妹が好きすぎてTS   作:盛付時計

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妹に看病されまして

 

「ごめん。夕日ちゃんちょっと横にならせてもらっていい?」

 

 衣服を整えた後、夕日ちゃんの頭を撫でて居た後、急に体がだるくなった。

 まるで風邪を引いた後のように体の節々が痛み、少し吐き気がする。

 

「お姉さん……?」

 

 夕日ちゃんが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

 顔が近い。夕日ちゃんは本当に整った顔立ちをしている。まるでお姫様みたいだ。

 ――なんて、考えていると夕日ちゃんの白くて細い手が僕の額に当てられる

 

「――冷たいっ」

 

 声を上げたのは夕日ちゃんのほうだった。

 僕が感じたのは熱さだった。

 

「お姉さん!? すごく身体が冷たいです!?」

 

 熱っぽい症状なのに、身体が冷たい?

 どういうことだろう。

 

「お姉さん。とりあえず布団の中へ……」

 

 言われるがまま僕は夕日ちゃんのベッドへと誘われて、そこに入った。

 頭がぼーっとする。

 

「暖房を」

 

「いいよ。まだ9月なんだし……夕日ちゃんが暑いでしょ?」

 

「だめです! お姉さんの身体はすごい冷たかったです! 私のことよりお姉さんです!」

 

 まだ薄着をするくらいの気温はあるのに、夕日ちゃんはためらうことなく暖房をつけた。

 温風が徐々に部屋を温めていく。

 その空気の流れがとてつもなく身体を満足させて、予想以上に僕は自分が体温を失っていることを知った。

 

「お姉さん。病気だったのですか?」

 

「いやそんなことはないはずなんだけど」

 

「では最近何か変わったことは――」

 

 と聞きかけて、夕日ちゃんは何かを思いついたように絶句した。

 奇しくも僕も同じことを思いついていた。

 男から女になった。なんて尋常じゃない体験を今さっき果たしたばかりだ。

 関係がないと言い切れないくらいには大きな要素だ。

 

「とにかく温めるものを持ってきます。お姉さんはそのまま休んでいてください」

 

 慌ただしく夕日ちゃんは部屋を出ていった。

 奇しくも――それは僕が望んでいたことだし、僕は部屋から出る寸前に夕日ちゃんの手が隠しようもなく震えたことを見つけていた。

 だけど夕日ちゃんは僕のためにその一歩を踏み出して外に出ていった。

 

 夕日ちゃんは強い子なのだ。そして優しい。

 

「さむ……い」

 

 ろれつが回らなくなっていた。

 身体が辛い。

 まるで世界に一人取り残されたような感覚だ。

 夕日ちゃんも部屋に居た時はこんな気持だったのだろうか。

 夕日ちゃんは3年もこんな寂しい気持ちに耐えていたのだろうか。

 悲しみが少しわかった気がした。

 

「お姉さん! 大丈夫ですか!?」

 

 息せき切って夕日ちゃんが戻ってくる。

 それだけでなにか嬉しかった。

 

「とりあえず毛布を……」

 

 かき集めてきたであろう毛布一式を布団の上からかけてくれる。

 寒さがまた少し和らいだ。

 

「お姉さん。顔色が……よくないです」

 

 そういった夕日ちゃんの顔も青ざめていた。

 そんなに僕の顔色は良くないのだろうか。

 目をつむると身体の奥底になにか違和感がある。

 以前感じたことが有る。

 第二次性徴のときの成長痛のような。

 体の中身が作り変わっていくときの感覚だ。

 それが体温を吸っているようだった。

 寒い。

 ――心が、凍る。

 

「お姉さん……!」

 

 不意に驚くほどの熱が伝わってきた。

 包み込まれるような感覚が手のひらに伝わってくる。

 夕日ちゃんが手を握ってくれている。

 

「ごめんなさい。お姉さん。ごめんなさい」

 

 夕日ちゃんは泣いていた。

 

「なんで……泣くの。夕日ちゃんは悪くないよ……?」

 

 必死に僕は残った体力をかき集めて声を上げる。

 

「わ、私……いつもお兄さんに迷惑かけてました」

 

 気が動転した夕日ちゃんの呼び方がもとに戻っている。

 

「これまで毎日、お兄さんがずっとご飯を作ってくれて、呼びかけてくれるの聞いてました。でも私……お兄さんが悪いわけではないのに、答えられなくて」

 

「それは――」

 

 仕方がない、と言おうとした。けれど言葉が喉の奥に引っかかる。

 こうして夕日ちゃんが一人で居た状態を体験してしまって、それが想像を絶する孤独だったことがわかる。

 だからこそその孤独は自分への無力感につながってしまう。

 それは巡って罪悪感になってしまうのではないか。

 

「僕は……今こうして夕日ちゃんと話せてるのが嬉しいよ。もうそれだけで本当に嬉しいんだ」

 

 だから、僕が今するべきことは過去を不用意になかったコトにすることではなくて。

 今この瞬間の喜びを伝えることだと思う。

 

「お兄さん……」

 

 涙に溢れた目を見開いて夕日ちゃんが僕を見つめた。

 僕も微笑みながら夕日ちゃんを見つめる。

 視線が交錯し、見つめ合った。

 

「手がすごく……冷たいです」

 

 うん、だから夕日ちゃんの手が温かい。

 夕日ちゃんの気持ちが温かい。

 布団の一部がめくれ上がった。

 同時に繋がれた手が外され、そして。

 体中に温かいものが押し付けられた。

 夕日ちゃんの全身だと理解したときには吐息さえ触れ合う近さに夕日ちゃんが居た。

 

「お兄さん……」

 

 その熱にすがるように僕は夕日ちゃんを抱きしめ、そして――意識を失った。

 

「お兄さん……好きです……大好きです」

 

 最後の言葉は聞こえなかった。

 

 

 

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