dark legend   作:mathto

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「あ、おすすめの料理といえばランラン食堂のハンバーグが最高よ。

肉は直接契約した牧場からの新鮮なものを使っててね、

口にするとジュワ~って肉汁があふれてきてすごいおいしいの。

しかも定食だとライスにスープ、サラダがついてて値段もリーズナブルに

抑えてあるのよ。ランラン食堂に行くことがあったら是非食べてみて。」

「(なあ、マルク。ホント終わりそうにないぞ、この人の話。

もうすでに絵の話からかけ離れてるし。)」

「(そうですね。さすがにこれ以上は聞くのがつらいですよね。)

あの、シャリルさん。」

「あ、言い忘れてた。この絵のことなんだけどね、題名が『森』になってる

でしょ。これはいろんな人に見てもらうのに都合が悪いからあえて名前を

変えているのよ。あなたたちなら言っても大丈夫そうだから言うわね。

本当の題名は『魔界の森』なのよ。」

「えっ。」

ジルは耳がピクッと動いた。

「今私たちがいるこの世界がテラっていうのは知ってるかしら?」

シャリルの問いかけにジルとマルクが頷く。

「それでね、この世にはテラの他にも世界があるのよ。それが魔界と幻獣界。

テラを支配するのが人間だとしたら、魔界はモンスターと魔族、幻獣界は幻獣が

それぞれ支配しているといっていいわ。テラ、魔界、幻獣界は横並びにつながって

いるものではなくて別の次元にあるっていうのかしら、とにかく普通に歩いたりしても

違う世界には決して行けないっていうことなの。じゃあ違う世界を行き来することが

不可能かって言ったらそうじゃないの。」

「もしかして『ゲート』ってやつを使う?」

「そう。よく知ってるわね。ある日、私が道を歩いていたら突然目の前の地面の

一部分から光が立ち上りだしたの。それがゲートだったのね。怖かったんだけど

興味の方が勝っちゃって光の中へ思い切って飛び込んだの。そしたら景色が一変して

この絵の森にいたわけよ。近くにモンスターが我が物顔でぞろぞろいたからすぐに

魔界だって分かったわ。さすがにすぐ怖くなってすぐにゲートからこっちに戻ってきたの。

すごい短い時間だったけどあんまり印象的な光景だったから目に焼きついてね。

こうして絵にしたわけなのよ。」

「へぇ~。」

ジルとマルクは興味深く話を聞いていた。

 

 

 

「『魔界の森』かぁ。どんなとこだろうな。」

「ええ。一度は実際に行って見てみたいですね。」

ジルとマルクはまだ喋り続けているシャリルの元から離れていた。

「さすがにこれ以上聞いてたら日が暮れて他のとこがもう見れなく

なるよな。」

「シャリルさんもそれは分かってくれるでしょう。

それでは一番の目玉を見に行きましょうか。」

「意外とあっさりしてるな。俺はこういうとき後から悪いかなとか

思ったりしてしまうんだよな。」

「でも早くしないと閉館してしまいますよ。」

「そりゃやべえな。急ごう。」

2人はあわてて一番人が集まっているところへと向かった。

「お、ここだな。すげえ人だ。」

「ジル、早く早く。」

マルクはジルの手を引っ張り絵の見えるところへやってきた。

「こ、これが絵...。」

「すごい。実物そのものとしかいいようがない。」

2人の目の前にある作品は確かに人が描いたものだったが、

限りなく現実に近いものであった。

「ホッホッホ。お主等もこの絵はすごいと思うか?」

後ろからスーツ姿のお爺さんが声をかけてきた。

「じいさん誰?」

ジルが尋ねた。

「ホッホ、わしはこの美術館の館長じゃよ。この絵はとても精密に

描かれておる。まるで景色をそのまま切り取ったみたいじゃ。

この絵を見に来た人は皆すごいと驚いて褒め称えておるよ。

ただ専門家の間では意見が分かれておってな、世間の人々と同様に

賛美する者とこの絵には作者の気持ちや思いが込められていない

うすっぺらなものと非難する者がおるのじゃ。わしにはこの絵の

作者は気持ちを押し殺して描いたように感じるのじゃが、不幸にも

この絵のタイトルはおろか作者も誰か分かってないのでな、聞く

ことも出来ないのじゃよ。ま、作品の良し悪しは各々が決めれば

いいことかもしれないがな。今日は閉館時間を遅くするから、

ゆっくり見ていてかまわんよ。」

そう言って館長はジルたちの元から離れていった。


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