妹が好きすぎてTS   作:盛付時計

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妹と話せまして

 ――君の笑顔がもう一度見たいな。

 

 大きく深呼吸。

 緊張のあまり息が詰まる。

 心臓は早鐘のごとく鼓動を早め、不安が頭からつま先まで支配する。

 ドアをノックする。

 ただそれだけのことが覚悟を決めないと出来ない。

 意を決して足を踏み出した。

 

「夕日ちゃん。入っていい?」

 

 答えは無い。

 代わりにゆっくり扉が開く。

 中から現れたのは絶対の美少女だった。

 外に出てないためなめらかな白い肌に、小柄で小動物を思わせる体つき。

 その体は――小刻みに小さく震えていた。

 

 ()()()()()()()()

 

「今日は夕日ちゃんの好きなスパゲティサラダだよ。鶏肉ましまし胡麻ダレで作ってみた」

 

 こくりと少女は頷いた。

 調子は良さそうだ。いつもなら僕が話しているだけで震えて体が崩れ落ちてもおかしくない。

 安堵の息を吐き出して。トレイを差し出そうとする。

 

 そして、指が少し互いに触れ合った。

 

 しまった――と思った。

 

 変化は劇的だった。

 何処にそんな力があるのかという力で腕を跳ね上げる。

 その手がトレイに当たって、夕食が派手に撒き散らされた。

 

「ご、ごめ」

 

 夕日ちゃん顔は吹雪の中にあるように真っ青になって、ガタガタと震えていた。

 

「――――っ」

 

 弾けるように扉が閉じられる。 

 

 ()()――()()()()()()

 

 ノロノロと僕はこぼれた夕食を拭き取って、部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 なぜ、こんなことになってしまったのだろう。

 

 僕――笠木祐希はこれまでのことを思い返していた。

 父が離婚をし、新しい母が来たのが今から5年前。

 

 その時に母方の連れ子が夕日ちゃんだった。

 繊細な子だな――というのが最初の印象だった。

 ずっと母の影に隠れ、暇があれば本を読んでいるような子で、うつむいていることが多かった。

 それでも1月もすれば打ち解けてなんとか仲良くなっていたと思う。

 だけど、中学生になった時、夕日ちゃんは学校にいけなくなった。

 そしてそんな夕日ちゃんを俺の父は、ひどく叱りつけた。

 

()()()()! ()()!」

 

 なぜ夕日ちゃんが学校に行かない決断をしたのか。その理由は何なのか一切聞かず父は、ドアを無理やり打ちこわし、そういった。

 鬼の形相だった。

 僕でさえ震え上がった。

 繊細な夕日ちゃんは相当こたえただろう。

 その剣幕に失神して、病院に運ばれた。

 それからというもの夕日ちゃんは男を視界に入れることすらできなくなってしまった。

 問診に来た男の先生を見るやいなや体が震えもう1回気絶してしまった。

 病院の手厚い看護とカウンセリングによってなんとか日常生活を送れる所まで回復したものの、家族に与えた影響は大きかった。

 

 それ以来、父は家に帰ってこなくなった。自分が失敗したのを認めたくなかったのだろう。

 

 

 

 それ以来僕はずっと無力感に苛まれている。

 夕日ちゃんが苦しんでいる姿をずっとそばで見てきた。

 自分が男に生まれたことが本気で恨めしかった。

 もとはといえば自分の血のつながった男が一人の少女の人生を完全に破壊したのだ。

 夕日ちゃんのために何かしてあげたい。

 父がこの子に与えた傷を少しでもなんとか癒やしてあげたかった。 

 ああ、せめて僕が女の子ならば。

 夕日ちゃんの言葉を受け止められるのに。

  

 何度目になるかわからないけど。

 強く、強くそう願った。

 

 その悩みのまま疲れ果てて眠ってしまって――。

 

「……寝ちゃってた」

 

 聞き慣れない声がした。

 自分の喉から発したはずの声は、ひどく高いキーで発せられていて。

 体になにか違和感がある。

 

 胸が重い?

 髪の毛が何かひどく長いような。

 目覚ましを握るといつもよりすごく重く感じる。

 片手で持つと取り落としてしまいそうになる。

 

 何かがおかしい。

 

 鏡を見たそこには――。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「え、えええええええええええええええええっ!?」

 

 驚きの甲高い聞き慣れない声が家中に響きわたった。

 わあ、以外に可愛い声。

 

「これ……僕? 僕?」

 

 口の動きが一致している。うんこの眼の前にいる美少女は間違いなく笠木祐希――僕だ。

 胸を触る。

 くすぐった……えっこんな敏感……やわらか……。

 じゃなくて!

 間違いない。よくわからないけど僕は……女の子になっている。

 

「そんな……そんな……」

 

 わなわなと手を震わせて僕は――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 歓喜に震えた。

 時刻を見ると朝の7時だった。

 朝食を作ろう!

 キッチンに駆け下りてガスコンロを点火する。

 

 義母はどこかの研究職でよく泊まり込みで実験をしに行く。今は家に居ない。

 手早く目玉焼きとトーストを作って、僕は駆け上がった。

 

「夕日ちゃん! 夕日ちゃん!」

 

 無我夢中であった。とんでもないテンションであった。思い返すとヤバかった。

 

「朝食出来たよ! 入れて!」

 

 恐る恐る扉が開けられた。

 幽玄のごとき美しい少女が扉の向こうにいる。

 恐る恐る開けられた扉の向こうにいる夕日ちゃんの視線がきちんとあって。

 3年間ずっと開いてなかった唇が開いた。

 

「――え、あの、誰?」

 

「うわああああああああああああ! 夕日ちゃん夕日ちゃん夕日ちゃん!」

 

 もう爆発しました。

 3年越しの妹の声。

 ようやく話せた。怖がらせないでちゃんと話せている。

 

「話してくれたああああああ」

 

「あの、貴女。誰です?」

 

「お兄ちゃんだよ! 夕日ちゃん!」

 

 ガチャン。

 開きかけた夕日ちゃんの心のドアーは一瞬で閉じられたのだった。

 

 うん、そうだよね。目を血走らせた見知らぬ女が兄を名乗って抱きついてきたわけで。

 事案です。おまわりさん。

 

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