「(!!。そうか。あの剣の能力。敵にまやかしを見せ、自身を
狂戦士へと変える。そういうことか。しかし、あれでは体に負担が
かかってくるはず。)」
ジョーカーの考え通り、ジルは汗をかいてきてやがて剣の能力は
解けた。
「はぁはぁ。ここらが限界か。だが...。」
「あれだけの攻撃、こちらもダメージを受けたねぇ。」
ジョーカーは体のあちらこちらに傷を負っていた。
しかし、仮面の下から覗く表情にはまだ余裕があった。
「君の力は見せてもらった。今度は僕の番だね。」
そう言うとジョーカーの体から黒いオーラが放出される。
「見せてあげよう。『カオス』の力を。」
「(何だ?)」
ジョーカーが発した黒いオーラの中からジョーカーの分身が現れる。
その数は元々の本体を入れて10体。
「これは幻じゃないよ。全て実体がある。そして、分身したからといって
力が分散されているわけではない。一体ずつが僕本来の力を持っている。
本体が一つで他が偽物ということでもない。全てを倒さなければ僕を
倒したことにはならない。但し、時間制限があるがね。」
「ご丁寧に説明してもらってありがたいね。(本当にその通りなら
なんて厄介な能力だ。それにもし...。)」
ジルは10のジョーカーを相手に闘いだす。
次々と襲いかかるジョーカーにジルは防戦一方となる。
「く。(やはり。同士討ちにならないようにそれぞれの位置関係を
把握しているようだ。それによって...。)」
「(1の力が10集まっても10の力よりも小さくなるが、十分
攻撃力は増す。)」
「(ここは時間切れを待つまで耐えるしかない。)」
ジルはジョーカーの攻撃を耐え続ける。
ザシュザシュザシュ...。
ジルの体に次々とジョーカーの鎌が刺さる。
「ぐぅっ!」
ジルは攻撃をかわすことが出来ないまでも何とか致命傷だけは受けないように
頑張ろうとした。
もうこれ以上は受けきれないと感じ、わずかな攻撃の間で
ジルは剣の形状を変える。
「『ヒーリングソード』。」
やわらかい橙色の光がジルを包み傷を癒す。
この瞬間ジルの傷は治るが、またすぐに攻撃を受け傷つく。
傷ついては回復し、傷ついては回復する。
ジルにはこの時間がとても長く辛いものに感じられた。
「本当に大したものだ。これだけ攻撃しても死なないのだから。」
「褒めてるつもりか?」
ジルは苦みながらもジョーカーを睨む。
「こういうときは素直に喜ぶものだよ。」
ジルとジョーカーは刃を交え続ける。
そうして、ジョーカーの能力が時間切れとなる。
ジョーカーは一人だけとなって一旦動きを止める。
「あ、残念。」
ジョーカーはあっさりとしていたが、ジルの方は疲労困憊となっていた。
傷自体は治っても傷つけられた痛みの感覚やつらさは蓄積され精神的疲労はピークに
達しようとしていた。
「(こ、ここで終われない...。俺はこいつに勝たなくちゃいけないんだ...。)」
ジルはがむしゃらにジョーカーに立ち向かうが、攻撃が単調になり
うまく攻撃がつながらない。
「そんな無駄な攻撃をいつまで続ける気だい?」
ジョーカーは嘲笑うかのようにジルの攻撃を淡々と
受け流していた。
そうしている内にジルに異変が起こる。
その異変はジョーカーも肌で感じ取っていた。
「(こ、これは...。)」
ジルから白く輝くオーラが発せられていた。
ジルの攻撃は単調であることに変わりはなかったが、
力強さが増していた。
「(疲労はピークに達しているはずなのに...。
この力は封印体から解き放たれた彼本来の力。
それが今眼覚めの時が来ているというのか。)」
ジョーカーは余裕がなくなり防戦を強いられることになる。
ガンッガンッ!!
「ぐぬぅぅ。」
バリンッ!
ジョーカーの鎌がジルの剣によって破壊された。
ジルの攻撃が再度襲うとき、
ガン!
ジョーカーは一本の剣を手にしジルの剣を受けた。
「!?」
ジルは突然ジョーカーが剣を使いだしたことに驚く。
「(こいつが剣を使うなんて。)」
ジルとジョーカーは互いの剣をさらにぶつけていく。
その中で偶然、ジルの剣がジョーカーの仮面に当たる。
ジョーカーの仮面にピキッとひび割れの線が中央に走り、
パキッと割れた。仮面の下にはあごに少し鬚は生やした端正な顔だちをした
男の姿があった。
「(な、何だこの感覚は?)」
ジョーカーの素顔を見たジルは違和感を感じていた。
「俺の仮面を割ったか。」
ジョーカーは顔を指で触り確かめるようにして言った。
「(ん?口調が変わった。あの仮面が奴に何らかの影響を与えていた
のだろうか?)」
「仕切り直しだ。」
ジョーカーがそう言うと闘いは再び繰り広げられる。
その中でジルは違和感の答えを探していた。
「(この感覚はどこか懐かしいような...。しかし、なぜこいつから
そんな感覚が感じられるのか?)」
「動きに思いきりがなくなっているぞ。」
ジョーカーの攻撃はジルを押していく。
「(今はそんなことはどうでもいい。とにかくこいつを倒すことだけ
を考えろ。)」
ジルは頭の中の迷いを吹っ切ろうとする。
しかし、ジョーカーの動きを見ている内に、
「親父...。」
ふいに出たジルの言葉にジル自身、そしてジョーカーも戸惑いを覚えた。
「な、なぜ...。」
「何を言っているんだ?」
お互いの動きが一瞬止まる。
「訳の分からないことを言うな!」
ジョーカーは剣を振る。
「(そうだ。俺は何を言ってるんだ。こいつが、こんな奴が俺の親父で
あるはずがないだろう。なのに、なのに、...。心の奥深くにこいつが
親父であることがすごくしっくりするという感覚が湧いている。)」
ジルは確信する。
「お前は俺の父、オルグ=レイヤードだ。」
それを聞いたジョーカーは怒りを露わにジルを攻撃する。
「何度もふざけたことを言うな!!」
攻撃を続けるジョーカーだったが、目には迷いが出ていた。
一方のジルは気持ちが一つになり、動きに俊敏さが戻っていた。
そんなジルにジョーカーの攻撃を防ぐのは容易かった。
「こ、こんな俺がお前の父親であるはずがないだろう。
俺はただの道化師に過ぎない。」
ジョーカーの目から一筋の涙が流れ落ちる。
ジルとジョーカーは剣をぶつけ合っていたが、ジルの突きが
ジョーカーの胸に突き刺さる。
「!?」
「グフッ。」
ジョーカーは口から大量の血を吐きだす。
「お前、わざと...。」
ジルは驚き、思わず剣から手を離す。
「だ、大事な剣だろう。簡単に離すな。」
ジョーカーはジルの剣を体から抜き、地面に刺す。
「ジル、少し話を聞いてくれるか。」
ジョーカーは地面に腰を下ろした。
ジルは黙って頷き、ジョーカーに少し近づく。
「昔、魔族の中にいた男は魔王に付いてテラの侵略を手伝った。
しかし、勇者が現れ倒される。なんとか生き延びた男は
長い旅を続ける。旅の途中、人間の娘と知り合い仲を深めた。
そして、一人の子供を授かる。男はその子に自分の力を移した。
そのことで男は闇に取り込まれることになる。男は妻となった
人間の娘と別れまた一人になった。それからは闇と自我との
間で苦しみ続けた。今、やっと解放される。」
そこでジョーカーは一息つく。
「すまなかったな、つまらん昔話で。さて、話は変わるが
お前と初めて会った場所カルコームを覚えているか?」
ジルは頷く。
「カルコームはテラの裏側の世界では丁度中心の位置に当たる。
このことを覚えておいてくれ。直にどういうことか分かるように
なるだろう。そして、最後だ。ジルヴェルト、お前の成長を見ることが
出来てよかっ、た...。」
それきりジョーカー、オルグ=レイヤードは目を閉じ口を開くことはなかった。
その表情は満ち足りた笑顔に見えた。
ジルは話を聞き、理解出来ないことや悲しみ等複雑に気持ちが入り混じっていた。
涙は出なかったが、その心は強く締めつけられる思いだった。
「前に進まなきゃな。」
ジルは自分に言い聞かせるように自身が抱える重い使命を感じるのだった。