DUAL BULLET   作:すももも

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19.念能力

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 俺とシドリアは、堅をしていた。

 

 5分程で、俺はバテてしまい、シドリアも堅を維持できたのは、10分程だ。

 

 

 

 師匠は、少し考えた後、言った。

 

 

「ま、こんなもんかな。

 一応言っておくけど、最低限のレベルだってのは認識しておいてね。

 あと、明日試合ってのもあるから余計なことは言いたくないんだけど、念の性質について、知っていた方がいいことがある。

 これを知らないと、相手の念能力に対応できないからね――。」

 

 

 そして、師匠の説明を聞いてから、俺達は試合に備えて早めに寝ることにした。

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

「グフフフ、一応念は使えるようだな?」

 

 

 ガルナの対戦相手の男が言った。

 その男は、片足が義足であるが、全身に力強いオーラを纏っている。

 

 

 すぐに試合が始まった。

 

 ガルナは、歩法も駆使しながら踏み込む足に凝をして、ダッシュをした。

 すぐに接近戦が始まる。

 数打の打ち合いの後、義足の男がバランスを崩した。

 ガルナはそれを見逃さず、硬による右ストレートを放った――。

 

 

 しかし、ガルナの拳は、易々と義足の男にガードされる・・・。

 

 

「グフフフ。修行不足だな。

 お前のオーラは、俺より遥かに小さい。」

 

 

 男はそう言うと、自分の上半身の服を剥ぎ取り、強烈な練を見せた。

 

 

「俺は、お前よりも倍以上のオーラ量がある。

 念の戦闘において、オーラ量の差は絶対的な戦力差になるんだ。」

 

 

 男はそう言うと、ガルナは考えた。

 

 

(あれ?昨日、師匠が言ってたのと違うな。

 確か、オーラ量は参考にしかならないって――。)

 

 

 瞬間、男の拳がガルナに降り下ろされる。

 すぐにガルナはその拳を右手で捌いて、左拳を男の腹に突き入れた。

 男の身体にダメージは――。

 

 

「グッフホ!」

 

 

 ダメージはあったようだ。

 腹にガルナの拳を受けると、男は妙な声を出して痛がる。

 

 ガルナは対したオーラを込めたつもりはなかったが、それについては深く考えずに、攻勢に転じようと間合いを詰めた。

 

 瞬間、男は念弾を放ち、ガルナを牽制する。

 

 

 それを見たガルナは、昨晩の師匠の言葉を思い出していた。

 

 

「――オーラの性質その1、オーラは身体から分離すると、威力も硬度も格段に落ちる。

 オーラを放すのが得意な系統の奴でも、ただの念弾が、オーラを纏った拳より強いってことはないんだよ――。」

 

 

 ガルナは、師匠の言葉を思い出すのと同時に、相手の男の放った念弾を慌てずに全て弾いた。

 

 すぐに男が殴りかかってくる――。

 

 

 ガルナは、対戦相手の男の攻撃を見切り始めていた。

 

 

――ドン!

 

 

 強烈な音とともに、リング中央から砂煙が舞った。

 

 

「グフフフ、当たったぜ。

 俺のオーラ量なら粉々に――な、バカな!?」

 

 

 ガルナは、完璧に男の拳を受け切っていた。

 すると、ガルナは言った。

 

 

「それが全力?俺、ノーダメージなんだけど?」

 

 

 ガルナの言葉に、男のオーラは今までの中で最大にまで膨れ上がった。

 

 ガルナは師匠の言葉を思い出す――。

 

 

 

「――オーラの性質その2、オーラは、攻撃よりも防御の方が得意。」

 

 

 師匠の説明によると、凝で調節された同じ量のオーラ同士なら、攻撃効果はゼロだが、防御効果は完璧となる。

 

 即ち、オーラによる攻防力変化での戦いにおいて、総オーラ量の差は簡単に流の実力で覆り、しかも防御側が有利となる。

 

 大切なのは確実な防御。

 簡単に言えば、総オーラ量の差が2倍程あっても、相手の込めたオーラ量と同じ量の攻防力で防御すればダメージはない。

 

 事実、ガルナは相手の拳を、硬に近い攻防力変化でガードをしたことで無傷となった。

 

 

 しかし、その性質は同時に、攻撃の難しさとも言い換えられる。

 

 相手に有効な攻撃というのは、かなりのオーラ量の差をつけなければならない――。

 

 

 

 故のガルナの挑発だった。

 

 ガルナの硬による拳を、おそらくただの凝でガードできてしまう相手の総オーラ量。

 相当な攻防力の差をつけなければ、ガルナに勝ち目は無い。

 

 それは、ガルナなりの戦略――。

 

 体術的には、ガルナの方が上である為に、攻防力変化によって弱点を狙われてもガードする自信が、ガルナにはある。

 相手の強い堅を崩し、相手の攻防力変化の弱点を狙う作戦――。

 

 

「グフフフ、これで終わりにしてやるぜ!」

 

 

 そう言って、相手の男は間合いを詰めながら、オーラを込めた拳でガルナに殴りかかる。

 

 

(やっぱり駄目だ――。この人、硬使えないのか・・・。絶が苦手なのかもな。

 つーか、拳のオーラも全体の7割くらいのオーラ量だし、凝も出来てるってレベルじゃないな。)

 

 

 ガルナは、そう考えながらも相手の男のオーラ量の少ない場所を探す。

 

 ガルナは、男の攻撃を右手でガードして弾くと、すぐに左拳に攻防力を移動して、男の顎を打ち抜いた。

 

 

 男は何が起こったか分からないまま、崩れ落ちた・・・。

 

 

「流っていう技なんだけど、多分おじさんできないよね?

 修行不足だよ?」

 

 

 ガルナがそう言うと、対戦相手の男は既に気絶していて聞こえていない様子だった。

 

 それを見たガルナは、やれやれといった様子で大袈裟に首を横に振り、リングから出ていった・・・。

 

 

 

 

「――うん、まあまあかな?

 ガルナにしては、よくやったね。」

 

 

 師匠がそう言うと、ガルナが叫ぶ。

 

 

「ガルナにしては、て余計じゃない?」

 

 

 師匠とガルナのやり取りを、シドリアとミコトが笑って見ていた。

 師匠がシドリアの方を見て言った。

 

 

「次は、シドリアだね。

 キミは攻防力の変化を視覚以外で判断しなければならないハンデがある。

 決して無理な攻防力の変化はしないことだよ。」

 

 

 師匠がそう言うと、シドリアは言った。

 

 

「まあ、なんとかなる。」

 

 

 シドリアはそう言うと、係員に案内されて歩いていった。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 久しぶりのリング、1試合の観戦料と観客の人数を考えると、信じられない桁の興行収入だろう。

 

 私は、自身の纏うオーラを確認しながらリングに上がった。

 

 

 正直、私はある種の諦めに近い気持ちがあった。

 

 私は190階に、ガルナより大分先に着いたが、ガルナが190階に来るまで、本気でやっていなかった。

 正確に言えば、本気になることができなかった。

 

 

 私は、ガルナのようには、なれない。

 ガルナは、何も考えずに行動をし、危ないと思えば撤退する。

 

 私は逆に、考えてからでないと行動できず、危ないと思っても他に手はないか考え始め、すぐには撤退しないことが多い。

 

 

 天空闘技場で得た、それに対しての私の結論は、私はガルナのようにはなれないし、ガルナは私のようにはなれない。

 

 そんな当たり前のことを理解するのと同時に、私とガルナは良いコンビになれるような気がした。

 

 ガルナと一緒ならば、私は効果的に動ける。

 端的に言えば、私はガルナのサポート役に適している。

 

 

 ミコトも最近は、私に話し掛けてくることも無くなった。

 端から聞いていると、ミコトはガルナと雑談に興じている方が、楽しそうだ。

 

 正直、ミコトとガルナが2人で楽しそうにしているのを見ると、胸が痛くなる。

 しかし、ミコトが楽しそうに笑う様子を考えると、それを邪魔すべきではないと、頭では理解していた。

 

 私は、影に徹する。

 

 ミコトとガルナを、2人の笑顔を守ってやりたい。

 

 その為には、強さが必要だ。

 誰からも干渉されない程の強さが――。

 

 

 

 試合が始まる。

 

 私は練をして、相手のオーラの変化に注意しつつ距離をとる。

 

 しかし、どうも変だ。

 対戦相手のオーラは、試合が始まったというのに随分小さい。

 

 すると、対戦相手が何かを言った。

 

 

「お前さん、シドリア=ブライトかい?

 今まで棄権し続けたってことは、さては念の修行をしてきたんだね?」

 

 

 その声は、おそらく女だった。

 私を知っているようだが、誰だろう。

 

 

「その反応――まさか、アタイが誰か忘れたんじゃないだろうね!?」

 

「忘れたというか、知らないな。」

 

 

 女の言葉に対して、私は即答する。

 

 

「ぬぬぬ、アタイはお前さんに40階で負けたんだよ!

 全然攻撃効かないってのに、ポイントばかりうまく取られて――。」

 

 

 女は心の底から悔しそうにそう言った。

 それを聞いて私は言った。

 

 

「だとしたら、知らなくて当然だな。

 お前は、そのとき喋らなかったろう。」

 

 

 私がそう言うと、女の声色が変わった。

 

 

「は?もしかして、お前さん、目が見えないの?」

 

 

 女の言葉に、私はいらないことを言ったな、と舌打ちをした。

 

 

「へえ、なんだ。

 それを知っていたら、お前さんを倒すなんて簡単だよ。」

 

 

 女がそう言うと、何かが飛んでくる気配がした。

 

 私は、すぐにそれを回避する。

 

 しかし、突然肩に強い痛みを感じた。

 

 同時に、先程回避したオーラが、私の身体に近付くのを感じ、反射的に飛び去った――。

 

 

「なるほどね、お前さん、通常のオーラは感知できるんだね。

 しかも、今の回避の鋭さは相当なオーラ操作技術だ・・・。

 でもね――。」

 

 

 女が続きを言うかわりに、私の肩の鋭い痛みは増して、私の体は何かに引っ張られるようにリングに叩きつけられた。

 

 全身のオーラのガードで、私はリングへの叩きつけられた衝撃はガードした。

 だが、肩の刺さるような痛みはガードしきれないようだった。

 

 私は昨晩聞いた、師匠の言葉を思いだしていた。

 

 

「――念の性質その3、別人のオーラ同士は反発し合う。」

 

 

 師匠の説明によると、その2の追加説明として、纏をしたオーラは、互いにその存在を維持する性質があるそうだ。

 

 例えば、刃状に変化させたオーラでも、他者のオーラそのものは切れない。

 相手の局所的な念の防御力を越えれば、相手の身体を切ることはできるが、それはオーラそのものを切るという意味ではないらしい。

 相手の身体に纏うオーラを霧散させる程の実力差がない限り、オーラそのものを切ったりすることは不可能だそうだ。

 

 師匠曰く、形状変化の念能力は、意外と有効な対策は無く、避けるのみだと言った。

 

 

 私は頭の中で現状を分析する。

 

 私の右肩全体を覆うような範囲で刺すような鋭い痛み、それを起点に引っ張られるような感覚・・・。

 

 

「蛇のような形状変化か。

 おそらく今私の右肩に噛み付いているのは、隠を使って気配を消した2匹目の蛇――。」

 

「はあ? 蛇じゃなくてウナギだっつーの! 見れば分かるでしょ!?」

 

 

 私の言葉を聞いて、女は怒り、激しく口調を乱しながら訂正した。

 しかし、私の目が見えないことを知っておきながら「見れば分かる」とは――。

 

 実際に見ることはできないが、ムキになって訂正することから考えると、よく間違えられる造形なのかもしれない・・・。

 

 

「ま、まあとにかく、お前さん、詰んだよ。

 アタイは片手につき1匹のウナギを出せる。

 もう1匹でお前さんを縛れば、もう何もすることはできない。」

 

 

 女はそう言うと、隠を解いた。

 

 気配を辿ると、それは女の手元から私の右肩へ伸びている。

 

 さりげなく、右肩の蛇の胴体部分に触れると、大体私の腕くらいの太さだった。

 局所的にオーラを硬い性質に変化させて牙の部分を作っていると思われる。

 刺さった感じからすると牙の長さは数cm程度だ。

 

 

 対戦相手の女の蛇の能力をまとめると、3つの要素に分類される。

 

 1つ目は、噛み付き。

 牙の硬さは私程度の堅の防御力は貫通できるが、右肩を噛み砕けないことから考えて、顎力自体は大した威力ではない。

 

 2つ目は、巻き付き。

 さっき触った胴体部分の纏の力強さは、蛇の頭部よりも遥かに強い。

 おそらく女の能力で一番警戒すべきは、これだ。

 完全に巻き付かれたら、私の力では解くことはできないだろう。

 

 3つ目は、引っ張り。

 回避中だった為に、私はリングに叩きつけられたが、それにしても念でガードすればノーダメージだった。

 女の能力の中で最も威力も精度も低く、歩法を駆使すれば、耐えられる程度の力だ。

 

 

 私は、女の能力を分析しながらも、噛み付いていない方の蛇の気配が消えたことを敏感に感じ取っていた。

 十中八九、巻き付かせる為の行動――。

 

 

 私が注意すべきは、女の仕草や、殺気。

 

 隠をした能力だとしても、その能力を私に仕掛けるときに術者本人に何らかの変化がある筈。

 その瞬間が、この戦いの要であり、念能力の無い私が勝利し得る最大のチャンスでもある。

 

 細心の注意を払い、私は視覚以外の感覚で集中して、女の仕草を察知していた・・・。

 

 すぐに、女の手元が動いたのを察知した。

 女の足元が動いていないことから考えて、間違いないなく念能力である蛇の操作――。

 

 同時に私は、高く跳躍する。

 想像以上に高く飛びすぎたようだが、隠と凝を併用したオーラで跳躍力を強化したので、相手は私を見失った筈。

 予想以上の幸運は、蛇の噛む力が弱いおかげで、私の跳躍と同時に右肩の噛み付きからは開放されたことだ。

 

 すぐに滅を使い、存在を消した。

 

 

 私は、ゆっくりと懐から例のモノを取り出すと静かに女の方に投げた。

 

 

 

――閃光手榴弾

 

 

 一瞬遅れて女の視線を感じ、女が私の姿を捉えたのが分かった。

 

 しかし、もう遅い。

 

 

「ギャアアア!」

 

 

 女の悲鳴が聞こえ、私は懐からナイフを取り出した。

 落下しながら、隠をしたオーラをナイフに纏わせる。

 

 

 以前、師匠は、念能力者同士の戦いは殺し合いになると言った。

 逆に言えば、念能力者を見たら殺すつもりで戦わなければ負ける可能性が高いということ。

 私は、人を殺すことを心に決めていた。

 

 

 1週間程前に、私は1人で修行している最中、オーラを物体に纏わせることを編み出した。

 オーラの性質その1の為か、オーラを纏った弾丸を手から離した瞬間に、オーラが消えてしまうので、銃器の使用は諦めた。

 

 オーラで強化したナイフによる攻撃――。

 これならば、オーラ量の少ない私でも使える攻撃方法だと思った。

 

 

 落下のスピードをも利用し、女のオーラを頼りにナイフを振り下ろす――。

 

 

 

 

 

 しかし、私のナイフは、女の蛇に阻まれ、すぐに私の身体はもう1匹の蛇に巻きつかれてしまった。

 私は、混乱しながらも危機感を抱く。

 

 

 瞬間、私は腹部に強烈な一撃を受け、そこから意識はなくなった――。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 

「バカ! シドリアのバカ!」

 

 

 師匠はそう言って、意識を取り戻したシドリアに説教した。

 

 

 シドリアは、絶よりも更に念への耐性が下がってしまう「滅」を使用したまま攻撃を受けた。

 結果的にシドリアの腹部の内臓は、ほとんどが破裂し、上半身の骨も粉々に打ち砕かれていた。

 

 シドリアの怪我は、ミコトの能力が無ければ確実に死んでいた程の重傷だった。

 

 

「確かに、キミの念のセンスは素晴らしいよ。あの絶と隠は、かなりのレベルだ。

 それに、教えていなかった筈の、物体にオーラを纏わせる(シュウ)を使った攻撃はすごい。

 当たれば相手を確実に倒せたかもしれない――。

 でもね、反撃を喰らえば、死んでしまうような攻撃は駄目だ。博打が過ぎる。」

 

 

 師匠がそう言うと、シドリアが尋ねた。

 

 

「しかし、勝算はあった。正直、相手の目を潰した時点で勝ちは確定だと思っていた。

 何故、私の隠をした攻撃に女は気付いたんだ?」

 

(エン)という念の応用技がある。オーラの範囲を広げることで、その範囲内の物体を肌で感じるように察知する技だよ。

 あの女は大体50cmくらいの円を使えるみたいだった。

 その技の存在自体を教えてなかったのも悪かったけれど、キミにはそれ以外の問題がある――。」

 

 

 シドリアの問いに、師匠がそう答えて話を一旦止める。

 

 

 すると、小さな少女が部屋に飛び込んでくるのと同時に叫んだ。

 

 

「シドリア様は、命を粗末にし過ぎです!」

 

 

 師匠が言わんとしているその言葉を言ったのは、ミコトだった。

 叫びながら、ミコトは大粒の涙を流しながら、シドリアに抱きついた。

 

 シドリアは、久しぶりにまともにミコトに触れると、驚いて思わず心の中で思っていたことを呟いた。

 

 

「てっきり、ミコトは私よりガルナを選んだのだと思っていたのだが――。」

 

 

 シドリアは、一瞬遅く自分の失言に気付くが、それよりも先に師匠が言った。

 

 

「あのバカを選ぶ女なんかいないでしょ。ていうか、キミも大概だね。」

 

 

 師匠の呆れた口調の言葉に、シドリアは困惑しながら言葉を発せずにいると、ミコトがゆっくりと言った。

 

 

「ワタシの能力は、小さいときにいつの間にかできるようになっていた能力なので、修行すればできるかと思ったです――。」

 

「できるって何を?」

 

 

 ミコトの言葉に対して、シドリアが問いかけた。

 すると、今度ははっきりとミコトは言った。

 

 

「シドリア様の目を治せる能力をつくろうとしてたです!」

 

 

 

――!!

 

 

 シドリアは、衝撃を受けた。

 ミコトは、性懲りもなくシドリアという男を気にかけていたのだ。

 

 ゆっくりとシドリアは尋ねる。

 

 

「だとしたら、言ってくれてもいいだろう。

 ましてや、ガルナとは普通に雑談しているのはどういうことなんだ。」

 

 

 ミコトは、もじもじしながら言う。

 

 

「えと、ちっとも能力ができなくて、シドリア様とは話すのが気まずく感じてしまったです・・・。

 ごめんなさいです。」

 

 

 そうミコトが答えると、シドリアはふと自分の手の甲に、何かが落ちたのに気付いた。

 

 

 

 それは、シドリア自身の涙だった――。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 女は、決して攻撃タイプの念能力者ではなかった。

 強い念能力者のサポート役に適した能力。

 

 女は、過去に金目的でアマチュアハンターとして男と2人組で活動していたが、いつも相棒(パートナー)と恋仲になってしまった。

 

 恋仲になる前は心から愛した男への気持ちも、恋仲になった途端にすぐに冷めてしまい、恋人としても相棒としても別れた。

 

 その度に相棒を変える女は、いつしか「ハートハンター」と揶揄され、その女の相棒となることを多くの男が嫌がるようになった。

 

 

 相棒と組めなくなった女は、アマチュアの仕事の傍らプロハンター試験の予選を落ち続けるうちに、ある結論に達した。

 

 

 それは、「念能力を利用すれば、他にも億万長者の道がある」ということだ。

 

 

 天空闘技場は、格好の場だと女は考えた。

 

 念能力を駆使して、何回も階を登ったり降りたりすれば、自然とお金を稼げる――。

 

 

 しかし、女の考えていることと同じことを考えている者達は多かった。

 事実100階クラスには、職業が天空闘技場の選手というような強者がいて、中にはうまく隠してはいたが、念を使う者も紛れていた。

 

 

 女は、いつしか趣旨を変え、真剣に最上階を目指し始めた。

 

 何故なら、いつでも勝てるという強者と当たれば確実に負ける。

 ならば、発想を変えてフロアマスターに早々になって、自身の道場や会社を設立したり、企業とスポンサー契約を結んだりすればいいと考えたのだ。

 

 

 しかし――。

 

 

 

 

 

「ううう、アタイ、初めて人を殺してしまったよ。

 しかも・・・強いとはいえ、あんな子供を――。」 

 

 

 その女は、医務室の前でウロウロして独り言を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 あの試合で、女は強い光を浴びて、混乱とともに反射的に目を瞑った。

 しかし、1秒足らずの時間だとしても強い光を直視すれば、目が見えなくなる。

 

 目が痛くて女の視界は塞がれてしまった。

 

 すぐに、女は円を使うことを試みる。

 

 女の円は、防御専用の範囲も狭いものだった。

 女の円に触れたそれは、間違いなく刃物。

 

 女は恐怖と焦りで咄嗟に、ウナギに形状変化させたオーラで防御し、長年の経験から来る条件反射ともいうべき早業で、相手をもう1匹のウナギで拘束した。

 

 

 アマチュアハンター時代は、ここで仕事が終わった。

 しかし、女はすぐに1人で戦っていることを思い出し、全力のオーラを込めたパンチを放つ――。

 

 

 インパクトの瞬間、女は相手の内臓が破裂する感触を感じた。

 

 円で相手の位置を把握している為に、また目を瞑っているせいで普段慣れている相手のオーラを視ることができなかった為に、手加減というものをする余裕がなかった。

 

 

 数分後、女の目が回復して、ゆっくりと目を開ける。

 対戦相手の少年が既に倒れて、大量の吐血でリングを赤く染めたまま動かなくなっていた。

 女は初めて人を殺してしまった嫌な感触をその拳で感じていた・・・。

 

 

 

 

「――お姉さん、何してるの?誰かのお見舞い?」

 

 

 背後から、刈り上げた金髪の少年が、女に声を掛けてきた。

 

 

「あ、いや、そういうわけじゃなくて、アタイは――。」

 

 

 女は戸惑いながら、しどろもどろにそう言っている、金髪の少年は首を傾げて言う。

 

 

「違うなら、どいてくれない?俺、友達のお見舞いに来たんだ。」

 

 

「え!?まさか、シドリア=ブライト?」

 

 

 女はそう叫ぶと、答えも待たずに金髪の少年の腕を掴んで言った。

 

 

「あの子なら、アタイの部屋にいるから!!」

 

 

 女は、考えるより先にそう言うと、思った。

 

 

(こんな子供に、友達の死体を見せるわけにはいかない――。)

 

 

「あれ?お姉さん、シドリアの知り合いなの?」 

 

 

 金髪の少年はそう言うと、女の嘘を疑うこともなく、女と一緒に、女の部屋に向かった――。 

 

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