猛烈なけだるさとともに目が覚めた。
体中がものすごい寒くて、節々が痛い。
「ん……」
寝苦しさに思わず声を上げた。
体の感覚が戻り、手のひらが誰かに握られていることがわかる。
「夕日……ちゃん?」
びくりと握った手が震えた。
僕はその手を握り返す。
「祐希お姉さん……!」
僕はどうなってしまったのだろう。
とりあえず死んでないようだけど。
「う、うわああん! 良かった……良かったです!」
夕日ちゃんが感極まった声で、抱きつくように身体を預けて来る。
嬉しい。嬉しいのだけど。
「ごほっごほっ」
体調が悪い。
まだ自由に動かない体に夕日ちゃんの全体重がのっかって流石に息がつまる。
「夕日ちゃん嬉しいんだけど流石に苦しい」
「あっ……」
ぱっと夕日ちゃんは離れる。
体は離れたけど手はつないだままだ。
よほど心配させたらしい。
「ごめんね。心配させちゃったみたいで」
「無事で本当に良かったです。お母さんもすぐに帰ってくるみたいです。これからのことをお話しようと」
「夕日ちゃんが連絡してくれたんだね」
「はい。それでお母さんが大事なことだと言っていたのですが」
「うん……?」
「体温が低くなっているのは体の栄養が急に奪われたからではないかということで。とりあえず栄養のつくものを食べてもらったほうがいいと」
「そうなんだ」
夕日ちゃんのお母さん、笠木美夕さんは確か研究職で、専門が医学だった。専門家の意見なのだし適切な対処なのだろう。
「というわけで寝ている間に用意しておきました。とってきます!」
夕日ちゃんは元気よく立ち上がりとてとてと部屋を出ていった。
やがて夕日ちゃんが戻ってくる。
デザートを盛り付けるお皿にいろいろと入っている。
「モモと、リンゴと、チョコレートです」
冷蔵庫にある果物とお菓子の盛り合わせという感じだ。
果物の皮が少しデコボコに切られている。夕日ちゃんが切ってくれたようだった。その気持ちがもう嬉しい。
「夕日ちゃんが用意してくれたんだね。嬉しいな」
「えへへ……」
はにかんで頭に手を当てて照れる夕日ちゃんかわいい。
早速心づくしの果物を食べようと手を伸ばす。
「いただきま――ん?」
お皿をひょいと遠ざけられた。
あれ? 食べちゃだめ?
果物に視線をさまよわせていると、夕日ちゃんの細い指が果物を握ってぐっと近づいてきた。
「ど、どうぞ」
……これは。
これは俗に言う「あーん」というやつでは。
え? 何まだ夢の中なのかな?
「……有料?」
「無料です! お姉さん専用サービスです!」
サービスが良すぎる!
夕日ちゃんレビュー星5!
この娘に大満足しています。
「いただきます」
果汁したたる桃を食べる。
なんだかすごく甘い。
夕日ちゃんが食べさせてくれるからかな。
「んむんむ」
夢中になってしまう。
信じられないほど空腹を感じていた。
夢中で果物を食べる。
あっという間に桃とリンゴがなくなってしまう。
しかし果物が本当にちょうどいい塩梅だった。
目覚めたばかりなのもあって、本格的な食事という気分ではないが、体がものすごく栄養を欲している感じ。
「チョコもどうぞ」
「ありがとう」
美味しい。
ラップに入った一口チョコなのだが、食べやすい。
一つずつ丁寧に夕日ちゃんが口元に運んでくれる。
ところでこのチョコは本当に小さい。
指で半分隠れてしまうくらいなのだ。
空腹で夢中になっていた僕は――少し前後不覚になっていて。
ぺろり、と口元の果汁を舌で拭ってしまい。
その舌が――夕日ちゃんの指先に触れてしまった。
柔らかい。桃の果肉よりすべすべとした感触がした。
「ひゃん」
しまったと思うと同時に夕日ちゃんは手を引っ込めた。
すごく可愛い声とともに。
「ごごごめん」
面食らった僕は謝ることしかきない。
「もう。お姉さん。指は……食べられませんよっ」
夕日ちゃんの顔が真っ赤になっている。
じっと舐められた指を見つめながら、体が縮こまっていた。
「あとは自分で食べるね」
流石に注意力不足だったなと反省した。
残り少なくなったチョコレートを手を伸ばす。
一人でチョコレートをつまむ。
う〜ん。やっぱり味気ない気がする。
最後の一つ。
口が寂しくなるな――と思って、チョコレートをつまむと。
横から手を握られた。
「夕日ちゃん?」
驚いて夕日ちゃんの方を見ると、ぐっと夕日ちゃんの顔が近づいてくる。
夕日ちゃんのきれいな顔が僕の体の下――手――指に近づいて。
「おかえし、です」
つまんでいたチョコレートを直接咥えられた。
熱い。指全体がぬるま湯に入ったような熱さに包まれて。
ぺろりと全体を舐められた。
少しざらざらした感触は夕日ちゃんの舌だろう。
あまりの大胆な行動に
「えへへ」
そして小悪魔みたいな微笑んだのだった。
勝てないなと思った瞬間だった。