個性社会で道を極める   作:夜長小噺

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001:あるひとつの【オリジン】

 転生した。

 

 なんの捻りもなく現状を言い表せば、ただそれだけのことだ。

 

 今生の身体が死にかけたことで、以前に己だった存在の一生の記憶がよみがえった。

 いや正確にいうならばもしかすると今生の(・・・)“私”は既に死んでいて、その残った身体に今現在の“俺”が入り込んだというのが正しいのかもしれない。

 なにせ今の“俺”には、死にかける前までの記憶が朧気にしか残っていないのだ。

 

 

「えっと……自分の名前は言えるかい?」

 

 

 名前……。名前、か。

 

 前世(まえ)の名前は……、はて、なんだったか。

 思い出したと言った手前だが、ところどころピンぼけ虫食いなうえに整理がついていない。

 

 覚えが良くて直ぐに口に出るのは、今生(いま)のやつのほうだ。

 

 

「●●●君、だね? 今の状況は、理解できるかい?」

 

 

 状況……。

 

 今の“俺”は、ベッドに横になっている。

 白のシーツと毛布。

 鼻に入る温い空気は、ツンと奥に痺れる感覚がする。

 

 病院、だろうか。そんな感じの空気だ。

 

 

「何が起きたか、覚えているかい……?」

 

 

 何が……?

 

 問われて、半分寝惚けたような思考を回す。

 

 “俺”は……三十手前のサラリーマンで……いつものように出勤中で……。

 

 いや違う、“私”は……弟と一緒にいて……家に帰って……。

 

 

 いや……否。違う、そうじゃなくて……。

 

 

 “俺”は、信号渡ってて……そしたらトラックが……。

 

 

 いや、否、イヤ、嫌。

 

 

 “私”は、家に着いたら……父さんと、母さんが……。

 

 

 ちがう、違うんだ、チガウ。

 

 

 

 肋骨が折れる。臓物が破ぜる。

 “俺”の脳髄が崩れる音を聞いた。

 

 

 父さんの叫び。母さんの悲鳴。

 “私”が消えていく痛みを知った。

 

 

 

 否、チガウ、そうじゃなくて。

 

 

 嫌、ソウダ、違ったはずで。

 

 

 

 痛くて……、悲しくて……。

 

 

 寒くて……、熱くて……。

 

 

 苦しくて……、ただ、苦しくて……!

 

 

 

 

 

「落ち着いて、もう大丈夫だから!!」

 

「おいっ! 先生呼んでこい!」

 

 

 両手が、肩が、震えているのがわかる。

 締め付けるように毛布を抱き締めても止まらない。

 

 

 

 

 俺は“私”なのか。

 

 私は“俺”なのか。

 

 

 “俺”は生きているのか。

 

 “私”は死んだのか。

 

 

 “俺”は終わった筈だ。

 

 “私”は此処に居た筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、此処にいるのは────何者なのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分からなくて、不安と恐怖が駆け巡る。

 

 俺は“私”で、けど“俺”な筈で。

 “俺”は消えた筈で、“私”が此処に居た筈で。

 

 “私”は……“俺”は……、なんで……? どうして……?!

 

 

 

 ────混沌とした中身が乱れに乱れて、狂いに狂って、崩壊するのは時間の問題。

 

 いっそそうなったほうが楽なのは間違いない筈で、思考の奥底では恐怖しながらも其処に向かって突き進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そう、ちょうどその時だ。

 

 

 

 

 ────声がしたんだ。

 

 ────震える私の身体を、強く強く、抱き締める子が居てくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ねぇちゃんっ!』

 

 

 

 

 

 

 その手は、小さくて。

 

 その手は、か弱くて。

 

 

 けれど、確かな意志と熱を持って。

 

 精一杯に、“私”を繋ぎ止めようとしていた。

 

 

 

 ……独りにしないでと、泣いていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

      ※

 

 

 

 これが多分、私の原点(オリジン)

 

 

 何の因果か“俺”を引き継いで、けれどそのほとんどを捨て去って……私が“私”になった瞬間。

 

 正義も悪意も持ち合わせていない私に出来た、一つの芯。

 

 

 

 私を“私”にしてくれたこの子を、護れる英雄(ヒーロー)になりたいと思った。

 

 “私”を望むこの子を護る為なら、敵役(ヴィラン)にだってなれると思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何にもなかった“俺”と“私”に、成りたいものができたんだ。

 

 

 

 

 

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