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「フェッ、グスン・・・お姉ちゃん・・・。」
ミコトは、泣きじゃくりながら呟き、シドリアに抱き抱えられていた。
シドリアはサングラスをかけているので分かりづらいが、その頬は僅かに濡れていた。
ガルナは涙を流しながら、茫然自失な様子だった。
その場の誰よりも深く、静かに悲しみに打ちひしがれていた。
シドリアは、ガルナがここまで深く悲しむ姿を見せるのは、かつてジョニーという少年がいなくなった日以来だと思った。
そこは、師匠の部屋だった。
あのとき確かに急いではいたが、ガルナは具現化した銀の弾丸を北の森に向かう前に予めセットしていた。
もう火が灯ることのない、暗い部屋の中でシドリア達は泣いていた。
泣く理由はそれぞれ微妙に違ってはいたが、ただひたすら泣いていた。
ミコトは、つっかえながらも力強く言った。
「ワタシ、あのヒソカとかいう人を、許せないです!」
ミコトは泣きながらも、その口調は深く怒っていた。
「それより、腕は大丈夫なのか?」
シドリアが伏し目がちに聞いた。
シドリアは、自身が泣いていることを誤魔化すつもりだった。
「大丈夫です!袖が少し破けたくらいです。」
ミコトは力強くそう言った。
ヒソカと名乗る男の念能力は、粘着性と伸縮性を兼ね備えた変化系の能力。
その能力を、ミコトの腕に取り付けられてしまったが、ガルナの瞬間移動能力によって事なきを得たのだった。
「そうか、それなら良かった。
ガルナは大丈夫か?3人での移動は初めてだろう?」
ガルナは弱々しく無言で頷いた。
ガルナの能力は、里に帰る前から半分程度の形ができていたらしい。
いつの間にか、瞬間移動そのものである放出系に関する部分はかなり鍛え上げていた。
問題だったのは、対象指定と地点指定の方法――ガルナの場合、それは具現化した弾丸だった。
ガルナは具現化系統が苦手なので、弾丸を具現化しても触れただけで崩れてしまう強度しか持たせられなかった。
師匠のアドバイスにより、新たにガルナは強い制約を付与した。
それは、弾丸の具現化に関する制約――。
ガルナの弾丸の能力は、銀の弾丸は地点を指定し、黒い弾丸は対象を指定する。
それぞれの弾丸が「模様」に変わってから、弾丸の番号と同じ時間「模様」は持続する。
新たな制約として、一度弾丸を具現化すると、模様に変化しない限り弾丸を消せない。
また、模様の持続時間が終了し、模様が消えるまで、同じ番号の弾丸は具現化できない。
すなわち、2色の各1~6番まである弾丸を具現化すると、模様に変えない限り具現化を解除できず、模様に変えてから番号と同じ時間が経過しないと、同じ番号の弾丸は具現化できないということだ。
出したり消したりが自由という具現化能力のメリットを潰す制約を、ガルナは里にいる間に新たに付与したのだった。
結果的に、能力は形になったようだ。
ガルナの具現化速度はまだまだ遅い。
しかし、それでも予め設定した対象を同じく予め設定した地点に数秒で移動できるという人数無制限の瞬間移動能力は、ブリッツの新たな武器となった。
今回に関しても、ガルナの能力のおかげで、3人とも怪我することなく格上のヒソカからも逃げることができた。
ガルナが沈んだ面持ちでいると、シドリアはその様子を敏感に感じ、何かを考えていた・・・。
シドリアはタイミングを計りながらゆっくり話し始めた。
「ところで、今更なんだが、ブリッツのリーダーは誰だろうな?」
シドリアの予想外の言葉に、ガルナとミコトは怪訝な顔をしてそれぞれが言った。
「シドリア様、何を言ってるです?」
「シドリア、バカなの?」
ミコトの言葉はともかく、ガルナの言葉に対してシドリアは怒りを顔に出さないように努めた。
軽く咳払いをしてから、シドリアが言った。
「いや、正直私には、今後ブリッツが何を優先するべきか分からないんだが――。」
シドリアがそう言った瞬間に、ガルナは答えた。
「ジョ――いや、ヒソカのことは、諦めるよ。ていうか会えたし――。」
「ワタシ、あの人を捕まえたいです!」
ガルナとほぼ同時に、ミコトが力強くそう言った。
その言葉には躊躇いも何もなく、確固たる意志が込められていた。
「やはり、意見が別れたな。
今後の方針を決めるために、リーダーを誰にするか決めた方がいいと思うんだが――。」
シドリアがそう言うと、3人は顔を見合わせて何も言うことなく、それぞれ右拳を腰に当てた。
ガルナが元気良く叫ぶ。
「最初はグー、じゃんけん、ほい!」
ガルナはチョキ、シドリアとミコトはグーを出した。
ガルナはガッカリしながら2人の勝負を見守る・・・。
14回のあいこの末、最終的にミコトが勝った。
ミコトが、正式にブリッツのリーダーをすることとなった。
「えへへ、です。」
ミコトは嬉しそうに笑いながら、椅子に座る。
ガルナは少し不満そうに言った。
「まあ、姫がリーダーなのはいいけど、ヒソカを捕まえるって無理でしょ?」
ガルナの言葉にミコトが不満そうな表情をすると、シドリアが答えた。
「今は無理だ。奴と私達では実力が段違いだしな。
しかし、私達はこれからまだまだ強くなれる。いつか、捕まえることもできるだろう。」
シドリアがそう言うと、ミコトが言った。
「そうですね。
まずはG・Iで、ワタシの目を治すです!」
ミコトがそう言うと、ガルナとシドリアは力強く頷いた。
「俺達は、姫に従うよ!」
最後にガルナが、ニッコリと笑いながら言った。
気落ちしたガルナが元気になった様子に、シドリアは自然と微笑み小さく呟いた。
「やはり、ガルナはそうでないとな。」
「ん?何か言った?」
シドリアの言葉が聞き取れず、ガルナは首を傾げて聞いた。
しかし、シドリアはそれ以上何も言わなかった。
後日、葉隠の里の中で、シドリア達の師匠であるヒソカ=サクラバの葬儀が厳かに行われた。
師匠の遺体は、首筋の鋭利な傷以外はほとんど無傷で、師匠がただ寝ているだけのようだった。
しかし、師匠が纏う熟練した念能力者特有のオーラが全く感じられず、シドリアは師匠との永遠の別れを実感した・・・。
ブリッツの3人は泣きながら、それぞれの想いを抱いて、師匠を見送った。
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それから半年が過ぎた。
ブリッツは、ありとあらゆる情報屋の仕事、それ以外でも金になる仕事なら何でもこなした。
仕事が無い時には、G・Iの情報も収集するが、あまり情報は得られなかった。
そんな日のある夜、シドリアがミコトに言った。
「実は、私はノースタリア公国の元皇太子だ。」
シドリアの言葉を聞いて、ミコトは驚いて言った。
「え、シドリア様って王子様なんです!?」
ミコトは内心ドキドキしていた。
ミコトも今まで、シドリアが只者ではないと感じていたが、実は王子様だったという。
ミコトにとって、その話がどこかの国のお伽噺のように感じた。
シドリアは、たまにウソやイジワルを言うが、これは違うということもミコトには分かった。
しばらくすると、シドリアが口を開いた。
その様子は、いつになく緊張しているように、ミコトは感じた。
「ミコトには、いつか一緒にノースタリアに来て欲しいと思っているんだ。」
シドリアはそう言った。
その言葉には、多少の照れはあったが、心からの言葉であるということをミコトは感じ取った。
「ワタシで良ければ・・・です。」
そう言ってからミコトは、自分の言葉の肝心な部分が抜けているのに気付いたが、気持ちは伝わっていると信じて、沈黙を守った。
ミコトの期待通り、シドリアは聞き直すような不粋な真似はしなかった。
その代わりに優しくミコトに触れ、熱い口付けをした――。
翌朝、部屋の扉が勢いよく開き、馬鹿でかい声でミコトは叩き起こされた。
「おはよう、シドリア!」
ガルナだった。
ミコトの名前が無いことに疑問はあったが、ミコトは気にせず寝た振りを続けた。
「ガルナ、どうでもいいが、もっと静かにできないのか?」
シドリアが苛立った声でそう聞いた。
ミコトは内心同意しながらも、変わらず寝た振りを続ける。
「いやさ、凄い情報があってさ!なんと、消えたんだって!」
ガルナの意味不明な言葉に、シドリアが考え込んでいた。
ミコトは過去何度も似たような2人のやり取りを見てきたが、その度に必ず自分が出てくる羽目になった。
ガルナは馬鹿すぎて言葉足らずなことが多く、シドリアの場合は頭が良すぎて少ない情報から話の全容を掴もうとするきらいがある。
通常の言葉足らず――ミコトのような――ならば、シドリアはすぐに理解してそれに対して返事をする。
しかし、ガルナは考える前に喋り始めてしまうので、シドリアでさえも理解不能になる。
そんなとき、シドリアがガルナに突っ込みを入れればいいのだが、たまに考え込んでしまうことがあった。
お喋りな兎と無口な梟――。
ミコトは、2人のやり取りを聞いていると、昔読んだそんな題名の絵本を思い出し、クスリと笑ってしまう。
「アハハ、ガルナ、それじゃ分からないです。」
実際眠かったのだが、仕方なくミコトは2人に助け船を出した。
1時間後、ミコトとシドリアがシャワーを浴び、服を着替え終わると、ガルナは詳しく説明を始めた。
先日、この町のある金持ちの屋敷にプロハンターがやって来た。
当然、ハンターは依頼を受けに来たのだが、屋敷の主の予定が変更になっていて不在だった。
ハンターに連絡をしていなかった不備のお詫びに、屋敷の主が帰るまで屋敷のコレクションを自由に見ていいという話になる。
屋敷の使用人がコーヒーを出す際、ハンターにそれを伝えると、ハンターは快く受け入れ、コーヒーもそこそこに屋敷のコレクションを見て回ったそうだ。
使用人はその姿を見ると、邪魔をしてはいけないと思い、部屋から出て扉の前で待機していたらしい。
それから1時間後、屋敷の主人が帰宅して部屋に入ると、そこには誰もいなかった――。
その部屋の窓の鍵は全て閉まっていて、使用人が待機していた扉以外に出入り口はなかった。
「――ふむ、なかなか興味深いな。」
シドリアが言った。
話を聞きながら淹れたのか、片手には深炒りのブラックコーヒーを携えている。
「でしょ、でしょ?
フロントのお姉さんと仲良くなって聞いたんだ。」
ミコトはそれを聞くと、むしろ「フロントのお姉さん」の話に興味が湧いたが、話の腰を折りそうに感じて聞くことはしなかった。
シドリアは少しの間考えると呟くように言った。
「念・・・だろうな、やはり。それに、ハンターがいなくなったんじゃ依頼も完了してないんじゃないか?」
「依頼のことは、分かんないや。でもこれって、やっぱり俺と同じような能力者なのかな?」
ガルナがそう言うと、一瞬場の空気が凍りついた。
ミコトとシドリアは、ガルナに物凄い剣幕で叫びだす。
「依頼を受けに行って瞬間移動で逃げるとか、普通のハンターならしないです!」
「お前、まさか今までブリッツの依頼受けに行ったときにそんなことしてないよな!?」
ガルナは、しどろもどろになりながら、急に小さな声になって言った。
「いや、俺はそんなことしないよ! あ!じゃあ今から3人で行く?」
明らかにガルナは話を誤魔化そうとしている様子ではあったが、シドリアが堪らず聞いた。
「行くってその屋敷の場所も知っているのか?」
「大体はね。――ていうか、もうアポとってもらったし。」
ガルナがそう答えると、珍しくガルナが気の利いた仕事をしたと、ミコトは思った。
「それで、約束はいつです?」
ミコトがそう聞くと、ガルナが腕時計を見ながら答えた。
「んーと、今から1時間後だね。」
「随分急だな。その屋敷まで近いのか?」
間髪入れずにシドリアが聞くと、ガルナが答えた。
「いや、ここからだと車使っても大体3時間はかかる。」
ガルナがそう答えた瞬間、シドリアが鋭い蹴りを繰り出した。
★★★★★★★★★★★★★★★
ガルナ=ポートネスという男は、精神的には12歳の頃からあまり変わっていないどころか、むしろ悪い方向に育っていた。
天空闘技場で出会ったウナとの経験により、ガルナは欲望に忠実に生きた。
目の前に好みの女性がいれば、躊躇わず声を掛け、ベッドを共にした。
そこに何の害悪もないと信じ、また断られても気にすることもなかった。
ガルナは、生まれつき可愛がられる性質があるらしく、特に年上の女性に対して好かれることが多かった。
実際今まで、ガルナをハッキリと拒絶する女性はいなかった。
昨晩、宿泊していたホテルのフロントの受付の女性に声を掛け、食事に誘った。
食事中、フロントの女性の友人の働く屋敷で先日不思議な事件があったと聞いた。
すぐに、ガルナはフロントの女性に、その屋敷へのアポイントを頼み、翌日の朝9時ならばスケジュールが空いていることを聞いた。
ガルナのミスとしては、その段階でシドリア達に連絡をしなかったことだ。
ガルナは本能のまま、フロントの女性と夜を共に過ごした――。
翌朝、ガルナは寝坊したことに気付くと同時に、シドリア達に連絡をしていなかったことを思い出す。
慌ててシドリア達の部屋に駆け出し、今に至る――。
ガルナにとって、時間とは忌々しい制約だった。
故に、念能力も厳密な時間制限の制約を付けることで飛躍的に性能が上がった。
ブリッツのメンバーで唯一車が運転できるガルナは運転しながら、先程シドリアに蹴られた尻の痛みに耐えていた。
「――ええ、すみません。こちらの都合でお手間をお掛けしてしまい、申し訳ありません。」
シドリアが車内で電話をしていた。
ガルナが話終えてから僅か5分程度で、シドリアは相手の屋敷の連絡先と正確な住所の入手や車の手配等、必要な準備を全て終え、移動を開始した。
ミコトは後部座席で構わず寝ている。
ガルナは、ブリッツのこの2人も寝不足だということを知っていた。
2人のシャワーと着替えを待ち、コーヒーを飲んで頭をスッキリさせるのも待ったのに、問答無用に蹴られてガルナは不満に感じていた。
ガルナは分からない。
ガルナは仕事というものが分からない。
仕事にあんまり興味がないからだ。
おそらく仕事と遊びの区別すら、明確に分けられていないことだろう。
シドリアの電話が終わると、シドリアが淡々と言った。
「ひとまず、スケジュールの調整はついた。屋敷の主人は不在だが、夜には帰ってくる。
私達は、ASAPで行動して、ハンターが消えた部屋を調査をし、屋敷の主人が帰宅したら報告するという手筈だ。」
「ASAP?」
「『
一応、ガルナも情報ハンターなんだから覚えておいた方がいいぞ。」
ガルナの問いにシドリアがそう答えた。
それから3時間程ガルナは運転し続けた。
ガルナは本能に忠実だが、他のどの本能よりも生存本能の方が高く、どんなに眠くても運転中に寝ることはしない。
そんなガルナだったが、ふと助手席を見るとシドリアがいつの間にか寝ていることに気付いた。
シドリアは普段からサングラスを掛けているので、ガルナはシドリアが寝ていることに気付かなかった。
ガルナは悔しく思いながらも、運転に集中する。
だが、そこでふと重大な事態に気付いた。
「ちょ、シドリア、地図見てくれない?どこかで山道に入るはずなんだけど、どこだっけ?」
シドリアは不機嫌そうに答える。
「最初に地図は見せたろ?
それに、自信満々に答えたのはお前だろう?」
さすがのシドリアも寝不足のまま早朝に起こされ先程まで仕事の調整をしていて疲れているようだった。
「――えと、次の次の信号を左斜めの方向です。」
そう言ったのは、ミコトだった。
この1年で、以前よりもミコトの円は精度も範囲も上がっていた。
ガルナは驚いて言った。
「おお、円って便利だな!」
それからミコトの円によるナビゲーションにより、ガルナは迷うことなく目的の屋敷に着いた。
「ふう、やっと着いたね!」
車を降りると、伸びをしながらガルナは言った。
シドリアは少し睡眠をとったおかげで、そのオーラや表情は万全の状態のようだった。
シドリアがミコトに聞いた。
「ミコト、円を使って疲れていないか?」
「少し、疲れたです。」
「そうか、屋敷には私とガルナで行くから、車で休んでいていいぞ。」
シドリアとミコトのやり取りを聞いて、すかさずガルナが言った。
「え、俺も行くの? 俺も疲れてるん――。」
「当たり前だ。お前は普通に凝でオーラを視れるんだからな。」
ガルナの言葉を遮るようにシドリアはそう答えると、屋敷へ向かってスタスタと歩いていく。
ガルナは大袈裟に肩をすくめながら、シドリアについて行った――。