DUAL BULLET   作:すももも

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 明けましておめでとうございます!
 本年もよろしくお願いします(≧▼≦)


33.夜明け

 闇夜の中、少年は必死に走っていた――。

 ただひたすら、何かから逃げるように走り続ける。

 

 闇に包まれた森の中、飛び出た木の根に足をとられて何度も転ぶ。

 ゼェハァと息も絶え絶えに、それでも少年は必死に駆けていた――。

 

 しかし、いくら走っても、森の中から抜け出せない。

 

 すると突然、1人の黒服を着た大柄な男が、少年に立ち塞がるように現れた。

 

 少年は、躊躇うことなく走るのを止めずに、立ち塞がる男の脇を通り抜けようとする――。

 

 

――その瞬間、少年は夜空に浮かぶ星を見た。

 

 目まぐるしく変わる景色を無感動に見ながら、自分は死ぬんだと、本能的に悟った。

 

 地面に叩き付けられた時、不思議なことに痛みも何も感じなかった。

 

 少年は、ゆっくりと身体を起こし、辺りを見渡す。

 周囲には誰もいなかった。

 

 ホッとして視線を下げると、少年の右腕は無くなっていた。

 さらに胸の傷から止めどなくドクドクと溢れる血が、辺りに血溜まりをつくっていく――。

 

 枯れ葉は血に濡れ、少年の身体は恐怖で震えた。

 

 少年がハッと見ると、いつの間にか目の前に立っている男達に気付いた。

 

 特徴的な覆面と民族衣装に身を包んだ男達――5人の忍達。

 

 少年は泣き叫んだ。

 だが、その声は、はっきりと言葉にならず、ひたすら狂ったように泣き続けていた。

 

 

 少年の足元に、銀の拳銃があった。

 それは、女性でも使えるような、口径も小さい護身用の小型リボルバー拳銃。

 

 少年は、拳銃を手に取り、目の前にいた忍を狙って撃った――。

 

 しかし、しっかり狙って撃ったにも関わらず、発砲の衝撃で狙いは大きく外れた。

 

 忍達は、低い笑い声を出しながら、ゆっくりと少年に近付く。

 すると、忍の1人が覆面をとった。

 

 その顔は、一ツ星(シングル)ハンターのツェズゲラ――。

 

 

 恐怖のままに、少年は叫んだ――。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ファースト・ブリットォ!」

 

 

 そう叫ぶと同時に、俺は飛び起きた。

 

 周囲を見渡すと、そこは俺が借りている宿の部屋の中だった・・・。

 

 俺の体には、ベトベトした嫌な汗が大量に流れていた。

 

 息を切らしていた俺は、しばらくしてから呼吸が整い、アレが夢だったことに気が付く。

 

 

「クソッ! またあの夢か・・・。」

 

 

 俺は思わず言葉を吐き出す。

 これは、師匠以外の誰にも言ったことがない、俺の悩み・・・。

 

 持病と言ってもいいかもしれない。

 

 

 かつて、忍の里を求めて姫に案内された時、俺とシドリアは、姫を誘拐しようとした忍者集団に殺されかけた。

 

 当時12歳の俺には、あの時の恐怖のイメージが強く残っていて、里での修行中もしばらく悪夢に悩まされた。

 

 歩法を全て修得した頃、いつの間にか悪夢は見なくなっていた。

 

 それから今まで悪夢は見ていなかったのに、またあの悪夢を見てしまった。

 

 

 理由は分かっている。

 昨日のツェズゲラとの戦い――あの時、俺はツェズゲラとの実力差から、念能力で逃げることしか出来なかった。

 

 今までの相手と言えば、バリー以下の実力者がほとんどだった。

 だから今まで、仕事の戦闘において、多少の怪我はしても、負けることはなかった。

 

 しかし、あのツェズゲラという男は、段違いに強い。

 あそこまで強い人間に出会ったことは――。

 

 

 いや、何人かいたな。師匠は、ツェズゲラよりは遥かに強いと思う。

 あとは、師匠を殺したあの男――ヒソカか。

 

 

 師匠は、ふざけて念弾を撃つような人だけど、俺達を本気で殺そうなんてことはしない。

 

 ヒソカについては――。

 

 

 まあ、それはともかく、姫が入ってるG・Iを取り戻す為には、ツェズゲラとの戦いは避けられない。

 だから悪夢を見てしまうのだろう。

 

 

 悪夢を無くす方法は――。

 

 

 長い思考の末に、俺は立ち上がった。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 ポタポタと汗が滴り落ちる音だけが、部屋の中に響き渡っていた。

 

 ガルナは、強く激しいオーラを纏い、それを維持し続けている。

 それは、(ケン)――練によって増幅したオーラによる全身防御術。

 

 ガルナは、堅の持続時間を伸ばす訓練をしていた。

 

 堅は、念能力者にとって、戦闘の基礎であると同時に、奥義の1つとなる。

 

 ツェズゲラと戦う前のガルナの堅の最大持続時間は、2時間17分。

 ガルナは、持続時間を3時間以上にすることを目指して、堅の修行に打ち込んでいた。

 

 ガルナは意識が朦朧としながらも、必死に堅を持続させる。

 

 しばらくしてから、オーラは霧散し、ガルナは倒れた。

 反射的に、ガルナは手に持ったストップウォッチを押す。

 

 

 ストップウォッチは、3時間32分を示していた。

 

 気絶するように眠ってしまい、悪夢を見たガルナは飛び起きると、次の訓練を始めた。

 

 

 身体を限り無く自然体にし、脱力させる。

 オーラを使い果たし、疲労した体であったが、ガルナの恐怖心はそれを苦にしなかった。

 

 1時間以上かけて、細胞1つ1つに丁寧にオーラを溜める――。

 

 

 これは、ガルナなりに考えた効率的な修行法だった。

 

 堅の持続により全身のオーラを全て消費させ、辛うじて残ったオーラを練り上げオーラ量の最大値を上げる。

 

 ガルナの個人的な感覚で言えば、オーラを使い果たした後は、より感覚が研ぎ澄まされ、オーラを細胞1つ1つに溜めるイメージがしやすかった。

 

 また、少ないオーラから練をするこの修行は、効率的なオーラの増幅法を体で覚えることが出来た。

 

 

 ガルナは練ったオーラを解き放つ――。

 

 それは、極めて一瞬のことではあるが、間違いなく今までの中で最大のオーラ量――。

 

 ガルナは、オーラを出し尽くすと、急激な目眩に襲われ、その場に座り込んだ。

 呼吸は乱れ、大量の汗が、ガルナの足元に溜まっていた。

 

 ガルナは、息も絶え絶えに言葉を吐き出す。

 

 

「きっつい・・・けど、まだまだ。次は――。」

 

 

 ガルナは絶をして、身体を休める。

 

 寝るとまた悪夢に悩まされるから、決して寝ないように神経を研ぎ澄ませた。

 

 ある程度オーラが回復すると、ガルナは次の訓練を始めた。

 

 

 絶をした状態から、右拳の絶だけを解く。

 うっすらと少量のオーラが右拳を包んだ。

 

 次に、左拳の絶を解くのと、右拳のオーラを消すのを、限り無く同時に行う。

 

 (ギョウ)すら使わないこの修行は、(リュウ)の速度を上げる訓練。

 

 (テン)とは、生物が自然体で垂れ流しにしている生命エネルギーを、精神エネルギーによってベクトルを定める技だと、ガルナは考えていた。

 

 事実、纏をしている時、オーラの流れる方向や流れる速度は個人差があるが、決して静止したりはしない。

 

 ガルナは、そのオーラの流れを、絶を利用して強制的に加速させる訓練を編み出した。

 

 しかし、思った以上にこの訓練は難しく、どうしてもタイムラグが生じてしまう。

 おそらく、凝の移動であればもっと遅くなってしまうだろう。

 

 

 ガルナは天性の直感から、これがオーラ移動の根元であり、これを会得することが、流の速度向上に直結すると確信して、訓練を続けた。

 

 

 1時間程、そんな修行を続けていると、とうとうオーラは枯渇して、ガルナはまともにオーラが出ない程疲労していた。

 

 

「行くか・・・。」

 

 

 ガルナはそう呟き、フラフラになりながらも外に出た。

 

 

 オーラが枯渇し、絶の状態であっても、修行をする。

 

 強い生存本能から生まれる強烈な想いは、疲労困憊なガルナの身体を動かした。

 

 

 ガルナは、街中のボクシングジムに入った。

 

 ガルナは、いつものように柔軟と、軽いアップを済ませると、スパーリングを開始する。

 

 

 1時間後、ジムにいたボクサー達は全員スタミナが切れて、立ち上がれなくなっていた。

 その様子を見たガルナは呟く。

 

 

「天空闘技場じゃ、50階以下の実力かな?

 まあでも、おかげで俺の悪い癖を治せたよ。」

 

 

 その言葉に無反応なボクサー達の様子を見て、ガルナは肩をすくめながらヘッドギアとグローブを外すと、ジムを出た。

 

 

 ガルナは、ジムの近くにあるカフェテリアで昼食をとる。

 

 

 1週間、ガルナは毎日こんな修行を続けていた。

 

 

 初日はオーラを使い果たして何度も気絶し、その度に悪夢に叩き起こされた。

 また、オーラが枯渇した状態でジムに行くと、ガルナは現役のボクサー達に苦戦した。

 

 ガルナは、長い期間ボクシングとは無縁の環境で戦ってきたせいで、癖がついてしまっていた。

 

 相手に軽く当てるという前提でスパーリングをすると、ガルナの癖は隙を生み出し、何発も打ち返された。

 

 基礎体力では常人離れしているガルナであったが、技術的な面では現役ボクサーよりも圧倒的に劣っていた。

 

 また、ガルナは我流で、パンチ1つ1つのフォームを歩法と組み合わせていた。

 それは、大きく間違ってはいなかったが、微調整は必要であった。

 

 

 1週間、ボクシングジムで地道に基本を再確認することで、ガルナは歩法とボクシングをうまく融合させ、理想的な体術を修得することが出来た。

 

 

 それから宿に戻り、ガルナは瞑想を始める。

 

 ガルナは、心源流拳法で「点」と呼ばれる精神修行を無自覚に行った。

 これは、かつて師匠がガルナに教えた「悪夢の撃退法」。

 

 

 ガルナが目を開けると、すっかり夜になっていた。

 

 ガルナの身体は全身が倦怠感に包まれてはいたが、ひとまず疲労は回復し、この1週間で得た修行の総仕上げを始めた。

 

 

「これがうまくいけば、修行は成功だな。」

 

 

 ガルナはそう1人呟き、立ち上がった。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

「あれから8日か・・・。」

 

 

 窓際にいた男が、夜の星空を眺めながらそう呟くと、別な男が呆れた声で言った。

 

 

「バリー、オレ達はそろそろゲーム内に戻らないとならない。

 まさかとは思うが、あの少年に負けたのが、そんなに悔しいのか?」

 

 

 その言葉に、バリーは激しく反論した。

 

 

「負けてなんかねえよ! あの時は、油断しただけだ!

 次にやったらきっと――。」

 

 

 バリーがそう答えていると、2人の男の動きが止まった。

 

 

 気配を感じ取ったのだ。

 それは、わずかに敵意が混じった念能力者の気配。

 

 

「意外だ。まさか本当に来るとはな――。」

 

「ツェズゲラ、俺に任せてくれ。」

 

 

 バリーは、ツェズゲラにそう言うと、自然に高まるオーラを隠しもせずに、部屋を出た。

 

 その様子を見ながら、ツェズゲラは小さく呟く。

 

 

「あの時、あの少年は念能力を使ってまで、オレから逃げた。何故今更になって――?」

 

 

 ツェズゲラは、音もなく静かな動きで立ち上がり、部屋を出た。

 

 

 ツェズゲラが吹き抜けの2階から玄関ホールを見下ろすと、予想外の展開だった。

 

 

 以前の少年は、多少の戦闘経験はあるようだったが、間違いなくその動きは雑で、何よりオーラの操作が未熟だった。

 順当に考えて、バリーの戦闘力は、あの少年よりも高かった筈。

 

 しかし、今バリーと戦っている少年は、以前とは別人のような動き――。

 

 オーラの操作はよりスムーズに洗練され、ボクシングの技術も見違える程になっていた。

 

 

 バリーは構わず堅をしたまま猛打を繰り出すが、少年はその高速のラッシュをガードすることなく、全て最小限の動きで回避した。

 

 それでもバリーは打撃の手を緩めることなく、最後には少年を壁に追い詰めた。

 

 バリーは前回の失敗を踏まえ、冷静に猛打を繰り出す。

 攻防力変化を最小限にすることで、カウンター対策をとったようだ。

 

 

 しかし――。

 

 その瞬間、バリーは少年を見失った。

 

 バリーの猛打により、壁には何発もの破壊痕が出来る。

 

 一瞬遅れてバリーが背後を振り向くと、バリーの背後にいた少年の絶妙な右ストレートがバリーの顎を捉えた。

 

 

 おそらく3分にも満たない攻防――だが、その戦いを見ると、少年は確実に以前よりも総合的な戦闘力が向上していた。

 

 

 ツェズゲラは深く深呼吸をして最大限のオーラを練る。

 

 ツェズゲラは、躊躇うことなく自身の念能力を発動した。

 

 

 2階から飛び降りたツェズゲラは、轟音と共に床に深い穴をつくった。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 ガルナの修行の総仕上げは、ボクシングと(リュウ)の融合――。

 

 地道にボクシングの基礎技術を上げたガルナは、その高速のパンチと流を連動させるシャドーを繰り返したのだ。

 

 短期間でツェズゲラと戦える実力をつける為に、ガルナが考えたのは、攻防力変化のパターン化。

 

 身体の動きにオーラの移動がついてこれないのは、そこに思考が働くから。

 

 故にガルナは、ステップや拳のコンビネーション等決まったボクシングの型のみの攻防力変化に限定して身体に覚えさせることで、短期間で流の速度を尋常ではない速度に引き上げることができた。

 

 

 一瞬にしてバリーの背後に回り込んだガルナは、バリーの顎に渾身のオーラを込めた右ストレートを打ち抜いた。

 

 

――!

 

 

 その瞬間、反射的にガルナは、凝で瞬間的に強化したステップを使って回避する。

 

 轟音と共に、ガルナがいた場所には深い穴ができた。

 

 

(何だ今の? 見えなかったぞ!?)

 

 

 心の中でそう叫ぶと、ガルナは全身のオーラを緩めることなく構えをとる。

 

 すぐに男が床の穴から飛び出た。

 その男は、両腕を組み、笑いながら言った。

 

 

「想像以上の実力だな。

 この短期間で、今の技を回避するまでになるとは――。」

 

「ツェズゲラ・・・。」

 

 

 ガルナはそう呟くと、オーラを高める。

 その様子を見たツェズゲラは、背後のバリーに言った。

 

 

「バリー、歩けるな? あの少年はオレに任せて戻れ。」

 

 

 ツェズゲラはそう言うと、腕を組んだまま姿勢を低くして、足にオーラを集中させて跳躍する――。

 

 

 ガルナは、跳躍したツェズゲラを見上げ、攻撃に備えた。

 

 先程は、不意討ちだったからか、ツェズゲラが何をしたか見ることは出来なかった。

 ガルナの予想では、天井か壁を足場にして蹴り出す落下を利用した攻撃――。

 

 だがガルナの予想に反し、ツェズゲラは天井まで飛ぶことはしなかった。

 10m程度の跳躍――近くに足場はない。

 普通に考えれば、自然に落下するだけ。

 

 しかしその瞬間、ガルナは強烈な悪寒を感じた――。

 

 

――!

 

 

 一瞬にして辺りには轟音が鳴り響く。

 

 ガルナの回避はギリギリで間に合い、直撃はしなかったが、ツェズゲラの攻撃により破壊された床の破片は、ガルナの肌に無数の傷をつけた。

 

 

(落下速度が加速した?

 まさか、これがツェズゲラの念能力――?)

 

 

 姿勢を取り直したガルナは心の中でそう呟く。

 

 

「その考えが果たして合っているかな?」

 

 

 ガルナの思考を読んだかのように、ツェズゲラは笑みを浮かべてそう言った。

 

 ガルナは無言のまま、ツェズゲラに向かって走る。

 

 ツェズゲラの能力は、まだハッキリと分からないが、それでもガルナは恐怖に負けずに果敢に攻めた。

 

 

――立ち止まれば死ぬ。

 

 

 それはガルナの深層心理――。

 

 ガルナは、凝を使った急加速によって間合いを詰めると、ツェズゲラに3発の超高速ジャブを繰り出す。

 

 ツェズゲラは難なくこれを捌くが、最後のジャブの瞬間、ツェズゲラの手が大きく弾かれた。

 

 僅かに生まれたツェズゲラの隙を見逃さず、ガルナは瞬時に凝で強化したステップで前進し、全力のオーラを込めた右ストレートを放つ――。

 

 だが、ツェズゲラは冷静に焦った様子もなく、超高速の攻防力変化によって、ガルナの右ストレートを弾くようにガードした。

 

 

「なるほど、最後のジャブだけ強いオーラを込めたのか。

 以前とは攻防力変化の速度が段違いだな。しかし――。」

 

 

 ツェズゲラはそう言いながら腕を組むと、また上方へ跳躍する。

 

 その瞬間、ガルナも凝で跳躍した。

 

 ガルナは心の中で呟く。

 

(落下速度を加速させる能力ってことは、俺も同じ高さならば――。)

 

 

「――それと同じことを考える奴は何人もいた。だが――。」

 

 

 ガルナの考えを読んだかのように、ツェズゲラはそう呟くと、不敵な笑みを浮かべた。

 

 ガルナは、悪い予感を感じ、最大出力の堅をする――。

 

 

 同時に、ガルナと同じ高さにいた筈のツェズゲラの身体が消えた。

 

 

――ゴッ!!

 

 

 突然の強い衝撃により、ガルナは息が止まった。

 轟音と共に、ガルナは壁にめり込む。

 

 

 辛うじて堅が間に合ったおかげでダメージは少ないものの、ガルナの意識は朦朧としていた。

 やっとのことで、めり込んだ壁から片手で支えて身体を起こし、ガルナは思わず呟く。

 

 

「水平にも加速できるのか? まさか、これって――。」

 

「そのまさかだ。私はお前と同じ放出系能力者!

 私の念能力【自在落下(フリーフォール)】は、すなわち飛行能力!

 空中戦において、私に敵う者はいない!」

 

 

 ツェズゲラがそう答えると、ガルナはじっとりとした嫌な汗を背中に感じた。

 

 

 ガルナは正直なところ、オーラを使った肉弾戦において、ツェズゲラと勝負できるレベルに達していると考えていた。

 精度や細かい技術はさておき、攻撃における攻防力変化の速度だけならば、ツェズゲラにも届きうると――。

 

 

 しかし、それはツェズゲラも同じく理解していて、だからこそ念能力を惜しみなく使うのだろう。

 

 オーラによる高速飛行能力――その速度はガルナの反応速度を遥かに越える。

 

 直感から瞬間的に堅のオーラ量を極限に増幅したことで怪我は負わなかったが、ガルナのオーラの残量から考えて、この方法はそう何度も使えない。

 

 

 ガルナは、必死に考えていた。

 

 生きる為の手段を――。

 

 

 しばらくしてから、壁から飛び出して床に着地すると、ガルナはオーラを練りながらツェズゲラを見た。

 

 

 ツェズゲラは余裕そうに腕を組み、笑みを浮かべている。

 

 先程の攻防でツェズゲラが使った超高速の流を、ガルナは思い浮かべていた。

 

 以前よりも流のレベルが上がったガルナにとって、目の前にいるツェズゲラの流の模倣は不可能ではない――。

 

 

 瞬間、ガルナの姿が消えた。

 

 

 ツェズゲラは驚きの表情を浮かべながらも、素早くその場で低い姿勢をとる。

 

 ツェズゲラの頭上で、ガルナの鋭い右ストレートが空を切った。

 

 ツェズゲラはガルナの伸びた腕を掴もうと手を伸ばすが、既にガルナは右腕を引き終わり、間髪入れずにツェズゲラの顔に左ジャブを打った。

 

 大した威力ではなかったが、ツェズゲラは数歩下がる。

 

 

「クッ! 先程よりも流の速度が速い!?」

 

 

 ツェズゲラは驚きの余りに言葉が漏れた。

 それを聞いたガルナはニヤリと笑いながら口を開く。

 

 

「へへ、第2(ラウンド)だぜ、ツェズゲラさん!」

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 ツェズゲラは、心の中で思考する。

 

 

(信じられん! 奴は戦闘中に念のレベルを上げたというのか!?)

 

 

 ツェズゲラは心の中でそう呟き、目の前の少年を見据えて尋ねる。

 

 

「そういえば、君の名を聞いていなかったな。」

 

「ガルナだ。ガルナ=ポートネス。」

 

 

 ガルナが名乗ると、ツェズゲラは真剣な眼差しで言った。

 

 

「ガルナ、今からオレの本気をお見せしよう。

 オレの念能力は、殺傷能力は高くはないので、君ならば死ぬことはないだろう。しかし――。」

 

 

 ツェズゲラはそう言うと、腕を組んでから続けて言った。

 

 

「――無傷では済まないがな!?」

 

 

 そう叫んだ瞬間、ツェズゲラは跳躍した。

 

 ツェズゲラは念能力を発動する。

 

 

自在落下(フリーフォール)

――溜めたオーラの放出による推進能力。

 

 ツェズゲラの説明は嘘だった。これは「飛行能力」とは似て非なる能力。

 

 

 地面から跳躍してから、滞空中に一度だけ任意の方向に推進する能力。

 

 滞空中の高さに比例して、推進力となるオーラ量は増え、推進速度も速くなる。

 

 簡単に言えば「高さ=速さ」の高速推進能力だった。

 

 

 

 

 ツェズゲラの跳躍を見て、ガルナは身構えた。

 

 先程まで、ツェズゲラは跳躍の頂点、一瞬身体が静止する最高高度で能力を発動していた。

 

 それもフェイク――。

 

 何度かそれを見せることで「上昇している間は能力を発動しない」と敵の無意識に刻むように――。

 

 

 

 ツェズゲラは、まだ上昇中の状態で能力を発動する。

 

 案の定ガルナの反応は遅れ、ツェズゲラの落下速度に反応できずにガードで対応した。

 ガルナはダメージを受けながらも、すぐに体勢を取り直し壁に向かって跳躍する。

 

 僅かに遅れてツェズゲラは、床から跳躍して能力を発動させた。

 高度がとれず推進速度が遅い為、あえてガルナとは別の方向の壁にオーラで推進し、瞬時に壁を凝で蹴る――。

 

 蹴った勢いにより、ガルナの方に突っ込むが、既にガルナは床に着地していた。

 ツェズゲラは間を置かずに、ガルナが蹴った壁を蹴り、床に向かう――。

 

 ガルナは、反対の壁の方向に跳躍して回避した。

 

 ツェズゲラは床を蹴ってガルナを追うように跳躍すると、さらに能力を使用し空中で加速してガルナに膝蹴りを放つ。

 

 ツェズゲラの攻撃をガードしたガルナは、そのまま壁に激突した。

 

 

 それから、ツェズゲラは、四方の壁や床を凝を使った跳躍によってジグザグに移動し続け、空中で能力を発動してガルナに何度も攻撃を繰り返した。

 

 その動きは、目で捉えるのも予測するのも困難な超高速移動――。

 

 ガルナは回避しながら反撃を試みるが、ツェズゲラに簡単に回避されて一方的に攻撃を受ける。

 

 ツェズゲラの攻撃をガードするが、それでもダメージは蓄積していき、ガルナの動きは鈍くなってしまった。

 

 

 ツェズゲラは今までの中で最高高度、天井付近で能力を発動する――。

 

 最高速度の超高速推進の蹴りを避けられず、攻撃が直撃したガルナはうめき声をあげた。

 

 

「ガハッ!」

 

 

 ツェズゲラの凝で強化した最速の蹴りを受け、吹っ飛んだガルナはその場に倒れた。

 

 倒れたガルナに、ツェズゲラはゆっくりと歩きながら語りかける。

 

 

「君は強い。

 しかし、君には致命的な弱点が2つある。」

 

 

 呼吸が荒くなっていたツェズゲラは、足を止めて腕を組み、深呼吸をすると続けて言った。

 

 

「まず、君の動きは、直線的過ぎる。おそらく血のにじむような苦行を乗り越えた末に身に付けた超高速の流――。しかしその反面、決まりきった型でなければその速度が出せず、容易く読まれる!

 そして何より、君の念能力は戦闘向きではない!

 おそらく発動に時間がかかり過ぎて、戦闘中に使えないのだろう?」

 

 

 ツェズゲラの言葉を聞いたガルナは、ダメージにより苦痛に顔を歪めながら、フラフラと立ち上がって答える。

 

 

「そんなことは、アンタに言われなくたって分かってるさ!

 それより、俺もアンタの弱点に気付いたぜ!」

 

 

 ガルナはそう言うと、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「無傷では済まないがな!?」

 

 

 ツェズゲラが腕を組んだままそう叫んだのを聞き、俺は身構えた。

 

 先程までと雰囲気が変わり、間違いなく本気の気配――。

 

 

 上昇中のツェズゲラの身体が、突然消えた。

 

 ハッと気付き、辛うじてガードした俺は、痛みに耐えながら素早く跳躍した。

 

 

 壁を足場にした俺は、瞬時にツェズゲラの姿を探す。

 

 ツェズゲラは既に俺とは反対側の壁を蹴って、俺に向かってきていた。

 その速度は、俺と大差ない。

 

 すぐに俺は壁を蹴り、床に向かった。

 

 

――アレ?

 

 

 そこで妙な違和感を感じた。

 考えていると、ツェズゲラは俺が蹴った壁を蹴り、俺に向かってくる。

 俺は、すぐに跳躍して回避した。

 そこでも違和感――何だろう?

 

 

 その瞬間、俺を追いかけて床を跳躍したツェズゲラが、空中で突然加速し膝蹴りを放ってきた。

 

 その攻撃を俺はガードしたが、ツェズゲラの勢いは止まらずに、俺の身体は壁に激突した。

 

 そこで俺は、あることに気付いた。

 

 

 戦いの序盤で、ツェズゲラは水平に飛行した。

 その時も今と同じように俺はガードしたが、今と違い、あの時の俺は壁に深くめり込んだ。

 

 今の攻撃が単にオーラを込めてなかったのかもしれないが、本気になったツェズゲラがそんな攻撃をするとは思えない――。

 

 

 俺はそんなことを考えながら反撃を試みるが、ツェズゲラは空中でも方向転換して回避してしまう。

 

 

 蓄積したダメージのせいで俺はまともに動けなくなり、床に立ったままツェズゲラを見上げていた。

 

 ツェズゲラは、壁を蹴ってジグザグに動いていた。

 

 あのくらいの速度なら、俺は反応できるし、何より俺でも同じことができ――。

 

 

「ああ!?」

 

 

 俺は思わず声を出した。

 

 違和感の正体――。

 

 

 ツェズゲラが床や壁を蹴った跳躍速度は俺と大差ないんだ。

 

 確かツェズゲラは、自身の念能力を「飛行能力」と言った。

 でも、だとしたら何故わざわざ壁や床なんか蹴ってるんだ?

 ずっと飛んでいればいいのに――。

 

 まさか、ツェズゲラの能力は――?

 

 

 俺がそんな思考に気をとられた瞬間、ツェズゲラの身体は空中で消えた――。

 

 

「ガハッ!」

 

 

 ツェズゲラの攻撃に反応できずに直撃した俺は、うめき声をあげながら吹っ飛び、その場に倒れた。

 

 

 倒れた俺に対して、ツェズゲラは苛つく口調で語りかける。

 俺の弱点がどうとか――。

 

 こいつ、何言ってんだ?

 今更分かりきったことを――。

 

 

 そこで、俺は気付いた。

 ツェズゲラの無意味と思える、癖のような仕草――。

 

 そういえば、よくよく見れば、こいつ滅茶苦茶息切れてやがる。

 実は体力ないんじゃないのか?

 こいつの時間稼ぎに付き合うこともない。

 

 俺はダメージでフラフラしながらもツェズゲラに言った。

 

 

「――そんなことは、アンタに言われなくたって分かってるさ!

 それより、俺もアンタの弱点に気付いたぜ!」

 

 

 俺はそう言うと、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

 ツェズゲラは、少し驚いた表情をしている。

 ツェズゲラの様子を見ながら俺は言った。

 

 

「アンタは、空なんか飛べないし、その能力だって戦闘向きじゃないだろ?」

 

 

 俺はそう言いながらその場でしゃがみ、さりげなく床に散らばった破片をいくつか手にとった。

 

 

 俺はツェズゲラに向かってダッシュすると同時に破片を投げる――。

 

 (シュウ)で強化した破片、さすがのツェズゲラも両手を使って捌いた。

 

 

――今だ!

 

 

1番目の弾丸(ファースト・ブリット)!」

 

 

 俺がそう叫ぶと、ツェズゲラは跳躍した。

 

 

 ツェズゲラは、焦った様子もなく俺を見下ろし、空中で構えていた。

 

 俺は、今のツェズゲラの両手の状態に気付き、笑って言った。

 

 

「ツェズゲラさん、念能力使えば?

 てか、使えないだろ?」

 

 

 俺がそう言うと、ツェズゲラは無言のまま怒った顔で俺を睨む。

 

 

 図星だったようだ。

 思えば、1週間前に俺が念能力で逃げた時に跳躍したツェズゲラは、今と同じ――。

 

――腕を組んでいなかった。

 

 

 そう、多分ツェズゲラの念能力は「腕を組んで跳躍する」ことが発動条件ってことなのだろう。

 

 

――1番目の弾丸(ファースト・ブリット)発動

 

 

 俺は、最初にめり込んだ壁の中にいた。

 あの時、俺は必死に考えた末に、この場所に弾丸をセットした。

 

 

 俺が素早く壁から見下ろすと、ツェズゲラが俺のいた辺りを見下ろしているのが見える――。

 

 

 瞬間、凝で壁を蹴り高速落下しながら、俺は残った全てのオーラを右拳に込め、ツェズゲラの頭頂部に打ち下ろした!

 

 

 

 

「――おーい、起きてよ。」

 

 

 オーラも枯渇し、ダメージにより満身創痍の俺は、ツェズゲラの頬をペチペチと叩いて起こした。

 

 

 無警戒の上方からの頭部への攻撃だから、ツェズゲラは気絶したんだろう。

 

 でも、どちらかと言えば全身打撲の俺よりも、タンコブ1個のツェズゲラの方がダメージが少ないような気がする。

 

 

「・・・オレは負けたのか?」

 

 

 目を開けたツェズゲラはそう言うと、身体を起こそうとした。

 

 自然に俺はそれを手伝い、笑いながら答える。

 

 

「ま、戦闘向きじゃない能力にも使い道があったってことだね。」

 

 

 俺の言葉に、ツェズゲラは深く溜め息をつき、俺に質問をしてきた。

 

 

「どちらが、いい?」

 

 

 ツェズゲラの問いに俺は戸惑っていると、ツェズゲラがさらに言葉を放つ。

 

 

「君の仲間がプレイ中のG・I、またはG・Iの詳細な情報のどちらを選ぶ?」

 

 

 ツェズゲラの2択に対して、俺は迷わず即答した――。

 

 

 

 

 朝日が昇るのが見えた。

 長い長い夜が明ける。

 

 

 俺は強い満足感の中、宿に向かって歩いていた。

 

 プロハンターのそれも一ツ星(シングル)ハンターを倒せたことが嬉しかった。

 しかし――。

 

 

――シドリアに何て言えばいいんだろう・・・?

 

 

「ま、いっか!」

 

 

 宿に着いた俺は、軽くそう言って思考を投げ出すと、ふかふかのベッドに入って眠りについた。

 

 

 俺は、少年が闇夜に包まれた森から抜け出して、夜明けを迎える夢を見た――。

 

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