エミルの予想通り、エウドラのいなくなったストナ国は
立て直しを図った帝国軍にとって敵ではなくあっという間に攻め落とされた。
「ぐ、エウドラの言葉を気にしていればこんなことには...。
私には王の器が足りなかったということか。ぐふっ...。」
ストナ国王は後悔を胸に倒れることになった。
もはや帝国に対抗出来る者はおらずアルテリア連合国は次々と
落ちていった。
「いよいよ今日か。」
盗賊が予告していた日にちになりジルたちは緊張感をもっていた。
「今回はかなり入念に下調べすることが出来てよかったですね。」
「う~ん、そうだな。奴らが正攻法で来るとすれば侵入ルートも
逃走ルートも予想出来るんだが、そんなことをするとは思えないしな。」
ジルは少し悩みながら答えた。
「要するにこの準備期間は意味がないってこと?」
メアリーがジルに尋ねる。
「いや、しばらくここにいてここの家族のことは少し分かったぞ。
娘のアンナさんはもう30になるというのに結婚が出来なくて焦ってるとか
そのアンナさんとボーラーさんの妻ナターシャはあまり仲がよくないとかな。」
「それって意味があるの?」
パティは苦い顔でジルに問う。
「さぁな。それはこれからの状況で役に立つかどうかわかるさ。
じゃ、そろそろ絵の様子を見に行こうか。」
日が沈む頃、ジルたちは名画『夕焼け』が飾られているリビングへと向かった。
「あぁ、来たか。今のところ何も異状はないぞ。君たちが来てくれたおかげで
盗賊も諦めているのかもしれんな。」
依頼者であり、この屋敷の主人のビル=テイラーは穏やかな様子でゆったりと
椅子に腰掛けていた。
「どうして、あの女に早く出てってくれって言ってくれないの!私がどんな気持ちで
暮らしているか分かっているでしょう?」
ボーラーとナターシャはケンカをしながらみんなのいるリビングへやってくる。
「よさないか、ナターシャ。みんなの前だぞ。」
ボーラーが恥ずかしそうにナターシャを諫める。
「後でもう一度聞いてもらいますからね。」
「分かった、分かった。だから少し落ち着きなさい。」
ボーラーはやれやれといった感じで席に着く。
リビングの扉がまた開くと今度はアンナが入ってきた。
「あら、ナターシャ。顔色が悪いんじゃない。ちょっと病院で
見てもらった方がいいと思うわよ。結婚なんてしたって
全然幸せなことなんてないでしょう?」
アンナは入ってくるなりナターシャに意地悪そうに言った。
「あんたが...。」
ボーラーは2人がすぐにケンカしそうなのを察してナターシャの
口を塞いだ。
「さて盗賊なんて本当に来るのかしらね?ただの悪戯じゃないの、お父様?」
「悪戯ならそれにこしたことはないが、もしものことを考えてな。
まぁ、このまま無事に何もないことを願うよ。」
そう言ってビルは絵の方を見る。
刻々と時間が過ぎていく。外で鳥がさえずる声や風で木々が揺れる音が
するくらいで静かな時が流れる。
「静かね。」
全員が席についている中、メアリーが口を開く。
「これって本当に悪戯だったってことはないですか?」
「それはないと思うんだけどな...、ん?」
ジルはそう答えながらぼーっと絵を眺めているとある異変に気づいた。
「ビルさん、この絵の額縁って銀じゃなかったですか?」
ジルは少し驚いた表情で尋ねる。
「ん?...、あ!これは銅になっている。どういうことだ!?」
ビルは目を見開いて驚く。
「絵の方は本物ですか?」
ジルは真剣な面持ちでさらに尋ねる。
「絵は本物と思うが...、何だか色が少し変わっているような...。」
ビルは自信なさげに答える。
「恐らく、もう既にすり替えられたのでしょう。」
「ばかな!いつの間に!わしは今日一日ずっとここにおったぞ。」
「この部屋からは全く?」
「あぁ、朝起きてからずっとだ。トイレに二度程は行ったが、それ以外は
全く動いておらん!」
「そうなると、考えられるのはそのトイレの時だけですね。」
「しかし、予告状には日が沈む頃と書いてあったぞ。私は日中しか
行っていない。」
「それって盗賊が嘘をついたってこと?」
パティが考えて尋ねた。
「それは...。俺もそんなにあいつらのことを知っているわけじゃないからな。
嘘の予告状を出してくるとは考えられなくもないが...。」
「違うと思いたいというところですか?」
「ああ。あいつらはそういうことはしないような気がするんだよな。
何の根拠もないけどさ。」