混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E   作:グレン×グレン

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7話

 

 そんなことが起きているとは露知らず、井草はいったんグレモリー城へと戻ってきていた。

 

 監視役の任務は和平設立で解かれているが、アザゼルのサポート役件お目付け役として任務を新たにつけられている。

 

 冷静に考えるとおかしな話だ。

 

 自分は屑だ。自分は塵だ。井草・ダウンフォールは、最低の人種であると井草自身が断じている。

 

 そんな屑が引き受けるべきは汚れ仕事か、死ぬかもしれないリスクはあるが、しかし重要人物や戦力を送るべきでないところだろう。

 

 イーツであり、かつイレギュラーなケースである自分は検体としても魅力的だ。少なくとも定期的な検診は受けている。其のまま人体実験を受け続けるべきだとも思う。

 

 なのに、オカルト研究部の一員として活動することに疑問を抱いていない。

 

「何やってるんだろうね、俺は」

 

 そう自虐してしまう。

 

 どうにも、いつの間にか、井草はオカルト研究部の一員として、イッセーの友達でいることが気に入ってしまったらしい。

 

 そんな事を望む価値など、自分にはない。それだけは断言できるのに―

 

 そう思ったその時だった。

 

「おんやぁ? 誰かと思えば井草さんじゃねーですかい」

 

 其の声に視線を向ければ、そこにはリム・プルガトリオがいた。

 

「なんでここに?」

 

「いやいや、今度ですね? 天界・教会側のスタッフが何人か派遣されることになりやして。教会側のスタッフは「共闘経験があるから」ってことで私とニングに決まっちまったんですわ」

 

 なるほど。

 

 確かに、三大勢力和平の地である駒王町は重要だ。立地的な意味でも機能的な意味でもない。象徴的な意味でだ。

 

 そして人員も豊富だ。魔王末裔2人が眷属と共に管理をしている。堕天使総督が、イーツ関係で極めて希少価値のあるサンプルをサポート役として住んでいる。ある意味これだけでも重要地点だ。

 

 その地に和平を結んだ三大勢力の一角である天界・教会陣営がスタッフを派遣していない。これは確かに問題視されるかもしれない。

 

 アザゼル辺りは気にしないかもしれないが、ミカエル辺りは気にする案件である。

 

「いやぁ、俺みたいなダブル通り越したトリプりと同じ学校で会話するのはあれかもしれないけど」

 

「そりゃお構いなく。私も二十歳いってまさぁ」

 

 マジか。

 

 ぶっちゃけて言うと、リムはどちらかというまでもなく未発達な体つきである。ニングもだが。

 

 それでも暗部のアンナピーキーな任務に派遣されるのだから十五は越えていると思っていたが、まさか二十歳だとは。

 

「クッ! 実際の年齢を考慮したジョークもいえないだなんて! 俺はやっぱり屑だ!」

 

「お兄さん、そんな生き方しててつらくなりゃしませんかい?」

 

 心底心配されてしまった。

 

 まあ仕方がない。

 

 自分が高評価されるのは心底心外で心が苦しむ。しかし自分のせいで相手に不快な感情をあたえたりするのはなおさら駄目だとも思う。ここは落ち着こう。

 

「まあいいや。とはいえ、俺もこの城の案内ができるほど慣れてないんから、中の紹介とかは勘弁してね」

 

「いいでさぁいいでさぁ。ニングとは別行動でちょっと見学してただけでさぁ……というかはぐれて迷ってんでさぁ」

 

 ちょっと顔を赤くして顔をそらすリムに、井草は苦笑した。

 

 外見相応に無邪気なところもあるらしい。しかし、変に自分を言いつくろわないところは好感が持てる。

 

「なら、とりあえず大広間までは案内できるから行こうか」

 

 そういうことなら仕方がない。幸い、井草もそれぐらいには内部の知識はある。

 

 そういうことで、世間話をしながら井草たちは城内を歩く。

 

 そうしていると、トレーニングルームに通りがかった。

 

「あ、ここは城内のトレーニングルームの一室だね」

 

 詳しくは知らないが、おそらく衛兵の訓練などに使うのだろう。

 

 リムもトレーニングは欠かさない性分なのか、興味深げにしている。

 

 それを見て、井草も少し体を動かしたくなってきた。

 

 ここ数週間はトレーニング付けだったからだろう。定期的にきつめのトレーニングをしないと落ち着かなくなってきている。

 

「ちょっと、体をあっためるかい?」

 

「お、いいですなぁ。なんならベッドの上で裸であっため合ってもいいですぜ?」

 

「そういうのは良いから」

 

 暗部組織とは言え、教会の一員がそれはどうだろうか。ジョークにしても品がない。

 

 ゆえにサラリと流しながら、井草はトレーニングルームの扉を開け―

 

「……ぅ……」

 

 そこで、倒れいている小猫の姿を見た。

 

「小猫ちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの過労らしいわ。ハードトレーニングで疲れがたまっていたみたいね」

 

 そういいながら、リアスはため息をつきながら近くの椅子にすらりこんだ。

 

「……主失格だわ。小猫がこうなる可能性は、アザゼルの指示を聞いた時点で思い至るべきだったのに」

 

 その言葉は、心底この状態を公開していることの証明だった。

 

 だが、井草はそれに首を振る。

 

「違うよ、リアスちゃん」

 

 そういい、井草はリアスの手を取り、目線を合わせる。

 

「リアスちゃんは頑張ってる。むしろこれは、カウンセラーの類を紹介しない上役たちにも責任はあるさ」

 

 ……塔城小猫。その本来の名前は、白音という。

 

 もともとは猫又の中で極めて気象かつ強力な種族の出身だったが、何らかの事故で両親を失ったらしい。

 

 その後、上級悪魔に姉がスカウトを受け、何とか生活できる環境にまで持ち直すことに成功する。

 

 姉猫である黒歌は優秀な僧侶で、駒を二個消費するほどのポテンシャルを秘めていた。

 

 実際、その能力は最上級悪魔クラス。魔力の運用はもちろん、呪術や妖術に長けている。それどころか、専任の類でなければ使用できない仙術も習得し始めていた。

 

 だが、それがよくなかったのだろう。

 

 仙術とは、生命や大地に流れる気を利用する術式である。

 

 その特性上探知などにおいて優れた能力を発揮し、生命力に干渉する都合上、治療などにも効果を発揮する。

 

 生命力に直接関係する以上、単純な防御力ではダメージを防ぎきれないところもあり、なかなかに強力な能力でもある。

 

 だが、同時にデメリットも非常に大きい。

 

 特に、人のや世界に漂う邪気や悪意まで取り込みかねないのが危険だ。これにより性格が歪み、力の呑まれるものも数多い。

 

 黒歌はまさにそのたぐいであり、主を殺して逃亡してしまったのだ。

 

 しかも追っても撃退した実力は本物。今ではSSランクのはぐれ悪魔であり、はぐれ悪魔界の星ともいえるだろう。悪い意味でトップクラスである。

 

 小猫も危険視され、サーゼクスがかばわなければ処分されている可能性があった。そのせいで一時期かなりふさぎ込んでいたらしい。

 

「身内に屑がいると、家族は苦労するね。俺も、義姉さんが馬鹿にされないか心配だよ」

 

「貴方は何の問題もないでしょうに」

 

 なぜかそんな評価がされた。解せぬ。

 

「それはともかく、今回はリアスちゃんだけの責任じゃないよ。遠慮なくトラウマに踏み込んだアザゼルや、そもそもカウンセラーをあてがっていない上役にも責任はある」

 

 井草はそういうが、リアスは力ない。

 

「お兄さまはともかく、上役はそんなこと気にしないわよ。使えないなら捨てればいいのにとでも思ってるんじゃないかしらね」

 

 その言葉に、井草は頭が痛くなる。

 

 まったくもって悪魔の上役は度し難い。そんな者たちに囲まれているサーゼクスたちがかわいそうでならないとすら思う。

 

 三大勢力の和平で少しは変わるだろうが、しかし結果的にアザゼルも苦労しそうだ。

 

「いま、イッセーがお見舞いに行っているけど、それで小猫も少しは気が晴れるといいんだけれど」

 

「だよね」

 

 二人してため息をついてしまう。

 

 流石に、これはいろいろと大変だ。

 

 小猫からすればトラウマの根源。其れに手を出さなければならないなどと、納得できるものではないだろう。

 

 だからといってハードトレーニングをするのもあれだ。ハードトレーニングは体に悪い。トレーニングは出せる限界というものが存在するからだ。

 

 限界を超えて進化する手合いなどごくわずかの例外だけだ。普通は、限界を超えた者は自壊するほかない。

 

「……いっそのこと、俺から人工神器のテスターに紹介でもしようか?」

 

 これは親切心だ。

 

 アザゼルには悪いが、明確なデメリットがある力を無理に使用させるのも心苦しい。人工神器にもデメリットはあるが、当人が了承するデメリットと了承できないデメリット。それなら前者の方がまだ何か起きても当人が納得できるだろう。

 

 だが、リアスは静かに首を横に振った。

 

「いえ、もう少し様子を見させてくれないかしら?」

 

 その目には、少しだけ期待の光があった。

 

 その理由に、井草も心当たりがある。

 

「……イッセーくんかい?」

 

 その言葉に、リアスは小さくうなづいた。

 

「祐斗は、イッセーが尽力したからこそ復讐心を乗り越えられたところがあるわ。朱乃もイッセーに寄り添って少しは堕天使の血に前向きになれた」

 

「同じことが、小猫ちゃんにもあり得るかもしれないと?」

 

「主としては情けない話だけれどね」

 

 そう力なさげに笑うリアスだが、井草は静かに首を横に振った。

 

「それは違うよ」

 

 そう、それは違う。

 

「リアスちゃんは色々訳ありの子たちを救って、しっかりと癒してきた。だからこそ、皆リアスちゃんのことが大好きなんじゃないか」

 

 そう、それは確かにそうだ。

 

 確かに皆、リアスのもとで問題を克服することはできなかったのかもしれない。

 

 だが、彼女達が抱えている問題は、本来なら長い年月を掛けて癒していくしかないものだ。まだ子供であるリアスがどうにかできないからといって、仕方のないことである。

 

 少なくとも、朱乃たちはリアスのもとで本心から笑えるようになっている。それだけでも充分癒されている証拠だ。充分褒められるべきだろう。

 

 そして、癒された彼らをイッセーが起爆剤となって成長させている。

 

 それは確かにすごいことだが、精神が歪んだままではダメな方向に行っていたかもしれないのだ。

 

 リアスが癒し、イッセーが伸ばす。

 

 リアスが救い、イッセーが導く。

 

 ある意味、しっかりと役割分担ができていることだ。

 

「ある意味、ぴったりだね、お二人さんは」

 

「ちょ、ちょっと! そういうのはやめて頂戴!!」

 

 リアスが顔を赤くして何か言ってくるが、井草はスルーする。

 

 あれだけアピールしておいて、今更な話だ。

 

 リアスも聞いちゃいないと気づいてぶぜんとするが、やがて表情を変える。

 

 それは、いたわるような慈愛の視線だった。

 

「……あなたも、少しは導かれるのかしら?」

 

 その言葉に―

 

「……まさか」

 

 ―井草はそういった。

 

「俺は自分が進むべき道をわかっている。だから、変わることは何もないよ」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 


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