個性社会で道を極める   作:夜長小噺

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003:個性の使い方

 “私”としての人生が始まったのは、“俺”が終わったことを理解したあの日だった。

 

 弟の廻が、初めて個性を発現させると同時に暴走させた。

 それに巻き込まれて実の父は死亡。私も巻き込まれたが、なんとか修復は間に合い、命を繋いだ。しかしそのショックから前世の記憶を一部取り戻し、混乱し、おそらくは私自身の個性も無意識に使用しつつ記憶と感情の整理を発熱する脳と格闘しながらこなすこと数日。気がつけば病院のベッドに寝かされていた。

 取り戻した筈の記憶は整理をつける上で大半が破損して、穴だらけ。今世が創作の世界だと語られたところで今ひとつ実感もなく、私自身の感覚でいうなら奇妙な記憶が少しだけ残っただけの子供でしかない。

 病院で寝ている間に母親は失踪。残された弟と一緒に途方に暮れていたところを、組長(オヤジ)に拾われて今に至る。

 

 どうやら実の父は組傘下の構成員、それも幹部格の一人であったらしく、身寄りのなくなった私達をオヤジは捨て置けなかったらしい。

 

 世にヴィラン予備軍とすら呼ばれている人物に拾われるのは世間的にみれば不幸なことなのかもしれないが、少なくとも私にとっては有り難いことだった。

 寄る辺もなく子供二人で過ごすのは、どうしようもなく辛かったから。

 

 廻もオヤジのことは尊敬しているようだし、そこいらの孤児院に入れられるよりかは良い環境だと思う。

 

 

 しかし、周囲がそう思うかは別問題だ。

 

 

「またか」

 

 今日も今日とてJSらしく学校へと来てみれば、広がる惨状にゲンナリとする。

 

 教室の私の席。その周囲にはゴミが散乱し、机と椅子の表面は落書きだらけになっている。

 

 断っておくが、私の仕業ではない。こんなだらしない状態で放置するような教えは受けていない。

 

(女子のイジメのが陰湿だっていうけど本当だな)

 

 遠巻きな場所から此方を見てクスクスと嗤っている連中がいるのも聞き慣れた。激昂するのも馬鹿馬鹿しい。

 というか、前世の記憶を中途半端に思い出した影響から無駄に精神的に老成してしまい、鼻で笑うぐらいしかしてやれない。前世はいい年した男だったせいか、生意気なロリっ子共の悪戯など可愛いものと受け流せる。

 

 それはそれとして、とりあえず片付けよう。鞄をロッカーに押し込んで、掃除用具を手に取る。

 ササッとゴミを拾い、埃は掃き取って、濡れ布巾で拭く。

 しかし油性のマジックで描かれた落書きは落ちにくい。

 

 なので個性を使うことにする。

 

 落書きの上に手を乗せて、力を込めて。

 

「よっ」

 

 パチッ、と小さな音。立ったことも注意しなければ気づかないだろうそれが鳴った隙に布巾で擦る。するとアラ不思議、油性のインクが見る見る落ちる。

 

(なんか無駄な使い方してる気がするな。便利だからいいけどさ)

 

 本来ならもっとスケールの大きいことができるだろう異能の使い方に、我が事ながら嘆息するしかない。

 

 

      ▲

 

 

 弟・廻の個性は【オーバーホール】。

 手で触れたものを極小単位に『分解』し、破損や故障部分を修復した状態で『再構成』する。対象は有機物無機物を問わず、生物であっても骨折や傷病すら修復したうえで『再構成』できる。

 

 この『分解・再構成』は別個の異能ではなく、発動させると全自動で連続しておこなわれる。意図的に途中で停止させることも可能だが、成長前の現在ではかなり難しいようだ。例えるなら、全開の水道の蛇口を手で押さえて止めようとするようなものだろう。正しい扱い方を理解するまで先は長いだろうが、強力な個性だ。

 

 その姉である私も、似たような個性を持っていた。

 いや、正しくは下位互換、といったほうがいいのか。

 

 ちょうど廻の個性から、全自動の機能を抜いたような個性。

 対象の構造を『理解』し、生み出す力場の内側で『組み換え』て、別の形状で『固定化』させる個性。

 一応、名称としては【リビルド】と役所には提出している。

 

 廻の『再構成』のように自動的にカタチが形成されるのではなく、完成形を見据えたうえでブロックを積み上げるように形成していかなければならない。自由度は高いが、そのぶんだけ扱いづらい個性だ。

 おまけに出力も低いから、あまり広範囲には影響をおよぼせない。せいぜい手の先から三十センチぐらいが限界だ。

 

 先ほど落書きを消したのは、机に塗られたインクを『組み換え』て浮かし、拭き取っただけだ。頑固な油汚れを洗剤で浮かせて落とすのとプロセスは同じである。

 

(っつーか、アイツら彫刻刀で削りやがったな。学校の備品は大切にしろよ)

 

 しかし汚れはそれで落とせても、直接天板を削って刻まれた文字は消せない。“死ネ”とか“ブス”とか貧困な語彙が並んでいるのを放置するのは非常に不快だ。

 

 だから、サッサと消すにかぎる。

 

 同じように天板に触れて、意識を集中させる。すると、その木の板の構造が『理解』できる。

 表面を覆うのは一枚の薄皮のような板。内側は合板であるため複数の木材が重ねられており、ひとつひとつ木目が違う。

 探ればそれらの組織がどのように組み合わさり、どのような構造をしているか『理解』できる。

 

(表面だけじゃなくて、全体を薄めればいいか。構成物質は同じなんだから大丈夫だろ)

 

 ひとつの物体の各所から少しずつ、それを構成している物質を取り外して、一箇所へと寄せ集める。削られて足りなくなった建材を別の箇所から融通して、そこを埋めるように『組み換え』る。

 

 パチッ、と弾ける音がして、瞬間的に天板が変形。傷もなくまっさらな、新品同然の状態にまで戻ったところで『固定化』する。

 

「ハイ終わり、と」

 

 『理解』、『組み換え』、『固定化』の三工程で所要時間十秒弱。木の板一枚でこうだとすると、更に複雑な物体を【リビルド】するのには相当な時間がかかるのは察せるだろう。

 結論をいうと、便利ではあるがそこまでの強個性とはいえない。

 加えて、

 

「よし、寝るか」

 

 発動の反動は強烈な眠気。条件にも左右されるが、短時間の使用でも休息を求める精神的な疲労に見舞われる。

 

 故に綺麗になった机に突っ伏して、私は悠々と朝寝と洒落込む。

 

 歯軋りして此方を睨む女児どもは、まるっと無視することにした。

 

 




キャラ紹介

治崎 (みさお)

個性【リビルド】

・物体に触れることで対象の構造を『理解』できる。
・発生させる力場の中でならそれを自由に『組み換え』ることができる。
・『組み換え』た物体をそのまま『固定化』させて保存できる。
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