混血堕天使が幼馴染を邪悪な外道にNTRされたので、更生したおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちと共に、変身ヒーローになって怪人たちと戦いながら罪を乗り越えていくお話 旧題・ハイスクールE×E   作:グレン×グレン

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激戦終了後の一幕です。


21話

 

 ロキとの戦いの場だった採石場から数百キロ離れたところで、五十鈴は地面を掘り返していた。

 

 正直井草は心配だが、あそこにいる事はできなかっただろう。

 

 ムートロンや大魔王派が、あんな真実を知って五十鈴を放っておくとも思えない。そして、そんな事になって、井草は黙っていないだろう。

 

 五十鈴は井草を読み間違えていた。あれだけ邪悪になれば、井草は五十鈴を心から恨んでくれるものだとばかり思っていた。本心から敵意を向けてくれるものだとばかり思っていた。

 

 ところがこれだ。井草は未だに五十鈴を大事に思っていてくれた。五十鈴の本心を知って、井草は自分の無力さや愚かさこそを恨んでいた。五十鈴のことを想ってくれていた。

 

 だが、もう手遅れだ。

 

 悪党同士の殺し合いではあるが、五十鈴は何人も殺している。

 

 それだけなら、井草も堕天使の仕事で何人も殺してきたといい返すだろう。

 

 我を忘れ、井草をそそのかして傷を作った。

 

 それだけなら、井草は乗せられた自分も悪いと言ってしまうだろう。

 

 伊予が悪い男に引っかかっていると分かり切っていながら、しかし自分もまた引きずり込まれて悪の道に行ってしまった。

 

 それだけなら、井草は堕天使側でありながら対応を間違った自分にも責任があると言ってくるだろう。

 

 だが、これだけはどうしようもない。

 

「……ぐ……っ」

 

 心臓が鷲掴みにされるような激痛を感じ、五十鈴はすぐに錠剤を取り出すと唾液で飲み込む。

 

 そして薬が効いてくるのを待ちながら、苦笑した。

 

 どうやら、色々あった所為で時間が過ぎていたらしい。薬の影響が切れたようだ。

 

 そして、薬の補充は限られている。ムートロンに戻れないのだから当然だ。

 

「ははっ。あとどれぐらい生きれるのかしらね」

 

 そう言いながら、五十鈴は掘り返したトランクケースを取り出すと、慎重にカギを開ける。

 

 掘り返された形跡はなかったが、ムートロンの超技術を舐めてはいけない。

 

 とっくの昔に勘付かれていて、爆弾を仕掛けられているという可能性だってあった。

 

 ゆっくりと、ハストゥールイーツに変身してから開ける。

 

 そこには、ビニールに包まれた札束と錠剤があった。

 

 ……万が一に備えた、その場しのぎの生活費と薬だ。ムートロンにいられなくなった時の為に、こっそりくすねていたものの一部だ。

 

 それを手にしたリュックサックに詰め直しながら、五十鈴はもう一つのトランクケースも確認する。

 

 こちらも中身は無事だった。なら、ケジメはつけれる。

 

 その事実に安心しながら、五十鈴は空を見上げた。

 

 満面の星空が輝き、その美しさに思わず一瞬見惚れる。

 

 昔の自分は、夜空がこんなに綺麗だという事を知らなかった。

 

 地方都市のなかで、ごく一部の人達と一緒に、代わり映えのしない毎日を送っていた。

 

 井草は期待していたのだろう。いつかそこから飛び立つ時が来ると妄信して、その立場で、伊予や五十鈴を庇護するのだと、傲慢な優越感に浸っていた。

 

 伊予は閉塞していたのだろう。その代わり映えのない毎日から飛び立ちたくて、しかしできなかったので引っ張り出してくれる人を待っていたのだろう。

 

 自分は、どうだったのだろうか。

 

 そんな事を考えて、五十鈴は首を振ると立ち上がる。

 

 今更そんな事を考えても、もう手遅れだ。

 

 この錠剤が尽きるときが、五十鈴が死ぬ時だ。其れ迄せいぜいムートロンを引っ掻き回してやろう。

 

 ……ナイアルの目を盗んで、ムートロンの手が回っている日本の企業などはある程度掴んでいる。

 

 後はもう、そこを潰す事で贖罪をしよう。ついでに金もごっそり手にしたし、ちょっとぐらい人生の最後を遊んでもいいかもしれない。

 

 なら、どこを一番最初にするかを考えて―

 

「……そうだ。京都行こう」

 

 今まで一度も行ってなかった事を思い出して、五十鈴は観光がてらに悪党同士の喰い合いをする事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、井草は兵藤邸の屋上で1人酒を飲んでいた。

 

 これは、勝利の美酒ではない。ただの、やけ酒だ。

 

 ロキはあの後捕縛に成功。量産型のミドガルズオルムと、疑似イーツであるヴォルフイーツは全て撃破も、もしくは捕縛した。

 

 北欧神話と日本神話の会談は成功。その過程で三大勢力との関係も発展し、ムートロンに対抗する同盟はより発達した。

 

 ロキが疑似エボリューションエキスを研究していた施設の多くはムートロンが先手を打って破壊していたが、しかし一部を押さえる事には成功。今後のエボリューションエキスの研究は大きく進む事になるだろう。

 

 だがしかし、失敗した事もある。

 

 フェンリスヴォルフイーツとかしたアスク・念武(ねんむ)と、ヴァルキリーのカルネテルは取り逃がした。あの二人がやけを起こして何かをしてこないかが心配である。

 

 井草は、一人カップ酒をあおると、バリボリと柿の種を口に含める。

 

 何度もあおる。何度も貪る。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も―

 

「……ゴホッ!? ゴホゴホッ!?」

 

 そして、むせた。

 

 肺に勢いよく入ってしまったらしい。かなりむせる。

 

 思わず目に涙すら浮かぶが、しかし呆れ果てる。

 

「……こんなの、ニングに比べれば、ちゃちなもんだよ」

 

 そして、そのまま屋上に寝転がって、空を見上げる。

 

 ぼんやりと夜空を見上げていると、足音が聞こえてきた。

 

「井草さん、飲みすぎですよ。後食べすぎです」

 

「……やけ酒ぐらいさせてくれない?」

 

 イッセーにたしなめられ、井草は苦笑しながらそう言い返す。

 

 普段と逆転している状態だが、しかしそれぐらい井草はダメージが大きかった。

 

 イッセーもそれは分かっているのか、井草の隣に座ると、井草が残していた柿の種を食べ始める。

 

 ポリポリと音が響き、しかしそれだけだ。

 

 その沈黙が十分も続いた時だろう。井草はぽつりと呟いた。

 

「子宮の機能が、ほぼなくなったそうだよ」

 

 その言葉に、イッセーは答えない。

 

 当然イッセーも知っているだろう。アザゼルが検査したのだから、イッセー達の耳にも入っているはずだ。

 

 干将莫邪の如し魔剣(ソード・バース・サクリファイス)。ニング・プルガトリオが至った、禁断の亜種禁手。

 

 所有者に二度と戻らぬ代償を背負わせる事を引き換えに、生成する魔剣の性能を莫大なものにする亜種禁手。彼女はそれを二回も使ってしまった。

 

 一回目は、上級吸血鬼と戦い、増援が来るまでしのぐ為に。二回目は、今回は、ロキ達の戦いで井草達を守る為に。

 

 その結果は莫大だった。

 

 一回目は、しのいで見せた。それからも彼女の魔剣は、合一化したエクスカリバーや聖魔剣とも打ち合える頑丈差を得ている。

 

 二回目は、趨勢を一時的に傾けて見せた。龍殺しの力で量産型ミドガルズオルムを倒し、敵の精鋭であるアスクを弾き飛ばした。更にスコルとハティを支配下に置き、今は突貫工事で作った兵藤邸の庭にある犬小屋で眠っている。

 

 調べてみたが、エクスカリバーの性能を基本したうえで、聖剣でないがゆえに使えない祝福の力をアスカロンの龍殺しで補ったようだ。総合性能も、エクスカリバーの推定最高出力の八割ほどを発揮していた。

 

 間違いなく絶大な成果だ。ロキを倒した井草やイッセーを超える成果を、オカルト研究部で上げている。

 

 だが、その反動はあまりにも大きすぎた。

 

 一回目で、ニングはプルガトリオ機関に入る前の過去の記憶を全て失った。

 

 今回は、子宮が機能をなくしている。卵巣こそ無事らしいが、受精卵を着床させる子宮が機能しない以上、最早自ら子供を生み育む事はできない。

 

 どちらも大きな代償だ。人生を大きく左右するレベルだろう。

 

 それだけのものを、ニングな自分達を助ける為に差し出したのだ。

 

「……弱いよね、俺達」

 

 井草のその言葉に、イッセーは何も答えない。

 

 そして、井草は続ける。

 

「俺は、結局変わっちゃいない。強いと妄信してた事から、強くなりたいと願っているだけだ。弱すぎる……」

 

 井草はそう弱音を漏らす。

 

 五十鈴の苦しみに気づかなかった。

 

 伊予と五十鈴が悪の道に引きずり込まれている事に気づきながら、対処を誤った。

 

 そして、五十鈴の迷走に気づく事がなかった。

 

 乳神の使いが来なければ、井草は五十鈴が邪悪に落ちたと思い込んでいただろう。そしていつか、五十鈴の間違った願い通りに殺し合いをしていたはずだ。

 

 まったくもって愚かすぎる。未だに、井草・ダウンフォールという男は、愚か者だった。

 

「俺は、結局このざまで―」

 

「違うでしょ、井草さん」

 

 イッセーが、井草の言葉を断ち切った。

 

 その言葉に、井草はイッセーに視線を向ける。

 

 イッセーは、まっすぐに井草を見つめていた。

 

 辛くもある。悲しくもある。だが、決して絶望だけはしていない。

 

「弱いなら、強くなりましょう。進めてないなら、今から進むしかないでしょう。一歩一歩、前に進むぐらいしかできないでしょう、俺たちは」

 

「イッセー……」

 

 イッセーもまた、ショックを受けている。

 

 だが、しかし、だからこそ。

 

 イッセーは、もっと前に進もうと決心していた。

 

「……そう、なのです」

 

 そして、その言葉を聞いて飛び跳ねるようにして起きる。

 

「「ニング!?」」

 

 見れば、リムに肩を貸してもらいながら、ニングが屋上へと出てきていた。

 

「どうしても、井草に会いたいって言ってるもんでしたから……」

 

 そう言うリムの言葉に、井草は頭痛を感じる。

 

「だったら俺を呼んでくればいいじゃないか」

 

「……あ」

 

 どうやらリムも、相当動揺しているらしい。

 

 二回も使わせてしまったのだから、相応にショックを受けているという事なのだろう。ある意味自分達よりも動揺していておかしくない。

 

 その事実を改めて認識しながら、井草は慌てて駆け寄った。

 

「いきなり夜風はちょっとあれだよ。すぐに中に―」

 

「井草さん」

 

 とにかく気を使う井草に、ニングはまっすぐその目を見る。

 

 そして―

 

「―ようやく、希望が見えたのですね」

 

 そう、華やいだ。

 

「………っ」

 

 いきなり、何を言っているのだ。

 

 そんな事より、もっと自分を大切にしろと言いたい。

 

 自分が言う事でもないかもしれないが、そもそもニング達がいたからこそ改善出来てきた事だろうに。

 

 そのニングが、なんで自分を大切にしないのだ。

 

 思わず怒りたくもないが、それより先にニングのほっとした声が届く。

 

「少なくとも五十鈴さんには希望があるのです」

 

「そんな……ことは……っ」

 

「あるのですよ」

 

 反論しかけた井草に、ニングはそう首を振る。

 

「確かに、五十鈴さんは自分の意思で罪を上塗りしたのです。なら、その罪を償わなければならないのです」

 

 そう、厳しい現実を突きつけながら、しかしニングは微笑を浮かべていた。

 

「でも、彼女の心は悪ではないのです」

 

 そして、ニングは井草にまっすぐ目を向ける。

 

「だから、罪を償った五十鈴さんの居場所に、井草さんはなるのですよ」

 

「……なんでだ」

 

 井草は、そう言う他ない。

 

 なんで、そんな事が言えるんだ。

 

「俺達が、いや、俺が不甲斐ない所為で君は、子供が生めないんだよ? そんな目にあって、なんでそんなに君は人に優しくできるんだ」

 

「それは違うのです」

 

 静かに、ニングは首を横に振る。

 

 井草が怒られる事などない。自分が怒る事などない。そんな事など、何もない。

 

 そう言外に告げながら、ニングはイッセーに視線を向ける。

 

「イッセーさんも、リアス部長を助ける為に、左腕を犠牲にしたのです。これは、それと変わりないのですよ」

 

 その発言に、イッセーはぐっと息を詰まらせている。

 

 そういえばそんな事があったらしい。それが巡り巡って、リアスをフォーリンラブさせる事になったようだがまあそれはそれだ。

 

「大事なものを犠牲にしたのは確かにごめんなさいなのです。でも、それしか手がないなら、井草さんもリムも、イッセーさんもしたのではないのですか?」

 

 その言葉に、井草は反論できない。

 

 イッセーは献身の精神が強いので、確かにそれしか手がないならするだろう。

 

 井草もリムも、汚れ仕事の必要性を知っている。だから、それを否定する事などできない。

 

「たまたま、私がする番だっただけなのです。だから、気にしすぎたらいけないのですよ?」

 

 そう、これはただそれだけの事。

 

 誰も死ななかった。誰かがつらい思いをする必要があった。その誰かがたまたま自分だっただけのこと。

 

 だから―

 

「井草さんは責任を感じて、五十鈴さんを諦める事はないのですよ」

 

 そう言って、ニングは井草を抱きしめる。

 

 その優しさに満ちた抱擁に井草は泣きそうになる。

 

「皆が知りました。みんな優しいのです。きっと、五十鈴さんに手を差し伸べることを否定しないのです」

 

 そして、ニングは心から、それでいてどこか寂し気に、にっこりと微笑んだ。

 

「私の事を大切に思ってくれるのなら、大事な人を手元に置いておく努力を欠かさない事をしてほしいのです」

 

 そう、出ないと―

 

「色々なくしてまで守りたかったものが曇ったら、私が馬鹿みたいなのですよ」

 

 その言葉に、井草は―

 

「―なら、俺はニングもあきらめたくない」

 

 ―心から、そう思った。

 

 そして、井草はニングを抱きしめ返す。

 

 壊れないようにやさしく。しかし逃がさないように強く。

 

 繊細に、かつ豪胆に。井草はニングを抱きしめた。

 

「は、はわわわわ!?」

 

 突然の事態に慌てだす、ニングに、井草は告げる。

 

 さらに井草は器用に、リムもしっかり抱きしめていた。

 

「なにしやがるのです!?」

 

「あわわわ!?」

 

「なななな!?」

 

 リムもニングも、後ろのイッセーも慌てていた。

 

 それを意にも介さず、井草ははっきりと決意を決めた。

 

 ここまでさせたのだ。ここまでさせてしまったのだ。

 

 なら、井草はそれに見合った何かをしたい。

 

 だから、今から井草は最低最悪な決断をした。

 

「ニング、リム。俺は、堕天使だ」

 

 そう、はっきり告げる。

 

 そう、井草は堕天使だ。欲望に堕ちて黒く染まった天使の末裔だ。

 

 なら、これを言う事に何もおかしな事はない。

 

「罪を悔やむ事しかしなかった俺に、前を向かせてくれた。俺は、2人のことが大好きだ」

 

「「にゃぁ!?」」

 

 想定外の二連続告白に、2人揃って顔を真っ赤にする。

 

 知った事か。言ってやれ。

 

 後で素直に相談しよう。困った時はハーレム経験者のアザゼルだ。

 

 井草・ダウンフォールは兵藤一誠の兄貴分だ。それはつまり、ハーレム王の兄貴分なのだ。なら、別にやろうとしてもいいだろう。

 

 この優しい二人に優しさを返そう。幸せを諦めさせないでくれた二人に、幸せを返そう。

 

「2人が俺の背を押してくれた分、俺は二人を幸せにしたい。……いやならいやといってくれ。無理強いをする気だけは断じてない」

 

「い、いやいや、その、あの、私達教会の信徒なんですがねぇ!?」

 

 しどろもどろになってリムが言い訳するが、しかし井草はそこにして気はする。

 

「そこは置いて考えてよ。和平結んでるんだから少しぐらいいいでしょ? アーシアちゃんとゼノヴィアちゃんは悪魔だけど祈れるし」

 

「はうぉわぁ!?」

 

 言い訳を潰されて、リムは顔を真っ赤にして沈黙してしまう。

 

「あの、私、子供は産めないのですよ!?」

 

「世界には代理母出産という便利なものがあるよ。それに、堕天使の技術力で何とかしてもらえるかもしれない」

 

 ニングのその言い訳は許さない。そんな言い訳で彼女の幸せを奪いたくないから、この覚悟を決めたのだ。

 

「割とむちゃくちゃ言ってるのは自覚してる。だけど、俺は君達が二人とも好きだって自覚しちゃったんだ」

 

「あの、ハーレム王作ろうとしている俺の立場は?」

 

 イッセーが後ろから何か言ってきているが、それは無視する。

 

 そして、井草は心底からまっすぐに二人を見つめ―

 




対照的な方向で覚悟を決めちゃった井草と五十鈴。果たしてどちらがその覚悟を張り通せるのか。


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