ハイスクールD×D ~桃源郷の四神~   作:豊田

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序章:プロローグ
とある研究者の記録


私はここに記録を記したいと思う。私たちが犯したある罪の記録を、懺悔の告白を。

 

私たちが目覚めさせてしまった悪魔のことを、造り出してしまった哀れな怪物のことを。

 

だが、何れ程のことを記すことが出来るだろうか?記録を書き起こしているこの瞬間も、部屋の外からは耳をつんざくような銃声や、おびただしいほどの悲鳴や雄叫びが、固く閉ざされた後ろの扉から聴こえてくる。

もはや逃げ道など一切ないだろう。いつこの場所に彼がやってくるか。もはや時間の問題だ。だからこそできうる限りのことをここに記したい。

 

私は教会の研究者だった。

教会で悪魔や人外の化物に対抗するための兵器や、人の身でありながら悪魔どもと闘える超人を製造する計画に携わっていた。

しかし、想っていたような成果はでず、上からは急かされ、周りからは無能と馬鹿にされ続ける毎日。

私の中の怒りや焦りといった感情は日に日に増大していったある日のことだ。彼に出会ったのは。

 

彼はサトー・スズキと私に名乗った。人の良い笑顔を浮かべる彼はある企業の人間だと言い、私をあるプロジェクトの主任としてスカウトしに来たとの事だ。

最初は胡散臭い話しだと思っていたが、サトーの話しを聞くうちに私は彼の話しに引き込まれていた。研究に行き詰まっていた私は彼の話しに乗る事にした。

 

 

彼の話を受けた私は、すぐさま彼の案内で研究施設へと向かった。

その施設では人工的に神器(セイクリッドギア)と呼ばれる神の遺産を造り上げることを目的としていた。

だが、教会でも同じような研究をしていた私にとって、それはただ研究場所が変わっただけのことだと不満があった。

 

しかし、サトーは見せたいものがあるといって、研究施設の地か深くにある隔離区域へと私を案内し、そして私は見てしまったのだ。

 

サトーが私に見せたもの……それは、頭蓋骨だった。勿論ただの頭蓋骨ではない。それは人の頭蓋でも動物の頭蓋でもない……地球上の生物にこんな形の頭蓋をしたものいるはずがないと一目で分かってしまった。

そう、それは間違うことなき怪物の頭蓋だった。

 

私はその存在に恐怖を覚え、すぐ様この場から逃げ出したいと感じたが、そんなことは出来なかった。

何故か?そう問われれば、こう答えるしかできない。

 

 

――――魅せられた―――

 

その頭蓋の存在感に、圧倒的な迄の魔の魅力に、眼球などない底知れぬ深淵を彷彿とさせるその瞳に、私は魅せられてしまっていたのだ。

 

 

 

それから数年。停滞していた研究は私自身驚くほどに進んでいった。そうあの頭蓋骨を研究対象とするこでだ。一体あの頭蓋が何の骨なのか?そんなことを考えることはなくっていたある日のことだ。

 

サトーが一人の少年を連れてきた。年の頃は6、7歳くらいだったろうか。青白い肌が特徴的な少年だ。

 

サトーの用件は少年を暫く預かって欲しいとのことだった。

特に断る理由がない私は、少年を預かることにした。少年は体が弱く、長時間の運動をすることが出来ず、そして満足に食事をすることが出来ない体だった。

 

 

だが、少年はそのことで卑屈になることはなく、寧ろより明るく日々を過ごしていた。そんな少年と過ごす内に、私は少年に愛情を注ぐようにとなっていった。

 

 

少年は外の世界を見たことがないといった。だから私は彼に外の世界のことを教えた。少年は私の話しを目を輝かせながら楽しそうに無邪気に聞いていた。

 

研究一筋で生きてきた私には家族と呼べるものなどなかった。だからだろうか、少年と過ごす日々が私にとってもかけがえのない日々へと変わっていったのは……。輝かしい日々が永遠に続くと思っていた。

 

 

しかしそれは、唐突に終わりを告げた。

 

 

 

数年がたったある日のことだ。少年の容態が急変したのだ。ベッドから起き上がることも出来ず、日に日に弱っていく少年に私は持てる知識や技術を総動員して、治療に当たった。

 

だが……治療は意味をなさず、少年は日増しに衰弱していった。

私が学んできたものは一体なんだったのかと無力感に苛まれていた時、唐突にサトーは現れ私に囁いた。

 

 

 

――――あの頭蓋を使え――――

 

 

今迄の研究であの頭蓋には人の生命力、身体能力、魔力を強化することが分かっていた。

確かに、頭蓋を使うことで少年を救うことはできるかもしれない。

だが、実験データもないなかで成功するかは最早賭けに近いものだ。だが当時の私にはその賭けにすがるしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

どうやら記録を記している時間は余りないようだ。彼がすぐ其処まで来ている……最早時間はない。

 

故に結果だけを述べるなら、賭けは半分成功、半分失敗と言った所だ。

 

確かに少年は回復し、みるみる元気になっていた。しかし、少年は最早人間ではなくなってしまっていた。

 

そして今この時、少年は暴走し研究施設内では無慈悲な殺戮が行われている。

 

 

もしこの記録を読んでいる者が居るのなら、この愚かな私の願いを聞き届けて欲しい。

 

どうか私が犠牲にしてしまった少年を、息子を救ってくれることを切に願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「……………『救ってくれる事を切に願う』……ねえ」

 

 

 

辺り一面に血飛沫が飛び散ったであろう一室。その血も既に渇き、赤黒い染みとなり果てた薄暗い部屋の片隅で、パソコンに記されている記録に目をとうしている白いスーツ姿の男がいる。

 

男は記録の最後の文章を口ずさむと笑みを浮かべながら、振り返ることなく背後の扉の外に佇む防護服姿の者達に軽い口調で話しかけた。

 

 

 

「とまぁ、こう言う訳だからさ……被験体は逃げちゃたみたいなんだよねェ〜。まぁ確かに、護衛もそんな居なかったしさぁ、研究者っていう毎日毎日部屋に閉じ籠って研究してる青瓢箪揃いのインドア派じゃそんな持たないとは思うけどさぁ……もうちょっと踏ん張ってもいいんじゃないかなぁ〜……君たちもそう思わない?」

 

 

 

問い掛けられた防護服の者達。だが男の問いには反応せずただ其所に佇んでいる。その様はまるで意思など持ち合わせていない、人形を彷彿とさせている。端から見れば薄気味悪い者達だが、スーツの男はその沈黙がさも当然かのように落ち着き払っている。

 

 

「君たちが答えるわけないしね。まっ!お喋りは此処までにして研究成果とデータの回収、それから証拠隠滅のほうはヨロシク……あぁそれから魂の回収を忘れずにね」

 

 

 

男の掛け声を受けた防護服姿の集団はバラバラに散って行った。

自分一人になったスーツ姿の男は椅子の背凭れを倒しながら、床を蹴り椅子をクルクルと廻しながら軽快なリズムの鼻歌を歌っている。

 

「〜〜♪イヤーッ!!まさか覚醒するとはね。確率的には2割ぐらいと思ってたんだけどね………ホントッ!!優秀な研究者だったよね彼。まっ、最後は親の情にほだされたみたいだけど………ブフッ!!フフフ!ハーハハハッ!!アー、ハライタイ!!血も繋がっていないのに息子ッ!!ホントッ下らないし愚かだよね。…………頭の良い人間ってたまにおかしな思考回路をするよね♪」

 

目に涙を浮かべながら腹を抱えて椅子に座り、椅子をクルクルと廻している男はその込み上げてくる笑いを我慢することなど一切せずに笑っている。

 

血だらけの部屋でバカみたいに笑う様はまさに異常。まるでこの部屋だけ世界から切り離されてしまったのではと錯覚してしまうほどだ。

 

異質な空気が支配する部屋。永遠に続くのではと思われたそれは、男がその動きを止めることで終わりを告げる。

 

先ほどとは違い扉に向き合うように座る男は、既に馬鹿笑いは止めているがその顔に笑みを湛え、ある一点を見つめている。

 

 

 

男の見つめる先、面白いもの視るかのような視線の先には、扉にもたれ掛かるように佇む一人の女性に注ぎこまれている。

年の頃は十代後半ぐらいだろうか。肩口まである紅い髪。まだ幼さは残るが街を歩けば皆がみな、振り返るような美しい容姿をした彼女もまた椅子に座る男を見つめている。

 

しかしその視線は、男とは違い何の感情も籠っていない。……否、彼女は平静を装っているだけなのかもしれない。

 

彼女の視線には目の前の男に対して憎悪や敵意といった感情が時折顔を出している。

 

しかし男はどこ吹く風といった感じの笑みを浮かべ、目の前の彼女を見ている。彼女の悪意にまるで気付いていないようだ。もしくは気付いているがそれすらも面白いと思ってるのかもしれない。まあ彼の真意など図ることなどできないのだが…………。

 

「急に来られるとビックリしちゃうじゃないか。ビックリし過ぎて心臓止まって死んじゃうところだったよ!ああぁでも心臓が止まったら止まったで君に人工呼吸をしてもえば良かったかな?」

 

「黙りなさい。サトー」

 

役得、役得と再び笑い出す男。その様子に短くため息をついた女は、先ほど迄の視線を更に鋭くしながら感情のない冷たい声を男に浴びせる。

 

「その覚醒者のせいで施設はほぼ壊滅状態。回収できるデータも微々たるもの……。それに覚醒したのがアレ(··)なら回収できる魂なんてあるわけないでしょ。今回の件は貴方の職務怠慢が原因ではなくて?サトー」

 

「アハハッ!!厳しいねェ〜。でもさぁ商品の生産ラインは軌道にのったし、この施設のデータに利用価値のある目ぼしいものはもうほとんど無かったからね。それに覚醒者が目覚めた時点でこの施設の役目は終わったんだよ……マリア嬢?」

 

男の視線の先にいる女……マリアは男に名前を呼ばれたことが、さも不快であると言わんばかりの表情を浮かべているが。そんなことお構い無しに男は更に口を開く。

 

「まぁマリア嬢の言うことにも一理ありだ。まさか覚醒と同時に暴走するとは、流石に僕も予想して居なかった。反省、反省。」

 

「反省なんて欠片もしてない癖に……。後始末をすることになる私たちの身にも少しはなりなさい」

 

「アハハッ!ごめんねマリア嬢…………で?彼はもう捕捉出来たのかな?」

 

「……既に捕獲のために部隊を差し向けているわ。人選は万全を期して、サリーサと骸王(ガイオウ)を」

 

「妥当な人選だね。まぁ一つ驚いたのは君が骸王を行かせたことかな?」

 

「どういうこと」

 

男の言葉にマリアの纏っていた雰囲気が一変した。先ほど迄隠していた悪意を隠すのを止め、目の前の男に明確なる殺意をぶつける。可笑しなことを言えば殺す……そう心に決めながらマリアは男を睨み付ける。

 

「いやだってさ骸王は君の大事な大事なお人形さんだろ?もし彼に(こわ)されちゃったら二度と会えなくなっちゃんだよ?大変だね!寂しいね!心が痛んじゃうね!計りしれないね!愛しい愛しい人に会えなくなるなんて僕にはとて…………」

 

バンッ!!

 

男の言葉を遮るように高速で顔の横を通り過ぎた紅い球体。それは男の背後の机に当たると破裂し机を燃やしだした。一瞬で机を呑み込んだ炎はまさに、彼女の怒りそのもの。一度敵と認識したもの跡形もなく無に帰す獄炎のようだ。

 

「無駄なお喋りは嫌いなのよサトー……それ以上無駄口叩くならその舌焼き尽くすわよ」

 

「おー怖い怖い……」

 

口ではそう言っているが、まるで怖がっている様子など微塵も感じない男は、椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「冗談じゃないかマリア嬢」

 

立ち上がった男は一歩一歩ゆっくりとマリアに近づく。ただそれだけのことで彼女の足はすくみ、全身は小刻みに震えだす。自身の体を抱き締めるように腕を組み震えを隠す。

 

目の前の男に気付かれたくないと。自身がこの男に恐怖していることなど悟られわけにはいかないと。精一杯の勇気で感情を押し殺すマリア。――――だが。

 

「大丈夫!君に何かする訳ないでしょ?大事な大事な覚醒者なんだから!!……それにほら僕って見た目通りの紳士でしょ?…………お人形遊びが趣味の小娘は範囲外だから安心してねマ・リ・ア嬢♪」

 

精一杯の虚勢を看破した男はマリアのすぐそばに立つと、彼女の頭に優しく手を置く。まるで幼子をあやすように。

 

「だからそんなにビクつかないでマリア嬢!!君にそんな顔は似合わない……彼もそんな顔をさせるために僕らにその魂を捧げたわけじゃないよ(······················)

 

「ッ!!」

 

視線で人を射殺す……そう言うしかない目付きで睨み付けるマリア。しかし当の本人である男は気にも止めず話を続けている。

 

「それに自分で言っといてアレだけど覚醒したばかりの彼じゃ、サリーサにもましてや骸王に勝つなんて不可能だ」

「………………」

 

視線はそのままに睨み続けるマリア。その様子に肩をすくませる男は部屋を出ながら振り返ることなく彼女に言葉を投げ掛ける。

 

「それじゃあ迎えに行こうか。心配はしてないけどさぁ……どうやら騎士団(オルデン)の連中に気づかれたみたいだからね。急がないと!!騎士団に加えてトワイライトの奴らまで来たら面倒だからね」

 

「仰せのままに……サトー」

 

男の背中に投げ掛けるマリア。すると男は歩みを止め、振り返ることなく今思い出したかのようにその口を開いた。

 

「マリア嬢さっきから言おうと思ってたんだけど……僕のことサトーって呼ぶのは止めてね♪」

 

「……何故?」

 

「僕は色んな所でいくつもの名前を名乗ってるでしょ……たしか君たちの時はえ〜と…………」

 

「スウィンドラー」

 

「そう!!それそれ!!でね僕は気に入った相手がいたらその人に使った名前を捧げることにしてるんだ!スウィンドラーも君たちに捧げたからもう使ってないよ」

 

「……じゃあサトー・スズキは彼に捧げたのかしら」

 

「その通り!!彼は最高にいい仕事をしてくれたからね。それに対する敬意さ…………だからねいつも通りの名前で呼んでね」

 

言いたいことは言い切ったと言わんばかりの、満足気な表情を浮かべ再び歩きだす男。少しずつ遠ざかるその背を睨み付けながらマリアは短いため息をついた。

「仰せのままに……(ロン)

 

スーツの男に……かつて自らが『スウィンドラー』と呼んだ男を……『サトー・スズキ』と呼ばれていた男を……そして今、自らが龍と呼ぶ男を。

 

まるで怨敵を見詰めるかのような瞳で、呪詛のような声で龍の名を告げるマリアだが。

 

「だけど……何れ必ず……!!」

 

そう言い残し、龍のあとを追うマリア。言葉に揺るぎない覚悟を乗せて……

 

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