連合軍が敗れたという情報はギアナ国に隣接するストナ王国にも
すぐに届いた。
「連合軍が敗れたか。帝国の勢いを考えれば不思議はないが、
そうなればいつ我が国に攻め込んでくるやもしれんな。」
ストナ国王は報告を聞き、溜め息混じりで言った。
そこへ軍師であるエウドラが王へ近づく。
「心配はいりません。我が国の領土拡大による兵力の分散問題は
軍備の増強を行い既に解決済み。帝国が攻めてくる場合、
険しい山に囲まれた細い道を避けては通れず大軍で来ても
恐れることはありません。」
「そうか、さすがは軍師。我々は帝国からの侵略に対し
地形的に有利な状況だったな。」
「はい。ですからこちらから攻め入るのは今の状況では難しいですが、
守りに関しては危惧する必要はありません。」
エウドラは安心させるように言った。
「エウドラ、感謝する。そなたが我が国の軍師で本当によかった。」
「ありがたきお言葉。では、私は一度部屋に戻らせて頂きます。」
「うむ。」
エウドラは王の間を出ると、急に神妙な面持ちに変わった。
「帝国に分があるとは考えていたが、ここまで早く決着が着くとは。
連合軍はそこまでだらしなかったのか。もしそうでなければ、
帝国は...。」
不安げな表情でエウドラは自室に入り扉を閉めた。
帝国軍、第三の将軍ハーマン。帝国一の魔道士である彼は
部隊を引き連れストナ国へと進軍していた。
「果たしてこれだけの数でストナ国を落とせるだろうか?
ギアナ国へ援軍を出さなければいけないから仕方はないが、
情報に聞くストナ国防衛の戦力よりも明らかに少ない。
エミルの作戦が成功しなければ全滅もありうるぞ。
ここは信じるしかないか...。陛下お気に入りの軍師様の力とやらを。」
やがてハーマン軍は山間を通りストナ国のコスタル砦へと辿りつく。
ハーマン軍は数十人の魔道士が含まれていた。
「魔道士隊、前へ。この扉を焼き尽くすぞ。」
魔道士隊はハーマンの指示に従い前面に出る。
「『エルフレイム』。」
ハーマンを始め帝国の魔道士達は炎の魔法で木で出来ている砦の門を焼いていく。
「帝国軍に好き勝手なことをさせるな。射てー!」
砦の指揮官は門の上より指示を出し、弓兵が帝国軍に向けて矢を放つ。
帝国側は急いで魔道士を守るため大きな盾を持った兵士が魔道士のさらに前へと出る。
その攻防の中、砦の門はすぐに焼かれて帝国軍とストナ国軍は対面することになる。
「ここからが本番だ。気を引き締めていくぞ。」
山間の狭い砦で2つの軍がぶつかり合う。
兵数で劣るハーマンの帝国軍だったが、魔道士の強力な魔法攻撃によって
戦況はほぼ互角のまま戦いが続く。
「ここまで早くに帝国軍が攻めてくるとは...。
エウドラ、これをお前は予想出来ていたか?」
ストナ国王は焦りを感じながらエウドラに尋ねる。
「はい。この可能性は確かに考えていました。しかし確率は低いと
踏んでいたので、闇雲に王に不安を与えるのはどうかと思い
黙っていました。すいません。」
エウドラは素直に謝り、王に頭を下げる。
「よい。帝国はそれほどまでということなのだろう。」
王は諦めの表情でエウドラに頭を上げるよう手で合図する。
「ギアナでの決戦と同時に動き始めていたのは間違いないでしょう。」
「で、どうなのだ?我が軍は負けるか?」
王は率直にエウドラに問う。
「いえ、敵は大将を始め魔道士を主軸としている模様。魔道士の攻撃力は
侮れないものはありますが、身体能力で戦士に劣りまた軽装ゆえ防御も弱い。
今の状況は一時的なものであり、じきに我が軍へと傾くことになりましょう。」
「そうか。ならばまだ我が方に有利であることは確かなのだな。」
「はい。」
「エウドラ、私に隠していることはないか?お前のおかげで領土を拡大出来た
ことは事実。それ故、お前を信用していないというわけではないが、私を
心配していることがあるのなら言っておいてくれ。」
真っ直ぐにエウドラを見るストナ国王に対しエウドラは傍に近づき耳元で話す。
「まだ危惧していることがあります。帝国がどれほどのものか測りかねる部分は
あるのですが、もしも帝国が我が国の弱点に気づいた場合には対処はまず無理かと...。」
「弱点!我が国に弱点があるというのか?」
「はい。大変申し上げにくいのですがこの弱点を補うことは困難です。」
「それは何だ?」
「それは...。」
エウドラは王にだけ聞こえるように小声で話す。
「いくら何でもそれは心配しすぎというものだ、エウドラ。さすがに帝国もそれは
してこないだろう。よかった、お前の心配がそのような物で。」
王はエウドラの話を聞いて安堵した。
「(確かにありえない。しかし考えられない話ではないのだ。)」
エウドラは王の言葉を聞いても不安を拭いきることは出来なかった。