皇帝とジルたちの間にしばし沈黙の時が流れる。互いの出方を窺うように。
「用件は何だったかな?」
皇帝は穏やかに尋ねる。
「レナ王女の手紙にも書いてあったと思うが、帝国が侵略を繰り返す
目的について聞きたい。」
ジルは皇帝のプレッシャーを振り払って毅然とした態度で言った。
「侵略か。それは余の野望の為だ。世界を余の下に置き、余の思い通りに
動かす。このテラだけでなくいずれは魔界をもな、魔界の覇者ジル。」
「!?」
ジルは驚き言葉を失う。
「そう驚くことはあるまい。余が魔界に興味を持ち偵察を送らせていた。
だからお前が魔界で最大の勢力を誇っていたイデア教を倒したという
情報を持っていても何の不思議もあるまい。」
「た、確かに。」
「聞きたいことはそれだけか?」
「もう一つ。帝都すぐ近くのネーデル村がゾンビを操る魔道士に壊滅させられていた。
そのことを知っているのか?」
ジルは平静を取り戻して再び皇帝に訊ねる。
「あぁ、黒騎士団のことか。奴らにはネーデル村を守るように言っていたのだがな。
まぁ村人を殺しても仕方ないか。」
皇帝は淡々と答える。
「仕方ない?お前は国民の命をどう思っている?」
ジルはあくまで普通に問いかける。
「ふん。皇帝である余の命に比べれば村人数百人の命など鳥の羽のように軽いものだ。
いくらでも代りがいる、ほっとけばまた増えていく、何も気にすることは無いだろう。」
皇帝はそう言い捨てた。
「あんたねぇ、黙って聞いてりゃ何言ってんのよ!国民の命を大切にしない主なんて
最低よ!!」
メアリーが後ろから怒り出す。それをジルは手で制する。
「メアリー、気持ちはよく分かるが黙っててくれ。」
ジルはメアリーに優しく声をかける。
「皇帝、もし今の言葉が真実なのだとしたら俺はお前を倒さなければならない。」
ジルは真剣な面持ちで皇帝の顔を見る。
「はっはっは。余を倒すか、おもしろい。魔界の覇者の力とやらを見てみたいものだ。」
「いいだろう。」
ジルはすっと剣を抜く。
一方、皇帝は腰に提げた鞘に手を当てるが剣を抜こうとしない。
「どうした?やる気がないのか?」
ジルは一瞬戸惑う。
「これは余の構えだ。気にするな。かかって来い。」
「そうか。ならば、行くぞ!」
ジルは仁王立ちする皇帝に向かって剣を振るった。
ガキーン!!
大きな衝撃音を挟んでジルと皇帝の対照的な表情が見て取れた。
「ば、ばかな。」
ジルは刀身が半分無くなった自身の剣を見て驚く。
「この剣『オートクレール』は魔剣と言われた一刀のはずだ。長い年月での老朽化や
使いすぎて耐久力が落ちていたということはなかったはずだ。」
余裕の表情を浮かべる皇帝の手には少し反った長剣が握られていた。
その剣は神々しい輝きを放っており一般の兵士が手にする剣とは
全く違う力強さを誇っていた。
「単純にその剣は余の剣よりも弱いということだ。余の剣は『飛剣ファルシオン』。
神より齎された『聖剣エクスカリバー』と攻撃力において引けをとらぬものだ。
余の剣に勝てる武器はそれほど多くは存在しない。」
「そ、そんな...。」
ジルは落胆の色を浮かべる。
「少々がっかりしたな。魔界の覇者の力とはこの程度のものか。
これなら余の魔界制覇はそれほど難しいものではなさそうだな。
それともジル、お前がこの剣と対等の剣を手にしていれば
違った結果になっていたか?」
「ぐ。」
ジルは剣を折られ圧倒的に不利な状況を感じていた。
「まぁいい、どちらでも。もはやお前の目は敗者の目だ。余は敗者に用はない。
さっさと引き下がるがいい。」
ジルは屈辱を強く感じながら言葉を失っているマルクらを
連れて城を出ることにした。
城を出たジルたちだったが、皆言葉がなかなか出てこない。
そんな重苦しい空気の中、ジルが口を開く。
「いや~、まいったな。皇帝があんなに強いとはな。」
ジルは場を和まそうと軽い感じで言った。
「そ、そうですね。」
マルクもジルの気持ちを察して同意する。
「まいったじゃないわ!あんな奴に負けて悔しくないの!」
メアリーはまだ怒りが納まらないといった感じでジルに言葉をぶつける。
「私も何だか悔しい。あんな人を人だと思わないような最低な皇帝に
ジルが負けるなんて。」
パティも控えめながらメアリーと同じ意見を言う。
「確かに悔しいよな。こうなったら...。」
「ヒヨルド博士の剣を完成させるんですね。」
マルクはジルの言葉の続きを言う。
「あぁ。」
ジルは決意に満ちた表情で空を眺めた。