転生した。
なんの捻りもなく現状を言い表せば、ただそれだけのことだ。
今生の身体が死にかけたことで、以前に己だった存在の一生の記憶がよみがえった。
いや正確にいうならばもしかすると
なにせ今の“俺”には、死にかける前までの記憶が朧気にしか残っていないのだ。
「えっと……自分の名前は言えるかい?」
名前……。名前、か。
思い出したと言った手前だが、ところどころピンぼけ虫食いなうえに整理がついていない。
覚えが良くて直ぐに口に出るのは、
「●●●君、だね? 今の状況は、理解できるかい?」
状況……。
今の“俺”は、ベッドに横になっている。
白のシーツと毛布。
鼻に入る温い空気は、ツンと奥に痺れる感覚がする。
病院、だろうか。そんな感じの空気だ。
「何が起きたか、覚えているかい……?」
何が……?
問われて、半分寝惚けたような思考を回す。
“俺”は……三十手前のサラリーマンで……いつものように出勤中で……。
いや違う、“私”は……弟と一緒にいて……家に帰って……。
いや……否。違う、そうじゃなくて……。
“俺”は、信号渡ってて……そしたらトラックが……。
いや、否、イヤ、嫌。
“私”は、家に着いたら……父さんと、母さんが……。
ちがう、違うんだ、チガウ。
肋骨が折れる。臓物が破ぜる。
“俺”の脳髄が崩れる音を聞いた。
父さんの叫び。母さんの悲鳴。
“私”が消えていく痛みを知った。
否、チガウ、そうじゃなくて。
嫌、ソウダ、違ったはずで。
痛くて……、悲しくて……。
寒くて……、熱くて……。
苦しくて……、ただ、苦しくて……!
「落ち着いて、もう大丈夫だから!!」
「おいっ! 先生呼んでこい!」
両手が、肩が、震えているのがわかる。
締め付けるように毛布を抱き締めても止まらない。
俺は“私”なのか。
私は“俺”なのか。
“俺”は生きているのか。
“私”は死んだのか。
“俺”は終わった筈だ。
“私”は此処に居た筈だ。
今、此処にいるのは────何者なのだ?
分からなくて、不安と恐怖が駆け巡る。
俺は“私”で、けど“俺”な筈で。
“俺”は消えた筈で、“私”が此処に居た筈で。
“私”は……“俺”は……、なんで……? どうして……?!
────混沌とした中身が乱れに乱れて、狂いに狂って、崩壊するのは時間の問題。
いっそそうなったほうが楽なのは間違いない筈で、思考の奥底では恐怖しながらも其処に向かって突き進んでいた。
────そう、ちょうどその時だ。
────声がしたんだ。
────震える私の身体を、強く強く、抱き締める子が居てくれたんだ。
『────ねぇちゃんっ!』
その手は、小さくて。
その手は、か弱くて。
けれど、確かな意志と熱を持って。
精一杯に、“私”を繋ぎ止めようとしていた。
……独りにしないでと、泣いていたんだ。
※
これが多分、私の
何の因果か“俺”を引き継いで、けれどそのほとんどを捨て去って……私が“私”になった瞬間。
正義も悪意も持ち合わせていない私に出来た、一つの芯。
私を“私”にしてくれたこの子を、護れる
“私”を望むこの子を護る為なら、
何にもなかった“俺”と“私”に、成りたいものができたんだ。