「私だってジルのことを少しは分かってるつもりですよ。
それに実は私も同じことを言おうとしていたんですよ。
久しぶりにあったときのジルの変わりっぷりとか見てみたい
ですからね。」
マルクは笑顔で言った。
「何だよ、もう。拍子抜けだよ。俺はてっきりマルクは反対すると
思ったからどう説明しようかとかいろいろ考えてたのにな。」
ジルは気が抜けたように椅子にもたれかかった。
「ははは、その説明も聞いてみたかったですけどね。
お互いがんばりましょう。」
「おうよ。」
ジルとマルクは手を握って互いの健闘を祈った。
「ま、今日だけはゆっくりしようぜ。」
「はい。」
その後も2人はとりとめもない話を楽しく続けていた。
ジルとマルクが喋っている酒場に、肌が完全に見えなくなる程の
大きさで緑を基調とした布を纏った人物がいた。それは吟遊詩人だった。
吟遊詩人はゆっくりとした動作でギターを手にし、弾き語りを始めた。
「時は今から300年前。太古の神々が作りし大地『テラ』。
人々は時々争いあうこともあるが穏やかに日々を暮らしていた。
そんな中、魔界より突如魔王が現れる。魔王は引きつれてきたモンスターを
使って人間を襲い始めた。モンスターは人を虫けらを扱うが如く
肉を切り裂き、罪無き人々の血が流れ続けた。
各地で勇敢な戦士たちがモンスターと戦っていたが圧倒的な数に
次第におされていき、1人、また1人と倒れていった。
人々は無力を感じ絶望を感じるようになるまでにそう時間はかからなかった。
この危機に、当時まだ小国ではあったが魔王の居城から離れていたため
被害を免れていたアルトリア王国の国王オルグ3世は、
将来有望とされている見習い騎士アルス=シールダー
を呼んで頼んだ。『魔王を倒して世界に平和を取り戻してくれ』と。
アルスは承知して旅に出ることとなる。
街中で、戦士ロドニー、僧侶サラ、魔法使いクライムと出会う。
彼らと共にモンスターを倒していきアルスは成長していく。
一方、アルスたちの活躍によってモンスターの脅威から開放された
人々は希望と生きる力を次第に取り戻していった。
アルスたちは立ちふさがる強敵を次々倒し、遂に魔王の前までやってきた。
激しい戦いの末、アルスは神々の力を借りて手にした聖剣エクスカリバーで
魔王に止めを刺した。再び人々に穏やかな日々が訪れた。
...その後アルスは勇者として人々から褒め称えられたという。」
「ほえ~。」
いつのまにかジルとマルクは吟遊詩人の詩に聞き入っていた。
そんなジルとマルクに演奏を終えた吟遊詩人が近づいてきた。
「初めまして。ジルさんとマルクさんですね。」
先ほどの詩からは分からなかったが喋る声はジルたちよりも幼かった。
「え!?どうして俺たちのことを?」
2人は吟遊詩人の言葉に驚いて立ち上がった。
「エトールにいたという人から話を聞いたんですよ。何でも恐ろしい魔獣と
戦われたとかで。本当にお会いできて光栄です。」
吟遊詩人はペコリと頭を下げた。
「へぇー、そうなんですかぁ。」
マルクは相づちをうった。
「いやあ、俺たちもとうとう有名人になったってことかな。」
ジルは嬉しそうに言った。
「それで、もしよろしければ詳しく話を聞かせていただけませんか?」
吟遊詩人の顔は布で隠れて見えないが笑顔のようだった。
「ええ。喜んで。」
「もちろん。」
2人は快く了解した。
3人は席に着くと吟遊詩人にエトールのことだけでなくこれまでの
旅のことも全て話した。
そうして話もちょうど終わったころ。
「ありがとうございました。とても興味深いお話を聞かせて頂きました。」
吟遊詩人は席を立つと2人に再び頭を下げた。
「いえいえ。」
そう言ってジルとマルクも席を立った。
「そうそう、お礼といってはなんですがこれを差し上げます。」
吟遊詩人はジルに透明なケースに入ったカードを渡した。
「何これ?なんかきれいな絵が描いてある。」
「私にも見せてくださいよ。」
そういってマルクがジルが手にしたカードを覗き込んだ。
「なんだか神々しい感じがしますね。」
「本当にこれもらっていいの?」
「ええ。私にとってはあなたがたの話の方が価値がありますから。」
「ありがとう。」
ジルは吟遊詩人に礼を言ってカードをしまった。
「そんじゃ、そろそろ行きますか。」
「はい。」
ジルの呼びかけにマルクと吟遊詩人は応じ、3人は店を出ると方々へ別れた。