DUAL BULLET   作:すももも

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24.始動

「お待たせ致しました。」

 

 

 

 給仕がそう言って、1皿の料理を静かにテーブルの上に置いた。

 

 アイジエン大陸の民族料理であるそれは、豚肉を秘伝のスープを使い、独自の煮込み方で3日3晩煮込んだもの――。

 

 女は、ゆっくりとその肉を口に入れると、ほとんど噛むこともなく肉が口の中で溶けるのを感じた。

 秘伝のスープを余すことなく吸いとった豚肉は、旨味の塊と言っても過言ではない。

 

 口の中で溶けたエキスは、女の身体中を一瞬にして駆け巡り、閃光のような旨味が眼前に広がっていく――。

 

 

 天空闘技場の近くの料理店で、女は最後の夕食を食べていた。

 

 

 女は、メインディッシュを心の底から楽しんだ後、オリエンタルな味付けのダンゴに似たデザートと一緒にコーヒーをゆっくりと飲む。

 

 女がコーヒーを飲みながら、何気なく自分の髪を触ると、随分伸びていることに気付いた。

 女の金髪は癖毛なので、意図的に伸ばし過ぎないようにしていたが、しばらく髪を切ることを忘れていたようだ。

 

 女は、誰もいない空間で1人、呟いた。

 

 

「いっそ、思い切り短くしてみようかな?ショートって試したことなかったもんね。」

 

 

 女は独り言を言うと、コーヒーを飲んで、目を瞑り、空想の世界に浸る・・・。

 

 しばらくすると、店の奥から店長が、しっかりとした足取りで歩いてきた。

 

 

「サクラバさん、おかげさまで、持病からは解放されました。

 今さら格闘技はできませんが、料理を続けることができます。」

 

 

 店長は深々と頭を下げ、女に対して感謝を言った。

 

 すると、金髪の女は、手をヒラヒラさせながら軽い口調で答えた。

 

 

「いやいや、立法や緩歩を覚えたのは、店長の努力のおかげだよ。ボクは手助けしただけだし――。」

 

 

 女がそう言うと、店長は心から感動して、目に涙を浮かべて微笑んだ。

 

 

 

 

 過去に格闘家として長い間身体を酷使した結果、店長は腰痛を患ってしまっていた。

 

 偶然、店に客としてやって来た女は、店長の身体の使い方を見て、アドバイスをする。

 

 当然、店長は女に歩法の伝授を頼み込みんだ――。

 

 

 ガルナ達の師匠であるサクラバは、ミコト達を里に送るとすぐに、天空闘技場周辺にある通称「テンマチ」と呼ばれる商店街に戻ってきた。

 腰痛持ちの料理店の店長の歩法の指導の為――。

 

 約10ヶ月間、店は夜のみの営業にして、店長は日中の間、毎日女に歩法を習った。

 

 

 格闘技の初歩は、指導者の技を目で見て盗むところから始まる。

 この能力が高い者は、才能があると言われることが多い。

 また、ある程度の素質がある者ならば、何回か見れば真似ができる。

 

 しかし、店長は、ずば抜けてその類いのセンスが劣っていた。

 

 

 技を盗むには、「観察力」と「理解力」が必要だ。

 「観察力」とは、相手の挙動を目で見て、情報収集する能力のこと。

 この能力が高い者程、正確に他人の技を映像として記憶できる。

 

 次に「理解力」は、収集した情報を整理して、その手順や力の掛け具合やタイミングを理解する能力だ。

 映像として完璧な記憶が出来ても、この能力が低ければ、技の習得は不可能だろう。

 

 また盗んだ技を行使する為には、それらに加えて「想像力」が必要だ。

 自分自身の身体の動きを想像する能力――。

 空間認識能力や、運動に関する脳内プログラム、いわゆる条件反射が不可欠だ。

 

 

 店長は、これら全ての能力が人よりもかなり低く、特に「想像力」は人よりもかなり劣っていて、頭では理解していても動きをトレースする程の強いイメージが持てず、見て理解した動きを再現するのに多くの時間を必要とした。

 

 

 師匠は店長に教えながら、かつての弟子達の素質の高さを再認識した。

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!」

 

 

 店の出口で店長に見送られ、サクラバはニコリと笑って別れを告げた。

 

 

 サクラバは、タクシーを捕まえて行き先を告げると、満腹感からか、急激な眠気に襲われた。

 もしかしたら、軽く飲んだつもりの高級ワインが、今になって回ったのかもしれない。

 

 空港に着くまで時間がある。

 女は少し考えてから、目的地に着くまで、眠ることにした。

 

 

 

「才能か・・・。

 あいつら、元気にやってるかな?」

 

 

 女は、まどろみの中で小さくそう呟き、意識は夢の中に深く沈んでいった・・・。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「なんだこれは!?」

 

 

 シドリアが、怒りの表情で1人叫んだ。

 相変わらずシドリアは自分の目を封印していて、手の平に影のオーラを展開してパソコン画面を見ている。

 

 その様子に突っ込みを入れることもなく、俺は普段通りの口調で答えた。

 

 

「何って、ゲームだろ?プロハンター専用の――?」

 

「ガルナ、ゲームってのは、どれもこんなに高いのか?」

 

 

 シドリアは俺の方を向いて、そう言った。

 

 俺は少し面倒に思いながらも、シドリアが見ているモニターを覗いて言った。

 

 

「定価で58億ジェニーか。むしろそれより販売個数が100本って少なすぎるよね?」

 

 

 シドリアは少し考えながら、俺に言った。

 

 

「そうなのか?私はゲームといえば、ボードゲームしかやったことがないからな・・・。」

 

「そうなの?俺も実家にあったジョイステ2を適当に遊んでたことしかないけど・・・。」

 

 

 

 

 ハガクシ兄弟の言った「ハンター専用のGI」という言葉から「グリードアイランド」というゲームに行き着いた。

 電脳ネットで検索をかけたら割りとすぐに分かったことだが――。

 

 

 1987年発売のハンター専用のゲームで、限定100本の商品に対し200倍の注文があったらしい。

 確かにレアなビデオゲームという意味では凄いけれど、俺には疑問だらけだった・・・。

 

 

 

「――でもさ、問題はコレが本当に姫の目を治す手段になるの?」

 

 

 沈黙を破るように、俺は聞いた。

 

 いくつか検索結果は出たけれど、これはさすがにおかしいと思った。

 

 何故ならば、これはただのゲームだ。

 薬や、病院とかではなく、ゲームが手掛かりだとハガクシ兄弟が言うとも思えない。

 何より、ゲームで目が治るなんてありえないと思う。

 

 

 シドリア自身、考えがまとまっていないらしく、ゆっくりと言葉を発した。

 

 

「ハガクシ兄弟は、プロハンターだ。

 しかし、何のハンターか聞いたことあるか?」

 

 

 俺は、シドリアの予想外の言葉に首を振る。

 事実、今まで気にしたことも無かった。

 

 俺は、彼らの乱暴な言葉使いや、振る舞いが少し苦手だったし、同じ家に住むのだけでも凄く疲れるから、できるだけ関わらないように会話も避けていた。

 当然、ハガクシ兄弟の仕事について興味を持つことも無かった。

 

 むしろ、それはシドリアもそうだとばかり思っていたんだけれど――。

 

 

「彼らは、玩具(トイ)ハンターだ。

 昔、ミコトが引き取られた際、里に大したオモチャが無くて兄弟2人で工夫して作ったり、遠くの街に入手しに行ったのがきっかけで目指したそうだ。

 彼らが、プロの活動の合間に見つけた手掛かりがゲームというのは、整合性がとれる。」

 

 

 俺は、シドリアの言葉に感心したが、ある疑問点が浮かんで答える。

 

 

「でもさ、やっぱりゲームで目が治るってありえないと思うんだけど――。」

 

 

 俺がそう言うと、シドリアはまた考え込んだ。

 正確に言うと、おそらく元々その疑問はシドリアにもあったんだろう。

 俺の言葉で疑問がハッキリとしてしまって、悩んでいるように見えた。 

 

 少しの沈黙の後、シドリアは何の考えも無いように俺の言葉を復唱した。

 

 

「ありえない。確かにありえな――。」

 

 

 シドリアは最後まで言うことも無く、何かが閃いたような顔で言った。

 

 

「そうか、ありえない現象はあるんだ!」

 

「何の話?」

 

 

 シドリアの呟きを理解しきれず、俺は尋ねた。

 すると、シドリアは目を輝かせて言った。

 

 

「念能力だよ。ゲームを使った念能力があってもおかしくはないだろう。

 おそらく、具現化系か操作系の――。」

 

「あああ!」

 

 

 俺もそう言われて、納得した。

 なんで、こんなこと思いつかなかったんだろう。

 

 確かに、ビデオゲームは、魔法や超能力を題材にしたものも多い。

 念能力との相性はいいのかもしれない。

 

 

 瞬時にイメージが生まれて、俺は言った。

 

 

「確かに、RPGなんかじゃ死人すら生き返せる魔法とかもあるしね。

 念を使ったらそこまでは無理でも、目を治すくらいのことはできるかもしれない!」

 

 

 俺がそう言うと、シドリアが聞いた。

 

 

「あーるぴーじーって何だ?」

 

 

 俺は、シドリアの質問に驚くとともに、この問いに答えたらシドリアに殴られるという、確信めいた強い予感がした・・・。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 

 シドリアはガルナの予想通り、ゲームについて知識があるガルナが、ゲームと念能力を結び付けて考えなかったことに酷く腹を立てて、ガルナに制裁を加えた。

 

 しかし、シドリアはすぐに気を取り直して、今後のことを考え始める。

 

 

「金が必要だな。それもできる限り――。

 個人間での売買では、レアな物は高値が付く傾向にある。」

 

「でも、今までの仕事じゃあまり金稼げないよね?」

 

 

 ガルナの言葉に、シドリアは考え込んだ。

 確かに、ガルナの言うとおり、今は情報屋の小間使い程度の仕事しかこなせていない。

 

 

「正攻法をやめる、しかないな。」

 

 

 シドリアはそう言って、まだ完璧ではない計画をガルナに説明した。

 

 

 今までシドリアは、ハンターとしての下積みを優先していた。

 

 役割分担を決めて、各自の担当をこなす――。

 

 また、自ら課した両目を封印するハンデや、自身の念能力の未熟さ、何よりもガルナの性格から判断して、難易度の低い小さな依頼を完璧にこなせるようになることを目標にしていたのだ。

 

 それは、将来を見据えての判断――。

 すぐに完璧にならなくてもいい。しかし、ゆっくりと確実に2人が成長していける道を選んだのだ。

 

 

 それを今後はやめる。

 

 それが、どのような結果になるかは分からない。

 当然、報酬の高い依頼程、危険も高い。

 

 判断を誤れば、死ぬかもしれない。

 犯罪者になってしまうこともありえる。

 

 

 だが、光明が見えた今、シドリアに躊躇いは無かった――。

 

 

「危険が大きい依頼が増える。私は目を封印しているから、戦闘ではガルナに前線を担当してもらうことになる。」

 

「――いいね、それ。むしろ今までの依頼って小難しいのが多くて、嫌だったんだよね。」

 

 

 ガルナが嬉々としてそう言った。

 

 シドリアは内心、ガルナにハンターとしての判断力も鍛えて欲しいという想いがあったが、それを意識の外に追いやって言った。

 

 

「私は、自身の念能力の精度をもっと上げて、情報収集担当としても特化していこうと思う。

 お前は何も考えなくていい。その代わり、指示には従ってもらうぞ。」

 

 

 だが、それが意味するものが、親友のガルナをただの駒として使うということだということは、シドリア自身理解していなかった・・・。

 

 

 

 

 1995年3月、シドリアの優れた手腕により、アマチュアハンターの中で2人の名前は売れ出していた。

 15歳の凄腕の2人組のアマチュアハンターがいると――。

 

 

 シドリアは、ガルナに何も言うこと無く、さりげなく情報屋のネットワークを使って、2人の出生については情報封鎖をした。

 

 里に帰ることもなく、2人は毎日何十件という依頼をこなし、結果的に2人の戦闘力は上がり、シドリアの情報収集力と指揮管制能力も向上した。

 

 

 

 

 

 

「――ゲヘヘ、何だお前、ガキじゃねえか。」

 

 

 髭を生やした体の大きな男が言った。出っ張った腹は、彼の着ている白いTシャツからはみ出している。

 

 男と対峙する少年、ガルナ=ポートネス。隙の無い構えをとり、路地裏まで目の前の男を追い詰めていた。

 

 

 瞬間、両者は間合いを詰める――。

 

 ガルナの拳が僅かに早く、男の顔面を捉えた。

 しかし、男はひるむことなく反撃を繰り出す――。

 

 高速の攻防。お互いが流を用いて、虚実織り交ぜた死闘を繰り広げる。

 

 

 男の攻撃を屈んで避け、ガルナは流れるように男の懐に潜り込み、全力で殴った。

 男の腹にガルナの拳が命中すると、男は吐血しながら前のめりに地面に倒れ込んだ。

 

 

「ふう、結構強かったね。このオジサン――。」

 

 

 髭の男を見下ろしながら、ガルナは言った。

 ガルナは懐から通信端末を取り出そうとする――。

 

 

――――!!

 

 

 瞬時に、ガルナは後方に跳躍した。

 だが、僅かに反応が遅れ、端末を握ったガルナの右腕は切り取られていた・・・。

 ガルナは相手を見据えながら、素早く止血をする。

 

 

「フウ、フウ・・・!」

 

 

 髭の男はダメージを負ってはいたが、既に立ち上がり50cm程度の長さのオーラの刃を右腕から伸ばしていた。

 

 ガルナが回避しなかったら、確実に致命傷になっていただろう。

 

 

「驚いたな。強化系だと思ってたから油断した。」

 

 

 ガルナは内心痛みを堪えながらも、平気な様子でそう言った。

 ガルナの見たところ、髭の男の方がダメージは大きい筈。焦らなければ問題ないと思った。

 

 その刹那――。

 

 

「ガハッ!!」

 

 

 髭の男の腹から腕が伸びていた。

 数秒の後、男は目を開いたまま呼吸が止まった。

 

 ガルナは一瞬、強く警戒をしたが、すぐにそれを解いて口を開く。

 

 

「なんだ、シドリアか――。」

 

 

 シドリアは、絶よりも遥かに隠密性の高い滅で気配を絶って男の背後に忍び寄り、凝と隠を併用した貫手で髭の男を絶命させていた。

 

 

「ガルナ、腕大丈夫か?」

 

 

 自身の腕に付いた返り血を拭き取りながら、シドリアは淡々とした口調でそう聞いた。

 

 

「ああ、問題ないね。」

 

 

 ガルナはそう言って、シドリアと一緒に宿に戻った。

 

 

 

 

 ガルナが宿に入るとすぐに、叫び声が聞こえた。

 

 

 

「ガルナ!!また怪我したです!?」

 

 

 そう言ったのは、ミコトだった。

 

 ガルナが返事をする前にミコトの治療が始まる。

 

 

 

「なんで、ガルナの怪我に気付くんだ?」

 

 

 シドリアがミコトに聞いた。

 

 

「血の匂いとか、足音の違いで痛がってることは分かるです!

 あとは、今は円の範囲も広くなったからです。」

 

 

 

 

 いまや100m級の円を展開できるミコトの実力を認め、長老も里を出ることを許可した。

 

 また、ハガクシ兄弟がGIを求めて里を出たことが幸いし、3人はチームとして活動を始めることが出来たのであった。

 

 ガルナ達が本格的に活動するにおいて、ミコトの能力は有力だった。

 ガルナやシドリアの負傷を治療することが出来るので、活動もかなり積極的に出来た。

 

 もちろん、ミコトの能力は決して誰にも悟られてはならないので、情報屋のネットワークでは、チームは2人組ということになっている。

 

 

 

 

「――そういえば、チーム名考えたです?」

 

 

 治療が終わると、ミコトはガルナに聞いた。

 

 

 3人の中で、チーム名はガルナが考えることになっていた。

 共通語圏内で生まれ育ったガルナかシドリアが考えるのが順当となり、単純にシドリアが面倒に思っただけであるが・・・。

 

 

「うん、『ブリッツ』って名前にしようと思うんだ。」

 

 

 

 3人組のチーム『ブリッツ』が始動した――。

 




 お待たせしましたー!

 連載再開です。毎週金曜日よろしくおねがいします(^-^)ノ
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