気がつくと俺は、真っ白な世界にいた。
「どこだここ?」
辺りを見回すも覚えのない景色が広がるばかり。ならば、記憶を思い出そうして・・・
「お主は死んだ」
「!?」
見たことのない御老体が現れた。
まるで仙人のような髪と髭だ。
「あなたは?」
「神と言われておる」
いきなり何を言ってるのだろうか。完全にイカれている。
「そうですか」
「信じておらぬようじゃのぉ」
一体全体、何処の誰が神と言われて信じるのだろうか?
そんな奴がいたら、是非連れてきて欲しいものだ。
「よく聞くのだ。お主は死んだ。」
「なっ・・・」
何をバカなと思ったが、ふと思い出した。
俺は小さい女の子を助けようとしてトラックに轢かれたのだ。
「思い出したか?」
「・・・そんな」
「だが、嘆く事はない。お主を転生させてやろう」
「え?」
耳を疑った。この御老体は転生と言ったのか?
「お主の望む世界で望む力を与えてやろう」
「まじか」
まさかの神様転生だった。
噂によく聞く奴だ。
これは俺つえーしまくれると言う事か。
「頭に浮かべよ」
俺は言われるがまま、望む全てを思い浮かべる。
「うむ。さぁ、行くがよい!」
妙な浮遊感と共に、意識が沈むのを感じた。
ーーーー
少年が目を開けると底は再び真っ白な空間であった。
「?」
ただ、先程とは少し差異がみられた。
目の前に扉が一つ、それも一際大きな物が存在していたのだ。
(あれを通れって事か)
少年が足を進めようと踏み出したその時である。
『星を渡りし者よ』
よく響く重低音の声が聞こえた。
「誰だ?」
返事は無い。
「気のせいか・・・」
再び歩みを進める。すれば、
『星を渡りし者よ』
先程よりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。
「誰だよ!」
姿を現さぬ得体の知れぬ存在に、少年は未知の恐怖を覚える。その恐怖がじわじわと毒の様に体の内側で大きくなっていく。
「・・・何なんだよ」
その恐怖と憤りを吐き捨てる様に言葉を発したその時であった。
「っ!」
突如として扉の目の前に黒い風が、渦を巻く様にして形を成していった。それはだんだんと集束していきやがて、
「・・・」
甲冑の上にローブを身に纏い、大剣と大盾を携えた骸の剣士が現れた。
(何だよ・・・これ)
赤く光る双眼に居ぬかれた少年は、蛇に睨まれたカエルの如く動く事ができない。
「星を渡りし者よ。汝、これより踏み出でてはならぬ」
先の声の主は間違いなく、目の前の骸の剣士の物であった。
「何だよそれ。こっちは神とやらから転生しろって言われてんだよ!そこをどけよ!」
恐怖からか、自然と語気が荒くなってしまう。
「ならぬ」
だが、骸の剣士は短く否定の言葉を述べた。
(何だよあいつ。どうすれば・・・?)
思案すれば自身の腰に違和感を覚えた。
(これは・・・剣?そうか!)
少年の腰にあったのはなんの変哲もないただの西洋剣であった。そして気付く。これは俗に言う試練なのだと。
ならば話は簡単である。
「どかないなら、力ずくで通るぞ!」
「ならぬ」
短い返答を聞いた少年は、地を駆けた。
生前よりも体が軽いのは、恐らく神様のお陰だろう。
(いける!)
骸との距離を詰め、剣を降りかざんとした時、
「・・・は?」
剣を握っている肌色の腕が宙を舞った。
「愚かな」
赤が吹き出す、辺り一面を染める様に。
切られたのは少年の腕であった。
「あ・・・あ・・・あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
気づいた瞬間とてつもない痛みがやってくる。
何故自分が切られたのか?訳の分からない恐怖と痛みに悶える少年を余所に、骸の剣士は告げた。
「此は汝一人の罪に非ず。形を成した信仰、及等の信仰心である」
「うっ・・・」
もはやその少年には、骸が何を言っているのか分からない。考える余裕もない。ただ、この痛みに対して向き合う事しか出来ないのだ。
「案ずるが良い。等の罪もすべからく其が誘おう。汝は在るべき此へ帰むのだ」
骸はその剣を掲げると、少年の首へと真っ直ぐに振り下ろした。
「た"すけで"ぇ・・・」
それが最後の言葉である。
首から上を失った少年の亡骸を、骸はただ何も言わず見つめるのだった。