混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E   作:グレン×グレン

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放課後のラグナロク、最終決戦。

雷神の力を宿した悪神。これまででも最大の強敵を打ち倒すのは、いったい誰だ!?



20話

 

 その黒い炎は、ヴリトラによるものだった。

 

 匙元士郎を、切り札の一つとして神の子を見張る者が強化するという話があった。

 

 その方法としては、おそらくヴリトラを封印した神器を使うのだろうとも思っていた。

 

 だが、あれはもはや全部突っ込んだとしか思えない。ヴリトラがほぼ復活している。

 

 とはいえ、井草にそこまで気を向ける余裕はなかった。

 

「ニング……っ」

 

 敵がヴリトラに翻弄されている隙に、井草はニングに駆け寄る。

 

 呼吸は安定している。脈は若干弱いが、戦闘中だった事を考えれば落ち着いている方だ。顔色が少し悪いのは気になるが、すぐに命に係わるほどの様子ではない。

 

 スコルとハティもこちらに敵意を向けてこない。本当にニングは支配してしまったらしい。

 

 状況は分からないが、しかしニングは大きく状況を傾けた。

 

 敵の精鋭であるアスクに大打撃を与えた。量産型ミドガルズオルムの多くを撃破した。そして、ロキの切り札である子フェンリルの内、二匹を無力化したのだ。

 

 十分すぎる程に成果を上げた。それが、他人事なのに誇らしい。

 

 その誇らしさこそが、井草の中で答えを出す。

 

「……そっか、俺、ニングの事も好きなんだ」

 

 過去の輝きの象徴である、五十鈴と伊予。

 

 未来へ進む希望を作った、リムとニング。

 

 別ベクトルであるがゆえに、等しく大事な四人の女。

 

 何て愚かな事だろう。不誠実にも程がある。

 

 ……目が覚めたら、断るべきか。

 

 そんな事を考え始め―

 

「ニング! ニングニングニングニング!?」

 

 ―血相を変えたリムがニングに駆け寄って、井草は漸く思い出した。

 

 リムは、こう言っていた。

 

 ニングの魔剣は脅威だと。強度だけなら聖魔剣と互角だと。

 

 これは、裏を返せば強度以外は聖魔剣に劣るという事だ。

 

 にも関わらず、ニングの魔剣は聖魔剣すら超えるだろう成果を挙げた。

 

 リムは、こうも言っていた。

 

 ニングは優しい子だと。ゆえに、自分を犠牲にしてしまうのだと。

 

 禁手についての話でこの言葉が出てくる。その意味は考えればすぐに分かる。

 

 ようは、ニングの禁手は、自分を犠牲にする禁手なのだ。

 

「……リム? ニングは……」

 

 寒気すら感じて井草は聞こうとするが、それより先にリムは首を横に振った。

 

「死にゃぁしないでしょう。ですが、ただじゃあ済んでねえはずでさぁ」

 

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、リムはニングの手を掴んで首を垂れる。

 

「またやっちまった……! また、ニングに禁手を使わせちまった……っ」

 

 それが後悔だというのがすぐ分かり、井草は恐怖心すら感じる。

 

 リムがニングに井草を譲ろうとするほどのもの。それだけの、強大な代償。

 

 それは、一体何なのか。

 

 その答えは、リムがすぐに話してくれた。

 

干将莫邪の如し魔剣(ソード・バース・サクリファイス)。その名の通り、干将莫邪と同じ理屈で魔剣を作る事で、桁違いの性能の魔剣を生み出す亜種禁手でさぁ……っ」

 

 干将莫邪。それは、中国にある伝説だ。

 

 妻がその身を文字通り薪にして、その炎で夫が作った剣。

 

 そんなを冠す亜種禁手。それをニングが改めて使ったという事は。

 

「……ニング!?」

 

 井草は顔を真っ青にさせて、ニングを揺さぶろうとし、リムに止められる。

 

「万が一内臓でも差し出してたら、安静にしねえとまずいでさぁ! スコルとハティ! 私がアーシアを連れてくるまで、ニングを守りやがるです!!」

 

「待つんだリム! 前にも使ったって……その時は何を!?」

 

 寒気がする。聞きたくない。

 

 だが、聞かずにはいられない。

 

 その時の代償の重さで、ニングが今回失った物の重さも理解できる。

 

 理解する事は怖いが、使わせてしまった自分がそれを知らないわけにはいかないのだ。

 

 そして、リムは顔を俯かせて、絞り出した。

 

「……プルガトリオ機関に来るまでの、記憶でさぁ……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形勢は少しずつだが傾き始めている。

 

 匙を何とか正気に戻す事に成功した事で、大半の敵は動く余裕すらなくなった。

 

 その隙をついて、リアス達が、ヴァーリチームが、ムートロンが、そして大魔王派が敵を掃討して行っている。

 

「よし、戦闘不能になったフローズヴィトニルとヴァナルガンドを回収しろ! ビルデ殿への手土産にする!!」

 

 などとラウバレルが動いているが、今はそれを止めている余裕もないので、イッセーはロキに集中する。

 

「ろきぃいいいいいい!!」

 

「舐めるなぁ!!」

 

 両手で振るわれるミョルニルレプリカを、ロキは片手持ちのムジョルニアで迎撃。そして空いた右腕に魔法を籠めて、イッセーを殴りつける。

 

 殴り飛ばされたイッセーは、勢いよく石切り場の隅にまで激突。半ばめり込んでしまう。

 

 それだけの事をロキはしてのけた。しかも、龍王化した匙が放つ黒炎を物ともしていない。

 

「トールの力を宿した我を、龍王如きがどうにかできると思うな! 貴様を殺したら次は奴を始末してくれる!!」

 

 そして、イッセーが起き上がるより早くロキが迫る。

 

「クソ! やられるかよ!!」

 

 とっさにムジョルニアをミョルニルで迎撃するが、片手で使った事がまずかった。

 

 勢いよく、弾き飛ばされた事で胸ががら空きになる。とっさに火を噴いて牽制するが、一瞬で飛びのいたロキは魔方陣を展開していた。

 

 そして、その多重砲撃がイッセーに襲い掛かり―

 

「そうはいかんぞ、悪神」

 

 割って入った影が、その全てを受け止めるなり弾き飛ばすなりしてのけた。

 

 これにはイッセーもロキも度肝を抜かれる。

 

 今この場にそれだけの事が出来る者がまだいたなど信じられない。

 

 しかし、そんなとんでもない事をしてのけた男は、聞き覚えのある声をイッセーに投げかける。

 

「無事か、兵藤一誠。加勢に来たぞ」

 

「さ、サイラオーグさん!?」

 

 その男は、若手最強とも称されたサイラオーグ・バアル。

 

 だが、その姿は趣が変わっていた。

 

 黄金に輝く、獅子の鎧。

 

 そんな莫大なオーラを放つ鎧を身に着けていたサイラオーグは、悪神ロキの魔法攻撃を完全には迎撃できなかったのにも関わらず、戦闘に全く支障がなかった。

 

 それをなす理由こそ、黄金の鎧。否―

 

獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)の亜種禁手(バランス・ブレイカー)獅子王の獣皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)だ。お前の鎧にも引けを取らんぞ?」

 

 そう言いながら、サイラオーグは立ち上がるイッセーの隣に立つ。

 

 ちょうど、ロキがムジョルニアを持っていない方の手と相対する形だ。

 

「怪力は俺が受け持つ。お前はムジョルニアに集中しろ、兵藤一誠!」

 

「……はい!!」

 

 言葉はいらない。必要な事は十分聞いた。

 

 サイラオーグもイッセーも、付き合いはろくにない。

 

 だが、分かる事がある。

 

 イッセーの愛するリアスは、サイラオーグを信頼していた。

 

 サイラオーグの親族であるリアスは、イッセーを心底愛している。

 

 肩を並べるのに、それ以上の理由はいらなかった。

 

「いくぜ、神様さんよぉ!」

 

「悪いが、貴様を冥界の敵と断定する!!」

 

「よかろう、来るがいい!」

 

 その瞬間、大規模な激戦が始まった。

 

 文字通り神速で攻撃を行うロキを相手に、イッセーとサイラオーグは真っ向から食らいつく。

 

 振るわれるムジョルニアを、渾身の力で振るわれるイッセーのミョルニルレプリカが迎撃する。

 

 トールの怪力を宿したロキの打撃を、鍛えぬかれたサイラオーグの拳が凌ぎ切る。

 

 余波だけでヴリトラの炎が弾き飛ばされるその光景は、まさしく神話の再現だった。

 

 桁違いの圧倒的攻撃が、連続で放たれる。

 

 戦闘中にも関わらず、思わず見惚れる者達までいるその光景に、しかしロキは苛立っていた。

 

 北欧を代表する神の一角である自分。北欧の戦神の代名詞であるトール。

 

 その二つの力を組み合わせなお、たかが若手悪魔二人すら倒せない。

 

 ゆえに、ロキも加減を完全に放棄する。

 

 一瞬のスキが形成を逆転させかねない打撃戦の最中に、ロキは大量の攻撃魔法用の魔方陣を展開する。

 

 そして、正確にイッセーとサイラオーグに狙いを付けた。

 

「神の御業を知るがいい! 回避する余裕など、与えん!」

 

「ならば―」

 

「―撃たれる前にぶっ飛ばす!!」

 

 サイラオーグとイッセーの攻撃の密度が上昇する。

 

 この極僅かな時間で倒さなければ、ロキに負ける。

 

 ロキが勝ち抜けば、今度はオーディンやアザゼルが死ぬ。

 

 そうなれば和平を結ぶ事も不可能だ。一気に情勢は傾いてしまう。

 

 それだけは何としても阻止しなければならない。その覚悟で、徹底的に攻撃を叩き込む。

 

 だが、しかし一歩足りない。

 

 防戦に徹したロキの防御を崩す事はできず、そして魔方陣は発動され―

 

「―――邪魔なんだよ、あんたは」

 

 ―数百もの光の槍が、魔方陣を一つ残らず貫いた。

 

「何だと!?」

 

 思わず振り仰ぐロキの顔面に、踵落としが叩き込まれる。

 

 それをなすは、レセプターイーツ、井草・ダウンフォール。

 

 鬼気迫る表情が仮面ごしにも分かる。

 

 そんな状態で、井草は心から怒りをロキに向けていた。

 

「五十鈴は追いかけられない。リムは泣いた。伊予は今でもおかしくなってる。そして、ニングは自分を犠牲にした」

 

 震える声を漏らしながら、井草は渾身の力を籠める。

 

 それを、イッセーとサイラオーグの迎撃で手いっぱいだったロキはどうする事もできない。

 

 そんな事を意にも介さず、井草は渾身の力を拳に込め―

 

「―そんな時に邪魔しないでよ、あんたはぁ!!」

 

 その拳が、ロキのイーツの力を爆散させた。

 

 そして、その瞬間を逃すサイラオーグとイッセーではない。

 

 残滓でムジョルニアを叩きつけようとするロキの懐に、サイラオーグが潜り込む。

 

「これで終わりだ、悪神ロキ!!」

 

 そのボディブローが、ロキのあばらにヒビを入れる。

 

「がぁ……っ!? な、めるな!」

 

 だが、ロキはその勢いを利用して距離を取る。

 

 そして瞬間的に転移魔方陣を展開。一瞬で転移の態勢を整え―

 

「させんぞ!」

 

「いって、イッセーくん!!」

 

 二条の雷光が、転移魔方陣を吹き飛ばした。

 

 そこにロキが視線を向ければ、そこには手を取り合って雷光を放った、バラキエルと朱乃の姿。

 

「……雷光ぅぉおおおおおおおおお!?」

 

 最後のチャンスを台無しにされ、ロキが吠える。

 

 だがしかし、それは最後のあがきでしかなかった。

 

「終わりだ、ロキぃいいいいいいいいい!!!」

 

 渾身の力で、イッセーはミョルニルレプリカを叩き付ける。

 

 そして、その全力にミョルニルは応えた。

 

 発生する莫大な雷撃を前に、ロキはもはやどうすることもできない。

 

「おのれ! 聖書の神は何を考えている! なぜ、人間に神すら殺す力を与えるなどという狂気のさたをぉおおおおおおおお!!!」

 

 そのロキの絶叫をBGMに、大出力の雷撃がその一帯を包み込んだ。

 




激戦の末勝利。しかし、失ったものはかなり大きい。

干将莫邪の如し魔剣は、理論上何段階も進化させることができる、強大な禁手です。ですが、それは進化させればさせるほど、大切なものを失っていく諸刃の剣でもあります。

それだけのことをなせる精神力と自己犠牲精神があるが故のたまものですが、それは周りからすれば自身の不甲斐なさを突き付けられるものでもあります。




その不甲斐なさゆえにメンタル面でブーストが入った井草の乱入。さらに神滅具の禁手である獅子王の剛皮を纏ったサイラオーグの助太刀もあって、何とかイッセーはロキを撃破。ナイスアシストの雷光父子にも拍手を。

そして、衝撃も大きかったロキとの戦いも終結。後二話でラグナロク編も終わりです。






現在はパンデモニウム編を書いているところですが、ちょっと現在スランプ中。あと5月1日から私用で忙しくなるので、その時期から更新を一旦停止する予定です。

申し訳ありませんが、ご容赦願います。

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