さて、いったい何が悪かったのだろうか。
結局先日、ゴスロリ系男の娘、早乙女千秋ちゃん、チアキからなんとか逃げ切り帰宅したのだが……
当初の目的である、この世界で女の子をひっかけるという目的については特に何の成果もないままだった。
「幸い、ニミちゃんのキャラと、俺の貞操は無事だったけど、うーん、ここからどうしたものか」
PCの前から立ち上がり、姿見の前まで移動し、写っている自分の姿をみる。
大きめのTシャツがワンピースのように腰のあたりまでを隠し、しばらく切っていなかったぼさぼさ髪がヒキニート系のかわいい漫画のキャラクターのようになっている。
まぁかわいいんだけど、でもこの世界で必要とされるそれではないのよね……
ん? この世界の価値観だと、かわいがられたりとかする場合はどうなるんだ?
実は僕男の子なんです…… 確かめてみます?――― みたいな文脈が女性に効く可能性、考慮の範囲外であった……
向こうを手玉に取る動きというか、足のあたりをこう、ちらちらとか、そういうやつだな、動きを研究せねばならんな……
鏡の前でポーズを取り、なるほどこの路線もあったかと納得を得る。
……いや待て、この世界の文脈だと女性的ってどういうことになるんだ?
外で見た女性は、元の世界と変わらないファッションに見えたが若干攻撃的というか、肌を出すことに抵抗がないように見えた。
そりゃあそうだろう、男性側からそういった視線を向けられるという思考がない、その方向性では評価軸が語られない。
男性的に見える部位……
膝、指もとい手、肩、鎖骨、胸板、腹部もか、露出で押すならこの辺だろうか。
かわいさとそれらを両立する…… とりあえずショートパンツは確定か?
それと、こっちだと恥じらうのは男だ、そう考えると昨日会ったチアキちゃんがあんなに奥手だったのも説明がつく、なるほど、あれの逆が無邪気さ、ありのままであることなのか。
「まー全部できるほど優秀じゃないし、ゆっくりやっていきましょうかねー」
よし! と鋭く息を吐き、気合を入れ、今日こそは服を買うための気合を入れる。
着替えに手を伸ばし、準備に取り掛かろうとした時だった。
ピンポーン―――
家のチャイムが鳴り、忘れていたことを思い出す。
「あ、姉ちゃん来るの忘れてた!!」
はいはーい と玄関へ急ぎ、カギとチェーンを外し、ドアを開ける。
「ちょっとシンジ!! おま、なんて格好、すぐ着替えてこい!!」
ドアを開けるなり、片手で顔を覆い、赤面する姉の姿が目に入った。
「あ、ごめん」
自分でも予想外の速度で扉を閉じる。
こうもいい反応をされると、なんだか自分も反応にも困ってしまうな……
先ほど取り出していた着替えに…… いやまて、実験してみよう、ズボンだけは半ズボンを引っ張ってきて……
シャツにパーカーを羽織り、下は半ズボンという格好で、玄関へ戻った。
「ごめんおねえちゃん、これでいい?」
「あー驚いた、女の子みたいな見た目でも男の子なんだからね、気を付けなさいよ」
あ、そこの認識はデフォなんですね、この世界での男性評価につながらないあれですね、でも男体は眼福な奴なんですかね。
そんなひと悶着のあと、姉をリビングの机へ案内し、ジュースを注いで戻る。
「はい、おねえちゃん」
「ん、ありがとう、なんかやーけに気が利くわね、でも話が軽くなるわけじゃないわよ」
まぁ話の内容は想像がつく、俺の今後のことだろう。
高校のために賃貸を借り、卒業した後大学もこっちで行くという話をしていたが、俺は現状、見事にニート生活を送っている。
この状況を見かね、たまたま近くで仕事をしていた姉が今後のことを話し合おうと今日訪ねてきてくれたのだ。
「単刀直入に、アンタ、今勉強してるの?」
「あ、あははは……」
してないです出来てないです苦しいです……
思いのほか心が痛いよ、生活っていう苦しみの火力高いよ、この世界そのもののワクワクが回復してくれないよ!!
「でもまぁ、割と運がいいことに、おいしい話を持ってきたんだけど、どうする?」
「おいしい話?」
「私の仕事、覚えてみない?」
確か姉の仕事はIT系だったはずだ、小さいころから妙に俺と趣味が合い、楽しそうにゲームをやっていたと思ったら、PCを使う仕事に直進していったのをよく覚えている。
「それというと、僕にIT系の技能を仕込んでくれるっていうこと?」
「そうそう、それと、専門行くなら、親を口説くの手伝ってあげる」
渡りに船だ、この生活を続けられる可能性を上げられるぞ、それに、受験勉強で心が折れた程度の俺でも、誰かについてもらって技術を仕込んでもらえれば、多少救いがあるかもしれない。
「すみません、おねがいします、おねえさま」
「うん、わかればよろしい、たーぶんこっちが今一番いい方向だと思うから!」
ありがたいありがたいと、姉に頭を下げる。
「ところで、うちの後輩で、イセさんって覚えてる? あの人が良かったら教える経験をしてみたいってことで、休日2時間くらい付き合ってくれるって言ってたんだけど、そっちもOKしとく?」
ねえさん、アンタは神か。
イセさんは以前あったことがあるねえさんの後輩で、控えめの女の人だったか、スーツ姿しか見たことがないけれど、ぴしっとしてるのにおしとやかで、きれいな人だなという風に覚えている。
こっちの世界だとどういう人のなのか、うーむ……
「ぜひお願いします神様姉様仏様」
「うむ、頑張って励むがよいぞ、ゲームやってる時の集中力すごいんだから、あれとあんま変わんないし頑張って!」
というか、姉は元の世界とあんま変わらないな、こんな感じで、『道は明けたぞ、さあ来い!!』って感じの、かっこいい感じで全然ぶれない。
でもこの人問題があるんだよねぇ……
・・・・・・
飲み物を飲みつつ、早く話が終わってしまったので、だらりと二人でテレビを見ていた。
「最近、イヤーなニュースの時期を超えて、平和な時期になったわよねぇ……」
「そうだねぇ、それはそれで事件は絶えないけど、せんせーしょなる? な事件は起きないねー」
「平和よねー」
ああ、平和だった―――
元の世界だと、ちょっかいをかけたり、胸を押し付けてきたり、ふろ上がり裸でリビングに出てからかってきたりする姉が、この状況でもたれかかったり頭を撫でてこない、平和だ。
段階的に強化されたからトラウマにならなかったけど、この人、俺に対してセクハラの常習犯である、何も知らない俺を着せ替え人形にして、自分とおそろいの服を着せた挙句公園に連れて行くような本物の変〇なのだが、恐ろしいほど静かだった。
逆に怖いぞねえちゃん、セクハラして来いよ、ばっちこいセクハラ!!
と、ニュースの内容が変わり、ちょっと空気が微妙になる話題が流れる。
流れてきたニュースは痴漢についての話だった。
「最悪よね痴漢、女の風上にも置けないわ」
そうつぶやくと、手に持っていたお菓子をかじり、飲み物に手を伸ばす。
あれ、もしかしてこういうこと?
さすがに法律がゆがんだりしてないとは思うけど、加害者って大多数が女性なの?
ということはねえさん、この『世界の理』でセクハラを仕掛けてこないってことなの?
ふうむ、と顎に手をやり、二宮信二は考える。
元の世界でやられたことを、いまこの姉にやり返すチャンスなのではないか?
そうと決めたら実行なのではないか?
俺が昔やっていた、FPSはこう教訓を与えてくれた―――
『攻めあぐね、チャンスをうかがうのはいい、ただ、意味も分からず待つ時間は敗北への投資である』と―――
復讐心に燃えた俺は、行動を開始した。
「あーなんだか熱くなってきちゃったな―」
そうぼやくと、飲み物をもって姉の視界に入る場所へ移動し、それとなく置いてあった扇風機で、正面から風を受ける。
今、この時期は残暑のこる9月、地味に暑い、違和感はないはずだ。
無防備に足を開き、シャツの間に風邪が入るように前傾姿勢、髪がなびくように、かつ鎖骨が見え、おそらく姉側から見ていろいろぎりぎりになっているんじゃないかと想像される。
しばらくちびちびと飲み物を飲み、そして一気に飲み干そうとして――― 不器用に、少しこぼす。
それを慌てて袖でふき、また飲み始める。
「うえ、ねばねばすんなぁ……」
そういってちらっと姉のほうを見れば、目線の端で自分を追うまいとする姉の姿があった。
一応、効くのね、ふぅむ、俺も捨てたもんじゃないな……
畳みかけていくぞ、長年の恨み、受けてみろッ……
汚れたパーカーを脱ぎ、シャツをお腹の部分だけめくり、扇風機にあたる。
飲み物の付いた部分の感覚が気持ち悪い風を装い、無防備な動作を続ける。
どうだ、苦しいだろう、ふははは、ハァッハハハハ!
その煩悩、多感な時期からじわじわと当てられ続けた我が恨みの技たちだ!!
肉体接触的なアプローチができないのは俺の勇気の無さというか乙女回路という感じもあるが、ここは紳士的に、仕返しがしたいだけってやつだ、俺が意気地なしなわけではないたぶん!!
「もういいや、着替えよ」
シャツを脱ぎ捨て、着替えを取り、シャワールームへ直行する。
ささっとシャワーを浴び、腰にバスタオルだけ撒いて、髪が両サイドから降りるように調整し、リビングへ戻る。
姉はテレビを見ているが、その内心がどうなっているのか、想像通りなら、大変なことになっていると思うのだが。
さて、トドメだ―――
姉の横に来て、同じ目線にくる。
「おねえちゃん、今日はありがとう、僕も困ってたんだ、ここからどうしようって」
「おねえちゃんがいろいろやってくれたおかげで、おねえちゃんと一緒の仕事ができるようになれたらなって思って、頑張ろうかなーって」
「だから、よろしくね、おねえちゃん」
こんな感じで、どうだろうか。
よくわからないが、とりあえずメンタル面で、心を許してるアピールを入れてみて、肩とか触ってみるといいのかな。
あれ、なんかおかしいな。
目的がどこかに飛び去って―――
突如、左腕をつかまれ、姉に引き倒される。
両肩、足に体重がかかってる、しまった、動けない―――
「あ、あれ、ね、ねぇさん? い、痛いよ?」
顔を真っ赤にし、微動だにしない姉。
あ、やりすぎちゃったかこれ―――?
割とこういう状況を目指そうとして動いたけれど割とどうしていいかわかんないな。
「いや、これ以上は女としてダメよ、ダメダメ、いくら弟がこんなにかわいくてもそれはだめ……」
そのようにつぶやいたのが聞こえ、直後大きく息を吸い込み、しばらく止める。
おおよそ10秒くらい経っただろうか―――
姉は俺の上から離れ、少し離れた場所に座る。
「ア、アンタ姉にそういうアレをアレするとか、アレ、そんな子に、なっちゃってたなんて……」
複雑そうな顔で、赤面する姉。
「知らない間に、あんなにかわいくて奥手だったシンジが、こんなにビッ…… じゃなかった、肉食に…… 複雑だわぁ……」
「ごめんおねえちゃん、あの、ほんとごめん」
さすがにそんな関係になりたいわけではない、ほんの出来心、だったはずなのだが……
「アンタ、そういうの無自覚でやってたならほんと気を付けなさいよ、女は野獣よ、野獣」
「気を付けます……」
こう、本来ならもっと、食っていくような動きができないとダメだな、男らしくならないと……
「ところで、家の前になんかすっごい恰好の女の子がいたけど、彼女?」
え、あいつ、ここまで来ちゃったの?
「あー昨日知り合って、うん、まあ放置でいいと思うけど……」
「どういう関係なの?」
「道で声をかけられて…… ナンパ?」
「へぇ、こんなちんちくりん、私くらいしかなびかないと思ったけど、意外ね~」
違うけど、ていうかこっちから声をかけたけど、っていうか色気が効いたんじゃなくてやっぱねえさんがおかしいだけなのかよ!
とりあえずご飯を作って、ねえさんを返した後、チアキをどうしようかなぁ……
そんなこんなで、終わりに向かう、あべこべ二日目だった……