混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E   作:グレン×グレン

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ヘルキャット編も、これをふくめて後二話になりました。

戦闘そのものは終了して、ある意味でエピローグとなっております。


16話

 

「まったく。何をやっているのですか、悪魔は」

 

 悪魔側の警備担当に対してのシェムハザの小言。

 

 それをBGMにしながら、アザゼルは鋭い目つきで破壊された壁と、その先にある風景を睨んでいた。

 

 禍の団でも最強クラスの総合力を発揮する三派閥。

 

 旧魔王派。

 

 英雄派。

 

 そして、ムートロン先遣艦隊。

 

 それぞれの派閥の長による降伏勧告。そして断られる事を前提としたがゆえに行った、示威活動としてのイーツの大量投入。

 

 結果的に貴族に死亡者こそ出ていないが、被害は甚大だ。

 

 フェニックスの涙は大盤振る舞いだった。アーシアも広範囲回復オーラも大活躍。この二つの要素が無ければ、相当の死者が出てくる事になるだろう。

 

 だが、それだけで済むとも思えなかった。

 

 EEレベル4といわれたそのイーツは、特殊な処置が行われていたのが、撃破したイーツはエボリューションエキスごと吹き飛んでいた。

 

 残骸をいくつか回収する事には成功したが、これだけでエボリューションエキスの量産に成功するかと言われれば、それもまた難しい。

 

 何より、ムートロンの規模が凶悪という他ない。

 

 魔王サーゼクスと互角に渡り合った、ナイファーザーがEEレベル6,5。

 

 その6,5が本艦隊の者達と合計すれば少なくとも千人以上。それも、更に各上だろう者達も含めてだ。

 

 はっきり言って、現状では絶望的だ。三大勢力だけでどうにかできる戦力ではない。

 

 対抗するには、こちらも相応の戦力を用意する必要があるだろう。和平を迅速に進めて各神話体系と連携を取らなければならないだろう。

 

 それをもってしても、このままでは高確率で負ける事になるだろう。こちらも本気を出して対策を立てなければならない。

 

 ……人工神器技術の発展は絶対条件だ。安定した人工禁手の方法を編み出す事ができれば、それだけで戦力は大幅に強化する事ができる。

 

 だが、そこに回さなければならない頭の回転は、上手く回っていなかった。

 

「井草……っ」

 

 井草・ダウンフォールは昏睡状態で治療室に運び込まれている。

 

 全身の負傷はアーシアが治療したが、しかし体力の消耗までは治せないのだ。全身が傷だらけなうえ、精神的な疲弊まであった以上、その疲れが回復するまでは起きることはないだろう。

 

 それほどまでに、彼は深いダメージを負っていた。

 

 無有影雄ことナイアル。生身の姿で上級悪魔クラスを粉砕するその戦闘能力も脅威。そして、それ以上に連れてきた者達が最悪だ。

 

 行仁伊予と、枢五十鈴。井草・ダウンフォールの幼馴染。ナイアルに惑わされ、井草が傷つけ、そしてそのまま神の子を見張る者が動いても見つけられない場所に引きずり込まれた、神器も持っていなかったただの少女達。

 

 その二人を、ナイアルは高位イーツにして井草に差し向けてきた。

 

 否、おそらくイーツそのものには既になっていたのだろう。

 

 EEレベルが高かったからか。其れとも井草が堕天使である事に気づいて、自分達神の子を見張る者対策に用意していたのか。それ以外の理由もあり得るだろう。

 

 とにかく問題は、2人は理由はどうあれ自分の意思で禍の団に属し、あの龍王タンニーンですら手こずるレベルの戦闘能力を発揮しているという事だ。

 

 そして、2人は精神を変質させている。

 

 自覚的に悪を名乗り、井草の神経を逆なでするかのような言葉を吐く五十鈴。悪意こそ見せていないが、それゆえに恐怖心すら感じさせる発言を繰り返す伊予。

 

 理由はなんとなく分かる。なんだかんだで訓練を積んできた動きだったそうだ。それに、初の実戦が三大勢力の重鎮が軒並み揃っているこの会場という事もないだろう。

 

 断言してもいい。あの二人は、ナイアルの下に行ってから殺し合いの経験をしているはずだ。

 

 それに伊予の発言からすると、出資者などに枕をしている可能性もある。

 

 それだけあれば、人間の精神を歪めるのには十分だ。成れの果てとでも形容できるようになるのも、時間をかければ簡単だろう。

 

 そんな、見るも無残な存在になり果てた二人によって、井草は心身ともに痛めつけられたのだ。

 

 ……自分が直接会う覚悟を決めた時。井草がナイアルに叩きのめされ、ピスが施設に匿った時。

 

 今でも忘れない。あの時の井草は、死んだ魚の方がマシなぐらい、目が死んでいた。

 

 あれを、また見る事になるのかもしれない。

 

 そう思い至ったその時に、アザゼルは歯を食いしばって拳を握る。

 

「ただじゃ済まさねえぞ、ナイアル……っ」

 

 堕天使総督は決意した。

 

 いかな理由があろうと、ナイアルをそのままにしてのムートロンとの講和はあり得ない。

 

 自分でなくてもいい。しかし、ナイアルにはその因果に見合った応報を味合わせる。

 

 その決意を込めて、アザゼルは今後の行動を思案し始め―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アザゼル。そういえばあなただけホテップとやらと話していなかったそうですが、どこで何を?」

 

「言うな。カジノで遊んでる間に井草がボコられて俺も落ち込んでる。当分カジノはしねえ」

 

「………カジノぉ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―シェムハザに余計な事を言ってしまい、正座で説教をされる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 井草は、病室で目を覚ました。

 

 しかし、すぐに起き上がるような事はしなかった。

 

 ただぼんやりとした表情を浮かべ、そしてそうなるまでの記憶を思い返す。

 

 その可能性は確かにあった。

 

 ある意味で、それは救いだったのかもしれない。

 

 大量の薬物を打ち込まれ、精神が完全に崩壊している可能性があった。そしてそのまま処分されている可能性もあった。人間の姿をしていない可能性すら考慮していた。

 

 だが、しかし、あれは成れの果てだ。

 

 ことあるごとに悪である事を自慢げに語り、挑発を仕掛けてくる五十鈴。

 

 一見すると変わっているようには見えないが、しかし何処か精神の在り方が狂っている、伊予。

 

 自分も変わり果てているのは分かっていたが、しかし、これはあまりにむごかった。

 

 許されても、いいのかもしれないと思った。

 

 リムとニングの言葉を受けて、井草は前を向いてみようという気にもなった。

 

 たくさんの人が井草の事を好いてくれている。その好意に応えてみようという気にもなった。

 

 だが、それも全て壊れてしまいそうだ。

 

 伊予も五十鈴も、もう井草の知っていた二人ではない。

 

 ナイアルによって変えられたのか。それとも変わるしかなかったのか。それは分からない。

 

 だが、しかし分かる事は一つだけある。

 

 そんなものは四年前から分かっていた事だ。だが、その実感があまりにも足りなかった事だ。

 

 ………もう、あの頃には戻れない。

 

 その事実に井草は涙を浮かべ―

 

「―井草さん!?」

 

 通路から顔を覗かせた、イッセーの声に顔を向ける。

 

「やぁ、イッセー。心配かけたね」

 

 努めて明るく振る舞うと、イッセーはわたわたとしながら、しかし笑顔になる。

 

「無事で良かったです! えっと、ナースコールは―」

 

 そこから少しの間は騒がしかった。

 

 駆けつけた医者に体の診察をされ、其の間にイッセーはリアス達を緊急招集。

 

 オカルト研究部に生徒会。更にアザゼルにリムとニングまで来て、大きめだった病室は満員状態になる。

 

「大丈夫ですか、井草さん! なんかすっげぇボコられたって聞いたけど!」

 

「今の匙君の方がボコボコだけど?」

 

 何があったのかは分からないが、匙の顔は傷だらけであった。

 

 というより、何故かオカルト研究部員と生徒会役員は疲労困憊といったところだった。より厳密にいうならば、リアス・グレモリー眷属とソーナ・シトリー眷属だが。

 

「既に数日経っています。レーティングゲームは予定通り行われたものでして」

 

「ソーナの作戦に完全にはまってね。大半のメンバーが脱落する激戦だったわ」

 

 ソーナとリアスの言葉に、井草は驚いた。

 

 どうやらかなりの間意識を失っていたらしい。

 

 見れば、皆が井草が意識を取り戻した事に安堵すらしているようだ。

 

 ………それが、あまりにも耐えられなくて、井草はうつむいてしまう。

 

 自分は赦されない存在だ。それだけの事をしてしまった。

 

 そして、その結果大事な人の変わり果てた姿すら目にする事になった。

 

 自分には、皆に無事を喜んでもらえる資格なんてない。

 

 そう、口にしようとしたその時だった。

 

「……井草さん」

 

 静かに、ニングが井草の手を包んでいた。

 

 その暖かに、井草は沈んでいた気持ちが少しだけ浮かぶのを感じる。

 

 そして、その表情は、少し心配の色があるものの、人を安心させてくれる微笑だった。

 

「井草さん。事情を、話してみるべきなのです」

 

「え、いや、でも―」

 

 あの事情を話して、いいのだろうか。

 

 嫌われるのは仕方がない。だが、あの内容はあまりに毒だ。

 

 其れゆえに躊躇する井草に、ニングは優しく包み込んでいた手を放す。

 

 そして、身を乗り出すと井草自身を抱き寄せて包み込んだ。

 

 柔らかい体で井草を包み込みながら、ニングは井草の頭をなでる。

 

 ……その光景にリムを除いた皆が唖然とする中、ニングは井草をあやすように慰める。

 

「大丈夫なのです」

 

 なにが、大丈夫なのか。

 

「皆さん、誰もが優しく立派な人なのです」

 

 そんなこと、知っている。

 

「井草さんがずっと頑張ってきた事も、ちゃんと知ってるのです」

 

 ………

 

 思考ですら沈黙する井草に、ニングは抱きしめる身体から力を抜いて、顔を見る。

 

 そして、満面の笑みを浮かべた。

 

「きっと、井草さんを受け入れてくれる人はいるのです」

 

 その言葉に、井草はふと気づいた。

 

 井草の心に恐怖があった。

 

 それは、嫌われる事に対する恐怖だ。

 

 嫌われて当然。嫌われるべき。嫌われなければならない。

 

 それはいつも井草が心のどこかで思ってきた事だ。

 

 だが、今に限っていえば真逆の感情を抱いていた。

 

 それほどまでに、井草にとって駒王学園とは居場所だったのか。

 

 それに気づいて呆ける井草の手を、ニングは優しく掴む。

 

「もし駄目でも、許した私とリムがいるのです。……だから」

 

 微笑と共に、ニングは井草を導く言葉を紡ぐ。

 

「……勇気を、頑張って出すのです」

 

 その言葉が、まさに勇気そのものだった。

 

「………皆に、聞いてもらいたい事がある」

 

 震える声で、井草はそれを開示する。

 

 きっと、ここから先に進むにはこれが必要だ。

 

 嫌われるかもしれない。それだけの事をしてしまった。そしてそれが怖い。

 

 だけど、許してくれた人がいる。

 

 まだよく知らないが、しかし自分を赦してくれた人がいる。

 

 まだよく知らないからこそ、許される事を自然を受け入れさせてくれた人がいる。

 

 だから、次を言おうとして、しかしやはり嫌われるのが怖くて言い出しづらくて―

 

「落ち着きやがりなさいな」

 

 空いたもう片方の手を、リムが包んでくれた

 

 視線を向けると、不敵な笑みを浮かべるリムの姿が映る。

 

「既に知ってる私らが保証しやす。大丈夫でさぁ」

 

 ―その言葉に、勇気が上乗せされた。

 

 よく知らないのに、悪い事だけを知っているのに、2人は赦してくれた。

 

 彼女達の事をよく知らないからこそ、井草は前に進もうという意識を持てた。

 

 だから、2人がいてくれるのなら―

 

「俺が犯した罪。伊予と五十鈴を間接的にとは言えああした、俺の犯してしまった事を、話させてくれ。」

 




ついに、過去の罪をイッセーたちに話すことにした井草。

井草の卑下の根幹である過去の罪。それを聞いたイッセーたちは、どうするのか……。

ヘルキャット編最終話。もうちょっとだけお待ちください。

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