モモン・ザ・ダーク   作:テイクアンダー

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アインズ様視点


アインズ・ウール・ゴウンの憂鬱

 心配をかけてしまった。

 アインズ・ウール・ゴウンは部下たちにいらぬ心労を抱えさせてしまったことを後悔した。

 

 漆黒の鎧が奪われ、部下を傷付けられて、冷静さを失った。

 モモンの後を追い、交戦してその強さに驚愕した。

 

 そこまでは良かった。まだ挽回できた。

 だが奴にたっち・みーの気配を感じ取り、取り乱してしまった。

 挙句、()()()()を聞いた後はアンデッドの体特有の精神抑制も役立たずになった。

 

 言い表し難い虚脱感が抑えられては何度も沸き上がり、意味不明な現状に頭の中は混乱して、ナザリックに帰還してからもしばらく酷い有様を晒してしまった。普段、頑張って支配者然とした態度を演じていたため、情けない姿を見せたくなくて一旦全員を部屋から追い出したのも余計に不安を煽っただろう。

 

 頼りない主人だと失望されたのではないかと心配したが、部下たちは変わらず崇拝の眼差しを向けてくれている。

 そのことに一安心しつつも、自分の不甲斐なさが申し訳なくなった。だからあれからも――より一層支配者として相応しい振舞いを心がけ務めた。これからナザリックは大きな計画を進めなければならないのだ。いつまでもモモンのことばかり気にしてはいられない。

 

 正直、もう鎧は奪われたままでもいいのではないだろうか、と彼は考えている。

 元々は決死の戦いを偽造するために作らせた鎧だ、ナザリックにとって大した価値はない。漆黒のモモンという身分には少しばかり思い入れがあるが、無理にモモンと敵対するほど惜しむものではなかった。

 

 建国すればアインズ・ウール・ゴウンとして表舞台にも顔を出せるであろう。むしろそちらが増えすぎて、気疲れする未来も見える。そんな時に息抜きとしてモモンに変装する計画もしていたが、また新たな偽造身分を生み出してもいいかもしれない。

 

 モモンの処遇に関しても、今のところは静観が一番だと考えている。

 

 奴が敵対の意思を見せるなら、今度こそ全力で迎え撃ち倒して見せる。

 だがもし友好的に関係を結べるなら、それに越したことはない。

 部下たちを傷付けたことに関しては、相応の謝罪と誠意を見せてもらえれば許せる……かもしれない。納得できなくとも、ナザリックの利益になるのなら多少は感情を押し殺す度量はある……はずだ。

 

 モモンの中身とたっち・みーの関係も気になる。

 反応からして本人ではないと思うのだが、一切無関係ということもなさそうだ。

 

 ――――しっかしモモンの奴、一体何を考えて鎧を奪ったりしたんだ?

 

 わからん。まったくわからん、とアインズは一人首を傾げる。

 

 モモンが得た名誉が欲しかったのだろうか。だとすれば、あれだけの力があるのだからこの世界では簡単に英雄として名を上げるられるはず。わざわざ他人の姿を奪ったりする必要があるのか。

 もしかするとあの漆黒の鎧のデザインが気に入ったのでは。だとすれば……中々良いセンスをしていると認めざるを得ない。個人的な趣味全開の外見であるが、かなりカッコイイ出来ではないかと自画自賛していたりもした。奴とは美味い酒が飲める(骸骨なので飲めないが)かもしれない。

 

 なんて、のんびりとし過ぎたことを考えていると扉がノックされた。

 どうやらモモンのことを調べに出立したデミウルゴスが戻ってきたようだ。

 いつも通り支配者らしく、威厳を湛えた(と自分では思っている)声で応じる。

 

 傍に控えていたメイドが扉を開き、デミウルゴスが入室した。

 聞き慣れた挨拶を受け跪く彼に顔を上げ立つことを許可する。いちいち言葉をかけなければいけないのが面倒なのだが、これも上に立つ者の仕事なのだろうと渋々納得するしかない。

 

「ご苦労であったデミウルゴス。さて、成果を聞かせてくれ」

 

 彼は自信に満ちた笑みを浮かべた。相当な成果を得たらしい。

 喜ばしいことだ。モモンに関しては静観すべきだと思っているが、それは積極的に敵対しないという意味であって奴の調査を怠ることではない。情報はなるべく多く集めたいのだが、流石と言うべきか一筋縄ではいかない。

 

 情報収集魔法によって探知、監視を行ったのだがモモンは気配を察知するとすぐさまその魔法を斬って見せた。なんでもありかあの野郎、なんてボヤいたが対抗魔法や特殊技術によるものでないだけマシだと思うことにした。

 

 ただ気になったのが〈物体探知(ロケート・オブジェクト)〉でモモンの鎧を目標に発動した時、何故か失敗した。抵抗(レジスト)されたなどではなく、目標が条件を満たしていないものだとして魔法の発動ができなかったのだ。そんなはずはないのだが、もしかするとなんらかの特殊技術による阻害かもしれない。

 

 隠密系の特殊技術を使えるモンスターを召喚し、追跡させたりもしてみたのだがこれも失敗。無駄にユグドラシル金貨を消費しただけになってしまった。

 そんなこんなあってモモンを見失い、追跡も監視も難しいという結論に至った。

 

 もう面倒なタイミングで現れないことを祈るしかないな、と考えている時デミウルゴスが提案してきた。

 彼自身がヤルダバオトとして接触し、情報を引き出してくるというのだ。

 危険だ、と止めたのだが彼の意志は固く絶対に無茶をしないことを誓わせて承諾した。

 

 デミウルゴスは戦闘に向いた能力をあまり持っていない。

 それでもこの世界では圧倒的強者に数えられるだろうが、モモン相手では赤子も同然。

 気が気でなかったのだが、無事帰還して胸を撫で下ろしているところだ。

 もちろん、お前ならやれると信じていたぞ、的な態度は崩さない。

 

「それで、重要な情報というのは?」

「まずこれは言葉を交わしてみた感触でしかないのですが、やはり奴はアインズ様が潜ませていたモモンという存在の本当の価値に気付いている可能性が高いでしょう」

 

 ――――モモンの存在価値? なんだそれ? やっぱりデザイン性かな?

 

「ふむ……やはり、そうか。私もそうではないかと思っていたんだ」

「流石はアインズ様。私などよりも遥か以前から奴の目的に思い至っているとは思っておりましたが、やはり」

「よせデミウルゴス、たまたまだ。私などよりお前の方が優れた頭脳を持っているのだからな」

「御謙遜を。私など、まだまだアインズ様の足元にも及びません」

 

 こんなやりとりも何度目だろうか。

 それとなく、自分は知者ではないと伝えているのだがいつも謙遜としか受け取られない。

 

「まあいい。それでだデミウルゴス、モモンの価値はどのあたりが一番重要だと思う? やはり格好良さだろうか?」

「アインズ様がおっしゃられる通り格好良さ、つまりは英雄らしさは最も重要な点かと」

「ははは、そうかそうか。お前もそう思うか」

 

 部下にデザインした鎧がカッコイイと褒められて満足するアインズ。

 ウルベルトさんも漆黒とか大好きだったからなぁ、と昔の記憶を甦らせる。

 

「ええ。建国後、エ・ランテルを平和裏に支配するためにモモンの英雄性は必要不可欠。あの都市を見つけた時、既ににそこまで考え手を打っていたアインズ様の策略には感服するしかありません」

「……ん?」

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。さ、流石だデミウルゴス。そこまで見抜いていたとは……」

 

 ――――え、待って。なんの話? デザインの話じゃないの?

 

 声が震えなかったことを自分自身で褒めてやりたいくらいだった。

 まずい。デミウルゴス含め部下たちは何故かアインズのことを叡智の化身だと信じ込んでいるが、実のところは全然そんなことはない。彼の頭脳は凡人のそれで、いつだってそんな無茶な理想に応えるよう演じ、知ったかぶりをかましているだけだ。

 

 いつもなら他の者もいる前で「皆にもわかりやすいように説明してやれ」と誘導することでなんとか危機を乗り切ってきたが、二人きりではその手は使えない。ボロが出るのも時間の問題だ。

 

「……そういえばアインズ様、アルベドはどうしたのでしょうか? お二人でモモンのことについて対策を練っていると伺ったのですが、この部屋にはいないようですね」

「あ、ああ。先ほどまで話していたのだが、明日は帝国の者たちが来るだろう? モモンのことも重要だが、目先のことを疎かにするわけにもいかない。だから一度話を切り上げて彼女には歓迎の準備の最終確認に向かってもらった」

 

 半分嘘である。彼女と相談している時も話の流れが読めなくなりボロが出る前に無理やり切り上げて、あれやこれや理由を付けて準備の方に行ってもらっただけだ。

 これで一息つける。ゆっくり冷静に彼女の話を吟味できると思っていたのだが。

 デミウルゴスがさらに混乱するような爆弾をぶち込んできた。

 

「できれば彼女にも聞いてもらい一緒に作戦を練り上げたかったのですが、アインズ様に聞いていただければ何も問題ないでしょう。何卒この知恵無き身に、その叡智の力をお貸しいただきたく思います」

 

 ――――どうする? このまま話を聞いても理解できる気がしないぞ。

 

 アルベドの時と同じく話を切り上げて、明日多くの者が集まる前でいつもの手を使うべきだろうか。そんな逃げの一手に縋ろうとする彼に、デミウルゴスは輝くような信頼の眼差しを向けてくる。

 

「う、ぅむ……いいだろう。本題を話せ」

「では今回得た最も重要な情報ですが、偽モモンはヤルダバオトとナザリックの関係に気付いておりません」

 

 アインズは顎に指を添え熟考をする。

 

 ――――ヤルダバオトとの関係? 確かに明るみに出ちゃマズいけど……。

 

 わからない。デミウルゴスが何を持って最も重要な情報と言っているのかが。

 考える。頭の中をひっくり返したり、揺らしてみたりもするが、わからない。

 やがて諦めて、知ったかぶりをするしかないといういつも通りの結論に至る。

 

「そうであったか。確かに、重要な情報だな」

「はい。この情報が有ると無いでは大違いです」

「……ああいう面で、違いが出るな」

「はい。ああいう面では大変重要です」

「そ、そういう面でも役に立つかもしれない情報だな」

「はい。そういう面でも全てを左右するといっても過言ではありません」

 

 ――――どういう面だよ!? わかんねぇよ! もうちょっと優しくプリーズ!

 

 もっと早くに真実を打ち明けておくべきだったと後悔した。

 しかしもう遅い。積み上げてしまった幻想の叡智は、崩すわけにもいかないほどに巨大な塔となってしまった。

 アインズの背後に退路はなく、背水の心持で頭を回すしかない。

 

「そう、だな……まずデミウルゴス、お前はその情報を持ってしてどう考える?」

「奴の行動を僅かですが誘導できるかと思われます」

「なるほど。そうだな、私もそう思う。それでどうすべきだ?」

「誘導し、罠にかけるべきだと愚考しております。実は既に布石を一つ打ってきました」

 

 ほう、とわざとらしく感嘆の声を上げる。

 大袈裟なくらいに、しかし静かさも兼ね備えた雰囲気で口にするのがポイントだ。

 

「流石はデミウルゴス。完璧だ、ならば私の知恵など必要ないのではないか?」

「お戯れを。布石を回収できるのは随分先の将来のこと。それまでが問題であり、私の知恵では至らぬ部分なのです」

 

 ――――よし、上手く必要な情報を引き出せているぞ。

 

 自分が何を答えるべきなのか――あるいはどのように誤魔化すべきなのか判断するのに必要な情報を得られたことに、アインズは心の中でガッツポーズをする。部下とのチグハグな会話に少し慣れてきたおかげだろう。小手先の会話術だけはメキメキとレベルアップしている気がする。

 

「つまり将来モモンを倒さなければならなくなった時に罠に嵌めるための手は打てたが、近い将来の奴の行動をどうにかする方法がない、ということだな?」

「まさしくその通りでございます。ヤルダバオトの宣戦布告により近い内聖王国へ向かうのは間違いないと思われます。しかし何時になるか、どの程度他国へ留まるかが不明です。せめて偽モモンの次の行動が読めれば対策も立てられるのでしょうが……」

 

 次の行動を読めれば……非常に難しいことだ。

 デミウルゴスが知恵を借りたいのはその辺りなのだろうが、アインズの頭の中に解決策はない。

 それでも一応は考える努力はすべきだ。すべて部下に任せていてはダメな上司になってしまう。

 

 ――――俺はそんな風になりたくない。責任感ある上司を目指すぞ!

 

「モモンは今、エ・ランテルにいるんだったな……」

「はい。ヤルダバオトの騒ぎもあって、少なくとも今夜一晩は都市から出ることはないでしょう」

 

 エ・ランテル……王国……鎧……戦士……。

 色々とキーワードを浮かべ、なんとか繋がらないかと苦心するが成果は出ない。

 しばらくの沈黙。無為に過ぎていく時間。それを実感し、思考を投げ出そうと時だった。

 

 ()()()()ふと脳裏に過り、バラバラだったキーワードたちが繋がる。

 しかし求めていたモノとは関係のない、とある人物は思い浮かんだだけだ。

 それをつい、口に出してしまった。

 

「……ガゼフ」

「ガゼフ? リ・エスティーゼ王国の戦士長のガゼフ・ストロノーフのことでしょうか?」

「えっ、いや……なんでもない。気にするな。それよりもデミウルゴス、この件はお前に一任しようと思う」

「しかし――――」

「話を聞いてお前なら任せられる、いやデミウルゴスしかいないと私が判断した」

 

 前言を撤回しよう、アインズは思った。

 出来る部下がいるのなら上司はその部下に仕事を任せるべきだ。

 

 ――――そう、部下の責任を負うことこそ上司の仕事だ。

 

 自分に言い聞かせ、部下へ言い聞かせる言葉を高速回転する頭で練り上げた。

 

「難しいことかもしれない。ああ、そうだとも……高い壁となっている。しかしならば、これは試練だ。生物はあれだ、試練を乗り越えることで強くなる。つまりは……成長、そう成長をする絶好の機会だ。私はお前たちに成長をしてもらいたい。期待しているんだ。そして今回の試練も、お前ならのり越えられると信じている」

 

 良く口が回るようになったものだ、と自分自身で感心する。

 それらしい言葉を並べてみたが、思いのほか纏まっただろう。

 

 証拠にデミウルゴスは呆けたような顔をして、アインズを見上げている。

 それは天啓を得た信心深い信徒のような光景。感動に肩を震わせ、内より溢れ出る感情を抑えきれないといった様子だった。

 

 彼は跪き、頭を垂れた。

 

「それほどの期待を、私ごときに掛けていただけるとは……このデミウルゴス、より一層の忠義を持って必ずやアインズ様のご期待に応えて見せます!」

「頼んだぞ」

 

 短く答え、心中では大きく息を吐く。

 もしこの部屋に誰もいなければきっと拳を天に掲げただろう。

 

 ――――乗り切った! やるじゃん俺!

 

 何も解決していない問題の先送りでしかないが急場は凌いだ。

 これで良かったのかと問われれば、否だろうがこれ以上はアインズにはない。

 

 しかし、やはり罪悪感にも似た感情はある。

 知恵者を演じるのもそろそろ限界かもしれない。

 

 見損なわれたくない、期待に応えたいという気持ちからの行為であったのだが、大切な部下たちを騙しているようで――彼らを信用していないようでいい気分ではない。

 アインズ本人としても気疲れが凄い。

 

 ――――いきなり暴露しても信じてもらえないだろうしなぁ。

 

 なんとかデミウルゴスたちの方が上手くことを回せるという風潮にして、アインズの頭脳面での評価をあるべき位置に軟着陸させるのがベストだろう。

 具体的な方法は思いつかないので、おいおい考えるとして。

 

 まずはこれ以上無用に評価を上げて勘違いさせることを避けるべきだ。

 狙ってやったことなど一度もないのだが……要努力、と。

 

 アインズは心のメモ帳にしっかりと記した。

 いつか気疲れしない平穏な日々が訪れればいいな、と夢見て。

 

 

 

 しかしだ。現実はそんなに甘くない。

 後日、階層守護者たちを玉座の前に集めていた時だった。

 

 急いた様子の部下が一人、情報を持って現れた。

 

「どうしたそんなに慌てた様子で?」

「はい! ご報告させていただきます!」

 

 至高の御方の前とあって緊張した面持ちである部下だが、その報告を述べる言葉はハキハキと聞き間違えることのないような声で出された。

 

「件の偽モモンが王都に出現! ガゼフ・ストロノーフと接触したようです!」

 

 多くの者はモモンの行方が分かったということに驚きの反応を見せた。

 だが、二人だけ。アインズとデミウルゴスだけは違う反応を示していた。

 

 デミウルゴスはまるで神を見たかのような衝撃に打ち震えていた。

 その視線の先にいる至高の存在――叡智の化身を見つめる。

 

「まさか……アインズ様、あの時の呟き。感服いたしました!」

 

 輝く宝石の瞳。

 彼の忠誠心はまた一段階壁を破り天高く昇っただろう。

 

 対してアインズ・ウール・ゴウンは心の中で絶叫した。

 

 ――――はっ、はあああああああああああああああああああああ!?

 

 なんでッ!? と。

 




モモンが現れたことで運命が変わるかもしれない

しかしアインズ様がデミウルゴスとコントする運命だけは変わらない
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