何駅目かの車内アナウンスが響く。
何十人もの人間が密集する満員電車とは社会人として会社に入社してから今の今まで
随分とまぁお世話になっている。
あまりお世話になりたくないものだか。
もうじき12月も終わろうとしている。
自分はと言えば、帰るところは小さなアパート。
これで妻や子供なんかが居るのなら、それだけで幸せだったのだろうが
生憎自分にそう言った関係の人間は居なかった。
今年も変わらず一人だろう。
もしかしたら同じく独身の同僚に飲みに誘われるかもしれない。
あぁ、けどそうだ、生活費。
考えれば考える程憂鬱になるのがこの季節。
暖房が効きすぎて蒸し暑くなった車内で額に浮かぶ汗を拭う
瞬間、今でも耳になれない金属音と共に大きく車内が揺れ、とん、と何かが体にぶつかった。
「あ、すみませ...」
咄嗟に声が出てそちらを振り向く、そこに居たのは綺麗な青年だった。
時が止まったような、そうでないようななんと形容すれば良いのかわからない感情がゆっくりと、そしてぼんやりと胸の内に広がる。
光を反射してきらきらと輝くブロンドと、こちらを見つめる碧眼。
何処か神秘的なそれを思い出させるその青年は小さく眉を寄せて、その形のいい唇を動かした
なに、あんた。
そう怪訝そうに発せられた言葉に慌てて謝罪の言葉を述べる。
青年は私に特に関心が無いようで、
別にいいけど、と一言返すとまた何事もなかったかのように流れ続ける景色に視線を戻していた。自分も、彼を見つめ続けるとは失礼だろう、けれど少しくらい
小さく考えて横目でチラリと青年の顔を盗み見る、伏せられた目と、口から溢れた艶っぽいため息に
どきり、とひとつ胸が鳴った
どんなに美しい人間だったとしても、相手は男性だというのに。
言い聞かせても止まらないそれにどうすれば良いのかわからず唇を噛んだ
とりあえず相談だ、と性別は伏せたまま同僚の女性にメールを打つ。
文が出来上がり送信しようと指をボタンに運んだ瞬間また先程と同じように音をたてて車内が揺れた。
突然の大きな揺れに体勢を崩してぐらりと体が斜めに落ちる
しかし転ぶと感じて目を瞑ったものの衝撃は来ず、代わりに誰かの小さな笑い声が耳元に届いた。
どうやら抱き締められるかたちで助けられたらしい。
「大丈夫、ですか」
「え、あ...す、すみません助けて頂いたみたいで」
「いえ、気にしないで下さい。俺達、よくぶつかりますね」
爽やかにひとつ、笑いを溢した青年は停車した電車の車内アナウンスを聞いた後、
早足に背を向けて去っていった。
何の偶然かは知らないが自分も同じ駅で降りるのだ、もしかしたらまた会えるかもしれない、
そんな淡い想いにまた首を傾げてよれよれとなったスーツを軽く整える
これはアイロンをかけて貰わないと駄目かな、と小さく小さく苦笑いして
自分もまた歩みを早めた