dark legend   作:mathto

61 / 279
121,122

「やったー、盗賊に勝ったー。」

「やりましたね。」

みんな大喜びの中、ジルは異変に気づいた。

「いや、ちょっと待て。よく見てみろ。」

みんながフェンリルに押さえられた盗賊ジャックをよく見ると、

「これは服だけですね。」

盗賊の姿はなく上着の服のみがそこにあった。

「そんな、どうして?」

「ちっ、逃げられたか。」

「はっはっは。」

家の外からジャックの声がする。

「以前からは想像もつかないほどやるじゃないか。そのがんばりに免じて

その宝石は諦めよう。狙っていたものとは違っていたしな。もしまた

会うようなことがあれば今回のようにぬるくはない本気の俺を見せてやるよ。」

そう言い残すとジャックは去っていったようだ。

「ふん、あんなのただの負け惜しみだよね。」

「どうでしょう?」

「いや、はったりじゃないかもしれないぜ。」

ジルは真剣な顔で言った。

「とにかく、君たちは約束通り宝石を守ってくれた。ありがとう。

本当はもう盗られることを覚悟していたから本当に嬉しいよ。

報酬は執事から受け取ってくれたまえ。今日はもう疲れた。君たちも

今夜はうちで泊まっていっても構わんぞ。」

主人は緊張がとれ疲れがどっと出たらしく寝室へと行ってしまった。

「私達も休みたいところですが、この状態を放っておくわけにはいきませんよね。」

部屋の中はまさに嵐が通り過ぎた後という感じでグチャグチャになっていた。

「いいえ、これを片付けるのは私の仕事です。仕事を取られては私の立場が

なくなります。皆さんは応接室でもうゆっくりと休んでください。

それからこれが報酬の20,000Gです、どうかお受け取りください。」

「そう?何か悪いな。」

「おじーちゃん、お休みなさい。」

3人は執事に悪いとは思いつつも気づかいに感謝して眠った。

翌朝、執事に見送られて3人は家を出た。

 

「さ~て、この町もそろそろ飽きたしポートルに戻って新しい土地に行こうか。」

「飽きたっていうのはどうかと思いますが新しい土地に行くのはいいですね。」

「わーい、すっごいわくわくしてくるね。」

3人はミッフェンを後にしてポートルへと向かった。

 

 

 

「カフィール、ま、待て。落ち着いて話せば分かるはずだ。」

「悪しき暗黒魔道士などに聞く耳など持っていない。」

カフィールはある町のある家の中で暗黒魔道士を追い詰めていた。

「ぐぬ、私がいったい何をしたというのだ。」

「何かをした後では手遅れということもある。災いの種は芽が出ないよう

早めに摘んでおかねばならない。」

「貴様、何様のつもりだ。神にでもなったつもりか。こんなことを

してただで済むと思っているのか。」

「フ、俺は神ではないが神の意志に従い悪を滅する。もし俺の

していることが神に背く行為ならば俺自身に神の天罰が降るだろう。

しかし今は己の信じる道を突き進むのみ。」

暗黒魔道士はもはや言い返す言葉が見つからず、自らの死期を悟った。

カフィールは手にしていた剣で暗黒魔道士に止めを刺し家を出た。

「きゃああああ!通り魔よ。」

外に出たカフィールの目に飛び込んできたものは男が白昼に女性を

ナイフで刺して喜んでいる光景だった。

カフィールはすぐに刺されて倒れている女性の元に駆け寄った。

「む、出血が酷いな。すぐに回復させなければ。『ヒール』」

カフィールが魔法を唱えると女性の傷口は癒えていった。

「キヒヒ、次は貴様の番だ。」

狂った男はカフィールの腕にナイフを突き刺した。

しかしカフィールは腕から血が出ていることを気にせず男の顔を手で掴んだ。

「邪悪な魂よ消え去れ、『ディスベル』」

掴んだ手から光が発せられると男の顔から黒い煙がボッと浮かんで消えた。

「は、私はいったい何をしていたのだろう?あっ、カフィール様。

どうしたんです、その腕の怪我は?」

男は正気を取り戻した。

「お前は悪魔に憑かれてその女を刺したのだ。自分の意思ではないとはいえ

自制できなかった罪は重い。教会で懺悔し心の修練を積むことだな。

そして刺した女には誠意ある謝罪をするのを忘れるな。」

「ははっ、申し訳ありませんでした。」

「俺に謝ってもしょうがない。」

「う、ううん。わ、私は確か刺されて...。きゃあ!」

意識を取り戻した女性は男がまだ傍にいることに恐怖で思わず叫んだ。

「女、そいつを許すかどうかは勝手だがそいつが悪魔に操られていたことは

理解してやれ。」

そう言うとカフィールはその場を去っていった。

残された男は女性にひたすら土下座して謝っていた。

「人間に悪い影響が出始めている。いまのやり方を続ければ奴らが組織として

まとまるようなことはないだろうが、いつかは根を断たねばならないときが

くるかもしれないな。」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。