なので、他の柱の人出しにくい笑
コミュニケーション能力
それは「他者と意思疎通を上手に図る能力」を意味する。(Wikipediaより)
これは今の社会にとって必須だとされる能力だ。
例えば面接で最も問われているのはコミュニケーション能力だというのはよく聞く話だ。まあ、そんなものがあの短い時間に分かるのかどうかと聞かれると疑問だが、まあ、分かる人には分かるのだろう。
逆にそれがないと、学校や社会を含む大体の活動において物凄く不利になる。下手すればいじめの対象になったとしてもおかしくない。
そう。まさにコミュニケーション能力こそ、今を生きる人類にとって最も必要な能力であり、それによって得た絆こそ最も大切にしなければならないものなのだ。
話を本題に戻そう。何が言いたいのかと言えば
「つまり、コミュニケーション能力が底辺を突き破ってる貴方は、柱以前に社会人としてダメなんですよ冨岡さん」
「…普通に話しているだろう」
「まず、貴方の普通と世間の普通の違いに気付くことから始めましょうか」
冨岡義勇は社会人として終わっているということだ。
胡蝶しのぶは頭を抱えていた。
何故、次の柱候補として成果を出さなければならない自分がこんなことに時間を費やさなくてはならないのだろうか。
チラリと目の前に座っている冨岡をしのぶは見やる。何故、こんな所に座らされているのかも分からないと言った顔にしのぶは盛大にため息を吐く。
ああ、無視してしまいたい。こんなコミュ障放置して毒の研究を進めてしまいたい。
本来であればしのぶもそうしたであろう。わざわざ、こんな社会不適合者の教育をするなんてことは絶対にしなかったであろう。
だが、しのぶには冨岡を助けなければならない理由があった。いやまあ、本人からすれば余計なお世話以外の何でもないのだろうけども。
「まあ、まあ、しのぶ。落ち着いて。私はしのぶの笑った顔が好きだなぁ」
「姉さんは黙っててください」
「い、いやでも、人には向き不向きがあるし!それにほら!義勇君、他に良いところがあるし!イケメンだし!」
「姉さんみたいな甘い人がいるから、こんなコミュ障モンスターが生まれたんですよ!」
妹からの圧倒的な正論に胡蝶カナエは黙るしかなくなり、沈黙する。冨岡は散々な言われように顔をしかめるが、しのぶはそれを見ることさえしない。完全に柱に対する態度ではない。まあ、今更かもしれないが。
胡蝶カナエ。しのぶの姉であり、柱候補のしのぶにとって命よりも大切な肉親である。そしてその命よりも大切な存在の命を守ってくれたのが、他でもない富岡義勇なのだ。
二ヶ月前。冨岡が血だらけの姉を担いで来たとき時には、姉の呼吸は止まりかけていた。しかし、しのぶの技術と何よりも義勇が恐ろしく迅速にカナエを連れてきてくれたからこそ起きた奇跡とも言える。
後に話を聞けば姉が上弦の鬼と戦い、殺されそうになっているときに助けを出したのが他でもない冨岡であったとのことらしい。
その時の怪我が元で、姉は柱の立場を降りざるを得なくなったことを義勇は謝っていたが、そんなことよりも姉の命を助けてくれたというその事実の方が何よりも大事だったので謝る義勇に対して心からのお礼を言った。
その際には、特にお礼に対する返答もなく無言で立ち去った義勇を見て謙虚な人だと感じたしのぶの義勇への好感度は果てしなく上がっていた。そう、この時がピークだった。もう合わなければ冨岡義勇という人間はしのぶの中で最高の恩人であり、鬼殺隊の誇りだと感じて終わることができた。そう、この時までは。
それから暫く経ち、今までであれば気にしなかったのであろうが富岡の良くない噂を聞いた。何でも、部下に対して見下した態度を取るとか何とか。
しのぶとしては信じられない気持ちだった。あの冨岡義勇がそんなことをするはずがないと。何か誤解があるのだと信じた。
そして、結果としてそれは誤解だった。誤解だったのだが、その誤解の内容が良くなかった。
とある部下曰く
冨岡に稽古をお願いした時に
「力の差が激しすぎて話にならん」
と言われたという。
しかし、しのぶが後から冨岡に確認したところによると
「(稽古は同程度の実力差でやる方が為になることが多い。俺とお前では)力の差が激しすぎて(効率が悪い。それよりも、もっと身近な者に頼むと良い。その方がためになるし、実戦向けだ。俺との稽古だけでは)話にならん」
これは酷い。
すぐにしのぶは冨岡の誤解を解くために奔走した。その結果として誤解は解けたし、しのぶもまあ、こんなこともあるよねと気楽に捉えていた。そう、この時までは。
しかし、一度耳に入ると噂と言うのは次々と入ってくるものだ。瞬く間に、冨岡の噂はしのぶの耳に入った。
「冨岡様にご飯を作って差し上げたら『時間の無駄だ』と言われた」
→本人としては俺にそんなものを作る暇があったら、ゆっくり休めと伝えたらしい。
「鬼に殺された仲間のことで泣いていたら冨岡様に『泣いて解決すると思っているのか』と言われた」
→本人としては仲間の分まで強くなって、他の仲間を守れと伝えたらしい。
などなど。
これらの話を通じてしのぶは悟った。
冨岡義勇は謙虚な人なのではない。ただのコミュ障なのだと。
しかも、元来面倒見が良い性格に加えて姉の命の恩人というステータスまで付いている冨岡を助けないという選択肢はしのぶには存在せず、義勇に対して存在するありとあらゆる誤解を解消してしまった。
解消してしまったのだ。
そのせいで、そのことが他の柱の耳にも入り、冨岡義勇への伝言があると何故かしのぶを通して伝えられるようになってしまった。しかも困ったことにその方が圧倒的に効率が良かったのだ。
柱の一部には最早、今後は柱の会議の時には冨岡ではなくしのぶを呼んだ方が良いんじゃないかという意見まで出てくる始末だ。止めと言わんばかりにお館様まで完全には否定しなかった。
何とも言えない顔でそのことを冨岡に伝えると富岡は表情一つ変えずにこう言った。
「そうか」
え?それだけ?としのぶの頭がフリーズしてる間に義勇は立ち上がり、しのぶを完全に無視して稽古を始めてしまった。
その姿をプルプルと震えながらしのぶは見ていたが、稽古をやめてご飯を作り始めた冨岡を見て我慢ができなくなったしのぶは叫んだ。
この時点でしのぶの冨岡に対する敬意など完全に失われていた。当然である。
「恥ずかしくないんですか!」
「何がだ?」
「この事実がです!冨岡さんより私の方がある意味信頼されちゃってるんですよ!?柱としてどうなんですかそれ!?」
声を荒げて話すしのぶの目を見てあろうことか、富岡は平然とこう言った。
「俺は話すのが嫌いだ」
この言葉でギリギリ保っていたしのぶの中のナニカがキレた。
「…今すぐ蝶屋敷に行きます。準備してください」
「…何故だ?」
「冨岡さんのコミュ障を改善する授業を開始します!」
そして冒頭に至る。
終わることのない、鬼狩よりも難しいしのぶの仕事が今始まった。
次回の更新は未定です