「やったー。また勝ったー。」
両手を上げて喜ぶパティ。
「パティはばば抜き強いですね。」
「あ~、これで6連敗かよ。」
ジルはカードを投げて悔しがる。
「ジルは弱いね。」
「いや、これはだな。パティに華を持たせようと
わざと負けてるんだよ。」
「嘘ばっかり。でも次は頑張ってね。」
「む、余裕こいて俺が本気を出せば10連勝は固いんだぞ。」
「さあ次いきますよ。」
マルクがカードを配りだす。
「こいこい。」
ジルは念を込めてカードを見る。
「げ、一組しか捨てるのがない。」
そして、
「くそ、また負けた。」
「ジル、弱すぎますよ。」
「カード運がないんだね。」
「え~い、次だ次。」
ジルは半分やけくそになっていた。
「あのー、君達。盛り上がっているところ悪いんだが、
そんなトランプ遊びをしていて本当に大丈夫なのか?」
「もちろんですよ。」
ジルはさっきまでの様子とは違って自信に満ちた様子で言い切った。
「ならいいんだが。(あー、不安だ。こんなことならもっと遠くまで
募集を出して頼れる者を探すべきだったかもしれない。)」
主人はものすごく不安に駆られた。
「また、負けたー。もう次こそは勝つぞ。」
ジルはトランプにはまり熱くなっていた。
「あ~~。」
まだ宝石を盗られていないのに主人は頭をかかえ落ち込んでいた。
そんなこんなで夜がやってきた。
「まさか夜までばば抜きを続けるとは思いもしませんでしたね。」
「ジルが一回も勝てないなんて。違う意味ですごいよね。」
「もうばば抜きなんて2度とやらねぇ。ええい、早く来いよシャドウラビッツ。」
ジルは完全にやけくそだった。
「水でも飲んで落ち着きなさい。そんな状態では盗賊につけこまれるよ。」
覚悟を決めてすっかり落ち着いた主人がジルに水の入ったグラスを差し出す。
「あ、すいません。」
ジルは水を一気に飲み干す。
「ふー、なんとか落ち着きました。ありがとうございます。」
落ち着いたジルを見て主人は少し笑みがこぼれた。
トントン。
外から誰かがドアをノックする。
「はい、どちら様ですか?」
執事がドアに近づき応対する。
「すいません、町長の使いでこちらの主人に伝えることが
あって来たのですが中へ入れてもらえませんか?」
執事は後ろを振り返る。
ジル達はドアを開けるよう頷いて合図する。
それを見て執事がドアを開けると、
プシュゥゥゥ。
執事は現れた男にスプレーを吹きかけられてその場に倒れてしまった。
「シャドウラビッツのリーダー、ジャック=クローバー登場っと。
おや、お前達はあのときの...。偶然とは怖いな。
それじゃまた同じように盗らせてもらおうか。」
「今度はそううまくいくかな?たった一人の盗賊団さん。」
「どうして1人だと?」
「この家の大きささ。この前の城に比べればここは狭い。
仲間を呼ぶほどのことはないってことだろ。」
「なるほど。」
「おい、こいつが本当に盗賊なのか?こんなに堂々としかも
普通の格好で。」
「別にこのスタイルにこだわりはないが割とうまくいくんでね。
それより宝石を隠さないとはいい度胸だ。探す手間が省けた。」
「手間が省けただって?増えたの間違いだろ。間には俺達がいるんだぜ。」
「はっはっは、それは大きな障害だ。」
ジャックはジル達を気にせず笑いながら歩いて近づいてくる。
そしてジルの目の前まで来たとき
「この前とどう違ってるのか見せてもらおうか。」
ジャックはそう言うと同時に煙幕弾を床にぶつけた。
煙が一気に部屋全体に広がり誰も見えなくなる。
「甘いぜ。」
ジルはヒヨルド博士にもらった精霊のうちわを取り出し大きく上下に振った。
ぶぅおおぉぉん。
ものすごい大きな風が起こり部屋の煙はすでに開けられていた窓や玄関を抜けて
吹き飛んでいった。
「な、なんて風だ。」
ジャックが一瞬驚く。
「しかし俺の足の速さにお前らではついてこれないはずだ。
黙って盗られるところを見てるんだな。」
「パティ、今だ!」
「もう呼んでるよ。」
「なにぃ!」
パティは部屋の中で手にした杖で魔方陣を描きフェンリルを呼んでいた。
フェンリルは素早くジャックに襲い掛かる。
「速い!」
ジャックは避けきれずフェンリルに押さえつけられた。