「ヤン・ウェンリー提督――!」
帝国軍軍服を着た暗殺者のブラスターが放った光線は、ヤン・ウェンリーの左大腿部を撃ち抜いた。
「殺した、殺したーー!!」
暗殺者は、ヤンの生死を確認せずに発狂したようにその場を走り去った。
「(動脈層を撃ち抜かれたな。)」
ヤン・ウェンリーは、その傷から自らの動脈を撃ち抜かれたことに気付く。止血するために首に巻いたスカーフを巻きつけ止血を試みるが、睡眠導入剤の効力によって半分寝ている状態であるためその手に力が入らず、滝の様に流れる血を止めるまでにはいかなかった。
情けないと思いつつ、それでも前に進もうと壁を這うように歩みを続ける。その体は血が抜けて体重が軽くなってはずであるが重く、数メートル進んだ所で壁にもたれかかる様に座りこんでしまう。
「(やれやれ・・・ミラクルヤンが・・・血まみれヤンになってしまった・・・。)」
大腿部に空いた穴から大量の血が流れ出しその場に血の水たまりを作り出した。失血によりヤンの意識を奪い取っていく――。
「ごめん、フレデリカ。ごめん、ユリアン。ごめん、みんな・・・・・・ 」
不敗の魔術師、ミラクル・ヤンと呼ばれたヤン・ウェンリーは、33歳でこの世から去った。
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「お・・・きろ・・・!」
「んっ・・・」
「おい、起きろ古代! いつまで寝てるんだ!」
「(古代? いったい誰のことなんだ・・・)」
意識が覚醒する。目の前には見たことのない青年が立っていた。
周囲を見渡す。そこは今までいたレダⅡの艦内でなく、小さなカプセルの様な狭い場所であった。しかも、窓の外を見る限り何処かの惑星の地表であることが間違いなかった。
「(おかしい、さっきまでイゼルローン回廊・・・宇宙空間にいたはずだ。)」
「君は誰だっけ?」
「おいおい古代、冗談はよしてくれ、寝ぼけているのか?俺は島大介、士官学校の同期だろうが。」
「ああ、」
「しっかりしてくれ、俺たちが火星でくすぶっている間に冥王星ではメ号作戦が遂行中なんだぞ。顔を洗って目を覚ましてこい。もうすぐ俺たちの出番があるかもしれないんだからな。」
「わかった・・・。」
ヤンは、必死に情報をまとめようとする。しかし、綿菓子のように甘くなっている脳の状態ではまとまらなかった。そして、洗面所らしき場所の前に立った。しかし、水を出す方法が分からない。洗面所に書かれている文字は同盟、帝国どちらの公用語でもなく、何処かでみたことのある文字であったが思い出せない。
すると、ヤンの状態に見かねたのか島という青年は、後ろからスイッチを押して水をだしてくれた。
「おい古代、水の出し方までわすれたのかよ。本当に大丈夫か・・・」
「あ、ありがとう。」
そして、ヤンは顔を洗い始めた。青年に勧められるがまま顔を洗ったが、完全に目が覚めるまでには至らなかった。
「(ハア~、一体全体どうなっているんだ。)」
一応顔を洗ったヤンは、先ほどの島という青年が押したスイッチを押した。すると水は止まった。オン・オフについては同じスイッチであるようであった。
タオルで顔を拭いて鏡をみる。
すると、そこに映っていたのは見たことのない青年の顔であった。
「(一体どうなっているんだ!?)」
突如、頭痛が走りヤンの意識は暗転した。