終末日誌   作:木刀超好き

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九月十日

 今日、鈴木に秘密が出来てしまった。

 こういうB級映画にありがちな都合のいいボーイミーツガールは反吐が出るほど嫌いなのだけれども、しかし出会ってしまったものは仕方がない。幸いにしてこの日記の存在は未だに鈴木に知られていないようだから、王様の耳はロバの耳と書き記しておこう。

 

 僕が本日、ゾンビハザード発生まで母校の現役女子高生であった葉柳千弦(はやなぎ ちづる)と出会ったのは自由時間での、古書店偵察の最中だった。あいにくと一週間前と変わらずにゾンビ達は今も餓死することなく本の森を徘徊し続けている。そんな地獄。バイクの構造とエンジンの起動、旋回慣性のコントロール。そんなものを学びたくて古人の知恵を借りようか、そう思っての偵察だった。

 彼女は長袖長ズボンのジャージ姿で、薙刀と偃月刀を足してその全てを鉄と鋼で作った------鉄長刀で武装していた。僕の薪割り斧などという兼用武具とは違う。まさしく人を殺すため以外に何の使い道もない、日本刀以上に突き詰められた武器の一つ。滑り止めに黒錆が施された長い柄は、軽く穴があけられて軽量化されており、刀身は恐らく鋼板を熱処理してグラインダーで刃を付けたようなもの。刃なんてついていないようなもの。だが、その威力を侮ることはできない。鋭さで言えば皮一枚切れない斧でも肉体を破壊するには十分だ。ましてあの長さと重さを兼ね備えた武器に斬りつけられたならば、断面は潰れて壊死し回復はまず見込めないだろう。手術用のメスは術後の回復を考えて作られているが、武器は術後に回復されては困る。古今の近接武器の刃が鋭くないのはそのためだ。

 

 さて、そんな彼女と僕が交渉もとい会話できたのは、単に共通の漫画のセリフをお互いにやり取りし、笑いを堪えきれずに同時に崩れ落ちたからである。まさかシ〇ルイのセリフをこんな世界でやり取りする羽目になるとは思わなかった。

 さてそれからは話し合い。ゾンビのいない国道の真ん中まで戻って、チョコを舐めながら近況報告を行ったのだった。ちなみに葉柳さんに貰ったそれが僕の初チョコということになる。感激だ。アインシュタインの相対性理論を例に出すまでもなく、女の子からもらったチョコは美味い。

 彼女は丁度ゾンビハザードが起きた日に忘れ物を取りに帰ったおかげで助かったという人物だ。それから三日前まで自宅にこもって食料を食べてしのいでいたが、とうとう食べるものがなくなってこの辺りを散策しだたのだった。

 鉄長刀はジャバウォックを名乗る赤毛の女に貰ったという。彼女は巨大な斧を持ち、武蔵坊弁慶よろしく背中に背負った木箱に鉄長刀のような武器を何本も入れて、スーパーマーケットのゾンビを皆殺しにしていたらしい。にわかに信じがたい話だが、そもそもゾンビハザードなんていう事態がバカげた状況といえばバカげた状況だ。だから仮に一応、そういう赤毛のジャバウォックなる人物がいたと信じよう。

 

 チョコを三欠け舐め終わるまで彼女とは漫画の話をした。ベルセルクとハンターハンターはいつ終わるのかとか、セスタスの師匠の握力とパンチ力の理論って花山薫のパンチ並に意味不明だよねとか、水上悟志は神マンガばかり描くとかそんな話だ。

 それで話題が今一緒に住んでいる隣人の鈴木の話に移った時、彼女はあきらかに嫌悪感を顕わにした。

 狂っていますねその人、と葉柳は言った。

 だからメールアドレスもラインも交換したけれども、彼女のことを鈴木に話すべきか分からない。

 いっそ連絡もなにも破棄してこれまで通りに過ごすほうがいいかもしれない。

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