じゃが、それは危険なことだった。」
マルクは納得して頷いた。
「何が危険かというのは邪悪なオーラを受け入れる部分があったことじゃ。
つまり自分の心を邪悪に染めるに近い状態。なんとなくは分かるな。」
「ああ。」
「邪神が抜けたからといってもお前の心がきれいになった
かと言えばそうではない。」
これにはマルクとメアリーが頷く。
「ジル、お前本来の心が邪悪に合わせていたのだから
その本来の心自体が邪悪に変わりやすい。それが今の
状態じゃ。今までの力を出そうとすればするほどその傾向は
強くなる。ならどうすればいいか。それは暫くの間、力を出そうと
はせずに本来の心をしっかりとしたものにすることが先決じゃ。
そこから本来の力というものを1から生み出していく。
すごく遠回りのようじゃがそれが一番いいと思うぞ。」
「そうか、分かったよ。ありがとう」
説明をしっかりと聞き終えたジルはニムダに礼を言って小屋を出ようとする。
「ジル、魔界に行って大分成長したようじゃな。顔つきで分かる。
わしの弟子としてお前には期待しておるからな。急がず慌てず
じっくり自分と向かい合うんじゃぞ。」
「ああ。」
ジルは笑顔でニムダの小屋を出た。
「じゃあね、ニムダ。またね。」
「あ、お邪魔しました。」
メアリーとマルクも挨拶をしてジルに続いた。
「来てよかったんじゃないですか?」
マルクがジルに尋ねる。
「あぁ、まぁな。」
「で、これからどうするの?全く何もしないって訳じゃないでしょう。」
「う~ん。そうなんだけどなぁ...。」
「しばらくはこの辺りでぶらぶらするのもいいんじゃないですか?」
「実は村に1回戻ってみようかなって考えてるんだけど...。」
「え、ジルが生まれ育った村ですか?」
「いいんじゃない。行きたいな、私も。」
「いいのか?」
「はい。」
「ええ、もちろん。」
マルクとメアリーは笑顔で頷く。
「ありがとう。村に戻ったら母さん喜ぶだろうな、賑やかで。」
3人はジルの村に行くことにした。
「はぁ~。」
ジルはふとため息をついた。
「どうしたんですか?」
「いやな、何もするなって言われたりして
なんか急に気が抜けたみたいになってな。」
「あぁ、今までいろいろありましたからね。」
「でも私なんか魔界で捕らえられていたとき本当に
退屈だったんだからね。それに比べれば全然よ。」
「それもそうだよな。メアリーはそのとき何を考えてたんだ?」
「え!それはあれよ...。ご飯は何かなぁとかそんなことよ。」
「ははは。それすっげえくだらねぇな。よくそんなことで
長い時間待てたな。」
「何よ~。(危ない、危ない。ジルのことずっと考えてたなんて
言ったらどんなに笑われるかしれないわ。)」
ザッザ。
ジルたちの前に馬に跨った数人の騎士が現れた。
「やっと見つけましたぞ、姫様。」
中心にいた老兵が前に出てきてメアリーに言った。
「げ、ドーガ。どうしてここに?」
「姫様がいなくなって以来、私共は王の命を受けてずっと探して
いたのです。」
「メアリー、こいつらは?」
「こいつらとは失礼な。我らはアルテリア宮廷騎士団だ。」
ドーガの横にいた若い騎士がムッとしながら言った。
「さぁ、姫様。城に戻って頂きますよ。」
「嫌よ、絶対嫌。何で今さらあんな退屈なところに戻らなきゃいけないのよ。」
バチッ。
ドーガがメアリーの頬を引っ叩いた。
「痛っ。」
メアリーは叩かれた頬を手でおさえる。
「あなたは王がどれだけ心配されていたか分からないのですか。」
「そんなのお父さんの勝手でしょ。私には関係ないわ。」
「どうあっても城には戻らないと?」
「そうよ。」
「そうですか、ところで後ろのお二方は友達ですか?」
「な、何よ。大事な仲間よ。」
「こんなことはしたくはないのですが、仕方ありません。
お仲間を誘拐犯として指名手配にしましょう。」
「はぁ、何言ってんの。訳が分からないわ。」
「こうすればあなた方は一緒にはいられなくなる。そうすれば
城に戻ってくるしかなくなるでしょう。」
「そんなことをしたら由緒正しき宮廷騎士団の名が泣くわよ。」
「構いません。我らにとって一番大事なことは王家の命を守ることに
ある。そのためなら卑怯なことも厭いません。」
ポン。
ジルがメアリーの肩に手をのせる。
「メアリー、1回城に帰れよ。」
「え、どうして...。」
メアリーは信じられないという顔でジルを見る。
「魔界で長い間1人ぼっちでやっとジルと一緒にいられると思っていた
ところなのよ。それなのにどうしてそんなこと言うの?」
メアリーの目には涙が浮かぶ。