混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E 作:グレン×グレン
この時期、冥界ではパーティが開かれる。
名目上は、会合で紹介された若手悪魔を祝福するパーティだと聞いた。
だが、実態はそれを種に騒ぎたい大人の集まりらしい。おそらく既に大人達は酒を飲んでわいわい騒いでいるともリアスは言っていた。
とは言えだ。
如何に井草が罪悪感で自分を卑下していようと、日々の楽しみを全て投げ捨てれるような性分でもない。
日常的にイッセー達と遊びに行く事はあるし、テレビを見るぐらいの娯楽ぐらいしている。
適度にストレスを発散しなければすぐに倒れてしまう。死ぬにしてもできる限り役に立って死ぬべきなのだから、無駄死にはできない。ピスも悲しんでしまう。
それに、こういうパーティなら美酒の一つは出てくるだろう。食事も高級品が出てくる事は想定できる。
なにせ、元七十二柱を含めた冥界の貴族達が参加するパーティなのだ。それ相応のものでなければ、準備をした者の首が飛ぶ。こと今回は和平によって堕天使や天使も出てくるのだ。
とどめに、北欧の主神が参加するという話もある。なんでも真っ先に和平に賛同したとか。
と、いうわけで、井草としても興味はある。
そういう興味を捨てきれないから自分は屑なのだとも思うが、もうこの自己嫌悪は一生付き合っていかねばならないだろう。
英気を養わなければ無有に対抗する琴もできはしない。是もメンテナンスの一環だと思い、井草は駒王学園の制服に身を包む。
こういう時に制服がある学園に通っているのは便利だ。冠婚葬祭において礼服をどうするか考える必要がない。手っ取り早く済ませられるという意味では、これほど便利な琴もないだろう。
もっとも、女性陣はドレスを着て参加するとの琴だが。
「で? 最上級悪魔の元龍王タンニーンさんが背中に乗せてくれるって?」
「ああ! 眷属を連れて部長達も連れて行ってくれるって言ってくれたんです!」
なんだかんだでイッセーは好漢である。スケベを気にしない相手だったり、スケベが介在しない環境なら人を引き付ける魅力が優先されるだろう。それは異形にも効果があったということだ。
実際、覗きを抑制させる琴に成功してからはかなり早めに人気を得てきている。スケベが過ぎるから彼氏にしたくはないが、ある程度距離を置いての男友達としてなら需要は高かった。是もその一環だろう。
「ギャスパーくんはドレスを着るんだろうけど、祐斗君は遅いね」
「そうですね。アイツ、どこ行ったんだ?」
「ん? 木場のやつはいないのか?」
会話に入ってきた声に反応すると、そこにはシトリー眷属の匙元士郎がいた。
こちらも制服を着ている。やはり男性陣は制服を礼服代わりにするという事で向こうも意見が一致したらしい。
とは言え、オカルト研究部と違って生徒会の男は匙只一人。そういう意味ではある意味恵まれた環境でもある。
それに思い至り、井草はイッセーには指摘しないように決意する。
知ればイッセーと匙で確執が発生しかねない。よくは知らないがエクスカリバーを巡る争いで仲良くなったらしいので、諍いを生むのは気が引ける。明日のレーティングゲームにも差し障るだろう。
そんな琴を考えていると、匙は静かに決意を秘めた表情を浮かべた。
「兵藤。俺達はお前達に勝つぜ」
「いや、俺達だって―」
「まあ待てよ」
イッセーが言い返そうとするが、匙はそれを手を出して制す。
そして、静かに拳を握り締めた。
「俺は、会長が建てた学校で教師になるのが夢なんだ」
そして、こことは別の場所に思いをはせ、静かに苛立ちを浮かべる。
「だけど、その為には乗り越えなきゃいけない壁がいくつもある」
……その辺りについては、井草も聞いている。
ソーナが己の夢を語ったとき、上役である旧家の貴族達の大半はそれを嘲笑ったそうだ。
さらに、思わず反論した匙は近くにいたグラシャラボラスの次期当主代理に殺されかけた。
しかも、その次期当主代理はその場で堂々とサーゼクス達を非難。挙句の果てに上役達はそれを面白がり評価すらしている。その果てがこのレーティングゲームだ。
悪魔側の抱えるいくつもの問題点が噴出した事態といえるだろう。
「レーティングゲームは、悪魔なら平等に参加できるって魔王様が決めた事なのに、上役の横やりで上級悪魔になるか彼らに選ばれなければゲームに参加できないのが実情だ。会長は、それをどうにかしたいと思ってる」
それは、今の冥界では難しい事だ。
「それだけじゃない。冥界の教育事情は日本とは比べ物にならないぐらい低い。下級中級だと学校に通えない子供だって多くいるって話だ」
それは、今の冥界では克服は大変な事だろう。
「会長はそういった子達も通える、それこそ階級に関係ないレーティングゲームの学校を作るのが夢なんだ。俺は、その夢が立派だって思う」
それは、きっとつらく苦しく、叶わないかもしれない夢だ。
「俺の親父もお袋も教育関係の仕事しててよ。其れもあってか、俺、本気で教師になりたいんだ」
それでも、彼らは諦めていない。
「だから、俺は負けないぜ、兵藤」
それを、目を見るだけで理解できる。
「俺だって負けねえよ。ハーレム王になる為にも、二連続でレーティングゲームに負けるわけにはいかねえからな」
そして、イッセーもまた夢の為に戦う決意を決めていた。
「いや、俺が勝つからな」
「いやいや、俺が勝つから」
「はいはい。こんなところで張り合わない」
そう苦笑しながらなだめて、井草は気を逸らそうと話を変えることにする。
「あ、それとイッセー君。童貞卒業の話はちょっとリアスちゃんに殺されたくないから無しという事で」
「え、そんな!?」
前の話の流れで想定してくれと本気で思ってしまった。
何故、あの流れでそんな事ができると思ったのか。井草だって無駄死にはしたくないのだ。
しかし、その話を聞いていた匙は、静かにテンションが沈んでいった。
下がったのではない。落ち着いたのでもない。沈んだのだ。
「……兵藤、井草さん。俺、主のおっぱい揉みたいです」
寝言が聞こえた気もするが、井草は我慢した。
なにせ、隣の少年は実際に揉んでいる。その状況下で無理だと言っても誰も信じないだろう。
というより、揉めている少年は心から哀悼の意を示している。本心から、揉めてない匙を憐れんでいる。
兵藤一誠。彼は自分が凄まじい事を言っている自覚はあるのだろうか?
「俺のもう一つの夢、会長とできちゃった結婚は何時になったらできるのか。まだ足元にも及んでないぜ……」
「その夢はダメだと思うよ?」
井草はついツッコミを入れた。
そしてイッセーは、うんうんと頷いて肩に手を置いた。
「分かる。俺も運がよくないと揉めないからな」
その瞬間、匙がイッセーの胸倉を掴んだのは悪行ではないと井草は思う。
というより、それは止めである。
「運がいいってレベルじゃねえだろ!? なんでそんな頻繁に主様の胸を揉めてんだよお前は!!」
「いや、頻繁じゃねえよ? いつもはお風呂入ったり一緒に寝たりする程度で―」
「イッセー! ある意味もっと凄い事言わない!!」
井草がつい声を荒げるが、もう遅い。
匙は、絶望の表情を浮かべるとその場にへたり込んだ。
……翌日のレーティングゲームは大丈夫だろうか? 心神喪失状態でドクターストップなどというオチは流石に哀れ過ぎる。
「さ、匙くん?」
「風呂? 寝る? そんな、そんなことしてんのかよ。羨ましすぎる……」
井草の声にも反応せず、匙はぶつぶつと呟き続ける。
血涙を流しかねないほどに落ち込むその姿は、いっそ介錯でもしてやるべきかとすら思う。
そして元凶であるイッセーは、なんでそんな事になってるのかよく分かっていない表情だ。
主と同じベッドで就寝したりする事があり得る事に疑問符を浮かべないのだろうか? それ以前に、異性愛者の異性が一緒に風呂に入るという事がまずおかしい事に気づくべきである。
「イッセー。わざとやってるなら縁を切るよ?」
「え? え?」
どうやら自慢でもないらしい。本気で疑問符を浮かべている。
「いや、確かに俺は部長に可愛がってもらってるけど……、え?」
目の前の男を見て、井草は信じられないものを見た気になった。
兵藤一誠。ハーレム王を目指す少年。
しかし彼は、悲しいほどに鈍感であった。
ドラゴンには、いくつかの位階とでもいうべき称号がある。
龍種どころか、神を含めたこの世界のあらゆる存在の中でも次元違いの別格と称される存在、龍神。
その下の位階。神滅具の核ともなった存在。主神クラスの力を秘めた一対の龍、二天龍。
そして、その下につく魔王クラスの戦闘能力を持つとされる存在、五大龍王。
それとは別に、邪龍と呼ばれる龍王クラスに匹敵する化け物が複数存在していたが、こちらはほぼ滅ぼされている為除外する。
そして、五大龍王は本来、六大龍王だった。
その六番目の龍王だったのが、今イッセー達を乗せている存在、タンニーンだ。
『まあ、大きな争いもなくなったあの時代で強者と戦うにはレーティングゲームが手っ取り早かったのもある』
「ヴァーリとはえらい違いだよ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね」
戦争を引き起こそうとするテロ組織に寝返った裏切り者を思い出し、井草はため息をつく。
隣のイッセーも、大絶賛目を付けられているので遠い目をしていた。
その様子に苦笑しながら、しかしタンニーンは続けた。
『あとはドラゴンアップルという果物の問題があってな』
「ドラゴンアップル?」
イッセーが首を傾げるのも無理はない。
これに関しては神話や伝承にも載っていなかったはずだ。悪魔になりたてのイッセーでは知りようがないだろう。
ましてや、地球では目にする事もない植物だ。これで知っていたら、逆の意味で驚きだというものである。
「文字通り、ドラゴンの為のリンゴだよ。確か、一部のドラゴンはそれしか食べれないって聞いた事があるけど、それですか?」
『ああ。地球では環境変化で絶滅してしまってな』
それで、大体の理由は分かったようなものだ。
「冥界には自生しているけど、ドラゴンは自分勝手なのが多いから素直に分けてくれるわけがない。……だからですか?」
『ああ。上級悪魔以上になれば、魔王から直々に領土をもらえるのでな。望みどおりにドラゴンアップルが自生する土地をもらえたよ』
以下に転生悪魔に権力を与える事が不満の旧家の上役であろうとも、龍王クラスが上級悪魔に昇格する事を阻止する事はできなかった。つまりはそういう事だ。
そうなれば、旧家に色々と困らされている四大魔王も大手を振って領土を与えられるだろう。
そもそも四大魔王はお人好し揃いだと聞いている。しかもリベラル派の筆頭で有名だ。成果を上げているタンニーンを厚遇しないわけがないだろう。
詳しい事はまだ分からないイッセーも、そこまでくれば答えは分かる。
「じゃあ、オッサンのおかげでそのドラゴンは助かったのか?」
「ああ。人工的に栽培する研究もさせてもらっている。まだまだ大変だが、何時か未来に繋げて見せるさ」
その言葉に、井草もイッセーも感銘を受けてきた。
こと井草は、ヴァーリという悪い例を知っている為感動しそうになる。
淘汰されそうになった種族の為に、誇りを捨ててまで未来をつなげた存在。それが元龍王タンニーンなのだ。
本気でヴァーリに爪の垢を飲ませたくなった。今から強引に叩き込む為にもらっておくべきだろうかとすら考える。
「―いいドラゴンなんだな、オッサンは」
イッセーもそういうが、タンニーンは虚を突かれたかのような表情を浮かべると笑いだした。
「ハハハハハ! そのように言われたのは初めてだ。しかも赤龍帝から言われるとは思わなかったぞ」
しかし、タンニーンはそこでいったん切ると首を振る。
『しかし、同族を守りたいと思う奴がいるのは人間だろうと悪魔だろうといるだろう? たまたまドラゴンでそう思ったのが俺だったにすぎんさ』
謙遜なのか、それとも本気で言っているのか。
どちらにしても、今自分達を運んでいるドラゴンは、王という称号を得るに相応しい存在である事は言うまでもない。
なんというか、井草は何というか申し訳ない気になってきた。
「いや、すごいってオッサン。俺はとにかく上級悪魔を目指してハーレム作りたいってだけだしさ」
イッセーが微妙に自虐に入り始めるが、タンニーンはそれを否定するかのように首を振った。
「若いうちはそれでいい。雄ならば、雌や富を求めるのはごく当たり前の感情だ。ましてや龍ならそれぐらいでなければならん」
しかし、タンニーンはそこで切る。
そして、子を見守る親のような目でイッセー達を見る。
「―だが、それを最終目標にするのはもったいないぞ。強くなれば女が寄ってくるの当然。そこから先が大事なのだ」
その言葉は、イッセーの心にどこか届く。
そして、井草にもタンニーンは言葉を繋げる。
「お前もだ、井草・ダウンフォール」
「え、俺ですか?」
まさか自分に振られるとは思わず、井草はきょとんとする。
そして、タンニーンはそれこそ不出来な子を見る親のような目を井草に向けた。
『過去を悔やむのは良い。だが、そのまま沈み続けることを望む親はいないだろう。若い者が失態をするのは当然。問題はそこからだ』
「そこから……ですか?」
井草は呟き、そしてタンニーンは頷く。
『お前は自分が罪深い事をしたと思っている。だが、人間にしろ悪魔にしろ堕天使にしろ、罪に見合った裁きを受けた者の再起を赦すのが今の世だ。俺とて、ドラゴンとして冥界に嫌われるだけの事をしてきたが、それ以上の成果を上げた事でこうして領地まで持てている。それをお前は否定するのか?』
その言葉に、井草は返答できない。
確かに、タンニーンが今最上級悪魔になっている事を否定する事はできないし、してはいけないだろう。
なら、逆説的に井草は、自分がやり直す事を認めるしかできない。
だけど、それでも、それに頷きたくはない。
そうして無言になっていると、タンニーンはいつくしむような目を向ける。
「今は考えるだけでいい。だが覚えておけ。アザゼルもお前の義姉も、そして隣の兵藤一誠達も、お前が犯した失態を知っていたり知る事になるだろうが、今のお前のなしてきた事を全否定するようなものではない」
「あなた、どこまで知って―」
井草は思わず問いただそうとするが、それより先にタンニーンはさらに続ける。
「俺は詳しい事は知らん。だが、アザゼルはあれで締めるべきところはきちんとする男だ。……その奴がお前が其のままでいる事を望まないという意味、よく考えろ」
「………っ」
その言葉に反論はできない。
分かってはいるのだ。
アザゼルという男は、どうしようもないがろくでなしではない。井草という男に気を掛けているのは、井草が前を向いてほしいと願っているからだけではない。前を向く資格があると判断したからだ。
神の子を見張る者の幹部達もそうだった。少なくとも、自分と親しい者は皆そうだった。
自分のしたことは相当のものだが、しかし自分だけの責任でない事も分かっている。
少なくとも同じぐらい罪深いものが二人いる。そのうちの一人である無有が平然としているのに、井草だけ罪に苛んでいるのも馬鹿らしいかもしれない。
……だが、と反論しようとしたその時、タンニーンは先手を打って続ける。
「今は考えるだけでいい。幸いお前は堕天使の血を引いている。永い寿命があるのだから、少しぐらいくすぶる期間が長くてもいい。だがな?」
そして、タンニーンは前を向きながら告げる。
「お前が過剰に自分を卑下する事は、お前を好いている全ての者をまとめて侮辱する事だ。其れだけは忘れるな」
その言葉は、井草の心に響く。
井草とタンニーンは初対面に近い。つい数週間前にイッセーのコーチとして紹介されたのが初対面だ。
だからだろう。ニングのように、リムのように、井草の心に比較的素直に届いてしまう。
……少しだけ、考え直さなくてはいけないのかもしれない。
そう思おう程度には、井草の心に素直に届いてはいるのだった。
できれば井草の過去話は、その次にもう一話投稿したいところ。
いや、井草の過去の失態は、それを知った時点で読者が減りそうなぐらいですからね。プロローグでいきなりやっていたら、絶対に人が集まらなかったことだけは断言できます。
その辺のクッションにして、それを心から悔いていることを先に知らしめるのがこれまでの話でもあるのですが、逆にそれが原因で人が寄り付かなかったのも現状。はなしをつくるのは難しいものです。