葉隠の里出身のシノブ=サクラバは、持ち前の身体能力と鍛え抜かれた技を認められ、15歳という若さでハザマ家専属の忍として重用された。
いわゆるお抱え忍者の日常は、平和で退屈とも言える程であったが、シノブは気にしなかった。
城下町は栄えていて、娯楽には事欠かなかったし、何よりもマイペースなシノブの性格から、都会の日常をゆったりと過ごした。
新鮮な海鮮物は、山奥の里で生まれ育ったシノブにとって初めて食べるものが多く、すぐに気に入った。
シノブが17歳の夏の暑い日、特に仕事も無く、シノブはハザマ家の屋敷の縁側に腰を掛けて涼んでいた。
一応、碁盤と碁石を用意したが、その日は余りに暑くてやる気になれず、シノブは1人で内掛けの襟元をパタパタと扇いで暑さを紛らわす。
シノブがしばらくそうしていると、誰かの視線に気付き背後をゆっくりと振り返った。
しかし、背後には誰も見当たらない。
シノブは首を傾げながらも、間違いなく誰かが隠れているのを確信し、妙なイタズラ心が生まれてその場から跳躍した――。
シノブの優れた歩法技術と、凝で適度に強化した跳躍により、シノブは音もなくその場から屋敷の屋根の上に移動した。
絶で気配を消して、シノブは静かに屋根の上で潜む。
シノブの心の中はイタズラ心で一杯であったが、しっかりと戒めてそれを表に出すことはしなかった。
5分程経つと、何者かがゆっくりと現れる。
その男は、シノブの腰掛けていた縁側付近をキョロキョロと見渡し、仕舞いには縁側の下に潜り込んで探しだした。
潜り込んでいる間、尻だけがフリフリと動き、その様子があまりにも滑稽で、シノブは笑いそうになるのを必死に堪えていた。
シノブはそろそろ頃合いかと思い、絶を維持したまま屋根から飛び降りる。
流れるような動作で、シノブは音もなく男の背後に忍びよった。
男は背後のシノブに気付かないまま、その尻は変わらずフリフリ動き続けている。
堪らずシノブは尻を景気よく叩いた。
パシンッという軽快な音が辺りに鳴り響き、驚いた男は飛び上がり、頭をゴツンと縁の下に強くぶつけた。
縁の下から尻を出しながら、頭を打った痛みでもがいている。
それを見たシノブは、あまりの滑稽さにケラケラと笑いだしてしまった。
頭をさすりながら這って出てきた男は、シノブより幾らか年下の少年であった――。
笑い過ぎて涙を浮かべながらも、シノブは屈んで少年に片手を差し出した。
しかし、どういう訳か、少年は手を掴むことはしない。
強く頭を打ち過ぎたのかと、シノブは少年を心配するが、すぐにそれが杞憂であることを理解した。
少年の視線は、まっすぐシノブの胸元に向けられていたのだ。
視線に気付くと同時に、シノブは屈んだ体勢を整え、襟元を直した。
いくら忍として訓練されてはいても、年頃の娘が胸元を覗かれることを快く思う筈もない・・・。
シノブ=サクラバは女だった。
シノブの咎めるような表情を見てから、誤魔化すように少年は聞いた。
「お、お前、何者だ?」
シノブは、先程までの楽しかった気持ちを忘れたかのように、憮然とした表情で無言のままだった。
すると、少年は名乗った。
「俺は、ナガヒサ=ハザマだ。」
「な!?キミが殿の子供だっていうのか!?」
ナガヒサの言葉にシノブは、心から驚いて叫んだ。
同時にシノブは、知らなかったとはいえ、将軍の息子の尻を叩いた無礼に対する自分への処罰について頭の中で考え始めた。
最悪打ち首、良くても解雇――。
しかし、ナガヒサは、シノブの考えていることなど構うことのない様子で言った。
「お前、なかなか凄い奴だな。俺の家来にしてやる。
早速出掛けるぞ!」
それが、後の将軍となるナガヒサ=ハザマとシノブ=サクラバの出会いだった・・・。
ナガヒサは、城下町を散策するのが好きで、そのときは警護役としてシノブも連れて歩くようになった。
町の屋台で買い食いをしたり、2人で芝居を見たり、祭の夜は2人で花火を見に行った。
いつの間にか、お互いが好意を抱いていた。
しかし、決してそれを口にすることもなく、良き友人として過ごしていた。
シノブは、将軍家の忍としての分別があったから、絶対にその気持ちを表に出すことはしなかったし、ナガヒサの気持ちに応じるつもりもなかった。
ナガヒサが正式にハザマ家当主となり、同時に将軍になった時は、祝う為に2人で朝まで飲み明かした。
朝になり、ナガヒサが眠ったことを確認すると、シノブは何も言わずに立ち去った。
それ以後、将軍としてナガヒサが忙しくなり、シノブはナガヒサと一緒に町に出ることもなくなった。
それから10年が経過した。
1970年の動乱時、誰もが平和に酔って、差し迫る危険に気付く者はいなかった。
――唯一人を除いて。
シノブは、当時決して立ち寄ることのなかったナガヒサの部屋に躊躇うことなく入り、ナガヒサの命を救った。
すぐにシノブは亡命を提案する。
当主であるナガヒサにとって、それは間違いなく苦渋の選択であった――。
流星街に着いてからナガヒサの無事を確認すると、シノブは離れた場所に家を建てて静かに暮らした。
ナガヒサは、かつての家来を縛ることもなく、自由に生きるように言った。
文字通り自由に生きた者もいたが、多くの家臣はナガヒサ本人を慕って、協力して生きていた。
シノブはどちらの生き方をすることも出来ず、これならばいっそ、強制的に家来にされた方がやりやすいとさえ考えていた。
心情的にナガヒサを守りたかったが、それをすれば諦めたはずの恋心が復活してしまうのは目に見えていたからだ。
時には、地元の人間とトラブルもあるようだったが、ナガヒサはかつてとは比べ物にならない程懸命に働いていた。
シノブはその様子を見て安心し、流星街で1人生きていた。
風の噂で、ナガヒサの奥方は出産時に亡くなったらしい。
シノブは何ともいえない気持ちになったが、自分の中の気持ちを押し殺し続けた。
それから数ヶ月後、シノブは娘を産んだ。
シノブは、娘の名をヒソカと名付けた。
父親が誰かは、シノブ以外は分からない。
シノブは、決して誰にも父親のことを言うことはなかった。
シノブ亡き後、ヒソカ=サクラバは、シノブ譲りの身体能力と念の実力から、サクラバ家当主として認められた。
★★★★★★★★★★★★★★★
「ねえ、シドリア?」
「何だ?」
任務中に2人で山の中を歩いていると、ガルナがシドリアに声を掛けた。
ぶっきらぼうにシドリアが応じると、ガルナが聞いた。
「俺の念能力、なかなか完成しないんだけど・・・どうすればいいかな?」
ガルナの問いに、シドリアが驚いて言った。
「お、お前、念能力つくる気があったのか?
てっきり何も考えていないのかと・・・。」
シドリアの物言いに、ガルナは少しへこみながら答える。
「考えてるよ!
特殊効果のある具現化した弾丸を使う能力なんだけれど、強度不足で使い物にならないんだ。」
それを聞いた途端、シドリアは内心呆れたが、努めて冷静に答えた。
「その能力が良いか悪いか別にするならだが――。
具現化自体が可能で、発動に不具合があるなら、何かの制約を付ければいけるんじゃないか?」
「制約?」
シドリアの言っていることが理解しきれず、ガルナは聞き返した。
ゆっくりとシドリアは説明を始める。
「制約と誓約のことは聞いたことがあるだろう?
放出系能力者は、具現化が苦手な反面、具現化さえキッチリできてしまえば持続させるのは得意なのだから――。
例えば、具現化できる数を限定するとかかな?」
「弾丸の数ってこと?MAXで6発にしてるよ。
それでも駄目なんだ。強度が無さすぎて、触っただけで崩れちゃう。」
それを聞いたシドリアは、ガルナが予想以上に自分の能力開発について深く考えていることに、衝撃を受けた。
シドリアは、すぐに首を振って答える。
「だったら、私よりも師匠に聞いた方がいい。
そうだな――。せっかくだから、この仕事を終えたら一度里に戻ろうか?」
1995年5月25日、ガルナ達はハガクシの里に着いた。
「いつ以来だっけ?随分懐かしいね!?」
ガルナがシドリアとミコトに対してそう言うと、ミコトが元気よく返事をした。
「はい!久しぶりの里のゴハンが楽しみです!」
「確かに、しばらくジャポン食を食べていないな。」
久しぶりのジャポンでの食事に期待感を持ったミコトの言葉に、シドリアも相槌を打つ。
3人が長老の家に着くと、長老は優しく向かい入れてくれた。
「お待ちしておりましたよ。
3日前に突然帰省する連絡を受けた時は、心底驚きました。」
長老はそう言ってから、ミコトに言った。
「ミコトも、随分と大きくなって――。」
長老は感慨深くそう言いながら、ミコトの頭を優しく撫でた。
その光景は、まさしく親子のそれだった。
血は繋がっていないが、確固たる絆を感じさせる。
ガルナは、その様子を見て微笑んだ。
――――!?
瞬間、強烈な殺気を感じ取った。
咄嗟に3人は身構えて、臨戦体勢を取る。
ガルナは誰よりも早く安定した堅をしながら構え、シドリアは戦闘用の影である映影を展開し、ミコトも超人的な範囲の円を展開していた。
「へえ!3人共、随分成長したようだね?
姫の円も並の使い手を凌駕する勢いだ!」
殺気の正体、それは、ガルナ達の師匠だった。
師匠もまた、連絡を受けて長老の家で待ってくれていたのだろう。
「ちょ、ヒドイ!今の殺気って師匠?」
「ビックリしたです!」
「こうしてみると、師匠の実力は計り知れないな・・・。」
3人が口々に思い思いのことを言うと、師匠は拗ねた様子で言った。
「キミ達だってヒドイよ。
ボクがテンマチから戻ったら、3人共
暇だし、寂しかったんだよ?」
ガルナ達は、師匠に何の連絡もせずに里を出たことを思い出すと、不自然な笑い方をして誤魔化した。
師匠は、3人の様子をジト目で見てから、何かに気付いたように口を開く。
「でも、しばらく見ない間に、皆ホント変わったね?
シドリアは、随分背高くなってるし。
姫なんて、ボクよりも胸が――いや違くて、見違えるように女性らしくなったしね・・・。」
事実、天空闘技場を出てからシドリアは急成長を遂げ、いまや身長が180cmを越えていた。
ミコトは相変わらず身長は低いが、その体は女性らしく成長していた。
師匠は、なけなしのプライドから、ミコトの成長については言及を避けた。
「師匠!俺も伸びたよ!?」
ガルナは、元気よく師匠にアピールする。
ガルナもまた、天空闘技場を出てから、身長が10cm程伸びていた。
「うん!ガルナも大分伸びたね!」
師匠がそう言うと、ガルナはニコニコしている。
同じようにニコニコ笑いながら師匠が続けて言った。
「随分と髪が伸びた!」
それを聞いて、ガルナは精神的なダメージを受けて床に手をついた。
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「ふーん?ハンター専用のゲームねー。」
ガルナの髪を刈り終わり、最後にシャンプーをしながら師匠は言った。
「ボクはゲームってよく知らないけど、それって念能力絡みのゲームなのかな?」
師匠の予想に対して、シドリアが驚いて聞いた。
「な、何故分かるんです?」
シドリアの言葉に、師匠は首を傾げて言った。
「だって、じゃなければ『ハンター専用』とか言わないでしょ?」
しばらくの沈黙の後、師匠は首を傾げて聞いた。
「あれ?ハンターってプロアマ問わず、念能力者だってことは知ってるよね?」
師匠の言葉に、3人はハッとして、それぞれが言った。
「ワタシ、知らなかったです!」
「そう言われてみれば、確かに俺達が仕事で関わる人間は、全員が念能力者だった!」
「そうか、私達がやけにすんなり仕事にありつけたのもそういう事情があったからか・・・。」
3人の戸惑う様子を見ながら、師匠はケラケラと笑っていた。
シドリアは少し赤面し、話題を変えようと、違う話を始めた。
「実は、私とガルナが自らの念能力で行き詰まっているのですが・・・。」
シドリアの言葉に、ガルナは驚いた様子で何かを叫ぼうとするが、師匠に洗面台のシャワーをかけられていたので何も言えなかった。
ガルナの頭を洗い流しながら、師匠はシドリアに聞いた。
「ガルナのは大体予想できるけど、シドリアは?」
シドリアは、頷き説明を始める。
「実は、立体的な影のオーラを検討しているのですが――。」
「ふーむ。キミが考えそうなことだね。でも立体的な影って見たことあるかい?」
シドリアが首を振ると、師匠は言った。
「人のイメージできないモノは、念で再現しきれないからね。
つまり、『立体的』ってイメージをしたら、影のイメージを付与しづらいんじゃないかな?現実に見たこともないだろうし――。」
「なるほど・・・。
影の性質に合わせてイメージをした方がいいのか。ということは――。」
シドリアは、実際の影のイメージを浮かべ、納得した。
シドリアの影は、見た目状は実際の影と同じようにしか展開できないのだと、シドリアは理解した。
「――はい、終わったよ!」
シドリアが考えている間に、師匠はドライヤーでガルナの頭を乾かし終わっていた。
普段から見た目に気を遣わないガルナだが、久しぶりに師匠に切ってもらうと、スッキリした様子だ。
「それで?もしかしてガルナは、まだ拳銃の能力を頑張ってるわけ?」
師匠がそう聞くと、ガルナは叫んだ。
「弾丸の強度が足りなくて、どうにもできないんだよ!」
それを聞いた師匠は少し驚いて言った。
「え?具現化に成功しちゃったの?」
ガルナは頷くと、皆の目の前で念能力を披露した。
△△△△△△△△△△△△△△△
1週間後、長老が師匠の家を訪ねた。
「悪いが、急にドミクサが必要になったのだが、切れてしまっているので、今すぐ採りに行ってくれないかね?」
師匠は、嫌がる様子もなく了承しようとするが、何かを思い出すと慌てて言った。
「ああ!ゴメン長老!3日後に人と会う約束があるから行けないや!」
ドミクサは、高い効果のある薬草であるが、海沿いの崖にしか生息せず、里から移動すると数日はかかる。
長老が困っていると、長老の背後の扉が勢い良く開いた。
「ありがとう!師匠のアドバイス通りやったら、できたよ!」
師匠の家に入ると同時に叫んだのは、ガルナだった。
師匠は、長老と顔を見合わせ笑うと、ちょうど良い所にちょうど良いハンターが来たと、小さく呟いた。
2日後、ガルナは断崖絶壁の崖にしがみついていた。
「――ふう!やっと見つけた!」
ガルナはそう言って、崖の中腹にある野草を採取すると鞄に入れた。
あまりに疲れたので、ガルナは崖の窪みに器用に腰を掛けて休憩し始める。
ガルナの下方の崖には激しい波が打ち込み、潮風がガルナの汗ばんだ頬を撫でた。
――ピリリリッ
突然、ガルナの携帯端末が鳴り始めた。
嫌がる表情をしながら、ガルナは端末を操作する。
「ガルナ、休憩している暇はないぞ?」
「ぐ!シドリア?
まさか、また影で見張ってるの?」
通話相手のシドリアに、ガルナは周りをキョロキョロと見渡しながら言った。
「長老は急いでいるんだ。早く戻ってこい。
お前の能力なら簡単だろ?」
シドリアはそう言うと、不敵に笑いながら一方的に通話を切った。
ガルナは軽く舌打ちをして、端末を懐にしまう。
「さて、戻るか!」
ガルナはそう言って、活を入れると、能力を発動した――。
数日後の夕方、ガルナ達ブリッツの3人は里に戻った。
「――長老、これで良い?」
ガルナはそう言って、長老に野草を渡した。
長老は喜んでそれを受け取る。
「いやはや、早かったですな?助かりました!
普段は息子達かサクラバ殿に頼むのですが――。」
「サクラバ?」
ガルナは首を傾げながら長老に聞いた。
シドリアは、すかさず言った。
「ヒソカ=サクラバ、私達の師匠の名だ。」
「あ、師匠のこと?
俺、師匠の名前知らなかった!」
シドリアが呆れた顔をしていると、ミコトが長老に聞いた。
「それで、お姉ちゃんはどこ行ったです?」
「確か、誰かと会う約束があるとか言っておったぞ?」
ミコトは、懐から本を取り出してガッカリした様子で言った。
「せっかく、途中で寄った町の本屋さんでお姉ちゃんが好きそうな本を探したのに、残念です。」
「でもさ、試しに皆で師匠の家に行ってみようよ?」
ガルナがそう提案した。
夜は遅かったが、ガルナ達3人は、師匠の家に向かうことになった。
ガルナ達が師匠の家に着くと、家の中は暗く、誰の気配も無かった。
何故かガルナは、嫌な予感を感じていた。
ミコトは溜め息をついて、予想通りの師匠の不在を嘆く。
実は、ミコトは内心、本を読んでもらおうとしていたのだ。
「誰かと会う為に、出掛けているんだろう。また今度に――。」
シドリアの言葉を遮って、ガルナが叫んだ。
「待って!念文字だ!『北の森』って書いてある!」
ガルナは、壁にオーラで書かれたジャポン語の文字を、凝を使って読み取っていた。
オーラで書かれた文字が意味するのは――。
3人は、尋常ではない事態を察知し、急いで北の森に向かった。
北の森は、里の出入り口の反対側に存在し、よく修行に使われている場所だ。
3人が北の森に着くと、自然と緊張感に包まれた。
すぐに、ミコトが鋭く呟く。
「血の匂いがするです!」
「奥に誰かいるな。」
ミコトとほぼ同時に、シドリアは異様な気配を感じて言った。
2人の言葉を聞く前に、ガルナは走り始めていた。
先程よりも強く、吐き気がするような嫌な予感が、ガルナの身体を動かしていく――。
ガルナが着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
師匠は倒れて、そこには妙な服装をした男が立っている・・・。
すぐにガルナは、男に攻撃を仕掛けた。
しかし、ガルナの全力の拳は難なく男に防御され、視線が交錯する――。
ガルナは男と目を合わせた途端に言葉を失い、逃げるのも忘れて、ただその場に立ち尽くしていた・・・。
遅れて、シドリアとミコトが辿り着いた。
「お姉ちゃん!?大丈夫です?」
ミコトが、素早く倒れている師匠の元に駆け寄った。
ミコトは、治癒の念能力を試みる。
シドリアは、戸惑いながらも、ガルナに声を掛けた。
「ガルナ、何をしているんだ!?」
ガルナは何も言うことなく、震えながら立ち尽くしていた。
シドリアは、軽く舌打ちをしてから、戦闘用の影の映影を展開した。
映影は、その解像度と範囲を意図的に限定した影だ。
その解像度は、対象のシルエットを判別する程度だが、シドリアが動いても変わりなく展開し続けられるので、高速戦闘に対応できる。
シドリアは臨戦体勢をとり、目の前の男の前に立った。
気配だけでも目の前の男の実力が高いことが伺えた。
すると、ガルナが震えた声で言った。
「な、なんで――?」
ガルナの様子に、シドリアは苛立ちを隠せない様子で言った。
「お前は、さっきから何を――?」
「キミ、シドリアかい?
驚いたな◆」
目の前の男がそう言った。
シドリアは怪訝な顔で男の方に顔を向けて言った。
「貴様、何者だ?」
「ヒソカだ◆
ジャポン語で『秘密』を意味する名前だよ♥」
ヒソカがそう言うと、シドリアが怒りの表情で叫び始めた。
「ふ、ふざけるな!その名前は――!」
すると、ガルナが唇を震えさせながら呟いた。
「この人、間違い、ない。ジョニーだ。
ジョニー=ロトスだよ・・・。」
ガルナの弱々しい声が、辺りに響き渡った。