混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E 作:グレン×グレン
無有影雄と名乗るナイアルがあくどい事を考えているその頃、井草は戦後処理もひと段落して、一息ついていた。
自販機でスポーツドリンクを購入し、それを飲みながら力なく空を見上げる。
夜空は星が輝いているが、井草の心はそんな明るいものではなかった。
無有影雄。最低最悪の自分ですら嫌悪する、憎くて堪らない男。
あの男に全責任を押し付けるつもりは毛頭ない。そんな事をする資格など、井草には全くない。
確かにあの男は醜悪で外道で悪辣だ。しかし井草もまた、一時の情欲に流されて最低最悪の真似をした。そういう意味では井草に無有を非難する権利はまずないだろう。
そして、井草は二人の少女の姿を思い出す。
真っ当に成長しているのなら、井草と同じ二十歳になっているだろう。
だが、それを井草はとても信じられない。
何故なら知ってしまったからだ。
なんとなく、衝動的に、諦める言い訳を求めて調べてもらった情報。
無有影雄の女性遍歴。彼が付き合ってきた女性。そして、その後の遍歴を。
それを知って、井草は義憤に燃えるなどという、資格が欠片もない事をしてしまった。
そして見るも無残に返り討ちに遭い、何時の間にやらイーツになる能力を手にした。
レセプターイーツの力は強大だ。そういう意味ではプラスのメリットはあるだろう。
だが、そんな事を喜ぶ余裕など欠片もない。
何故なら、無有の立場と彼がしてきた所業を考えれば―
「伊予……五十鈴……っ」
そんな資格もないのに、井草は悲しくて目頭を熱くさせる。
彼女達はもう、無事ではないのだろう。
そんな事はずっと前から分かっている。三年前、彼女達が無有と同時期に行方不明になってから覚悟してきた事だ。
だが、それが更に最悪の可能性と共に浮かび上がってきた事で、井草の胸は締め付けられる。
そしてそのまま拳を握りしめ―
「ほいほい、落ち着きやがりなさい」
その手を、柔らかい少女の手が包み込んだ。
「―ッ」
その感触に我に返れば、リム・プルガトリオがこちらをのぞき込んでいた。
「停止されてたまんまなのがこっぱずかしくてうろついてたら、何してやがるんですかねぇ」
そう呆れ顔で言いながら、リムは井草の握り締めた拳を一つ一つ外していく。
そして、苦笑を浮かべると井草の背中をばんと叩いた。
「ま、何があったかしりゃぁしませんがねぇ、お宅はため込みすぎて自家中毒おこすタイプみてぇですし、もうちょっと人に相談した方がいいですぜ?」
「いや、その……」
どう返答すればいいか分からない井草に、リムはウインクをする。
「言い出しっぺってもんなんで、どうしても他に言えないっていうなら私が聞いてやりますぜ? ま、とりあえずちょっと愚痴る相手を考え時なせぇ」
……その言葉は、赤の他人に近い人物だからこそ響いた。
今の井草を知るものが行っても、井草はそれを素直に受け取れなかっただろう。
だが、リムとは初対面ではないが付き合いはないに等しい。何度か結果的に共闘したぐらいだ。
その、半端な付き合いだからこそできた距離感が、井草の心の壁を絶妙にすり抜け―
「あ、井草さん!!」
―切る前に、イッセーが駆け寄ってきた。
「あれ? どうしたのさイッセー」
「あの、ミカエルさん探してるんですけど、知らないですか?」
……仮にも下級悪魔が、セラフのトップに何をするつもりなのか。
まあ、今回の会談でのミカエルの様子ならどうにかなるだろうと思い、井草は指で校舎の隅を示す。
「今総督達は向こうで簡単に話し合ってる。たぶんまだいるんじゃないかな?」
「ありがとうございます!! じゃ、急がないと!!」
そう即座に返答すると、イッセーはそのまま走り出していった。
そして、微妙な沈黙が井草とリムを支配する。
なんというか、絶妙に気まずい。
なんとなく顔を見合わせると、お互いに似たようなタイミングで苦笑いしてしまう。
「……うん、また今度、機会があったら相談するよ」
なんというか、機会を逃してしまった。
とは言え、おそらくいつかは誰かに言う事になるのだろう。
そう、このままでは自分自身が耐えきれないという自覚だけはあるのだから。
『忘れてた。井草、明日から俺、駒王学園で教師やるからな』
「……はい?」
そんなことを気にする余裕も一瞬忘れるほど、突然の事態が勃発したが。
「……というわけで馬鹿やらかしたら俺が殴り飛ばすから、すぐに言ってくれ」
「おいおい、先生を殴るなんてお前それでも生徒かよ」
「いや、漫才しないでいいから!!」
井草は真剣だったのだが、アザゼルが茶化す所為でイッセーに本気と受け取られなかったらしい。実に残念な話である。
「で、アザゼル? あなたなんで教師になってるのかしら?」
「セラフォルーの妹に頼んだ」
リアスにあっさりと答えるアザゼルに、井草は心底頭を抱えたくなった。
間違いなく、無茶振りされたのである。
心底ソーナに同情したくなった。
思い付きを行動に移し、しかも形にする事ができるアザゼル。割と日常生活ではストレスが溜まる部類であり、振り回される方としては堪ったものではない。
それにいきなり付き合わされるのは、実に哀れだ。
「あとでソーナちゃんには菓子折りでも持っていてお詫びしないと―」
「おいおい、お前はもうちょっと気楽に人生生きろよな」
などと元凶であるアザゼルがほざくが、ここは遠慮なく殴っておくべきだろうか。
ついつい半目になるが、其れをアザゼルはスルーして、一同を見渡す。
「ま、なにも道楽ってわけじゃねえ。ヴァーリの野郎に目を付けられた赤龍帝のイッセーと、その仲間達グレモリー眷属は嫌でも強くしねえといけねえからよ。俺はアドバイザー兼いざという時の護衛役ってわけだ」
「あ、アドバイザー……って?」
イッセーが首を傾げるが、しかし確かにそれはいけるかもしれない。
「イッセー。総督……アザゼル先生は
そして、三大勢力において神器研究が最も進んでいるのは堕天使である。
逆説的に、アザゼルは三大勢力で最も神器について詳しい研究家ということだ。
「
と、アザゼルは胸を張る。
実際問題言われてみれば、どれもこれもイレギュラーな神器である。
十三種全てがオンリーワンの神滅具の赤龍帝の籠手はもちろんだ。邪神の名を冠する停止世界の邪眼に、神の祝福すら超える聖母の微笑もすさまじい。
そんな非常にレアな神器関係。それをどうにかできるとするならば、確かにアザゼルぐらいしかいないのだろう。
そしてアザゼルは堕天使の中でも十指に入る実力者でもある。いざという時の用心棒としても優れているだろう。
そういう意味では適任中の適任ではある。
「それに、俺はヴァーリを教えてきたわけだし、そこの朱乃の親戚の神滅具使いとも関わってるからな。神滅具使いを教えるなら俺が一番適任ってわけだ」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
さらりと告げられたアザゼルの言葉に、朱乃を含めた全員が声を上げる。
「アザゼル先生、それはまだみんな知らないと思うんだけど」
「おっと。そうだったそうだった」
困ったものであると、井草はため息をつく他ない。
「幾瀬鳶雄って言ってね。生まれた時から禁手で、しかも禁手を変化させたヴァーリ並みのイレギュラーらしいんだ。確か、禁手で生まれてきた子供が成人したのって彼だけでしたよね?」
「
冷静に考えると凄まじい話ではある。
神の子を見張るものの中でも有数の実力を誇る二人の神滅具使い。その二人はどちらも神滅具使いとしておイレギュラーなのである。
前代未聞の魔王末裔の保有者と、これまた前代未聞の奇跡の生存者たる保有者。
神滅具使いのイレギュラー二大巨頭と言ってもいい二人に関わってきたアザゼルなら、イッセーもある程度指導できると踏んでいた。
「ま、話は戻すがこれからみっちり鍛えてやるからそう思え。具体的には、禁手使いの木場は一日は禁手を持たせられるようにする予定だ」
「な、長いですね」
祐斗が若干気圧される。
ちなみに、現段階で祐斗は禁手を半日も維持できなかったりする。
「因みに、ヴァーリはひと月は持たせられるからな。最終的にそれぐらいはできるようになれ」
その言葉に、イッセー達は将来の敵であろうヴァーリの凄まじさを改めて実感したらしい。
それで少しは引き締まった事を見て、アザゼルは少しだけ真剣な表情を見せる。
「因みに、ヴァーリはヴァーリで禍の団で自分のチームを持ってるようだ。メンバーはこっちにも来た美候以外には分かっちゃいねえが、噂では英雄の末裔や高ランクのはぐれ悪魔が参加してるとか」
「……アザゼル、其の中にイーツもいるのかしら?」
リアスがその事を懸念するのも当然だろう。
はっきり言って、リアス達はイーツの脅威を特に受けている悪魔達である。その危険性も強さも身にしみて分かっている。
加えて、ムートロンを名乗る高いEEレベルの使い手は、周囲の被害を考慮して本気が出せなかったとはいえ、あのサーゼクス相手に立ち回ったのだ。
それクラスのメンバーがいれば、この戦いの趨勢が禍の団が有利に進む可能性だってある。
アザゼルもそれは分かっているのか、茶化すような態度を消して、真剣な表情を浮かべる。
「ま、安心しな。ヴァーリはどうもエボリューションエキスにゃ興味ねえようだ。禍の団の中でもはぐれ者が集まってるって感じだな」
とはいえ、それは安心できるかと言われればそうでもない。
逆に言えば、有効な兵器であるはずのエボリューションエキスをあえて使わないという選択を押し通せる者達で構成されたチームだという事だ。
これまで、歴代の二天龍はことごとく相争ってきた。今代がそうならないと考えるのは、希望的観測ですらない。
それだけの者達が事実上敵に回る。それに、リアス達は気を引き締める。
「私達も強くならないといけないという事ね」
その態度に頷きながらも、アザゼルはしかし力を抜く。
「ま、だからって学生はきっちり学び遊ぶのも仕事のうちだ。本格的なトレーニングは、夏季休暇に入ってからだな」
そういいながら、アザゼルはなんか空中をもみ始める。
「勿論遊びもしっかりするぜ。そう、堕天使の美女を集めて俺もはっちゃけて―」
「だ、堕天使の美女!?」
その言葉に、
そして、
「なんだ、お前さんそういうのが好みか?」
「あ、ああ。俺はハーレム王になるのが夢で頑張ってるんだ」
その言葉に、アザゼルは満足げにうんうん頷くと、イッセーの肩を抱く。
「そういうことなら任せとけ! 俺はこれでも過去に何度もハーレムを作ったからな」
そして、イッセーがアザゼルの言葉に肩を震わせる。
「ハーレム! 俺、ハーレムできるんですか!? 童貞卒業できるんですか!?」
「おいおいまだ童貞なのかよ。だったら夏休みまでによさそうな女を見繕ってやるよ。童貞卒業ツアーとでもしゃれ込もうぜ? 喰いまくりフェスティバルだ!」
「童貞卒業! 喰いまくりツアー!! そんな素敵な旅があったなんて!!」
「ヴァーリの奴は女に興味があんまりなかったからなぁ。鳶雄は下手に手を出すと俺が殺されそうだしな。いやぁ、俺も神滅具使いに女を教えるなんていい機会に恵まれたぜ」
「先生! おっぱいが揉みたいです!!」
「ああ、思う存分もんで吸って、挟んでもらえ」
いつの間にか、内容にさえ目をつむれば感動の後継みたいなムードになってきている。
だがしかし、その瞬間イッセーに強大な怒気が迫る。
「イッセー?」
消滅の魔力を微妙に漏らしながら、リアスがイッセーの耳を引っ張り始めた。
上級悪魔のポテンシャルで引っ張られると、ただの人間なら引きちぎられてもおかしくないだろう。当然イッセーは激痛に悶えるわけだ。
「いだだだだ!?」
「人の貞操に口出ししておいて、自分の貞操は勝手に捨てるなんてどういうこと!? アザゼルも、私のイッセーの貞操を勝手に捨てさせようとしないで頂戴!!」
その光景に微妙に微笑ましい感情をいだき、井草は苦笑しながらアザゼルに目を向ける。
「総督、これ、どうするんですか?」
「アザゼル先生って言えよ。ま、こりゃ俺の出番はなさそうかねぇ」
どっちの出番なのか、それは見るまでもない。
「白は力、赤は女。神がいなくても世界は回るって事か」
そう、神がいなくとも世界は回る。
ならば、自分達にとって良い方向に回すべく方向を変える努力をするべきだろう。
そして、井草にとって都合がいい回り方は決まっている。
自分という屑を燃料に、イッセーやリアス達立派な者達を良い方向に連れていく回し方だ。
其の為ならば、この命を使い潰してもかまわない。むしろ、使い潰してしまいたい。
その決意を胸に秘め、井草は静かに決意を新たにした。
「あ、そうだ井草」
「なんです、先生」
「ピスは別動隊として活動する事になったから、お前、近いうちに引っ越しだぞ」
唐突の展開に、井草の反応が遅れたのは仕方がない事である。
とりあえず、これでヴァンパイア編は終了です。
次からはヘルキャット編。ここで井草の過去が明かされ、ストーリーはどんどんオリジナル要素を強めていきます。
特訓あり、強敵あり、因縁あり、NTRあり!! ………最後はちょっぴりです。すでに終わった後だしね♪