「はははって笑ってる場合じゃないですよ、ジル。
最近、全然修行してないでしょう。」
マルクは少し怒り気味で言った。
「いや、まあ俺は実戦もそれなりに積んでるし、そこそこの
レベルにはもう達していると思うんだ。だから剣士見習いじゃなく
普通に剣士でいいと思うしわざわざ修行する必要もないんじゃ
ないかな。」
「だ・め・で・す!一人前の剣士はそんなのぼせ上がったようなこと
は絶対言わないはずです。まだまだジルは修行が必要です。
さあ、今から剣術道場を探しに行きましょう。」
そう言ってマルクはジルを無理やり引っ張り出した。
「ええ~、やだよ~。」
と嫌がるジルに対し、
「いやもへったくれもありません。さあ。」
マルクはさらに強気にでた。
そうして、ジルを連れたマルクは一軒の剣術道場を見つけた。
「『ニムダ剣術修練所』。ここで間違いないですね。
ジル、入りましょうか。」
「ちょっと待てよ。まだ俺は入るって決めてないぞ。
あれ『ニムダ』って聞いたことがあるようなないような。
え~と、何だったけな......。
あっ!思い出した。この国に来るまでの村で聞いた最強の剣士の名前だ!」
「ならいいじゃないですか。最強の剣士に剣を教えてもらえば立派な剣士に
すぐになれますよ、きっと。」
「う~ん。でもなあ...、なんか気が乗らないんだよな。」
「(ええい、こうなったら)ジル、ここで強くなって有名になれば
女の子にモテモテですよ。」
「な、なんだって。そ、そんな理由で俺に剣を修行しろっていうのか。」
「(あれ、失敗しましたか。)」
「俺は立派な剣士になりたいから修行するんだよ。行くぞ!」
「え、ええええぇ!」
ジルの急な態度の変化に戸惑うマルクだったが、2人は『ニムダ剣術修練所』
の中へと足を入れた。
「せいっ!」
「やっ!」
中ではたくさんの練習生が威勢のいい掛け声とともに木の刀を交えあっていた。
皆集中していて入ってきたジルとマルクに誰も気づいていなかった。
そこでジルは練習を腕を組んで見守る先生らしき男に声をかけた。
「あの~、すいません。」
「何だ?」
「俺、ここで修行したいんですけど。」
「あ、もうすぐ休憩だからちょっと待ってろ。」
そう言われてジルとマルクは素直に待つことにした。
ジルとマルクが剣術道場で少し待っていた。
「よし、ここで休憩だ。」
先生らしき男が大声でみんなに言うとみんなは手を止め床に座りだした。
「それで何の用だったかな?ああ、そうだ。ここで修行だったな。」
「はい!」
ジルは元気よく答えた。
「そっちの方もか?」
「いえ、私はついてきただけです。」
「そうか、まあいいだろう。私はここの師範をやっているロンだ。
ではいきなり人と組むのもあれだから、とりあえず素振りを
100回やってみろ。」
ロンはジルに木の剣を渡した。
「えー、いまさら素振りぃ。」
ジルはとても不満そうに言った。
「なんだと。素振りは剣術の基本だぞ。それをおろそかにするような
ことでは剣術を使う資格はないぞ。」
ロンはジルの態度に怒った。
「おい、新入りかよ。どれだけ強いか俺とちょっと勝負してみないか?」
そう言ってきたのは大柄な太った男だった。
「おっさん、後悔するぜ。」
「ほう、大した自信だな。それから俺はおっさんじゃない、ベックだ。」
こうしてジルはベックと対決することになった。
他の練習生が注目するなかジルとベックは木の剣を握り向かい合う。
「こっちからいくぞ!」
ベックが勢いよく剣を振ってきた。ジルは思ったより速くて剣に
あたりそうになった。
「(体の割にいい動きするんだな。でも、)」
さらに向かってくるベックに対してジルは真剣な表情になった。
「俺の方が上だ。」
ジルはベックの攻撃をさっとかわすとベックの頭にトンと剣をゆっくり当てた。
「勝った。」
ジルは静かに勝利を喜んだ。
「く、くっそー!」
一方、ベックは床を叩いて悔しがった。
「ほう、この道場で実力№2のベックを倒すとはやるもんだな。俺の名はハス。
№1の男だ。今度は俺と勝負しようぜ。」
細身で長身の男が出てきて言った。
「いいよ。」
ジルはあっさりと了解した。
そして、2人は剣を持って向かい合う。
「今度はこっちからいかせてもらうぜ。」
ジルの方からハスに向かっていった。
「やあぁぁぁ!」
「(速い!)」
カンッ!
互いの剣がぶつかり合う。
「ぐううぅぅ。ええい。」
ハスは力を込めてジルの剣を一旦離した。
「てえぇい!」
ジルが再び攻撃をしかける。
「(さっきと攻撃は同じ。ならば、)」
ジルの剣をハスが剣で受けた次の瞬間、スーっと力がぶつかることなく
剣がずれていった。
「(はっ。しまった。)」
ジルは予想外のことに体勢が崩れた。
「出た。ハスの得意技『受け流し』。」
観戦していた練習生から盛り上がりの声が上がる。
「もらった!」
ハスがジルを仕留めにかかる。
「このままやられるかぁ!」
ジルは足を踏ん張り体勢をなんとか保つとそらされた剣で迎え撃つ。