◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アタシが見ると、信じられない光景だった。
ガルナが盗みを働いたはずの、要塞の財宝保管庫には、金塊や銀細工、さらには絵画や彫刻などの美術品、古本まで全てそのまま置いてあったのだ・・・。
「アイツ・・・一体、何を盗んだんだ?」
シャルが首をかしげながら、言う。
「アイツ、確かに、『宝物奪った』って言ってたのになー。」
―――あれ?
何かに気付きそうだった。しかし、大したことじゃなさそうだし、アタシはスルーした。
「これは・・・フ、ハハハハハハハ!」
アタシの後にいた団長が突然、珍しく大声で笑った。
すかさず、アタシが言う。
「団長、アイツはバカだから、金目の物が何か知らないんだよ、きっと。」
「金目の物・・・・・か。確かにそうだろうな。しかし、それは一面だけであって、本質ではない。」
よく分からないことを言いながら、団長は懐から小さな紙を取り出して、シャルに渡して言った。
「昼間調べた、この要塞の財宝類保管リストだ。俺は頭に入っているから、お前達で確認してみろ。」
シャルは素早くリストと現物をチェックし終わって説明する。
「ふむふむ・・・。ここにないのは5点。ローザンヌの化粧箱、ミーサの裁縫箱、中将ドミンゴの葉巻入れ、ラダのワインコルク(保管具付き)、ノザリアのコインケース・・・。歴史的価値が高く、ノースタリアの動乱時、公族達が避難する際、この要塞に持ち込んだものですね。物自体も、専用の技師や職人が作ったらしく、美術品としての価値もあります。」
―――ん?
また、か。なんだろう、何かに気付きそうなんだけど、分からない。
「マチ、ここを出たら、ガルナ・・・と言ったか、アイツの話を聞かせろ。」
団長は、ますますアイツに興味を抱いたようだ。
「もし、仮にアイツが欲しいものだけ奪ったとしたら、バカだけど『蜘蛛』を出し抜いたってことか・・・。悔しいなー・・・って、マチそれ!」
こちらを見ながら、軽口を叩いていたシャルが突然、声色を変えて指差す。
―――!!
――「マチ、戦闘中に『凝』をおろそかにしないことだよ。」
瞬間的に、アイツの言葉を思い出す・・・。
あのとき、「隠」で隠し持っていた、もう1丁の黒い拳銃・・・。
咄嗟に腕でガードしたけど、あの弾丸に特殊能力を付与させていたのか。
アタシの右腕の内側に、いびつな形の黒い模様がついていた。
炎のような、飛沫した1滴の血のような・・・。
拳の大きさくらいの、その黒い模様は、中央に白く「6」という数字があった。
「アイツの能力か。厄介だな・・・。」
シャルが呟いて、考え込む。
アタシは、悔しさで胸がいっぱいになっていた。
今、思えばアイツに似合わない、あの戦い方を考えれば、分かることだった。
確かに今まで銃なんて見てないけど、あれが「能力」の要だとすれば、察しはつく。
今まで、見せないようにしていたのだ。バカなりにアイツは考えている。
しかも「瞬間移動」を戦闘に取り入れて来た。
アタシの技を間違いなくパクってるけど、何回か見ただけで、あのレベルなら、いずれ近い内に脅威になる。
アイツの能力は、使い方次第で危険だ!!
悔しいのは、敗北を認めている自分。
「蜘蛛」を出し抜き、自分の欲しいものを奪って、しかも、アタシにまで何らかの念を仕掛けた。
アイツは、ガルナは、甘く見てはいけない相手だったのだ。
アタシの中で、ガルナの認識が大きく変わり始めていた・・・。
「考えるのは後だ。まずはお宝を運ぶ。全員欲しいものを選べ。」
団長がそう言って、全員が動いた。
2時間後、仮のアジトでささやかな宴を開いた。
「マチ、結局何も盗らなかったんだ?」
「まあ、欲しいものなかったしね。」
シャルの問いに、アタシは缶ビールを飲みながら答える。
―――?なんだろう、確かに、何か違和感あるな。
でも、今までもアタシ好みのモノがないことは、あったし・・・。
「なら、いいけど・・・。ソレ気にしてるんなら、やめた方がいいよ。マチなら、どこに飛んでも大丈夫でしょ?」
シャルがアタシの右腕の黒模様を指差して励ましてくれる。
アタシは笑って答える。
「いや、大丈夫。ホントに欲しいものがなかっただけだし。」
―――ヴヴーン。
妙なオーラを感じて、腕を見る。
すると、黒模様の中央の数字が光り始めていた。
「『発動』したっぽい。」
アタシが言うと、団長も近づいて来て、3人で「凝」を使ってそれを見る。
光っている数字が「6」から「5」に変わっていた。
「?一瞬では移動しないのかな?」
「長いね。」
「ふむ、そこが制約か。」
光っている数字がだんだん減っていく。
「これ、秒だね。発動に6秒かかるとか、不便すぎるよ。」
シャルがそう言うと、アタシが思い出したように言った。
「アイツ、能力発動のときに『セカンド・ブリット』とか『ファースト・ブリット』とか、言ってたかも。」
「
団長が言い終わる前に、黒い模様の数字が「0」になる。
同時に、アタシの身体がオーラに包まれた――。
――――――。
別段、変哲のない、普通の部屋だった。
ブルーの暗めな照明に照らされている、簡単な形のソファー、テーブル。
ベッドは小さめのシングルタイプ。
そういや、アイツ、チビだった気がする・・・。
アタシよりはちょっとデカイけど・・・。
すぐに、アイツの部屋に飛ばされたのだろう、とアタシは理解した。
しかし、不可解なのは床からテーブルから、ほとんど隙間なく、数え切れないほどの美術品が綺麗に並べてあること。ブルーの薄暗い照明がそれらを照らす。
例外は、アタシが立っている場所。
床に描かれている、いびつな形の、白っぽい模様・・・。
中央に黒く「6」と書いてある。
アタシの腕についている模様との色違い。
―――おそらく、同じ数字同士の一方通行型の瞬間移動能力。
―――それにしても・・・。
アイツ、いい趣味してるな。
ここにある美術品、全てアタシ好みだ。
団員からは、マチの趣味は、よく分からない、とか言われるんだけど・・・。
ぶっちゃけ、実際に見ないと欲しいものとか分からなくない?
フィーリング大事だよ。
事前に探すにしても、写真ないと盗る気も起こらないしね。
だから、アタシは「蜘蛛」の仕事を選り好みせず、参加する。
だって、そこにアタシの欲しいものがあるかもしれないし。
―――でも、アタシの心を奪うモノを、一度にこんなに沢山見るのは初めてね・・・。
そうだ。アイツを倒して、命乞いしてきたら、この美術品全部もらおう。
うん、アタシは実利に生きる女だ。
これがもらえるなら、アイツを殺すのをやめてやってもいい―――。
いや、殺して奪ってもいいんだけど・・・。
あれ?なんでアタシそんなこと―――。
ふと、男の視線に気付いた。男は「絶」を使っている。
「・・・ガルナ?」
「初めまして?違うか。久しぶり、マチ。」
ガルナは笑いながら手を振る。
「ところで、これ全部あげる。」
アタシが何か言う前に、ガルナが素早く言った。
アタシは驚いて答える。
「バカなの?アンタのコレクション、簡単に人にあげちゃうとか・・・。何考えてるの?」
さっきアタシがコイツから奪おうとしていたことは秘密。
すると、ガルナは考え始めた・・・。
「コレクション?よく分からないけど、俺は美術品には興味ないからね。ていうか、最初から、あげるつもりで盗んでたし。」
―――?
意味が・・・分からない。
「これ、さっきのやつ。」
そう言って、ガルナが差し出してきたのは、ローザンヌの化粧箱、ミーサの裁縫箱、中将ドミンゴの葉巻入れ、ラダのワインコルク、ノザリアのコインケース・・・。
さっきの要塞で、ガルナが盗んだもの・・・。
全て、アタシ好み・・・。
見たら、分かる。素直に欲しいと思える。
そうか、さっき気付きそうだったのは、「アタシの欲しいもの」だということか。
アイツは美術品に興味ないけど、美術品を集めていて・・・。
コイツ、まさかアタシの為に盗みまでして、集めていたの?
マジで・・・バカ・・・。
ちょうど、ローザンヌの化粧箱を見ていたアタシは、鏡に写った自分の顔が赤くなっているのに気付いた。
誤魔化すようにアイツに背を向けて言う。
「何か、アンタを殺す気が失せた。」
「それは、良かった。まあ、これは最初に会ったときにアレを壊しちゃった、お詫びということで・・・。」
「アレ1個で、これ?割りに合わなくない?」
ガルナの言葉にアタシが振り向き様に、突っ込む。
・・・・・・・・・。
2人とも何も話さない。
沈黙が続く・・・。
「や、ホントはアレと同じものを探してたんだけど、なかなか無くてさ。アレってほら、レア度が低いから、逆に個人所有が多すぎて・・・探しきれなくて・・・。ホントに壊して、ごめんなさい!」
ガルナが手をワタワタさせて、謝罪し始めた。
悔しいけど、何かカワイイ・・・。
「目、つぶって。」
アタシは強く短く、命令口調で言った。
アイツは、有無を言わせないアタシの言葉に素直に従う・・・。
アタシの唇が、ガルナの唇に重なった・・・。
逃げられないように、しっかりガルナの体躯を、抱き締める・・・。
でも、なんでだろう。
ガルナもアタシの軆を抱き締めてきた。
逃げられないように、能力を封じるために、アタシはガルナの舌に自分の舌を絡ませる。
―――逃げられないように・・・。
それ以外の気持ちはこれっぽっちもない―――筈・・・。
ガルナがさりげなく、照明を消す音を聞いた―――。
△△△△△△△△△△△△△△△
「マチ、大丈夫かな・・・?」
シャルナークは、呟いた。
マチが、ガルナの「能力」により、飛ばされてからもう2時間以上経つ。
いまだに、マチから連絡は来ない・・・。
「奴なら、大丈夫だろう。むしろ、転移先がガルナのアジトなら、返り討ちして『お宝』を奪う筈だ・・・。」
クロロが静かに語る。
シャルナークはすぐに聞き返す。
「奪う?どういうこと?」
「さっき、ガルナが盗んだ品・・・。おそらく、マチが欲しがりそうなものばかりだしな。」
クロロが造作もなく、答えた。
「・・・知らなかった。そういえば、マチの趣味って良く分からないんだよな・・・。あっ!だからマチは『欲しいものがない』って・・・。」
「マチ自身、自分の趣味嗜好を、言葉で表現できないからな。だが・・・ガルナはそれを正確に見抜いた。」
シャルナークの言葉に、クロロが補足して言う。
「アイツ、ガルナの『獲物』はマチってことか・・・。でも、悔しいな。マチとは、付き合い長い筈なんだけどなー。マチが欲しいものが分かるとか、何者なんだろう、ガルナは。」
「おそらく、でしかないが、マチと近い感覚を持っているんだろう。」
「?何それ?」
「理屈ではなく、『フィーリング』に生きているってことだ。」
「勘・・・ですか。」
シャルナークとクロロは笑い始めた。
「もし、ガルナが『蜘蛛』に入ったら面白そうだね」
「フッ・・・。もし、ではなく、必ず入れるさ、俺がな。」
シャルナークの話に、クロロの団長としての言葉が、重く辺りに響いた・・・。
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暗闇の中で、2人は交わっていた。
小さなベッドを、ギシギシと揺らしながら、互いの敏感なところを、探し合う・・・。
暗黙の了解で、男と女は互いに「絶」を使っていた。
「絶」により、肉体の感覚を鋭くさせ、オーラによる緩衝もなく、男と女の肌は直に触れる。
「『絶』が、甘くなってるよ?」
「うるさいな。さっきから同じとこ、攻めすぎ・・・アッ・・・こら!」
男の動きに、女はビクンと反応し、女は男をたしなめる。
男はそれが、逆の意味だと理解し、さらに舌で愛撫する・・・。
2人にとって「言葉」は飾りだった。
お互いの肌を求め、許し、攻め、そして、高めあう・・・。
そして、何も言わず、ゆっくりと、男は女の中に侵入しようとする・・・。
女は、シーツを力一杯掴み、それを受け入れる。
2人はそれから、無意識に最適な動きをして、最頂点を目指した・・・。
男と女は、肉体と思考が繋がり、相手の求めていることも、互いに理解できた。
小さなシングルベッドは、悲鳴のような音を鳴らすが、そんなことはお構い無しに男と女の動きは激しさを増す・・・。
男が上になっていたはずが、いつの間にか、女が上になる。
最後には、男が上になり、ラストスパートの如く、動きを速める・・・。
―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!
互いに、全く同じタイミングで、最頂点に到着した・・・。
「ハァッハァッ・・・!」
上気した軆を女が、息を吐きながら、揺らす。
男も呼吸が荒くなっていたが、女のその姿を優しく、愛しく、見守りながら、そっと自分の腕を女の枕にした。
「ねえ、1つ、疑問があるんだけど・・・。」
女が聞くと、男は、無言でそれを促した。
「アンタが盗んだものってどうやって、選んだの?」
女、マチは聞いた。
男、ガルナはゆっくりと、それに答える・・・。
「いや、マチって『箱』好きでしょ?」
「は!?」
マチはあまりに驚いて、上半身を起こす。
「違った?ああ、内容は俺のセンスだけど・・・。」
ガルナの言葉に、マチは唖然とする・・・。
「アタシ、『箱』が好きだったの?自分でも、わかんなかったのに・・・。」
(アタシの内面を、深く理解してる・・・。)
マチは、嫌な気分ではなかった。
しかし、恥ずかしいことには変わりない。
常人を殺す程度の軽めのチョップを、ガルナに打つと、ガルナの反対方向を向いて寝たふりをする・・・。
「いてえ!なにすんの!?」
ガルナは、涙目になりながら、突然の理不尽を訴える。
「うるさい。」
マチは、振り向き様に、これ以上、ガルナに喋らせないように蓋をした。
―――自分の唇で。
そのまま、流れるように、獣のように、本能のまま2人は交わり、混ざっていく・・・。
その攻防は明け方まで、何度も繰り返された・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アタシが起きてすぐ感じたのは、怒りだった。
昼下がりの陽の光に気付いて、体を起こすと、唖然とした。
この部屋には、カーテンというものがなかったのだ。
「マジ、最悪。バカ、死ね。」
隣にいる、バカ面で幸せそうに寝てる男に聞こえるように、言うが全く反応がない・・・。
この男、自分が死にそうにならないと、起きないんだろうな・・・。
昨夜のことを思い出すと、恥ずかしくて、死にたくなる。
ホントになんでこうなっちゃったんだろ・・・。
だけど、ホントに何故かよく分からないけど、今アタシは起こした体を、またベッドに戻して、ガルナの肌を感じるように、抱きついてしまってる・・・。
―――これは、そう。
カーテンが無いせいだ・・・・。
人肌の温度の毛布にくるまって、そう自分に言い訳をした・・・。
すごく、眠い。このままダラダラ寝ててもいいかな。
どこかから、携帯が鳴るのが聞こえる。
そういえば、昨晩ずっと鳴ってたような・・・。
夢中になってて、アタシもアイツも、どっちも気にしなかった・・・。
―――なんて言い訳しよう。
アタシは、頭の中でグルグル考えながら、仕方なくベッドから出る。
もちろん、毛布は奪って、アタシの身体に巻き付ける・・・。
ガルナの身体は丸見えになるが気にしない。
恐る恐る電話に出ると、団長だった。
「奪った『お宝』を、
団長が一方的に言うと、電話が切れた。
う・・・全部、お見通し・・・か。
最後、「連れてこい」って言ってたし・・・。
恥ずかしくて、悶え死にしそうになるけど、まあ、これは仕事。
アタシはシャワーを浴びながら、アイツを連れていく方法を考えた・・・。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺は起きると、昨晩のことは夢だったのか?と思ってしまった。
瓦礫の山、まるで廃墟の中・・・。
目の前に広がるのは強面の面々・・・。
中央に陣取っているのは、昨日要塞で見た、ヤバそうな奴・・・。
「ようこそ、『蜘蛛』へ。俺は『幻影旅団』団長のクロロ=ルシルフル。」
ヤバそうな奴がそう言った。
―――?幻影旅団?蜘蛛?
どっかで、聞いたような・・・。
え?まさか、A級賞金首とかの人達?じゃないよね?
俺はキョロキョロするが、なんか・・・これ、マジっぽい。
ふと背後を見ると、マチがこちらを見やり、ムスッとしてる。
ということは、マチ・・・さんも、あのA級首集団の一員?・・・だよな、状況的に。
アレ?俺は今、念の糸でグルグル巻きにされてる?
ていうか、喋れないと思ったら普通にガムテープ貼られてるし・・・。
ああ、なるほど、俺の手が後ろで縛られてて、剥がせないからか。
いやいや、駄目じゃん!逃げられないし!
「残念ながら、今ここに集まったのは半分程だが、俺も入れて、全部で13人。いや・・・この間、減ったから12人か。」
俺は、何も言って無い!聞いてない!ちょっと、助けて!
「ガルナ=ポートネス。お前のことは、簡単に調べた。仕事が無いんだろう?」
俺は、目を逸らして、何も伝わらないように努力した。
「新しい就職先として、この
ヤバい奴がヤバいことを言った・・・。
何とは言わないけど、ごめんなさい!!!!
でも、フィーリング人間って流されやすい気がする・・・作者も含めΣ( ̄□ ̄;)