dark legend   作:mathto

66 / 279
131,132

海賊船がとある岸について止まった。

ハーツ船長が捕らわれた一般の乗客の前に出た。

「俺は寛大な男だ。お前らをここで解放する。

ここから少し歩けば町に着く。そっからはお前ら次第だ。

助けを呼ぶもよし、自力で元に戻る方法を考えるのもよしだ。」

ハーツ船長の指示で海賊達は縛っていた縄を解き、船から橋をかけ

乗客たちを解放した。解放された乗客たちは解放された喜びと

これからの不安とが入り混じった複雑な気持ちで町へと向かっていった。

 

「マルク、なんか上がバタバタしてねぇ?」

「そうですね。あと船が止まってますよね。どうしたんでしょうか?」

ジルとマルクが異変に気づく。

「ああ、今ちょうど乗客を解放して下ろしてるとこだろうな。

うちの船長はそういうとこ優しいからな。」

見張りの海賊が答える。

「それじゃあ、私達も解放されるんですか?」

マルクが希望をもって尋ねる。

「そいつは無理かな。お前らは俺達に歯向かったわけだし、

まあこのまま行ってどっかに奴隷として引き渡されるか、最悪

の場合見せしめに処刑されるなんてことになるかも知れないな。

...って今のはジョークだぞ。」

横を向いて喋っていた海賊がジル達の方を向くと、

最後の言葉を聞かず悲壮な顔で酷く落ち込んでいる2人の姿があった。

「俺達、もう終わりだな。」

「こんなところで死ぬなんて。」

「おい、お前ら。ちゃんと話を最後まで聞けよ。あれくらいで殺したり

しないから安心しろよ。大丈夫だから。」

海賊は焦って、必死に2人を励ました。

「え、そうなんですか?」

2人は下を向いていた顔を海賊に向ける。

「そ、そうだよな。まさか殺したりはしないよな。」

2人に笑顔が戻る。

「(変な奴らだな。)まあ実際はうちの船長は悪いことしてるけど残酷なことは

しないタイプだから。奴隷ほどじゃないがちょっとの間こき使われたら帰される

ことになると思うぜ。」

「よかった。」

「少し安心しましたね。」

そうした中、再び動き出した海賊船はついに海賊同盟のアジトへと到着した。

 

 

 

海賊同盟アジトの港に停まったハーツ船長の海賊船。

「ふ~、やっと休めるっすね。」

「ばかものっ!休む前にやることが山ほどあるぞ。

ほら、さっさと動け―。」

「へ~い。」

気の緩んだ海賊達はハーツ船長に喝をいれられ慌しく動き始めた。

 

「よう、ハーツ。今日は大漁だな。こんないい船手に入れて。

こいつは高く売れるぞ。」

ハーツ船長に小太りで背の低い男が話し掛けた。

「まあな。お前の方は相変わらずか?」

「ああ、俺は強奪よりは漁の方が性にあってるんでね。

昨日はすげえでかいのが釣れたんだぜ。そうだ、後で

捕った魚を少しお前にも分けてやるよ。」

「そいつは楽しみだ。」

ハーツ船長に笑顔が浮かぶ。

「それから、今日の夜は臨時会議があるぜ。」

「臨時会議ってことは、いよいよか。」

「いよいよだな。」

2人は真剣な面持ちで考え込んだ。

 

一方、海賊船の中の牢にいるジルとマルクは。

「なあ、もう着いたんだろ?とりあえず俺達を降ろしてくれても

いいんじゃねぇの?」

ジルが見張りの海賊に聞いた。

「ハーツ船長から指示が出るまではこのままだな。」

「そんなぁ、もう陸が恋しいのに。」

「何、女みてえなこと言ってんだ。お前ら、ホント変わってるよな。

捕まってからこんなにおとなしくしてるなんて珍しいぞ。

何とか逃げ出そうとか思わなかったのか?」

「そう言われてみれば...。」

「何も拷問されたりするような酷い仕打ちがなかったですからね。」

「まあ、飯も普通に出してくれたし。そんな悪い海賊とは思えない

部分があったからかな。」

「ふん、誉めても何も出てこないぞ。」

海賊はそう言いつつも少し照れていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。