DUAL BULLET   作:すももも

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15.忍の里

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ガルナ!もっとだ!もっと食べろ!」

 

 

 船長にそう言われて、俺は「スキヤキ」を大量に器に盛った・・・。

 

 ジャポンに着いた夜、雇った5人の船乗り達と宿で楽しく宴会をしていた。

 

 ジャポン料理の「スキヤキ」や「テンプラ」の味は美味しく、一生忘れられないだろう。

 

 宴会の後は、皆で天然の「温泉」に入り、体の芯まで温まって長い航海の疲れを癒した。

 

 

 それから数日の間、俺達は、ヨルビアン大陸風の建築とジャポン風が混じり合うこの港町を満喫した。

 

 ある日の夜、シドリアが何かを手入れしているのが気になって、俺は聞いた。

 

 

「シドリア、何してるの?」

 

「グリスアップだ。」

 

 

 シドリアは、作業をしながら俺の方を見ずに、ぶっきらぼうにそう言った。

 

 シドリアはボトルのようなものから必要な量の褐色の液体を布につけて、黒光りする金属性の物体を磨いている・・・。

 

 

 俺がジッと見ていると、シドリアは微かに笑って、床に並べてあった部品を手早く組み立てた。

 

 

「これは、リボルバー拳銃だな。航海中はさすがに整備できなかったから、分解して整備しているんだよ。」

 

 

 シドリアは簡単にそう言うと、カバンから次々と何かを取り出し、並べていく――。

 それらは、俺が見るのも初めてな大量の銃器だった・・・。

 どうやらシドリアが持ってきていたあの大きな荷物は、銃器類だったようだ。

 

 

「ちょっ!戦争でもする気なの!?

 何でそんなもの――?」

 

 

 俺が驚いて言うと、シドリアが淡々と説明を始めた。

 

 

「『ニンジャ』ってのは、戦闘集団、それも暗殺や隠密活動が得意な連中だろ?

 ということは、俺達もそれなりに武装しなければ、殺されてしまうと思ったんだ。」

 

 

 シドリアは、そう言って手元にあったサブマシンガンを壁に向かって構えた。

 それを聞いた俺は、唖然として言った。

 

 

「でも、それじゃ人を殺すってこと?」

 

「俺は約1年間、銃の訓練を受けていた。

 相手を殺さなくても、無力化することもできる。

 それに相手が俺達を殺そうとしてくれば、自衛の為、殺しもやむを得ないな。」

 

 

 平然と俺の問いに答えるシドリアを見て、俺は聞いた。

 

 

「シドリアって何者なの?」

 

 

「ノースタリアの皇太子だよ。元だけど――。」

 

 

 シドリアはそう言うと、俺がそれから何を聞いても答えず、無言のまま銃器をカバンにしまって寝てしまった・・・。

 

 

 

 

 

「ジャポンは、いまだに閉鎖的な国だぞ。」

 

 

 1993年2月11日、旅立ちの日に船長がそう言った。

 

 俺達はジャポンに到着してから12日、5人の船乗り達と毎日宴会をして、長期航海で疲れた身体を癒した。

 

 

 以前聞いた船長の話によると、ジャポンという国はかつて「他国からの干渉を受けない、他国との交流をしない」という政策をとる国だった。

 約20年前から、内部分裂し、事実上の政権も変わったことで、その政策は表向きには無くなった。

 

 しかし、国民の意識は変わらず、今まで通りの生活で、一部の者以外は閉鎖的な島国から出ることもせず、内需産業や近海の漁業を営む者が多いそうだ。

 さらに言えば、ジャポン人は、ほとんどが民族言語である「ジャポン語」しか話すことができず、俺が話す「共通言語」を理解できるジャポン人は少ない。

 

 

 国民意識の問題、言語の問題で、ジャポンという国はいまだに閉鎖的な国という話だった・・・。

 

 

 

「一応簡単なジャポン語は覚えたけど、言葉通じないのは痛いね。」

 

 

 俺がそう言うと、シドリアが言った。

 

 

「一部のジャポン人は話せるんだろう?政府主導で観光地化も進めているらしいし、通訳を営む人間もいるはずだ。」

 

 

 船長は最後にこう言った。

 

 

「それより、本当にこの船もらっていいのか?」

 

「うん、多分しばらくジャポンにいると思うし、この船を使ってしっかり稼いでね。」

 

 

 船長の言葉に、俺は笑顔でそう返事をした。

 

 

 俺は、5人の船員達にクルーザーを引き渡したのだ。

 ジョニーを見つけるまで船を放置したら、使い物にならなくなりそうだし、彼らに使ってもらった方が、船も喜ぶと思ったからだ。

 

 長い航海を共にして、仲良くなった5人の船員達と最後に握手をして別れを告げると、俺とシドリアは2人で港町を歩いていく――。

 

 まずは、通訳をする人間を見つけようと、俺達はジャポンの観光協会に向かった。

 

 

 

「――今なら、お一人様56万ジェニーで、『5泊7日のクモガクシ・ニンジャの観光ツアー3食付、観光ガイド兼通訳付き』というお得なプランがありますよ?」

 

 

 観光協会で俺達はそう言われた。

 俺達の予想では、ジョニーはニンジャに会いに行ったはず。

 

 俺はお得なツアーに心引かれて、サインしようとしていた。

 

 

「あ、俺達そういうのいいんで!」

 

 

 シドリアが素早く俺のペンを奪いながら、そう言った。

 

 俺が困惑しながらシドリアを見ていると、シドリアが小声で言った。

 

 

「明らかに嘘っぽいだろ?

 まあ仮に本当だとしても、ジョニーがこのツアーに参加できるわけないしな」

 

「え?なんで?」

 

「理由は色々あるけど、一番の理由は、あいつにそんな金あるわけないから。

 そもそもジョニーが出発したのは、お前が11歳になる直前だ。

 1年以上経過してるのに、ジョニーがそんな観光地化しているような所にいるわけないだろうが?」

 

 

 シドリアが早口でそう言ってると、受付の女の人が怪訝な顔をしていた。

 おそらくシドリアの言葉を聞き取れなかったのだろう。

 

 受付の女の人が俺達に言った。

 

 

「えと、ツアーには参加しないのですか?」

 

 

 シドリアは、ゆっくりと横に首を振ると、受付の女の人は困惑した顔をした・・・。

 

 

 

 結局、何の収穫も得られず、俺達は表通りのお茶屋でジャポン茶を飲みながら、ジャポン風のスイーツの「ダンゴ」を食べていた・・・。

 

 

「なるほど、ジャポン語って否定の否定は肯定の意味なのか。」

 

 

 シドリアが航海中に読んでいたジャポン語の解説本を見て呟いた。

 俺が、どういう意味か聞こうとしたとき、ジャポン語の叫び声が聞こえた。

 

 

「シドリア、ジャポン語の『クイニゲダー』ってどういう意味だっけ?」

 

 

 俺がのんびりとそう聞くと、シドリアが言った。

 

 

「『クイニゲ』っていうのは、無銭飲食のことだ。叫んでるのは、お茶屋の主人か?」

 

 

 シドリアがそう言っているところに、赤い花柄の着物を着た、小さな女の子が走ってきた。

 女の子は俺達の座っている場所に突っ込んでくる――。

 

 

 

――――!

 

 

「――痛たた・・・。」

 

 

 女の子がぶつかった衝撃で、背もたれのないベンチから転げ落ちた痛みから、俺は思わず口に出す。

 

 原因となった着物の女の子はシドリアがしっかりと受け止めていたけど・・・。

 

 

「『クイニゲ』は『アナタ』か?」

 

 

 シドリアは女の子の身体を受け止めたままの体勢で、ジャポン語とジェスチャーを混ぜてそう聞いた。

 

 シドリアの質問に女の子は恥ずかしそうに頷くと、すぐに慌てた表情で俺の方を指差しながらジャポン語で叫び始めた。

 

 ふと見ると、いつの間にか俺の腕には切り傷があり、結構出血している。

 きっと女の子とぶつかってベンチから転げ落ちたときに釘か何かに引っ掛かってついたのだろうと、俺は思った。

 

 すると、女の子が俺の手を力強く引っ張り、俺の傷を舐めた。

 

 

「何してるの!?」

 

 

 俺が驚いて叫ぶと、女の子は、俺の傷に触れながらジャポン語らしき言葉を発した。

 

 

「イタイノ イタイノ トンデケ!」

 

 

――どういう意味だろう?

 

 

 俺がそう考えてると、シドリアが何かに気付いて呟いた。

 

 

「ありえない・・・。まさか、その傷治ってないか?」

 

「は?」

 

 

 俺は、シドリアの言葉に半信半疑になりながら血を拭ってみると、確かに傷は無くなっていた。

 

 不思議なのは、傷痕すら全く無かったことだ。

 経験上、自然に治る傷は多かれ少なかれ傷痕は残る・・・。

 

 

「君達、その子、知り合いか?その子のダンゴ代、払ってくださいませ!」

 

 

 俺とシドリアが混乱しているところで、お茶屋の主人にそう言われた。

 

 

 シドリアの無言の圧力を受け、俺が女の子のダンゴ代を支払うことになる――。

 

 俺が支払いをしようとしていると、女の子はお茶屋の主人に向かって何かジャポン語で叫んだ。

 お茶屋の主人は、驚いた表情をしてから、ジャポン語で短く返事をして、店の奥に戻った。

 

 

「あれ、まだ金払ってないけど、どうしたんだろう?」

 

 

 俺がそう言うと、シドリアは何故か笑いを堪えていた。

 

 

 俺の疑問は数分後に解決した。

 大量の「ダンゴ」が運ばれてきたのだ。

 軽く見積もっても100本は下らないだろう。

 

 女の子は、さっき追加注文をしたのか・・・。

 

 

 

「――しかし、よく食べるな。そんな美味しいかな?そのブニョブニョしたスイーツ・・・。」

 

 

 大量の「ダンゴ」を凄い勢いで食べ始めた女の子を見て、俺は呆れたように言った。

 正直俺はこういうのは苦手で、実際さっきも1本食べている途中で残したくらいだ。

 

 すると女の子が言った。

 

 

「美味しいモノに罪はないです!」

 

 

 女の子の言葉に、シドリアが驚いて言った。

 

 

「お前、共通語話せるのか?」

 

 

 女の子はキョトンとして、返事をした。

 

 

「ワタシはお前って名前じゃないです! ワタシはミコトという名前です!」

 

 

 ミコトは、どことなく妙な喋り方ではあったが、流暢な共通語を話した。

 

 

「俺は、シドリア。そっちの金色の長い髪の男はガルナだ。

 ところで、ミコトが暇だったら、案内して欲しいんだけど――。」

 

 

 シドリアがミコトにそう言うと、ミコトはすぐに返事をした。

 

 

「案内です? 任せるです! 観光案内するです!」

 

 

 ミコトは満面の笑みを浮かべて、俺達の案内を買って出た。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 黒装束の男2人が、その様子を見ていた・・・。

 

 1人は、すぐに無線機で連絡を始めた。

 

 

「『姫』は、現在ドイサハマの港町。観光客らしき少年2人と合流。

 能力の発動も確認したから、本人に間違いない。引き続き監視を続行――。

 ん?いや、少年達は念は使えないようだ。殺すのは簡単だろう・・・。」

 

 

 無線機を切ると、男は3人の少年少女の追跡を続行した・・・。

 

 

 

 

「これが、テンシュカクです!」

 

 

 ミコトが自信満々にそう言うと、シドリアがガイドブックを見ながら突っ込みを入れる。

 

 

「ガイドブックによれば、これは城じゃなくて、要塞の砲台跡らしいぞ?」

 

「あれ?えと、じゃあアッチ行くです!」

 

 

 そう言って、ミコトは疲れた様子も見せずに、段差が高い石階段を走って登っていく――。

 

 

「着物って凄い走りづらそうなんだけど、あの子凄いね。」

 

 

 ガルナがそう言うと、シドリアは笑いながら頷いた。

 

 

「ほら!これはどうです?街並みが一望できるです!」

 

 

 ミコトが石階段を登りきった頂上で元気にそう言った。

 シドリアが少し感心したように呟く。

 

 

「なかなかの景色だな。」

 

「あれって俺達が入った港?」

 

 

 シドリアに引き続き、ガルナがそう言った。

 

 シドリアとガルナは夢中になって、その景色を見た。

 

 

「――で、この場所は歴史的にはどんなところなんだ?」

 

 

 シドリアがミコトに聞くと、ミコトは言いづらそうに顔を俯き、小さく呟いた。

 

 

「ワタシが小さいときによく来た場所です・・・。」

 

 

 ミコトの言葉を聞いたシドリア達は、呆気にとられる。

 

 しかし、すぐに3人は笑い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「――『ニンジャ』です?ちょっと分からないです。」

 

 

 ミコトは残念そうにそう言った。

 

 日が落ちて暗くなったので、シドリア達はひとまず宿の方向に歩いていた・・・。

 

 

 

 

「はあ、やっぱり駄目か。駄目元で例の『クモガクシ』のツアーに行く?」

 

 

 

 ガルナがそう言うと、シドリアが言った。

 

 

 

「あれは駄目だ。お前の金だって、遣いすぎてほとんど残ってないだろう?」

 

 

 シドリア達の会話を聞いていたミコトが、何かに気付いて言った。

 

 

「『クモガクシ』って――。もしかして、あなた達が探してるのって『(シノビ)』です?」

 

 

 

――――!?

 

 

 シドリアは、ハッとしてミコトに向き直る。

 

 

「ミコト、知ってるのか?俺達は忍術を学びたいんだ!」

 

 

 シドリアが興奮した様子で、そう言った。

 ミコトが控えめな口調で答える・・・。

 

 

「ワタシが知っているのは、『葉隠の里(ハガクシのサト)』です・・・。」

 

「どこにあるの?」

 

 

 ガルナがそう聞くと、ミコトがはっきりと答えた。

 

 

「ワタシは、ミコト=ハガクシです。ハガクシの里はワタシの実家です。」

 

 

 シドリアとガルナは唖然としていた・・・。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 俺、シドリア、ミコトの3人は、ある山の麓にいた。

 

 

 

 あの日の夜は、ひとまず温泉宿に宿泊した。

 

 ミコトはジャポンの鍋料理をほとんど1人で平らげて、満足そうに寝てしまった・・・。

 

 ミコトが寝た後、シドリアの様子が変だったのは気にしないでおこう。

 

 

 翌日の早朝、港町から5時間程の時間を馬車で移動して着いたこの山に、ミコトの実家の「忍の里」があるという話だ。

 5時間の間、俺は眠り続けていたようだ。

 

 そもそもミコトは美味しいモノを食べに港町に行っただけで、近い内にここに帰ってくるつもりだったらしい。

 

 

「そういえば、ミコトって何歳なんだ?」

 

 

 山道を歩いている途中に、シドリアが聞いた。

 

 

「はい?14歳です。」

 

 

 ミコトの返事を聞くと、シドリアは驚いて叫んだ。

 

 

「14歳が、普通に男の部屋で寝るなよ!」

 

「それよりも、歳上だったのか・・・。絶対、年下だと思ったのに――。」

 

 

 俺がそう言った途端に、ミコトの表情が少し怒ったように見えた。

 

 ミコトは俺に顔を背けて走り出す――。

 

 

 シドリアの冷たい目線を感じ、仕方なく俺はミコトを追い掛け始めた。

 

 

 

 

 

「――おーい、ミコトー!

 いないな・・・。そういえば、あいつ意外と足速かったしな・・・。」

 

 

 俺は、10分程ミコトの行った方向に移動しながら、ミコトの名前を呼んで探していた。

 

 

――実家がニンジャ――じゃなくてシノビか。

 この山も近所みたいなものだし、まあいいかな。

 十分探したよね、俺。

 

 そういえば、シドリアは、どうもあの子を大事にしてる節があるけど、会ったばかりでそんな――。

 

 

 俺が、とりとめのないことを考えながら歩いていると、微かに女の子の声が聞こえた。

 

 

「ミコトかな?」

 

 

 俺がそう呟きながら、声のした方に走っていく――。

 

 くじら島での経験は役にたったのか、すぐに到着した。

 

 

「ミコ――は?何これ?」

 

 

 

 

 5人のニンジャのスーツを着た男達がそこにいた。

 

 ミコトは全身を縛られて、5人の内の1人に担がれている。

 

 

 瞬間、俺は何も考えず、ミコトを担いでいる男の至近距離に間合いを詰め、渾身のフックを男の脇腹に突き刺した。

 

 

 良い手応えとともに、男は体勢を崩して、ミコトは地面に落ちた。

 勢い良く落ちたから少し痛そうだけど、あの状態よりはマシだろう。

 

 

 他のニンジャ4人は、あからさまな臨戦体勢に入った。

 

 ジリジリと間合いを牽制し合うところで、猿ぐつわを自力で外したミコトが叫んだ。

 

 

「ガルナじゃ、死んじゃうです!」

 

 

 ミコトの言葉に俺が疑問を感じた瞬間、さっき倒したニンジャがいなくなっていることに気付いた。

 

 あの手応えなら、息もできないしすぐに起き上がるなんて不可能なはず――。

 俺は、さっき倒したニンジャを見失っていた。

 

 

――――!

 

 

 その瞬間、俺は背後の気配に気付いて、咄嗟に振り向き様の右ストレートを放った。

 結果的にそれは当たらなかったし、俺としても牽制以上の効果は求めていなかった。

 

 

 しかし――。

 

 そのとき感じたのは、熱だった。

 想像していたのと違い、それは熱いとしか感じられなかった。

 

 俺がフックを急所に当てたはずのニンジャは、俺に気付かれない内に背後に回り、刀を既に抜いていたのだ。

 

 

 辺りには赤い飛沫が飛び散り、痛いという感覚もなく、その瞬間、俺は熱いと感じていた・・・。

 

 

――俺、死んだかも。

 

 

 現状をゆっくり認識してから、そう心の中で呟くと、俺は諦めの境地に入ろうとしていた――。

 

 

 

 

――パパパパパパッ

 

 

 どこからか、機械的なリズムの乾いた音が聞こえた。

 

 

 かろうじて俺が見ると、シドリアが見たこともない怒りの表情で例のサブマシンガンを乱射していた――。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

(なんだこれ・・・。)

 

 

 12歳の少年、ガルナは地獄のような光景を呆然と眺めている・・・。

 

 

 ガルナの右腕の肘から先が無くなっていた。

 

 

 

 ガルナの腕の切断面と胸の刀傷からは血は止めどなく流れ、枯れ葉を朱く湿らせた―――。

 

 

 ガルナは放心状態だった。

 ガルナは既に生を放棄しようとしていた。

 

 しかし、ガルナの親友が、目の前で果敢に戦っている――。

 

 

 親友は、長い間交戦していたが、敵の斬撃により右腹部から腸が飛び出ている。

 

 サブマシンガンも左手を骨ごと潰されたときに遥か彼方に飛んでいってしまい、用意してきた拳銃を右手で乱射していた・・・。

 

 

(なんで・・・俺達は悪いことなんて―――。)

 

 

 ガルナは涙を流しながら、自分達のしたことを思い返した。

 

 

 ガルナは最善を尽くした。

 自らの最高速度で移動した右フック――。

 

 

 仮に、ガルナが何もしなかったとしたら、ミコトはさらわれていただろう・・・。

 

 

 言うなれば現状は、力無き者の末路―――。

 

 ガルナに足りないのは、原始的な暴力の力。

 

 すなわち、強さ。

 

 生物として生きる為に必要な力。

 

 

 しかし、それでは終わらない。

 

 ガルナは諦めたのに、シドリアは諦めずに懸命に戦っている――。

 

 

 

 

(やっぱり、そうか―――。)

 

 

 ガルナは理解した。

 

 シドリアとジョニーは、ガルナが勝った争奪戦のときに手を抜いていたのだ。

 

 今見てもシドリアはガルナとは桁違いに強い。

 

 

 

 

―――!!?

 

 

 シドリアの拳銃がガルナの目の前に落ちた。

 

 

 ガルナは弱々しくも、それを拾い、構えて、撃つ―――。

 

 

(当たれええ!!)

 

 

 ガルナは、小型のナイフで戦っているシドリアを援護しようと、全神経を集中して撃った。

 

 

――――!!

 

 

 

 しかし弾は外れ、発砲音に気付いた敵が、ガルナへ刀を振りかぶった―――。

 

 

 

―――ザンッ

 

 

 ガルナの目の前にシドリアの顔があった。

 

 苦痛を悟らせないようにニコリと笑いかける。

 

 

 シドリアの背中にある致命的な深い刀傷から血がドクドクと流れていた―――。

 

 シドリアは震える右手に、何かを持っている。

 

 

 

 

「ミコトー!!」

 

 

 シドリアは叫びながら、ガルナの背後へそれを投げる―――。

 

 

―――閃光手榴弾。

 

 

 ガルナの後方に投げたそれは、闇夜を大きく照らし、5人の敵の目を完全に殺した―――シドリア自身の目も――。

 

 

 ミコトはいつの間にか、地面に落ちていた刀を使って拘束を解いており、何故か目をつぶっていたので光の効果はない。

 一瞬の間に、刀を拾ったミコトは全員を切り捨てていった。

 

 

 敵の殲滅が完了してからミコトが見たときには、シドリアとガルナは虫の息だった―――。

 

 

 

 

(俺は、何もできなかった・・・。拳銃も当たらなかった・・・。)

 

 

 薄れる意識の中、ガルナは無力感と、後悔の念で胸が一杯になっていた・・・。

 

 

 




【後書き】

 2/1 若干修正しました(^-^)
 
 次回【16.歩法】
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