混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E 作:グレン×グレン
そして、ここで行人伊予の歪みについて少し触れることになります。
『シャーク』
「死ねぇ堕天使!
「邪・魔・だ・よ!!」
イーツ化したうえで更に禁手化まで使用した英雄派の構成員に全力の攻撃を叩き込んで、井草は即座に周囲を確認する。
撃破された英雄派を無視して、井草は仲間達を探す。
だが、明らかにおかしい。
先程の井草が倒した英雄派のメンバーとの攻防(一瞬)以外、戦闘の痕跡がほぼない。
それどころか、聖槍のオーラなどの反応すらろくにない。
……ここに至って、漸く井草は―
「まさか、もう逃げた?」
―まだ勘違いしていた。
まあ、普通に考えて京都とリンクする疑似京都を作ってそこで術式を展開しているなどと思い至る方が少数派だろう。ここは井草を責めるところではない。
そして、その勘違いを是正してくれる者は確かにいた。
「あ、英雄派の人達は、疑似京都の方にいるから、そっちじゃないかな?」
その言葉と共に、足音が響く。
何より、声そのものがとても覚えのあるものだ。
井草は、その人物をいやというほど確信して、そして静かに振り返る。
そこにいたのは、灼熱の毛皮を纏った、女性型のイーツ。
「……伊予」
「うん。久しぶりだね、井草君」
華やいだ笑顔を見せている事が、イーツ化している状態でも分かってしまう。
伊予は、本心から井草と会えた事を喜んでいる。それが分かる。
そして、ナイアルの命令に従って井草と戦う事も一切躊躇していない。
その証拠に、既に両手は灼熱を纏っている。臨戦体制なのが明白だ。
井草はそれに対して戦闘態勢を取りながら、静かに考える。
―どうして、こうなったんだろう。
全てはナイアルの所為だと言うのは簡単だ。だが、それは言い過ぎだろう。
井草は、無自覚に傲慢だった。
五十鈴は、不満を溜めていた。
きっといつか爆発していただろう。そして、三人の関係にはヒビが入っていたはずだ。
だからこそ、知りたい事がある。
「……伊予。君に、聞きたい事がある」
「うん。何かな?」
小首を傾げるその動作は、あざといというより天然だ。そこに色仕掛けや裏の意味などという物はなく、本能レベルでやっている事だ。
そういう事を自然にやってのけるからこそ、伊予はとても可憐な少女だった。
それが、いつの間にやら何人も殺してしまった。
何かされた事は明白だ。五十鈴もなんでそんな事をしていたのか理解しきれてないところがあった。おそらく、それと同じ事があったのだろう。
しかし、それだけではない。
それだけなら、五十鈴のように正気に戻っている可能性だってあった。
あるのだ。何かが。
そのまま突き進んでしまうほどの、何かが。
「……伊予。君は、何をナイアルに求めてる? 何を俺に求めてた?」
それが知りたい。
伊予が自分に好意を抱いていた事は、五十鈴の視点から知っている。
そしてそのうえで、伊予はナイアルを選んだ。無有影雄を選んだ事も知っている。
伊予は何かを井草に見て、ほのかな思いを抱いた。そして、無有影雄にそれ以上のものを見て、彼の下へと走った。
それが何なのか、井草はどうしても知りたかった。
「そうだね……。なんて言えばいいんだろう……」
少し考えこむ伊予だったが、やがて何か思いついたのか、ポンと手を叩いた。
「……見た事ないものを見せてくれる、かな?」
その言葉は、心からのものだった。
井草は無言で答えない。そして、伊予はそれを促していると受け取ったのか、話を続ける。
「……何年前からかな。なんていうか、いつもの毎日がどこか退屈に思ってた」
そう語る伊予は、苦笑を感情で浮かべてくる。
少なくとも、井草にはそう見えた。
「井草君が堕天使の血を引いてるからかな? 井草君は何処かずれてる感じがして、いつかそこに連れて行ってくれるんじゃないかって思ってた。そして、いつの間にか好きになってた」
それは、確かにそうなのだろう。
井草は堕天使の血を引き、神器を持っている。それだけでも、どこか人からずれた者があっただろう。
自覚していたのだから尚更だ。人にばらさないようには言われていたが、しかしどこか優越感を持っていた。行動の節々にそれが漏れていたのかもしれない。
しかし、それは裏を返せば―
「でも、ナイアルさんは見せてくれたの」
―実際にまだ見ぬ世界を見せた者がいれば、そこに転がってしまうという事だ。
「ナイアルさんはこっそり夜に連れ出してくれた」
そして、そこから先は簡単だったのだろう。
「初めてのお酒の味。初めての夜のドライブ。初めてのタバコはちょっとのどにむせたかな」
要は簡単な事だったのだ。
日常生活に閉塞感を感じている真面目な生徒。彼らが酒やタバコに手を出して、其のままずるずると堕ちていく。そんな人生の落後者になるドロップアウトの物語。
其の中には、悪い友達に誘われるという展開がよくあるものだ。
「始めてディープキスされた時、私はずっと心に残ってた井草君と五十鈴ちゃんの事を忘れちゃった。それぐらい、ナイアルさんとのキスは素敵だった」
そう告げる伊予は、どこか陶酔していた。
「ナイアルさんのキスは、私にとって最高なの。キスされてからする体験は、何時だって何時だって素敵な気分になるの」
その言葉に、井草はあえて割って入るように聞く。
それは、聞かねばならない事だからだ。
「……それは、殺しでもかい?」
「うん」
即答だった。
「死ぬかもしれない戦いも、圧倒的な蹂躙も、歯応えのある拮抗も、全部が全部楽しいの。私、戦闘狂だったみたい」
そう言い放つ伊予は、陶酔状態に近かった。
日常に閉塞感を感じ、非日常に焦がれるのは日常に生きる人間にとって、よくある事だ。
中二病の基本形態の一つだろう。日常系以外の創作物が読まれる理由の根幹だともいえる。
とはいえ、それを楽しめるのは創作だからだ。
実際に非日常に巻き込まれれば、そう都合よくはいかない。
大怪我による激痛はもちろん、死ぬかもしれないという精神的重圧は大きい。更には過酷な環境という苦しさに満ち溢れた環境にいるというだけでも、非常に大きなストレスを発揮する。
大抵の訓練も精神的な心構えもできていない者は、すぐに心折れるのだ。正真正銘それを楽しめる、非日常を日常としたがる者などごく一部である。
大抵の非日常に憧れる者は、非日常を経験して日常に戻る事を選ぶ。もしくは、未成年飲酒などの低レベルな事で、欺瞞交じりの自己満足を得る方向で留まるぐらいだ。
だが、それは裏を返せばごく一部は適合してしまうのだ。
ヴァーリ・ルシファーのように強敵との命がけの戦いに愉しみを感じる者もいる。
人の命を奪うという、日常では基本的にあり得ない事に快楽を感じる殺人狂だっている。
中には恐怖心を一種の悦楽として捉える、吊り橋効果のような精神状態になった者もいる。
伊予がそのうちのどれかなのか、それともそれ以外の類なのかは分からない。
だが、これだけは言える。
行仁伊予は、最悪の形でその素質を目覚めさせてしまった。
非日常に焦がれ、非日常に適合できる。その稀有な素質を、よりにもよってナイアルによって、その素質を開花させてしまった。
そして彼によって悪質な形で非日常を経験してしまった事で、伊予は歪んでしまったのだろう。
五十鈴と伊予の違いは、きっとそこだ。
非日常に対する潜在的願望の強さの違い。それが薄かったからこそ、五十鈴は正気に戻った。それが強かったからこそ、伊予はのめり込んだ。
五十鈴は結局、井草と伊予の意趣返しがしたかっただけなのだろう。だからこそ、殺人の衝撃をきっかけとして、正気に戻った。
伊予は逆に、非日常に行きたくて堪らなかったのだろう。だからこそ、殺人の衝撃という日常では普通味わえない感覚に、酔いしれた。
……それが、致命的なレベルにまで伊予を泥沼の中へと引きずり込んでしまったのだろう。
もしもだが、伊予が神の子を見張る者に入れば、きっと適合しただろう。
彼女は神器は持っていないようだ。だが、魔法などといった超常の技術は少なからず存在している。それを学ぶ機会はいくらでもあっただろう。
そうなれば、適度の非日常を知る事ができて、伊予はここまで変わらずに済んだのかもしれない。
だが、全てはもう、過ぎた事だ。
仮定の話をしても、意味がない。
「……分かった。もう、いいよ」
井草は、静かに構えを取る。
大量の光の槍を展開して戦闘態勢を取りながら、井草は静かに伊予を見つめる。
倒せるのか。それは、分からない。
殺せるのか。それも、分からない。
だが、一つだけ断言できる事はある。
戦える。それは、断言できる。
「悪いけど、これ以上は好きにさせれない……っ!」
「え、いやだよ? だってまだまだ楽しみたいんだもん」
その言葉と共に、井草と伊予は激突する。
先ず先制攻撃として、井草は莫大な光力の槍を投射する。
その攻撃力は上級堕天使クラスとしてなら最高峰だろう。あたれば並の上級堕天使なら一撃で大打撃となるレベルだ。
それに対して、伊予は何の躊躇もなく拳を向ける。
「えいや!」
そして、可愛らしいが渾身の気合を込めた打撃で、それを粉砕した。
打撃そのものも高い身体能力に由来する高い攻撃力だ。
だが、それ以上に両手に纏っている灼熱の威力が大きい。
二つ合わせた総合攻撃力なら、
EEレベル6,0。元龍王タンニーンですら脅威とみなす、圧倒的なまでのエボリューションエキスの適性。それによって変化する上位イーツであるアウターイーツ、クトゥグアイーツ。
その圧倒的な出力が、今度は反撃となって襲い掛かる。
「次はこっちの番だよ!」
そして殴り掛かる伊予。
その一撃の威力は絶大だ。まず間違いなく今までの井草では対抗する事などできないだろう。
単純威力で対抗できるのは、ゼノヴィアかイッセーぐらいだ。それも、あくまで一撃の威力であって連打ではない。
長丁場になれば、通常攻撃で平然と連発できる伊予が凌ぐ。
これが、アウターイーツ。これが、EEレベル6,0。これが、クトゥグアイーツ。
それを脅威に思いながらも、井草はしかし攻撃を回避して、はたと気づいた。
そういえば、五十鈴はこんな事を言っていた。
伊予が変身するクトゥグアイーツは、灼熱を纏っての打撃と灼熱による砲撃が基本だと。
そして、こうも言っていた。
そもそもそれだけで十分強いと。
そして、それゆえに井草は気づいた。
……この戦い、実は結構有利なんじゃないかな?
なんというか、回避が非常に楽だった。攻撃を回避しやすい。
そして、その理由にすぐ気づいた。
「伊予、そういえば運動音痴だったっけ」
「酷いよ!? 2はとってるよ!!」
反論が飛ぶが、しかしそれは自慢にはならない。
なんというか、虚弱体質というわけではない。なので、体力は人並みにある。
だがしかし、なんというかセンスがない。運動神経が鈍いのだ。
その所為か、体力があれば大抵の事はどうにかなるスポーツは人並みでいけるが、球技などのセンスや技術が必要になる競技だと、一気に下手になる。
どうやら、ナイアルはその辺りも考慮したらしい。
単純にぶっぱすれば勝てるタイプの能力を選んだという事だろう。
……なら、勝機はある。
そして、それを見逃すほど井草も愚かではなかった。
「……伊予。悪いけど、君になら俺は勝てるよ」
静かに一旦距離を取りながら、井草はそう告げる。
そして、腕を前に突き出した。
それに、伊予は僅かにムッとした。
「むー! そんな簡単に負けたりしないからね!」
その言葉と共に、伊予は灼熱の砲撃を放つ。
その出力は、最上級悪魔ですら出せる者は数少ないだろう。
まず間違いなく魔王クラスでも当たり負けしかねない破壊力。このまま放たれれば、京都が壊滅的な打撃を受ける。
……そんな事は、させない。
井草はそれを決意しない。
ただ単純に、それが容易だからという判断で、井草はそれを引き出して振るう。
そして、放たれた砲撃は斜め上に軌道を逸らして宙へと消えた。
その圧倒的な攻撃力の根源は、一振りのバスターソード。
無骨な外見を創造するバスターソードだが、何故か流麗な装飾が施されており、まるで芸術品のような美しさがある。
そして、そのバスターソードからは高出力の雷撃が放たれていた。
「……ロキが開発したムジョルニアを、俺用に仕立て直したのがこれだよ」
「へ、嘘でしょ?」
井草の言葉に、伊予は明白に驚いた。
ムジョルニア。それは、ミョルニルのレプリカである。
出力はオリジナルには確かに劣るが、しかし桁違いの高性能を誇る装備である。
それを、バスターソードに仕立て直し、戦用の武器として作り直したのだ。
理由は単純。ケンゴウイーツの力を持つ井草が使用するなら、剣の形にした方が遥かに効率的だからだ。
そして、それを構えながら井草は静かに腰を落とす。
「この、トールセイバーで君を止めるよ。……覚悟を決めてくれ、伊予!!」
その言葉を決意表明として、井草は勢いよく駆け出した。
極論を言うと、井草たち三人は三人そろって方向性は違えど中二病に罹患していたわけです。
井草・ダウンフォールはその特異性ゆえに調子に乗っていました。一種の邪気眼系。
枢五十鈴は天才に焦がれるがゆえに、努力することを低く見積もっているやれやれ系。
そして行人伊予は、ようはカッコツケでお酒やたばこを吸ったりしそうだが、良識がなまじあったがゆえにそれを壊してくれる「王子様」を求めていたタイプ。イメージ的にはあれでしょうか? ペルソ〇4の雪〇姫。
不良に憧れて彼女になってしまうタイプといてもいいかもしれません。まさにそういう意味ではナイアルのカモでした。
まあ、それにさらに厄介なものがあってブーストされているのが現状なのですが。