dark legend   作:mathto

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カランコロン。

一本の木の剣が床を転がり流れていった。

動きを止めたジルの手にはしっかりと剣が握られていた。

「ば、ばかな。信じられん...。あんな体勢から反撃に

移れるなんて。」

ハスには負けた悔しさよりも驚きのほうが大きかった。

「底力ってやつかな。まああんたも強かったと思うぜ。」

「そいつは光栄だな。またいつか手合わせ願いたいもんだ。」

「喜んで。」

ジルは満足そうな笑みを浮かべた。

「ジル、ほんとに強いんですね。知らなかった。...いや知っていたけど

気づかない振りをしていたのかもしれません。そう思うとジルの存在が遠く

なるような気がして。」

「ジルというのか、あいつの名は?」

師範ロンがマルクに聞いた。

「そうです。」

「ジルはどこかで修行していたのか?」

「いえ、全て自己流で修行という修行はしていないはずです。

実戦の方は少なからず経験はしていますけどね。」

「そうか。ジルはまだ動きに荒い部分があるが相当鍛えられている感じがする。

よほどいい経験をしてきたのだろうな。これからまだまだ強くなるだろう。

そのためにはここで修行するよりもニムダさんを探して教えを乞うほうがいい。」

「あれ、ニムダさんはここにいるんじゃないんですか?」

「ああ、きっと『ニムダ剣術修練所』の看板を見てきたんだな。名前は偶然本人に

会ったときに使用の許可をもらったが全然指導には関係していないんだ。

ただ真面目に剣術を学ぶ場として使うという条件でお墨付きをもらったということだ。」

「へぇ~、そうなんですか。」

マルクは意外そうに返事した。

「お前、ジルっていうのか。なかなかやるじゃねえか。」

「えへへ。」

ジルは練習生達に褒められ照れていた。

「次は私と勝負しましょう。」

そう言って前に出てきたのは仮面を被った細身の女性だった。声はきれいで

まだ若い印象だった。周りはなぜかざわざわと心配そうに見つめだした。

「ここの№1を倒したんだぜ。俺が勝つに決まってるだろ。

それに連戦で疲れてんだ。勝負するわけないだろ。」

「あ~、負けるのが怖いんでしょう?」

女性はジルを挑発する。

「な、ばかにするなよ。てめえなんて一撃で仕留められるぜ。」

「なら、勝負を受けるということでいいのね?」

「ああ、すぐに終わらせてやるよ。」

ジルと女性剣士が戦うこととなった。

 

 

 

ジルと女性剣士が木の剣を持ち向かい合う。

「そっちからこいよ。」

今度はジルが挑発するように言った。

「あの女性もここの練習生なんですか?」

マルクが師範ロンに尋ねた。

「いや、あの方は...。」

ロンが言い出そうとしたとき、試合が始まった。

女性が勢いよく剣を振り出す。

ジルは全力で避けたが女性の動きが速く女性の剣が服をかすめた。

ジルは余裕の表情から真剣な顔へと変わった。

「あら、どうしたの。」

女性は少し口元に笑みを浮かべ言う。

「思ったよりも出来るみたいだな。」

ジルも少し笑いながら言った。

「いくわよ。」

女性はさらに攻撃をしかけていく。ジルは女性の素早い動きに

翻弄され防戦一方だった。

「(悔しいがこいつの方が俺より動きが速い。しかし...。)」

ジルは相手の動きを読み、反撃を狙う。

「攻撃が軽いっ!」

2人の剣が合わさった瞬間、ジルは女性ごと力で吹き飛ばした。

「きゃあぁぁぁぁ!」

女性はドタッと床に倒れた。

「大丈夫か?」

ジルは女性の傍へ歩み寄り手を差し伸べた。

「あら、やさしいのね。」

女性は素直に手を握り立ち上がった。

「ありがとう。楽しかったわ。」

「別に、礼を言われる筋合いはねえよ。」

「素直じゃないのね。ふぅー。」

女性は被っていた仮面を外した。

中からパサッと長い金色の髪が広がると同時にとても美しい顔が現れた。

年はジル達とあまり変わらないくらい若かった。

「(すごいきれいな子だ。)」

マルクは思わず見とれてしまった。

「(こんな子を見たらジルはきっと...。)」

マルクは不安を抱きながらジルの方を見る。

「マルク、行くぞ。」

ジルは女性に特に反応せずに剣術道場を後にしようとした。

「あれ?」

マルクはジルの態度が意外だった。

「口説いたりしないんですか?」

マルクは率直に聞いてみた。

「顔は好みだけど、自分から勝負しようとする性格が嫌なんだよな。」

ジルはそっけなく答えた。

「あなたたち旅をしてるの?」

女性が尋ねる。

「ええ、そうです。今は訳あってこの国に長い間いますが。」

「じゃあさ、私を仲間に入れてよ。」

「おい、さっきの俺の言葉聞いてなかったのか?お前のそういう

でしゃばった態度が気に入らないって言ったんだよ。」

「ええ、聞いてたわよ。私、そういう風に正直にはっきり悪く言われたこと

なかったから嬉しいの。」

「悪く言われて嬉しい?おかしな奴だな。」

「こら、さっきから失礼だぞ。この方を誰だと思ってるんだ。この国

サンアルテリア王国の王女メアリー様だぞ。」

師範ロンがもう我慢できないといった感じでジルに言った。


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