dark legend   作:mathto

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「ここです。」

そういってマルクが連れてきたのは大きな建物の前だった。

「ん?ここって前に言ってた図書館ってとこ?」

「いいえ、ここは美術館なんです。」

「え、美術館て絵とか見るとこだろ?」

「そうです。なんでも世界に一つしかないとても珍しいものが

今展示されてるって聞いたので来たかったんですよ。」

「へぇ~、それは楽しみだな。」

2人は入館料を入り口で払うと中へと入った。

「おお、広々してるな。」

「結構人がいますね。」

2人は展示してある絵画をゆっくりと見て回った。

「ふぁぁああ。なんか退屈だな。こんな絵見てても全然おもしろくねぇよ。」

「な、何言ってるんですか。どれもいい絵ばかりですよ。

ほらこれを見てくださいよ。あのノワールの名画『太陽』ですよ。」

そう言ってマルクが見た絵は橙色の渦がぐちゃぐちゃとした感じのものだった。

「なんだよこれ。こんな下手くそな落書きみたいな絵。俺でもかけそうだぜ。」

「いえ、これは抽象画と言ってですね。見たものをそのまま鏡に写したように

描くのではなく、もっと内面から感じたままに描いたものです。硬さややわらかさ、

明暗、暑さや寒さ、喜びや悲しみ等様々な感情、感覚を表したものなのです。」

「ふーん。俺にはよく分らないけど奥が深いんだな。」

さらに見て回る中、ジルは一枚の絵の前で足を止めた。

「ん?この絵は...。」

「この絵がどうかしましたか?」

それはありふれた感じのする緑の風景画だった。

「いや、何か気になるというか、結構いいような気がするんだけど。」

「そうですか?ええと作者はと...、シャリル=ポー。聞いたことがありませんけどね。」

「あのぉ。」

ジルとマルクの後ろから声をかけたきたのは2人よりも年がひとまわり上に見える女性だった。

「はい、何でしょうか?」

マルクが呼びかけに答えた。

「実は...、その絵を描いたの私なんです。」

「ええ!」

2人は驚いた。

 

 

 

美術館で絵を鑑賞していたジルとマルクが一つの絵を見ていると、

それを描いた女性から声をかけられた。

「驚かしましたか?ごめんなさいね。私、運がいいというか偶然が重なって

こんな大きな美術館で展示してもらえることになったんだけど。

見てる人がどういう風に思うのか気になって気になって。で、私の絵はどう?」

「結構いいんじゃないの。」

「いいと思いますよ。(描いた本人を前に変なこと言ったら悪いですしね。)」

「ありがとう。2人でもいいと言ってくれる人がいて本当に嬉しいわ。

私が絵描きになったきっかけっていうのがね、たまたま外でこんな風景画を

描いていたときに道を歩いていたおじいさんに『上手だね』って声をかけられたの。

そのときももう嬉しくなってさ、私これでご飯を食べていこうって決心したの。

でも生活が大変なのよね。こういう分野だと一部の世間から認められた天才だけが

たくさんのお金を手にすることが出来るの。それ以外のほとんどの人は私も含めて

貧しい暮らしをしているわ。絵だけでは生活できないから喫茶店でバイトをしたり

してね。だからこんなたくさんの人に見てもらえるチャンスで注目を集めて有名に

なれたらとか思ったりもしたんだけど、大体の人は素通りしていくのよ。まあ、

仕方がないわよね。そんなところへあなたたちが来たってわけよ。私、初心に

帰って純粋に作品を見てもらいたくなったの。」

シャリルは2人を気にせず一人しゃべり続けた。

「(なあ、マルク。)」

ジルがマルクに耳打ちした。

「(何ですか?)」

「(この人の話、長くてうざくねえ?とっととここから離れようぜ。)」

「(え、でもそれはシャリルさんに失礼ですよ。)」

「(いつまで聞いてるんだよ。俺たちだって暇じゃねぇぞ。)」

「(まあ、もう少しだけ聞いてあげましょうよ。)」

「(分ったよ。)」

2人は困った顔をしながらも我慢して聞いていた。

「そうそう、私が働いている喫茶店でね、すっごいおいしいパフェがあるのよ。

アイスクリームにバナナがのっててその上にチョコーレートがかかってるの。

さらに生クリームがたっぷりついてて、アイスクリームの下にはブルーベリーソースが

混ざったヨーグルトが入ってるの。絶妙のハーモニーを奏でているように全てが

マッチしているの。もう一度食べたらやめられない味で、店では大評判なのよ。ただちょっと

値段が高いのが難点かな。他のパフェの1.7倍もするからね。」

シャリルの話はまだ続いていた。


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