男女逆転したけど、俺、男の娘でした!!   作:たぬき柴氏

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一日目:はじめ!!

「え、何の騒ぎだこれは」

 

 いつもの日課である掲示板探索にあたっていたが、見慣れない文字列が並んでいた。

 

「いや、なんで男性スキンはやってんの、なにこれ」

 

 とあるネットゲームのキャラクターコーディネイトを共有する掲示板に入り浸っていた自分は戦慄していた。

 

 先日まで、ロリばかりだったコーディネイトの一覧が、突如としておっさんとお兄ちゃんに席巻されていた。

 

 並ぶキャラクター、紳士服のおじさん、トレーニングウエアのお兄ちゃん、装備をまとってポーズを決める青年……

 

「ちょっとまてや! どういう状況やねんこれ!」

 

 勢いあまって、マウスを投げ飛ばし、キーボードを叩きつける。

 

 

 まてまて、勢い余って周辺機器をぶち壊すなんてのはあってはならない、ゲーマーとして原点に立ち返ろう。

 

 

 俺は二宮信二、18歳、大学受験に失敗して絶賛ニートの浪人生、浪人という名のニートだ。

 

 いまはMMOにガン嵌りして、FPS用にそろえた機材で日夜かわいい装備を集め、魔法少女ニミとして姫プレイに勤しんでいた。

 

 今日も私をあがめるスレの連中に新装備を披露目しようと思っていたんだが……

 

 

 俺の画像フォルダーの中身は原住民に見向きもされず「いい趣味してんな―」で一蹴された。

 

 

 なぜだ、俺のこうなりたいという思いすら込めたこの一撃に何の不満があったというんだ!!

 

 ・・・・・・

 

 再度落ち着け俺、状況はわかって来たぞ―――

 

 こいつは所詮『あべこべ世界』というやつだ、男女観が入れ替わり、この世界では男はもてはやされ、女は溝に投げられる。

 

 やりたい盛りなら、最強の世界であり、街に行って人としゃべって鼻息荒くした女の子に組み敷かれれば幸せになれる世界。

 

 冷静に考えれば男には事務職とかしかない世界じゃねえか!!

 

 男だからと舐められたりするのかな……

 

 うん? そんなに悪いわけではないのではないか?

 

 そうと分かれば奇麗に決めて、街に行ってその実情とやらを確かめてみようじゃないか!!

 

 ・・・・・・

 

「ちょっとそこのお姉さん! 今ちょっとひましてて、一緒にご飯行かない?」

 

 ―――最初はナンパ狙いをしていたんだ

 

 でも、なぜか声がかからなくて、見た目には自信があるんだけど……

 

 そうやって声をかけていたら、

 

「……ふんっ」

 

 という反応が入ってきた。

 

 何がいけないっていうんだろうか……

 

 ふと、ショーウィンドウに目をやる。

 

 人々の美醜も少し歪んでしまっているのか、女性的なフリルと紳士服的なピリッとした表現が融合したドレスが展示されていた。

 

 これもこれで、かわいいなぁ……

 

 と、焦点がズレ、自分の姿が視界に入る。

 

 確かに、見た目はよいのだけど……

 

 視界に映った、少し余裕を持たせたパーカー姿の少年は、

 

 おそらく、この世界において、女性の枠に放り込まれるのだろうと得心を得た。

 

 ふむ、これはあれだ、概念があってない奴だ、FPSでよくよく学んだことがある。

 

 

『やってみて、積み重ね、傾向がわかれば次へ行ける』と―――

 

 

 何が悪かったか、まず、今の俺は女性にしか見えない。

 

「男性的な服、高校の制服くらいしか持ってないぞ……」

 

 とりあえず紳士服を見繕いに行かねば……

 

 ・・・・・・

 

 紳士服のデザインは、実際のところ元の世界とあまり違いはなかった。

 

「しかし、ちゃんと服を買おうと思ったことはあんまりないからなぁ……」

 

 ゲームではかわいいを求めたことがあったが、それ以外で外見を奇麗にしようと思ったことはない。

 

 姉に着せ替え人形にされたり、実際自分の見た目があるため、服装を選ぶことはあまりなかった。

 

 ギリギリ男性的に見える服を姉や、母が買ってきた服から見繕って、3着ぐらいを着まわしていたほど無頓着だ。

 

「これは…… うーん、肩幅が…… こっちは、たぼだぼ過ぎて……」

 

 服を数着、鏡の前で当てては外し当てては外しを繰り返す。

 

 さながら、女の子になったような気分である。

 

「そもそも顔が女顔だし、サングラスで隠して、上着はシャツをはだけて…… うーん…… 声は、こんな感じかぁ?」

 

 そんな感じで、紳士服売り場でもがき苦しんでいる。

 

 ふと、横を通り過ぎていく男性をのぞき込む。

 

「(ジャケットとかを羽織ってるな、なるほど、まぁやっぱり胸をはだけるのは色っぽいのかな)」

 

 さらなる反証、方針が決まる、バラとか加えてる系? いや、どうなんだ、俺はどうすればいいんだ……

 

 

 と

 

 

 どうにも、背後に視線を感じる。

 

 

 人の気配というか、直観的に何かを感じ取るスキルもまた、FPSから得たスキルである。

 

 でも今の姿を考えると、後ろにいる人物は女性? 紳士服売り場にきて人を覗く趣味が…… いや、あいつら野獣だったわ……

 

 期待半分に、一気に振り返る。

 

 視線の主と、目が合った。

 

 ドレス…… 色白で、黒のゴスロリ姿の少女が、目の前にいた。

 

「うそ、へ、うわぁ!?」

 

 少女は、目線があった直後に、尻もちをつく。

 

 この世界に、こんな女の子がいたんだ……

 

「君、大丈夫?」

 

 すぐさま駆け寄って、少女に手を伸ばす。

 

 奥ゆかし気に手を伸ばし、ゆっくりと握り返してきた―――

 

「ありがとう……」

 

 俺の胸元が目に入ったのか、目線を外し、うつむきがちになる彼女……

 

 すかさずはにかみ、腕をやさしく引き上げ……

 

 

 なにか、違和感を感じるんだ。

 

 

 彼女は、引き上げられ目に見えて顔を赤くする。

 

 

 きわめて既存の女性的な反応に、明らかな違和感を感じるんだ。

 

 

 こういうのは大体正しい、FPSは偉大だ、これもFPSから学んだんだ。

 

「えっと、君、あー、えっと、か、かわいいね」

 

「え、あ、あ、ありが、あり……」

 

 彼女は言葉を言い切ることができず、顔を抑えてうつむいた。

 

 この格好はこの世界では求められていない、逸脱者の中の逸脱者、推測では致命的な変態なのではないか?

 

 

 今俺は、とてもまずい状況なんじゃないだろうか?

 

 ・・・・・・

 

 逃げ切れなかった……

 

 彼女との間の何とも言えない空気、割と行動力はあるけれど、俺はもちろんコミュ障だ、じゃなければゲームのファッションショーや戦争ゲームを指向するわけがない。

 

 突然走り出して逃げるわけにもいかず、かといって、彼女が何なのか聞きだすにも至らず、微妙な空気で街を歩いていた。

 

 デート、だよなぁこれ……

 

 互いに手が触れ合わないような微妙な距離で、街を歩く。

 

 まさかこんな経験ができようものとは、いや、やりたかったんだけども!!

 

 性欲駆動だったよ、でもいざとなれば俺はビッチになれねぇんだよ、かわいい乙女が内蔵されてんだよ畜生!!

 

 かっこいい男になりてぇんだよ!!

 

「て、つないでもいい?」

 

 え、と振り向くと、彼女はこちらを向いて、手を差し出していた。一瞬だが目が合うと、彼女は目線をそらし、俺も恥ずかしくなり目をそらした。

 

「い、いいけど……」

 

 そう言って、少しだけ距離を詰め、手のひらを彼女に側に向ける。

 

 彼女は指先から恐る恐る、俺の手を握る……

 

 暖かい、人間の手って、温かいなぁ……

 

 思わず涙がこぼれそうになるが、何とかこらえる。目が赤くなってなければいいけれど……

 

 この世界的には、今の自分たちはどのように映るのだろうか、いや、これ、結構ヤバいものに見えてるんだろうな……

 

 でも、この子、かわいいからいいか……

 

 すべてがめちゃくちゃになり、気が付けば公園にいた。

 

「あの、えっと、ごめん、ちょっと……」

 

「え、どうしたの?」

 

「あの、ちょっと……」

 

 苦しそうに、もじもじする彼女……

 

 ああ、トイレか、なるほど……

 

「ああ、ごめんごめん、すぐに行っておいで!」

 

 頭を下げて、トイレに駆け込んでいく。

 

 俺もちょっと、今の隙に行っておくか。

 

 男子トイレのマークを確認し、足を踏み入れる。

 

 ここって、この世界における女子トイレになるんだろうなぁ……

 

 

 と

 

 

 そこに、見覚えのある姿がいた。

 

 ゴスロリ姿の少女が、個室から出てくる……

 

 互いに見合わせ、顔を赤くし、指をさしあう。

 

「お前、女じゃなかったのかよ!?」

 

 つい、声が大きくなってしまう。

 

「あ、その……」

 

 互いに微妙な反応で、何とも言えない空気が流れる。

 

 言葉にならないが、これはある意味予想通りだ、うん、やっぱまともな女の子じゃなかったな、うん、女の子でもなかったけど。

 

「あーなんか申し訳ない状態だこれ……」

 

 こんな空気にすらならず、互いに心地よい気持ちになった時間があった、相手はともかく、俺は男を相手に何を考えていたんだ。

 

 でもまぁ、俺はこの趣味そのものは嫌いじゃない。

 

「うーん、恋愛文脈は持ち込めないけど、かわいいもの好きなんだよな」

 

 はにかんで、続ける。

 

「その趣味は問題なく合うから、友達として、始めていかないか?」

 

 断ったら断ったで嫌な空気になるし、こう、こういう返しで、趣味はあうから、こう、関係は続けていけば……

 

 

「かわいいの、いいですよね!!」

 

 

 すごい食いつきがよかった。

 

 

「今日初めて外にきて出たんですよ! 空気も気にせずに、女の子みたいなのにこんな感じで、紳士服売り場で似たようなセンスの人がいて、声かけようって悩んでたらあんなになって、でも声かけてくれて、うれしくて、やっぱりおんなじ趣味で!!」

 

 先ほどまでのコミュ障ぶりはどこへ行った、すごい食いつきだな。

 

「あなたが好きです!! 友達とか言わずに、このまま、付き合ってくれませんか!!」

 

 おい、貞操観念はどこへ行った、普通にいい子じゃないか、この世界の男にしてはすごい根性があるじゃねぇか。

 

 体が震えており、すごく思い切ったのが見て取れた。

 

 でもやっぱり、男はまだ俺のハードルには高すぎるんだよなぁ……

 

「あー趣味は合うんだ、友達から、これは一時の気の迷いかもしれないんだよ、ドウドウ」

 

 ついでに言えば身の危険も感じる、貞操が危ない。

 

「……いやだ、諦めない」

 

 涙目で、見上げ気味にこちらを見据えてくる。

 

 逃げよう―――

 

 伸びる手をすんでで躱し、トイレから飛び出す。

 

 それを追う彼。

 

「追い掛けっこ、この状況はFPSから学べてるけど、うーん、何とか出来る回避方法はないなあああああああああああ」

 

「名前は、早乙女、千秋、あなたのこと、諦めませんからね!!」

 

「畜生、女装も含めてがつがつしてんのかよ! すげー世界だなちくしょおおおおおおおおお」

 

 夕方の公園を、逃げ回る一日だった。

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