「いや、何もきっちり組織に所属して活動して欲しいというものではない。ただ、
名前を登録させてもらうようなものだ。」
「どういうことだ?」
「所属してもらうからといって何か押し付けるようなことはない。協力を仰ぐときは
もちろんあるだろうが、気が乗らなければ全然拒否してもらって構わない。その気が
ある時だけ一緒に行動するということでいい。逆にそちらが協力してほしいことが
あれば何か出来ることがあるかもしれない。活動はほぼ個々の自由に任せるという
ものだ。どうだろう?特にデメリットはないと思うのだが、参加してはくれないか?」
「ふむ。それなら参加しても構わないと思えそうだ。だが、今俺は随分と機嫌が悪い。
そこの男のせいでな。」
そう言ってグレンはジルを指差す。
「そこでだ。ワーグバーグといったか。俺と魔法で勝負をし、お前が勝てば参加する
というのはどうかな?」
「力づくで来いということか。...、いいだろう。その勝負受けよう。」
そして、グレンとワーグバーグが対峙する。
「俺からいくぞ。『ファイアボール』。」
グレンは火の玉を手から出し、ワーグバーグへと放つ。
「『ストーンウォール』。」
ワーグバーグは魔法で石の壁を出現させる。グレンの火の玉は石の壁に弾かれる。
「今のはほんの小手調べだ。次はどうかな?
『ボルケーノ』。」
グレンの手から放射状に炎が発せられる。その炎はワーグバーグの
石の壁を襲う。
「無駄だ。その炎に石を破壊する力はなさそうだぞ。」
ワーグバーグは石の壁を維持したまま言う。
「よく見るんだな。」
グレンの放つ炎は高温で石の壁を徐々に溶かし始めた。
「な!」
ワーグバーグはこのままでは炎が壁を貫通することを悟り、回避へと
行動を移す。ワーグバーグからの魔力がなくなった石の壁は、
炎が突き抜けると同時に崩れ去った。
「これで終わりか?」
グレンは余裕の表情でワーグバーグに問いかける。
「こうなれば、こちらからも攻撃させてもらおう。」
ワーグバーグは右手に魔力を込める。すると、グレンの頭上に大きな岩が
いくつも現れる。
「くらえ、『ストーンシャワー』。」
岩がグレン目掛けて次々に落下していく。
砂埃が巻き上がり、その様子はよく見えない。
ワーグバーグは攻撃しながら様子を窺う。
攻撃が終わり、舞い上がっていた砂埃も落ち着き様子が見えてくる。
そこには炎に包まれたグレンの姿があった。
「『セルフバーニング』。これは自らの体を炎で包み身を守るもの。
先ほどのお前の壁と同じようなものだ。」
「無傷ということか。」
ワーグバーグの顔には落胆の色が見て取れる。
「残念だったな。今のはなかなかいい攻撃だったが。
これで終わりにしてやろう。」
グレンは右手に炎を宿す。
「グレン、アリジゴクって知っているか?」
「アリジゴク?何のことだ?」
「『サンドスウィール』。」
ワーグバーグが魔法を唱えると、グレンの足元が地面に埋まり始める。
「何!!」
グレンは驚き、手にしていた炎を一旦消した。
グレンは抜けようと足を動かそうとするが、余計に体全体が沈んでいく。
「お前の足元の土を魔法でやわらかくした。お前の体はアリジゴクの罠に
はまった獲物と同じ。」
「く、動けん。」
グレンはもがいているが、その体は徐々に徐々に土の中へ埋まっていく。
「(今はこの術に対する対処法が思いつかない。そしてこの戦いに
命を賭するまでの必要があるかというと...。)」
グレンはほんの少し考えて口を開く。
「いいだろう。ここは俺の負けだ。」
「よし。」
ワーグバーグは魔法を解いてグレンに近づく。そして手をそっと差し伸べる。
グレンが黙ってその手をしっかりと掴むと、ワーグバーグはグレンの体を土の中から
引っ張りあげた。
「ようこそ、『魔導協会』へ。で、いいかな?」
「ああ。こんなところでガキのように駄々をこねるつもりはない。
約束通り『魔導協会』に入ろう。さっきまでのうやむやしたものが
今のですっきりした気がする。」
ワーグバーグとグレンは微かな笑みを浮かべた。
「さて、ではもう行くか。」
ワーグバーグはもう用事が済んだという感じで立ち去るそぶりを見せる。
「待ってください、ワーグバーグさん。」
マルクはワーグバーグを引き留める。
その声に思わず振り返る。