目が覚める。カプセルの天井が見える。夢だと信じたい。だが、これは現実だと理解する。
「ああ島、僕は大丈夫だよ。」
「そうか、それならいいんだが・・・。」
「(大丈夫なもんか。)」
先ほど意識が途絶えた時、いろいろ思い出した・・・。いや、思いだしたというよりは後から情報を頭の中にインストールしたような感じであった。
簡単に言うと、自分は地球の仏教等の思想にある輪廻転生という現象を体験したのであった。
この世界の自分の名前は古代進。2177年7月7日生まれ。現在20歳。地球防衛軍士官学校に入学。そして、第7航宙団空間戦術科所属し、階級は一等宙尉。これは、同盟軍階級にあてるとだいたい大尉にあたる階級である。
そして、この世界についてだが、まだ西暦の時代であり、技術レベルはというと、ワープ技術は確立されておらず、太陽系内を航行するのがやっとのレベルであった。また、ヤン・ウェンリーが居た世界と大きな違いが二つあった。一つは、西暦2039年に起きた『13日戦争』が発生していないことであった。地球統一政府は、国連と言う形で存在し、13日戦争の様な全面核戦争は発生はしていなかった。ただ、内惑星戦争という大きな戦争が二回発生しているようではあった。二つ目は、ガミラスの存在である。これはヤン・ウェンリーの世界にはなかった地球外文明のことである。冥王星で初の接触をして以降、現在にいたるまで戦争中であることについてであった。
「ハア~。」
頭に入ってきた情報をまとめてみると頭が痛くなってきた。原因はいくつもあるが、一つに輪廻転生と言う現象を身を持って体験することになったのはいいが、前世と同じ軍人というやましい職業についていることであった。何故、同じ軍人となってしまったのか、軍人じゃなくともっと他の職業についていてもいいじゃないかと思ってしまう。前世の自分は、好きで軍人になったわけではない。父が収集していた骨董品が殆んど贋作で、歴史を学ぼうと大学に入りたくともお金がなく、仕方が無くタダで歴史を学べる士官学校に入り軍人となったのだ。その後はと言うと、エルファシルから始まり数々の戦いを重ねて、ついには元帥の地位に着いちゃったのである。その後は、辞表を出して夢の年金生活のつもりであったが、いろいろとあってイゼルローンを奪還。その後、イゼルローン回廊でラインハルト・フォン・ローエングラムと開戦。なんとか一時講和を引き出すのに成功して、会談の為、レダⅡで移動中に地球教の襲撃で命を落としてしまったのである。
「(いや、これは贖罪なのかもしれないな。戦争とは言え、多くの戦争孤児や未亡人を作っていまった自分への・・・・・・)」
指揮官として命令一つで、多くの命を奪ってきたことを思うと、この状況は優しいと思うのであった。
「(たぶん、地獄に一回落ちるだけじゃ済まないだろうな。それよりも問題なのは・・・・)」
輪廻転生先が同じ軍人よりもさらに問題なことがあった。それは、いまの地球は、前世の自由惑星同盟よりも末期な状態にあることであった。冥王星でのガミラスとの初接触から国連宇宙軍は負け続けていてる。第一、第二次火星沖海戦によりなんとかガミラスから地球への直接侵攻を防ぐことができた。しかし、ガミラスは遊星爆弾によるロングレンジ攻撃に移行。遊星爆弾により地球の国力は削ぎ落され、青い地球は、赤い地表をさらす無残な姿になってしまった。国力を削がれたことや太陽系惑星間の物流が出来なくなったことで物資が不足し兵力の補充が出来ず、現在では、唯一まともな戦力は寄せ集めの第一艦隊のみであった。その第一艦隊は、現在メ号作戦の遂行のため出撃中であった。
で、このメ号作戦というのもとんでもないものであった。メ号作戦の作戦の主旨は、残された艦隊で敵の太陽系前線基地となっている冥王星に侵攻し、基地艦隊及び基地そのものを殲滅するというものであった。これまでの戦績を考えるとあまりにも無謀な作戦である。ただえさえ技術力が大人と子どものレベルなのに、量的に負けてる状態で戦うことは自殺行為であった。出撃した艦艇のうち何隻が生き残れるか疑問であった。例え勝ったとしても今の地球には未来がない。あと1年4か月で人類は滅亡する。
さらに問題なことがある。この作戦に古代進の兄である古代守が参加していることであった。古代進にとって残された唯一の肉親であった。もし、彼がここで死ねば古代進という人間は天涯孤独となるのであった。今回の作戦、ほぼ全滅が確定している状況で彼が生き残れる可能性は大変低いと考えると悲しみが湧いてくる。ヤン・ウェンリーとは関係ないとはいえ、転生した体である古代進にとっては最後の肉親であり、体の奥底から悲しみが湧いた。なんとも不思議な感覚である。できれば頭に入ってきたデータとしてはなく、実際に会って話をみたかったと思うのであった。
「(それにしても、疑問なのは自分たちの扱いだ。)」
自分たちは、第一艦隊が冥王星に向かう途中にこの火星に降ろされたのである。理由は、火星に来るであろうモノの回収するためであった。回収するモノについては詳しく知らされてはいないが、とにかく
まあともかく、この任務のおかげで自分と島の二人は2人は冥王星における会戦に参加せずに済んだため少しばかり生き残ることができたのである。それだけは喜べることではあった。
「(もしかすると本命はこちらだったりするのかもしれないな。)」
そうすれば話は繋がる。つまり第一艦隊は囮であり。自分たちが何かを回収する時間を稼いでいるのだとすると納得がいく。
「(だとすれば、地球最後のまともな艦隊である第一艦隊と多くの兵士を犠牲にするだけの価値があることなのか・・・。下手をすれば1年と4か月を待たなくして人類滅亡が早くなる可能性もある。)」
様々な思考をこらす。しかし、古代進という人間が持っていた記憶だけではこれという確実な結論が出せない。
「ハァ~」
また溜息をつく、そして頭を掻く。ともかく時間が来れば分かるので待つしかない。
「全く、どんな世界だとしても戦争というのは同じか。」
「おい古代、さっきからブツブツ独り言を言いながら溜息なんかついてどうしたんだ?」
先ほどから自分の相棒である島が心配そうに見ていた。
「やっぱり、兄さんのことが心配なのか?」
「ああ、それと今回のメ号作戦についてちょっとね。」
「兄さんのことには分かるけど、メ号作戦につては正直下っ端の俺たちがいくら考えたって分かりっこないさ。」
その時、通信機の受信音が鳴り、島が通信機に繋がれたヘッドセットを耳に当てた。
「―――はい。了解しました。」
無線機を切ると島は、置かれていたヘルメットを投げ渡してきた。
「古代、俺たちの出番だ。行くぞ!」
「ああ。」
渡されたヘルメットをかぶりエアロックに向った。
エアロックを出ると、カプセルの近くに駐機してある100式空間偵察機へ向かった。キャノピーを開けると、古代は複座の後席に座ろうとする。
「古代、お前が前だろ。」
「あはは、すまない。」
「しっかりしてくれ。」
「(はあ~、やっぱりやらなくちゃいけないのか。)」
またまた溜息をつく古代であった。
インプットした記憶によると古代進は空間機、つまり、宇宙歴で言うところのワルキューレやスパルタニアンのパイロットであるのだ。疲弊した現在の地球防衛軍は、慢性的な人手不足で複数の職を兼任することが当たり前になっている現状である。そのため、地球防衛軍に入った際は好きな部署に簡単に入ることができる状態であった。が、パイロットという職業は適正によって左右されることが強く、何にでもなれると現状でも、志望しても限られた人間しかなることが出来ないのであった。
しかし、ヤン・ウェンリーという男は士官学校の科目「戦闘艇操縦実技」は59点と赤点ギリギリで合格した。
つまり、何が言いたいのかというと今の古代進という皮と中身で全く矛盾しているのであった。
古代は操縦席に座ったはいいが、正直言って飛ばせる自信がない。一応、一通りの動作、航法、戦闘技術についての記憶はある。しかし、飛ばすとなるとどうなるかわからない。
簡単にいうと、全くの素人が、マニュアルを読みつつマニュアル車を運転するような状態であった。
「(とにかくやってみるしかない。)」
キャノピーを閉じる。そして、飛行前のフライト・チェックを行う。問題がないことを確認すると、エンジンに火を入れる。これによりこの飛行機はいつでも飛べる状態になった。
「(さて、ここからが問題だ。)」
「古代、急げ!」
「わ、わかった。」
スロットルを一気に上げる。機体は加速し始めて、そして、数秒も経たないうちに浮かび上がった。操縦桿を引いた。すると、高度は一気に上昇するかに見えた。
突如、100メートルも高度が無い状態で、機体が背面飛行を始めたのであった。そして高度が下がり始めた。
「こ、古代―――――!!」
「ッ!」
古代は記憶を振り絞り、機体を回復させる方法を思い出し、即座に実行した。
すると、機体は水平に戻り、上昇し始めた。コクピットのミラーを見ると、島は顔が真っ青の状態であった。
「ここ古代、曲芸飛行は帰ってからしてくれ!」
「す、すまない。」
そして、上昇を続けると、目標らしき物体が見えてきた。どうやら、宇宙船のようであった。ガミラス、地球、どちらでもない。見たことないタイプであった。
だが、後部から火災が発生していた。
「おい、火を噴いているぞ!」
「ああ、」
「(あれでは、長くは持たないな。)」
とにかく追尾するために、火を噴く機体の後方についた。すると、ついに限界を迎えたのか。宇宙船は爆発し粉々となった。
爆発した宇宙船の破片をよける為、回避行動をとる。
「古代! 脱出艇カプセルだ。」
「あれか。」
爆発する直前に何とか脱出したようであった。だが、カプセルは減速せず、火星の重力に任せるまま落下していた。
「マズいぞ!」
古代も地面への墜落を覚悟した。だが、地面に接地する直前、墳式の減速装置が働き始めた。
しかし、時は既に遅かった。速度を殺し切れぬままカプセルは地表衝突した。
「着陸するぞ。」
何とか、着陸できるところを見つけて、ぎこちない着陸を成功させた。そんなことよりも、とにかく、墜落したカプセルのもとへと向かった。
墜落現場に到着した。カプセルは何とか原形を留めていた。しかし、ハッチらしきものは吹き飛び、誰かが倒れているようであった。ともかく倒れている人のもとへと走った。
倒れていたのは人類と同じ容貌の金色の長髪の美しい女性であった。何かカプセルの様なものを大切に抱えていた。
島が彼女のもとに寄り添った。
「おい、大丈夫か!」
「どうだ島?」
「機械のほうは何といっている!?」
古代は持って来た生命探知機を金髪の女性にあてる。すると、微弱であるが、生命がまだ生きていることを伝える表示を示した。
「まだ、生きている!」
「ねぐらまで連れていくぞ!」
島が彼女を担ぎ、着陸した飛行機へと乗せ、自分たちのカプセルへと急いだ。
何とかカプセルまで帰還すると、救出した女性を室内まで運んだ。
彼女を寝台に寝かせると備え付けのメディカルキットを広げ治療の準備を行う。しかし、島も古代も医学について専門知識をもたず、さらには異星人となるとこの場で出来ることは限られていた。
彼女に計測機器を繋げて、島が治療のため彼女の服を脱がそうとする。すると、彼女は先ほどから大切に抱えていたカプセルを渡してきた。
「これを・・・・・・地球へ・・・・・・。」
「ああ、わかった。だから、いまは喋るな!」
彼女にに繋げた計測機器は彼女の心臓が止まったことを告げる電子音を鳴らした。
「島!!」
「ああ、わかってる。」
島は気道を確保し心臓マッサージを開始する。古代は除細動器を彼女につなげる。地球人に対する治療が異星人にも通じるかわからない。しかし、やらないよりはマシであった。
「離れろ、島!」
電気ショックを彼女に与える。が、回復はしない。島は続けて心臓マッサージを行う。
その後、もう一度ショックを当てる。しかし、機械は彼女の命が停止したこと告げるだけであった。しかし、島は諦めず心臓マッサージを続けた。
「島。」
「なんだ古代!もう一度やる準備しろ!」
「もう、彼女は死んだ。」
「くそったれ!!」
この日、飛来した異星人の女性は、赤い大地の火星で息を引き取ったのであった。