DUAL BULLET   作:すももも

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32.真相

 シドリアの運命は、いつも1発の銃弾で変わる。

 

 

 

 

 ガイアッグが発砲した瞬間、シドリアは新たな能力を発現させた。

 

 シドリアの光り輝く双眼は全てを見抜く――。

 

 

 ガイアッグが撃った強力な運動エネルギーを持つ散弾を、シドリアは絶妙な量のオーラを込めた指の間に収め、または弾そのものを弾くことで衝撃を散らし、無効化した。

 

 ガイアッグは即座に散弾銃を捨て、後退しながら一切無駄の無い動きでオートマチック拳銃を抜く――。

 

 シドリアは、眼から放たれる念の光の(エン)の効果から、ガイアッグの体温変化やオーラの変化を見極め、早業とも言えるその動きを見抜いていた。

 

 

 

 ガイアッグが銃口をシドリアに向けた時、そこに拳銃が来ると予め知っていたかのように、既にシドリアの手は銃のスライド部を開放し、拳銃を分解していた。

 

 予知能力――そう考えてもおかしくない程の正確無比な精度の動作――。

 

 

 分解された拳銃を放棄すると同時に、ガイアッグは小型のリボルバー拳銃を抜き、構える――フリをした。

 

 ガイアッグは、宙に拳銃を置き去りにし、反対の手に握ったナイフを死角からシドリアに突き入れたのだ。

 

 ガイアッグのリボルバー拳銃は床に向かって落下する――。

 

 

 しかし、今のシドリアは全てを見抜いた。

 

 視線誘導を利用したガイアッグの動きすら、念の光の反射によって360度の視界のあるシドリアには何の意味も為さなかった。

 

 シドリアは、ガイアッグがナイフを掴むその手をとり、そのままガイアッグの肘を支点にナイフの切っ先を返す。

 

 同時に、ガイアッグのリボルバー拳銃が床に落ちる音が辺りに響き渡った。

 

 

「――グフッ!」

 

 

 シドリアが返したナイフが深々とガイアッグの胸に突き刺さり、ガイアッグは苦痛に顔を歪める。

 

 

 シドリアの両眼から放たれる光は、スゥと音もなく消えた。

 

 

 シドリアは、目の前で体を屈めているガイアッグを見つめた・・・。

 

 その瞳には、影も光も無く、久しぶりに肉眼で見るガイアッグの顔に、シドリアは懐かしさを感じていた。

 

 ガイアッグは、苦しそうではあるが、それでいてどこか嬉しそうな表情をしている・・・。

 

 それからガイアッグは倒れ込むように座り、煙草に火をつけた――。

 

 

 ガイアッグは、本当に些細な、それでいて生きる目的だった「強く生きる」ことができたと感じながら永い眠りについた。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 彼が生まれたのは、1970年。

 

 ちょうどその頃、国内ではクーデターが起こり、壮絶な戦いが始まった。

 

 

 数年後のある日、彼の母はフードで顔を隠し、少年だった彼を抱っこして焦ったように広場に向かった。

 

 いつもは家からほとんど出ないのに、今日は素晴らしい日だと、そのときの彼は思った。

 

 広場は、人に溢れ、罵声が飛び交っていた。

 

 

 広場の処刑台に登る男がいた――その姿を、彼は今でも忘れない。

 

 母の泣き叫ぶ言葉と共に、処刑台の男の首は切断された――。

 

 

 処刑される寸前、ニコリと笑いかける男と、彼は目が合った気がした。

 

 信じられないことだが、言葉すら聞こえた。

 

 

――強く生きろ。

 

 

 処刑された男はザック=マルティス。

 

 ノースタリア公国のクーデターのリーダーとして悪名高き名を歴史に残した男。

 

 彼の父親だった――。

 

 

 彼は、母と一緒に逃亡生活を過ごし、夜も眠れない日々が続く。

 

 

 だが、その日々は突然終わる。

 

 母が殺されたのだ。

 

 母は、まだ少年である彼を食器棚に隠し、ノースタリア公国の兵士達に無抵抗のまま無惨に殺された。

 

 

 少年は目の前で殺された母の遺体の前に立ち、静かな怒りを胸に、強くなることを決めた。

 

 父の最期の言葉通りに――。

 

 

 彼の名は、ガイアッグ=マルティス。

 

 彼の心には善悪を超えた復讐心だけがあった。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

「おやすみ、ガイアッグ。」

 

 

 私はそう呟くように言った。

 

 

「――シドリア様?」

 

 

 ジェシカがそう言って、ヨロヨロと私に向かってくるのが見えた。

 

 

「近付くな!」

 

 

 私がピシャリとそう言うと、ジェシカはビクリとして立ち止まる。

 

 私はガイアッグの遺体をそっと抱き寄せると、静かに聞いた。

 

 

「何故だ。何故、戻ってきた?」

 

 

 私がそう聞くと、ジェシカは、しどろもどろに答え始める。

 

 

「お、お父様の体が重くて立ち止まってしまいましたわ。

 そのあとに――。」

 

 

 それを聞いた私は、舌打ちをした。

 

 まさかジェシカが、気絶した父親を放置して戻ってくるとは、ガイアッグのプランにも無かったのだろう・・・。

 

 

 

 

――いや待て、それは違う!

 何かおかしい。

 

 

 私は心中でそう呟く。

 何か大きな見落としがあるように感じた。

 

 そもそも何故ガイアッグはロドルフを気絶させたのか?

 適当に痛めつけて、2人とも解放すれば、そんなイレギュラーも無いはず――。

 

 それに、あのときのガイアッグは何か焦ったようにも見えた。何かを隠すような――?

 

 

 そこで私は、強い悪寒を感じた。

 

 

 まさか、ガイアッグは――?

 

 

 反射的に私は脱出口を見る。

 

 そこには、脱出した筈のロドルフが不敵に笑っていた・・・。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 

「――ブライト公爵、いやはや驚きました!」

 

 

 シドリアの沈黙を意に介さず、ロドルフは話を続けた。

 

 

「ハンターをやっているとは聞いていましたが、貴方がそんなに強いとは――。

 私は最初から分かっていたのです。この男、ガイアッグが全て――。」

 

 

 それを聞いたシドリアは、僅かに顔を険しくして質問した。

 

 

「なるほど。野望の為に、娘の命まで利用したのか?」

 

 

 シドリアは、ロドルフの言葉を遮るようにそう聞いた。

 

 

「な、何を仰ってるんですか?」

 

 

 ロドルフはそう言って、シドリアの言葉を否定した。

 シドリアは、ロドルフを睨みつけながら静かに言った。

 

 

「ならば何故、お前はガイアッグの名前を知っているんだ?」

 

 

 ロドルフは沈黙した。

 

 ロドルフはギラギラした鋭い眼光をシドリアに向けながらも無言のままだった。

 

 沈黙が続く・・・。

 

 

 シドリアは、抱き抱えていたガイアッグの遺体を丁寧に床に寝かせ、ゆっくりと立ち上がり振り向きながら、ジェシカに問い掛ける。

 

 

「ジェシカ、君は何故ロドロフを置いて1人で脱出しなかったんだ?」

 

 

 シドリアの質問に、ジェシカは、戸惑いを隠せないままロドロフを見た。

 

 シドリアはちらりとロドロフに目をやってから、ゆっくりと口を開く。

 

 

「おそらく君は立ち止まった後、気絶したロドロフを懐抱した。

 その後、目を覚ましたロドロフが君に指示した。そうだな?」

 

 

 シドリアがそう聞くと、ジェシカは目を伏せて黙った。

 

 ジェシカの沈黙を肯定的に捉えたシドリアは、ロドロフに向かって叫んだ。

 

 

「ロドロフ、貴様は娘を利用して、私を殺そうとしたな?」

 

 

 その問いにロドロフは、ゆっくりと頷く。

 

 

「まさか、貴様が父の暗殺を企てたのか!?」

 

 

 シドリアの言葉に、ジェシカはハッと息を呑んだ。

 

 ロドルフは不敵に笑いながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

「・・・随分と頭が回るのだな。

 そう、お前の父を病死に見せ掛けて殺すように指示したのは私だ。

 その男、ガイアッグ=マルティスに――。」

 

 

 ロドロフは、愉快そうにニヤリと笑ってそう言った。

 それを聞いたシドリアは驚き、叫んだ。

 

 

「マルティスだと! まさか、ガイアッグは――?」

 

「ああ、かの悪名高きザック=マルティスの実の息子だ。」

 

 

 ロドロフは、なんでもないことのような口調でそう言った。

 

 それを聞いたシドリアは、ガイアッグの方に顔を向けたまま、何も言えなくなっていた・・・。

 

 

 かつてのクーデターの主犯であるザック=マルティスは捕まると、国によって公開処刑された。

 

 すなわち、ガイアッグの父を殺したのは、当時のブライト家当主――シドリアの父だということだ。

 

 

 しばらくの間、シドリアの様子を見ていたロドロフは、我慢しきれずに突然笑い出した。

 

 

「ハハハッ! 馬鹿な男だった。

 ザック=マルティスにクーデターを起こさせたのは、私だというのに、頑なにブライト家に対して恨みを抱いていた。」

 

 

 その言葉に、シドリアは衝撃を受けて思わず叫んだ。

 

 

「なんだと! 貴様があのクーデターを――!?」

 

 

 感情を暴走させるシドリアを見て、ロドロフは愉快そうに、さらに笑いながら答えた。

 

 

「ああ、クーデターを起こさせた後、私の力で収束させ、ザックを含めた関係者に全ての罪を被せた。」

 

「――そして、その息子のガイアッグを使い、父と私の命を奪い、この国を完全にお前の物にするつもりだったというわけか・・・?」

 

 

 シドリアがそう言うと、ロドルフは笑いながら言った。

 

 

「ああ、そうだ。

 ガイアッグ=マルティス、あの男の憎しみの心は利用しやすかった。」

 

 

 ロドルフがそう言うと、シドリアは言った。

 

 

「そうかもしれない。ガイアッグは私の父を殺した。

 しかし、きっとガイアッグは、その後の貴様の野望に気付いたんだ。

 だからこそ、ガイアッグは自らを私に殺されるように今回の計画を立てたのだろう。」

 

 

 シドリアがそう言うと、ロドルフは大声で笑い出しながら叫んだ。

 

 

「そうだな! 目覚めた時に、私も奴の狙いが分かったよ。

 シドリア卿が私を守った形にすることで、私がブライト家に手出し出来ないようにするつもりなのだろうと――。

 だが、私の地位は揺るがない!」

 

 

 それを聞いたシドリアは、溜め息をついて言った。

 

 

「貴様とガイアッグの関係を私は知らない。

 しかし、ガイアッグは自分の命を差し出して私を救ったんだ。

 私にできることは――。」

 

 

 シドリアは構えた。

 

 先程の能力を使った反動で、ほとんどオーラを纏うことは出来なかったが、それでも目の前にいるロドルフ程度ならば、素手で殺すことは容易にできるだろう。

 

 

「ほう? 私を殺すか?

 ジェシカの目の前で?」

 

 

 ロドルフがそう言うと、シドリアはジェシカを見た。

 

 

 

 実の父親が、シドリアの父の暗殺を画策したどころか、過去の忌まわしいクーデターの首謀者だと聞いて混乱しているのか、その体は震えていた・・・。

 

 ロドルフは構わず話を続けた。

 

 

「私を殺せば、お前は殺人者となり、賞金首になって一生逃げ続けて生きることになるぞ?」

 

 

 シドリアは沈黙し目を瞑る。

 

 目の前に写るのは、ブライト家の屋敷――そこには、シドリアと並んで楽しそうに笑う少女がいた――。

 

 

「私の居場所は、未来永劫ミコトがいる所だ。

 例え犯罪者になったとしても――。」

 

 

 

 

――パンッ

 

 

 突然、乾いた音が鳴り響いた。

 

 シドリアは反射的に身構えるが、その光景に驚愕し、言葉を失った。

 

 

「な、何を・・・?」

 

 

 ロドルフが、消え入るような声を吐き出した。

 

 

「ジェ・・・シカ。」

 

 

 ジェシカは、小型のリボルバー拳銃を握ったまま、ハアハアと呼吸を乱し泣いていた。

 

 それは、ガイアッグが戦闘中に床に落としたリボルバー拳銃――。

 

 

「お父様・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

 

 ジェシカは気が狂ったように謝罪の言葉を繰り返し、泣き続けている。

 

 

「でも、お父様がいたら、皆、不幸になってしまいますわ!」

 

 

 ジェシカはそう叫ぶように言った。

 

 

 

 

 シドリアの運命は、いつも1発の銃弾で変わる。

 

 

 床に倒れ、ピクリとも動かなくなったロドルフを見て、ジェシカの体は硬直したまま動かなくなった。

 

 ジェシカの目からは溢れんばかりに涙が流れていた・・・。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

「ここか・・・。」

 

 

 古びた屋敷の前で、ガルナは呟いた――。

 

 

 2週間前、ミコトがG・Iプレイ中のジョイステーションを紛失したガルナは、シドリアに連絡せずに自分の力で捜索していた。

 

 

 

 

 2週間前、最初にガルナは、以前ブリッツがG・Iを譲り受けた資産家のゴードン氏に電話をした。

 

 

「あの、俺ブリッツのガルナなんだけど、前処分したグリード・アイランドについて誰かに聞かれた?」

 

「ブリッツだと!?」

 

 

 ガチャンという音を鳴らして、一方的に電話は切られた。

 

 予想通りの結果に、ガルナは溜め息をついて、その日は寝ることにした――。

 

 翌日から、ガルナは今まで仕事で知り合いになった情報屋を使い、ハンター専用ゲーム「グリード・アイランド」を収集している者を探した。

 

 

 グリード・アイランド――通称G・I、定価58億、制作本数100本という稀少なゲーム。

 

 現在ではプレミアがつき、最低落札価格が100億という常識はずれのゲームを収集する者は少なく、情報も意外と簡単に調べられた。

 

 ガルナは初めてハンターらしい行動をとり、苦労しながらもその手掛かりを元にG・Iを探した――。

 

 

 

 

 そして今に至る――。

 

 

 ガルナは屋敷の門に近付き、呼び鈴を鳴らす。

 これまでと同じように反応はない。

 

 どうやら、屋敷の主は全ての屋敷の呼び鈴を鳴らさないようにしているらしく、今回も同様であることが予想された。

 

 

 そして、これまでと同じように、ガルナは門を飛び越える――。

 

 

――!?

 

 

「誰かいるな・・・。今度こそ当たりかな?」

 

 

 ガルナはそう呟く。

 

 今まで行った屋敷は全て無人で、中には売り払われているものさえあった。

 

 今回やっと、それらしき気配を感じたガルナは、さながら長い洞窟から出口への光明が見えたかのように感じた。

 

 

 気配からして間違いなく念能力者――それも複数の達人達だ。

 

 

 念能力者のボディーガードも稀に存在する。

 

 大富豪ならば、護衛に念能力者を雇うこともあるだろう。

 

 

 ガルナは気を引き締めると、屋敷に向かっていった。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

「バッテラさん、侵入者――ですな。」

 

 

 男がポソリと呟くようにそう言った。

 

 

「何だと! 大丈夫なのかね?」

 

 

 バッテラがそう言うと、男は笑って答えた。

 

 

「問題ないでしょう。たまたま我々がゲーム外に出ていて幸運と言えるでしょうな。

 バリー頼むぞ?」

 

 

 バリーと呼ばれた男はニッと笑って、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 バリーがエントランスホールに行くと、そこには短く髪を刈り上げた金髪の男がいた。

 

 随分と若く見えるが、立ち振舞いからそれなりに修練を積んでいると見える。

 

 

 すると、バリーの姿を見た金髪の男が軽い口調で声を掛けてきた。

 

 

「あれ? お兄さんこの屋敷の人?」

 

 

 あまりに場にそぐわない軽い口調に、バリーは怪訝な顔をしながら答える。

 

 

「いや、まあ・・・そうだけど、お前誰だ?」

 

「俺はブリッツのガルナだけど、グリード・アイランドって知らない?」

 

 

 

 

――!

 

 

 アマチュアハンターのブリッツの話を、バリーは聞いていた。

 

 話によれば、資産家ゴードン氏が8年前程前にオークションでG・Iを落札した記録を見て、バッテラ氏が購入しようとしたところ、処分したとの回答を得た。

 

 詳しく聞けば、G・Iが呪われたゲームで、運悪くゲームの中に閉じ込められてしまうと3日で死ぬと言われ、騙されたらしい。

 

 

 その悪質なアマチュアハンターこそが、ブリッツ――。

 

 

 ゴードン氏にG・Iの支払いを済ませると、バッテラ氏は傭兵やマフィアを雇い、ブリッツが騙し盗ったジョイステーションを回収したという話だった。

 

 

「なーるほどな。悪質ハンターらしく奪い返しに来たわけか。」

 

 

 バリーはそう呟くと、オーラを高めて構えた。

 

 

 それを見たガルナも自然にオーラを高め、叫んだ。

 

 

「お兄さん達が盗んだのか!?」

 

 

 瞬間、両者は間合いを詰め、拳を放った――。

 

 

 数発の拳が入り交じり、同じように殴り、同じようにガードをし合う――。

 

 それは、紛れもなく同じ軌道、ボクシングの動きだった。

 

 

「へえ、ボクサーって珍しいね!

 念能力者って拳法使いばっかりだから新鮮だ。」

 

 

 ガルナがそう嬉々としてそう言うと、バリーは舌打ちをして答える。

 

 

「てめえ! 詐欺師野郎がボクシングなんか使うんじゃねえ!」

 

 

 それから両者は拳のみで語り合った。

 

 ガルナが左ジャブからの右ストレートを放つと、バリーはそれらを避け、ボディーブローを打ち返す。

 

 ガルナはそれを最低限のオーラでガードしてから、接近し強く踏み込みながら鋭いアッパーを放った。

 

 

 バリーは、紙一重で回避するが、途端にその身体が崩れ落ちる。

 バリーの視界は歪み、目眩がしていた。

 

 

「くそっ、顎の先がかすったか!」

 

 

 バリーは忌々しくそう吐き出すと、気合いを入れて立ち上がる。

 

 

 バリーは正直言えば、たかがアマチュアハンターと考え、ガルナの実力を甘く見ていた。

 言動から考えて、本当に若い、少年なのだろう。

 

 しかし、先程の攻防から、それなりに戦闘経験はあるように感じた。

 

 それでもガルナの拳は、技術的に安定していないが、先程の拳速は確実にバリーの反応速度を凌駕した。

 

 

 そんなガルナに対して危機感を覚えたバリーは、自身の最大限のオーラで堅をすると、一気に間合いを詰めた――。

 

 

 バリーの身体は恵まれず、そのリーチは短い。

 

 故にバリーが得意とするスタイルは接近戦(インファイト)だった。

 

 間合いを完全に潰すことで相手の有効打を封印し、互いにショートレンジの攻防を打ち合う。

 

 

 対照的に、ガルナはバリーよりも小柄ではあるが、巧みなステップを駆使する、ストレートパンチャー、すなわちアウトボクサーだ。

 

 バリーは、ガルナよりも上回る経験から、ガルナの得意な間合いをうまく潰した。

 

 

 バリーは打ち合いで負ける気はなかった。

 

 念で強化された拳は、ショートレンジでも十分な威力になる。

 

 しかし、力強い堅により、バリーは致命的なダメージを負うことはない。

 対するガルナのオーラはバリーには及ばず、バリーの接近戦の猛打に、回避とガードを繰り返しながら思わず後退をした。

 

 

「ハッ!逃げてばかりじゃ、勝てないぜ!」

 

 

 バリーがそう叫びながら詰め寄ると、ガルナは壁際に追い込まれた。

 

 

 バリーは勝利を確信し、右フックをガルナの顔面に繰り出した――。

 

 

――!?

 

 

 気付くとバリーはその場に倒れていた。

 朦朧とする意識の中でバリーは言った。

 

 

「な、何を、しやが――?」

 

 

 バリーが見ると、ガルナの左肩は、赤紫に変色し腫れていた。

 

 

「て、てめえ・・・まさか、捨て身でカウンターを――?」

 

 

 そう言葉を吐き出すように言うと、バリーは倒れた。

 

 

 

 

「――ほう。バリーに勝ったか。ならば、次はオレの出番だな。」

 

 

 そう言った特徴的な髭の男が、吹き抜けの螺旋階段から飛び降りると、続けて言った。

 

 

「オレはツェズゲラ。一ツ星(シングル)ハンターだ。まあ、バリーよりは強いと言っておこうか?」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「私はツェズゲラ。一ツ星ハンターだ。まあ、バリーよりは強いと言っておこうか?」

 

 

 目の前の男はそう言った。

 

 俺がツェズゲラとか言う男を見た時、感じたのは絶望――。

 

 洗練された力強いオーラが全てを物語っていた。

 

 

 この男、強い。

 

 

 さっき戦ったバリーって呼ばれてた人は、全身を隙のない完璧な堅で守っていて、俺の8割くらいの凝で打ったパンチも、そのガードを貫通できず、最後はほとんど全オーラを右拳に込めたカウンターを打った。

 

 バリーのパンチをほとんどオーラを纏っていない左肩でブロックしたダメージで、俺の左腕はまともに上がらなくなっていた。

 

 決して万全とは言えず、俺はフラフラで立っているのがやっと・・・。

 

 あらためてツェズゲラを見るが、俺が勝てるビジョンが全く見えなかった。

 

 

 命を奪われるかもしれない危機感――。

 

 

――逃げるにしても、状況が悪過ぎる。

 

 

 心の中でそう呟いた俺は、深呼吸してオーラを練る。

 

 最大限のオーラで全身をガードしなければ死んでしまうと感じた。

 

 

 

 何の合図もなく、俺とツェズゲラは間合いを詰めた。

 

 俺の拳をツェズゲラは簡単にガードし、すぐに強烈な蹴りを放ってきた。

 

 

 全力ではないと思うけれど、今のツェズゲラが纏うオーラ量は俺とほとんど変わらない。

 しかし、ツェズゲラは熟練という言葉では言い足りない程の鋭い(リュウ)を使って、念による打撃を繰り出した。

 

 慌てながら、俺も可能な限りの最高速度の攻防力変化で防御し、反撃する。

 

 俺も流には自信がある方だけど、ツェズゲラの流は見切れないくらい速い。

 

 ツェズゲラとの攻防はしばらく続き、最後に俺は身体を動かすことができなくなっていた。

 正直、早くこの場から逃げたい・・・。

 

 俺の様子を見たツェズゲラが言った。

 

 

「ふむ。中々の使い手ではあるが、攻防力変化の精度も速度もまだまだ未熟だな。

 しかも、オレのような格上と相手だとしても、オーラの持続力が無さ過ぎる。」

 

 

 ツェズゲラの言葉を聞いて、俺は不満気に言った。

 

 

「お、お前、やっぱり手加減してたのか?」

 

 

「お前のような奴に全力を出すものか。

 悪質なアマチュアハンターなのだからな。」

 

 

 ツェズゲラにそう言われた俺は改めて疑問に感じ、オーラを纏うのをやめて聞いた。

 

 

「悪質って――さっきのバリーとかって人も同じこと言ってたけど、なんで?」

 

 

 俺の問いに、ツェズゲラは戸惑った様子で言った。

 

 

「自覚がないのか?

 ゴードン氏に嘘を言ってG・Iを奪ったのでは?」

 

 

「嘘って言っても、あの時点でついた嘘は、念能力者しかプレイできないって話を誤魔化しただけだし・・・。」

 

 

 俺がそう答えると、ツェズゲラは驚いた声を出した。

 

 

「な!? バカを言え!

 運悪くゲームに閉じ込められると3日で死んでしまうというのは、完全に嘘だろう!?」

 

「あのときは、本気でそう思ってたんだよ。

 プレイ方法もはっきり分かんなかったし、実際にプロハンターのワルツさんがゲームに入ってから3日後に死体になって出てきたし――。」

 

 

 俺がそう答えると、ツェズゲラは顎に手を当てて考え始めた。

 

 

「少し信じられないが――仮にG・Iのことを詳しく知らない者が目の前でそんな現象を見たら――?」

 

 

 ツェズゲラはブツブツと自問自答をしている。

 

 すると、ツェズゲラは俺の方を見て聞いた。

 

 

「しかし、その話が本当だとしても、君は何故そんな呪われたゲームを取り戻そうとしているんだ?」

 

 

 ツェズゲラの疑問に俺は答える。

 

 

「ゴードンさんにゲームを貰った後に、俺の仲間の1人がゲームに閉じ込められちゃったんだよ。

 多分メモリーカードの枠が足りないせいで俺達は入れないから、帰ってくるのを待つことにしたんだ。」

 

 

 俺がそう答えると、ツェズゲラは大声で笑いながら言った。

 

 

「あのゲームはセーブさえしなければ人数無制限だぞ?

 それにセーブしたいならば、他のG・Iを入手してゲーム内に入ればいいだけだろう?」

 

 

「え?人数無制限?俺が念を込めて殴ったりしたけどどうにもならなかったよ?

 てか、そもそも『他のG・Iでゲーム内に入る』って――?」

 

 

 俺の頭では理解が追い付かずに、困惑を隠せないままそんな疑問を口にすると、ツェズゲラは笑うのをやめて言った。

 

 

「ふん、少し喋りすぎたな。プロハンター専用のサイトを見れば分かる。

 まあ、君がプロになるには10年以上はかかるだろうがな?」

 

 

 ツェズゲラは威圧的な声でそう言った。

 

 それを聞いた俺は即座に質問を返す。

 

 

「え? てか、プロハンターってどうやってなるの?」

 

 

 俺の問いに、ツェズゲラは文字通り絶句し、達人である筈のツェズゲラのオーラが一瞬揺らいだ。

 

 

 俺は、その瞬間を見逃さず、ツェズゲラに向かって走りながら叫んだ。

 

 

1番目の弾丸(ファースト・ブリット)!」

 

 

 反射的にツェズゲラは上方に跳躍した。

 全力のオーラでもない凝なのに10m以上跳んでいる。

 

 驚異的な流の実力――。

 

 そんなに高く跳ぶことは予想外だったけれど、ツェズゲラの回避行動は作戦通りだった。

 

 ツェズゲラの跳躍とほぼ同時に俺は練をした。

 

 

 ツェズゲラの攻防の後、俺は違和感のないように絶をして体を回復させながら会話をしていた。

 

 

 さすがの俺でも、ハンター試験のことくらい知ってる。

 でも、ツェズゲラは固そうな人だと直感的に感じて、わざとふざけた質問をした。

 

 案の定、ツェズゲラのオーラに隙ができ、俺の未知の念能力を警戒して反応してくれた。

 

 

 

 

――1秒

 

 

 達人との戦闘で、気の長くなる程の時間。

 

 でも俺の念能力は、発動に規定の秒数が必要だ。

 

 

 全ては、この場から逃げる為――。

 

 

 そして、作戦は成功した。

 

 あの高さから床までの落下時間は、1秒以上かかる。

 

 

 俺は、ツェズゲラを見上げてニコッと笑うと、念能力でその場からトンズラした。

 

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