「(ジル、あなたはここで負けてはいけない。)」
「誰だ?」
「(私はあなたに宿る者、今少しだけ力を貸しましょう。)」
ジルの頭の中にそう声が聞こえると、ジルの体がほわっと光る。
そして、白いオーラが噴き出し邪神の攻撃をかき消した。
「く、聖神か。」
邪神は唇を噛みしめる。
ジルは剣を黄色に変化させる。
「いくぞ。黄色の剣『サンライズフラッシュ』。」
剣から眩い光が発せられ、邪神の暗闇の魔法を打ち消していく。
邪神の姿を確認すると、すぐさま攻撃に移る。
一気に間合いを詰め必殺の一撃を狙いすます。
「『ギガブレイク』!」
強烈な光を放ちながら邪神の体を斜めに切り裂く。
「ぐ、ぐああぁぁぁぁ!!!」
邪神は体を崩しその場に倒れる。
「はぁはぁ、やったのか。」
ジルは呆然と立ち尽くす。
少しして邪神はふらふらとしながらなんとか立ち上がる。
「はぁはぁ、随分とダメージを受けてしまった。大したものだと
誉めておこう。だが、私の命を奪うにはまだ足りないな。
さて、ありきたりな攻撃はこれくらいにしておこうか。」
「?」
「ジル、神としての力を見せてやろう。」
邪神は笑みを浮かべると目が妖しい青い炎を宿したように燃えていた。
「『邪の極み』。」
黒い煙が辺り一帯を包んだかと思うと景色は一変した。
「こ、これは...。」
一言で言い表すなら『地獄』という他はないという光景が広がっていた。
地面にたくさんの人が苦しそうな表情で倒れていた。
「た、たすけて...。」
「誰か、お願い。」
「どうかお助け下さい。」
手を伸ばしジルに助けを求めるのは老若男女問わず裸で全身が傷だらけで
血が流れ出ていた。助けを呼ぶ悲痛な声が大きく重なり合っていた。
「どういうことだ?」
ジルは苦しそうに倒れている一人の男の子の傍に行き、手を握る。
「(俺のデイブレードは自分の傷しか治せない。)
すまない。俺にはお前を苦しみから救ってやることが出来ないんだ。」
申し訳なさそうにジルが話しかけると、
「う、うぅぅぅぅ...。」
ブハァ。
男の子は口から吐物と血を大量に勢いよく吐き出し、ピクピクと痙攣
を起こした後全く動かなくなってしまった。
その様子を目の当たりにしたジルはいたたまれない思いだった。
「お前にはここにいる人々を救う手立てはない。」
「く...。(こんなときにマルクがいれば...、いや今はそんな出来ないこと
を考えてもしょうがない。)」
「どうだ?今の気分は?助けたくても助けられない。
いっそ、人だと思わず既に死んでいる物だと思った方が楽になるか。
人としての良識を捨てることにはなるがな。」
邪神は意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「俺は...。俺は...。」
ジルは苦しむ。
「人として正義感を持っていればこの光景は耐え難いものだろう。
しかし、この光景に慣れてしまえば私に敵対する意義もなくなる。
さぁ、どうする?」
「俺はこの人達を救ってやりたい。しかし今は何も出来ない。」
ジルは苦しみもがく。
「ハハハ、人であることを捨てなければお前の精神は疲弊していくぞ。」
「ぐ...。しかし、この人たちは元々ここにはいなかった。
邪神がここに魔法で連れてきたのか?」
「ふむ、いいことを教えてやろう。これは偽物であり、本物である。」
ジルの理解出来ないという顔を察して邪神は言葉を続ける。
「分かりやすく言おうか。神には生命を作り出す力がある。かつて
神々が人間やモンスターを生み出したように。」
「まさか...。」
「そう、ここにいるのは幻ではなく他から連れてきたのでもない。
新たに生み出した生命だ。」
「それは...。」
「そう。ここにいるのはただ苦しみ死んでいくためだけに作った命だ。」
「何の為にそんなことをするんだ!」
ジルは怒りを顕に邪神に問う。
「楽しむためだ。一種の娯楽だよ。」
「何だと!お前が楽しむためにこんな意味のない苦しみを抱えた
人々を生み出したというのか!」
ジルの怒りはさらに高まる。
「そうだ。何をしようと神の自由だからな。こんな風に。」
邪神が開いていた掌をぐっと握りしめる。
すると、周りにいた人々が突然内側からボンッと一斉に破裂して
散らばった。たくさんの悲鳴や叫びと共に。後には血の海と肉片が広がるのみだった。
ジルはその凄惨な光景に一瞬目を背ける。
「さらに。」
邪神は握った手を開き、地面にかざすと再び苦しみ続ける人々が
現れだした。
「もうやめろ!」
「なら私を止めるがいい。」
「あぁ、貴様の息の根を絶対に止めてやるよ。」
ジルは強い思いを胸に剣を握る。
一方の邪神は左手をジルに向けると指先が紫色にボヤっと光らせる。
ビッビッビッ。
指先から次々に光線がジルに向け発せられる。
ジルはそれを寸でのところで交わし続け、邪神に反撃を試みる。
邪神はジルの振り落とした剣をすっと交わし攻撃を仕掛け続ける。
この激しい攻撃の応酬はしばらく続き、2人は限界まで自身の力を引き出す。
2人の間に偶然ふっと間が出来たとき、邪神は杖の先端に強大な魔力を集中させる。
その動きを敏感に察知したジルはすぐに対応策を考える。
「『ダークインパクトレイ』。」
ドゴォォオオォ!!
地響きを起こしながら太く強い黒の光の波動が杖より勢いよく放出する。
これに対しジルも剣にオーラを集中し構える。
「『ギガバスター』!」
巨大な光の玉が剣より飛ぶ。
互いの光がぶつかると互いを押し合うように先端が前後する。
「ぐぬぬぬ。」
2人は歯を食いしばって力を送る。
ドバァーンッ!!!!
2つの衝突する光は大きな衝撃音と共に弾けて周囲に飛散した。
戦意を保つ2人は一気に間合いを詰める。
「貴様に極大の呪いを与えてやろう。『グランド・カース』」
杖から放たれた五芒星の光がジルに張り付く。
「こ、これは...。」
ジルの心の中にあらゆる負の感情が押し寄せてくる。
「ぐぅぅぅ。」
ジルは苦痛の表情をするも必死に抑えようとする。
しかし、精神的苦痛はジルの人間としての心を破壊する。
ジルの心の中は真っ暗になり意識を失う。
そんな中、一粒の光が見える。
それは今まで一緒に旅した仲間や出会った人との明るく楽しい思い出だった。
ジルは意識を取り戻す。
「俺はお前になんか負けない。」
ジルの強い意志が邪神の呪いを撥ね退ける
「うぉぉおおお!」
ジルは渾身の力をデイブレードに込める。デイブレードは七色に輝き
全てを出そうと力を高める。
「『ギガブレイク・エクストリームバースト』!」
ズバッ、ズバッ、ズバッ、ザシュ、グサッ!
邪神の体に必殺の一撃を与え続ける。
「(くっ、全力の一撃を出し続けるなんて体が千切れそうになる。
でも、ここは、ここでこいつを絶対に仕留めるんだ!)」
ジルは踏ん張りさらに攻撃を続けた。
ガッガッガッ、ズバババァァァン!!!!!
「ぐぁぁぁああああああああああああ!!」
邪神は全身に大ダメージを受け、ふらふらとまともに歩くことも出来なくなった。
「はぁはぁ...。」
最後に力を出し尽くしたジルも立っているのがやっとという状態になっていた。
パリンッ、パリンッ。
ジルのデイブレードに埋め込まれたレインボーダイヤモンド、
そして邪神が持つブラックストーンが割れて消えていった。
その力を使い果たしたかのように。
「うぅ、見事だな...。持てる全ての力を生かしての戦い。
そうさせたことを私も誇れるか。十分に楽しむことが出来た。
で、は、...。」
絞り出すように最後の言葉を話す途中で邪神の顔つきが変化した。
「...ありがとう、邪悪な者を打ち倒してくれて。
俺はL=クラプターという。自分の人生に絶望しどうなっても
いいと邪神に同調し体をあけ渡したが、邪神の行いを知るにつれて
後悔の念が生まれてきた。しかし、自分ではどうすることも
出来ずに歯がゆい思いをしていた。これで、捕らわれていた負の感情
から抜け出すことが出来そうだ。俺にはD=クラプターという兄が
いてな、もし会うようなことがあればすまなかったと
言っておいてくれ。勝手な願いで悪いな。それじゃあな。」
そう言って、L=クラプターは息を引き取った。
邪神が死にその魔力で作られていた洞窟はゴゴゴと音を立てると
すの姿を消して辺り一面が真っ白になった。
「元の世界に戻るのか?」
ジルはその中で立っているとまた頭の中に声が聞こえてくる。
「(ジル、よくやりました。感謝します。さて、邪神を倒した
あなたには2つの選択肢があります。一つはあなたが神の一人となって
これから天界で人間たちを見守る役目をすること、もう一つは...。)」
レナ王女を失ったエトールでは指導者が不在で国民は困っていた。
そこを隣国のランドールのハンス王が取り持ってクラレッツと同じ民主制をとる
体制を整えることとなった。
ヴェロニス連邦共和国では、エミルは再び首相になることはせず議会での
投票で別の者が首相になることが決まった。エミルほどの才覚はなかったが
既にエミルが整えていた制度、社会システムのおかげでそれほど民衆に
大きな混乱をもたらすことはなかった。エミルは小さな小屋で子供たちを
相手に勉強を教える学習塾を開いていた。
サンアルテリア王国では。ゴアがいなくなったことでゴア派の議員は
行き場を失ったように力をなくし、反ゴア派が主流になっていた。
混乱はまだ当分続きそうだが、正常化への兆しも見えていた。
ゴアによって失脚させられたD=クラプターは政治評論家として
活動する傍ら、非営利団体に加わり国民の生活の向上に努めていた。
それから数年が経つ
「はい、どうぞ。」
マルクは椅子に座って声をかけると、子供が母親に連れられて
置かれている椅子に座る。
「息子が風邪をひいてしまって。」
母親がしんどそうにする子供に代わって説明する。
「そうですか。よし、『ホワイトウインド』。」
子供を優しい白い風が包みこむ。
「わぁっ。」
風が消えると、子供は急に元気な表情になり立ち上がった。
「やった。全然しんどくないや。」
子供は腕を上げて元気になったことをアピールする。
「よかったね。」
マルクは笑顔で子供を見つめる。
「ありがとうございます。」
母親は頭を下げて子供を連れていった。
「子供が元気になってくれるとこっちも嬉しくなるわね。」
傍に立っていたパティがマルクに話しかける。
「ええ。平和になってこんなやりがいのある仕事が出来る。
幸せなことです。」
メアリーは台所で料理を作っていた。
コトコトコト。
お玉ですくったシチューを小皿に入れ味見した。
「うん。まぁまぁかな。よし。」
メアリーは火を止めて、シチューを皿によそう。
「あなた、出来たわよ。」
そう言ってダイニングに現れたのはジルだった。
「(もう一つは神の力を全てなくした状態で人間界に住む
ことです。)」
ジルは聖神からの2択でこちらを選んでいた。
「ありがとう。」
ジルは席に着き、
「いただきます。」
手を合わせてシチューを口にする。
「おいしいな。まさかメアリーがこんなに料理上手だったとは
結婚前は全然思わなかったよ。」
「なによ、もう。私だって頑張って勉強したんだからね。」
「いや、ごめんごめん。でもこうやって平和にご飯が
食べれるようになってよかったな。」
「そうね。」
ジルはメアリーと結婚し、剣術道場の師範として働いている。
神の力はなくなりただ普通の人間となったが、
今も剣術の鍛錬に励み世界一の剣士に近づくべく修行をしている。
<終>
読んでくださる方がいたからここまで続けることが出来ました。
本当にありがとうございました。