モモン・ザ・ダーク   作:テイクアンダー

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第二ラウンド

 第一波は容易く捌いた。数も精々三〇程度。足が速いだけが特徴のアンデッド共だった。

 おかげで、第二波が到達するまでにまた少し空白の時間ができた。

 

「誰か傷を負ったりは、まあしてないわよね?」

「ああ、問題ナシだ。イビルアイとアルシェの魔力もいい感じに温存できてるしな」

「順調。次来るのはおよそ一〇〇秒後……そのまま本隊が雪崩れ込んでくる」

「休憩できるのは今が最後ね。数も多いし、長丁場になるわよ」

「つっても厄介な大物は先に倒しちまったしな。さすがに後は雑魚ばかりだろ。モモンがあの幽霊船にかかりきりになっちまっても問題ないねぇと思うぜ」

 

 依頼書にあった謎のアンデッドについてほとんど情報がなかったため確証はないが、先ほど倒した死の騎士であると結論付けていた。派遣された帝国の騎士たちが全滅したというのも頷ける強敵であったが、あのクラスの化物がそうポンポンと発生するとも考え辛い。

 

 ガガーランの言葉は油断しているようにも思えるが、積み重ねた経験から出たものである。

 同じだけの経験をしてきた仲間たちも同意し、過熱気味の戦闘意欲を一つ落とした。長期戦を見込むなら、気を張り過ぎるのは無駄に体力と気力を消耗してしまう。

 

 長く息を吐いて熱を冷ますラキュースは、気にかけるべき少女がいることを思い出す。

 モモンの新しい相方、アルシェ。彼女の目から見て、少女の実力は自分たちと比べて二段ほど劣っている。戦況に合わせ魔法による援護を任せられるだけの能力はある。だが調子をこちらに合わせている以上、無理はしているだろう。

 

「アルシェさん、あんまり無理はしないでね」

「い、いえ。大丈夫です、まだまだ……すいません、後ろから簡単な援護しかできなくて」

「それで十分よ。初めて組むんだもの、魔法職にガンガン前に出られる方が困っちゃう。アダマンタイト級の中でもイビルアイは特別……というより変な部類だから」

「おい、変とはなんだ、変とは!?」

 

 抗議の声を携えて、件の変な奴がズカズカ足音を近付けて来る。

 

「確かに私の戦い方は一般的には理にかなっていないが、それは弱者が強者の真意を理解せずに真似だけしようとするからであって――――」

「はいはい。それをできちゃうイビルアイは凄いわ」

「適当にあしらおうとするな! アルシェからも何か言ってやれ!」

「でも確かに、イビルアイは変だと思う」

「……薄々思っていたんだがお前、私にだけ妙に馴れ馴れしくないか?」

 

 カルネ村で喝をくれてやった後くらいからだったろうか。アルシェの態度がイビルアイと他の“蒼の薔薇”のメンバーとで明らかな違いが出ていた。ラキュースたちには丁寧に接しているのに、イビルアイには親し気な間柄のような感触で話してくるのだ。

 確かに、呼び捨てでいいと言ったのは彼女自身である。

 しかしだ。こう砕けた調子でこられると、先達者としての威厳が問題となってくる。

 

 自分の見てくれを全く考慮に入れていない二五〇歳越えのヴァンパイアは、二〇にも満たない小娘魔法詠唱者(マジックキャスター)に詰め寄った。

 

「同じ等級とはいえ私の方が先輩だ。もっとこう、敬うとかなにかあるだろう!?」

「うん。尊敬してる、私もイビルアイみたいに凄い魔法詠唱者になりたい」

 

 純粋、とでも表現すべきなのだろう。アルシェの言葉は真っ直ぐ過ぎた。

 少し捻くれた生意気小娘なイビルアイにとってはある意味予想外で、たじろぐしかない。

 

「……なんか違う気がするが、まあいい。ラキュース、コイツには私から連携の細かいことを教えておく。お前はガガーランたちの話をまとめてやれ」

「ええ、任せるわ」

 

 使える時間は短い。イビルアイは手短に、効率的に言葉を選択する。

 先ほどのおさらい。要点の中の要点。今から必要になる連携と、そこからの応用。基本など抑えるつもりもなく、限られた者しか理解できない話し方。着いて来れないならそれでよかった。事態が収束した後、ゆっくり時間を取ってみっちり仕込む。そのくらいの面倒は見るつもりであった。

 

 だがこの少女、中々に筋が良い。

 魔法を学問として捉えた時の学習、吸収速度は目を見張るものがあった。

 

 そもそもこの歳で第三位階魔法まで扱えている時点で天才と呼ばれる部類だ。才能のつぼみがどこまで花開き、これからどこまで伸びるのかまでは流石にわからないが、全体的に悪くない。たとえ現在の時点で打ち止めだとしても、彼女の理解力があれば努力次第でイビルアイの真似事を一欠片くらいはやって見せるかもしれない。下手に第四位階に足を突っ込むよりは、そちらの方が実戦で使える人材になる。

 

「――――以上。質問は?」

「わかりやすかったから、大丈夫」

「そうか。なら難しく考えず、伝えた通りにやればいい」

 

 手をひらひらと振って、話を区切る。ちょうどラキュースたちから声がかかった。

 接敵間近、戦闘準備を求められた。頷くまでもなく、二人は陣形を組むために三人へ駆け寄る。

 意識して見ずとも、霧の中に蠢く無数の影が確認できた。

 

「うへぇ……わかっちゃいたんだが、目で見るとスゲェ数だぜ」

「まだ見えていない分も合わせれば全部で多分三〇〇〇くらい」

「おい待て、さっき言ってたよりなんか増えてねぇか?」

「もしかしたらもっと増えるかも……」

 

 ティアの言葉にガガーランが表情を歪め、やだやだと首を横に振る。

 だがその短い動作で感情を切り替えたのだろう。戦士としての表情が浮かび、薄っすらと口元へ笑みが滲む。

 

「なんとか囲まれないように立ち回りましょう」

「ところでラキュース、あのアンデッド共の中心に魔剣の暗黒エネルギーをぶつけることはできないのか?」

 

 イビルアイの問いかけに、ラキュースは目を見開く。

 

「ヤルダバオトの時も聞いたがあの時はまた今度と言っていたしな。全力で魔剣キリネイラムの力を解放すれば一国を飲み込むほどの力なのだろう? だったら一割でも使えるのなら――――」

「あっ、あああアレは無理! ちょっと無理! 条件が、えっと、天気とか、暦とか、そういうのがアレがアレしてこうだから……今は使えないのよ! また今度また今度!」

 

 アルシェは首を傾げる。先ほどまで凛とした面構えであったはずのラキュースが狼狽えるように目を右往左往泳がせ、顔を真っ赤にしているからだ。その額にはどっと汗が浮かび、話を区切ってからも呼吸が妙に乱れている。

 

 そういえば、と暗黒エネルギーという単語に彼女は憶えがあることを思い出した。

 あれはまだアルシェが帝国魔法学院に在籍していた時だ。同じく学院に籍を置く男子生徒の何名かが、そのような言葉を口走りなにやら怪しげなポーズを取って密談していたりした。

 

 その光景を見た年上の先輩女学生が、なんとかという病気であると評していたが……はて、なんと言っただろうか。

 とにかく、アルシェにはよくわからない話だった。

 

 突然の不意打ちがラキュースを襲うトラブルなどもあったが、迎え撃つに問題はない。

 各々の武器を構え、前方から迫る第二波に備える。霧のベールに隠されていた骸骨やら、腐肉の姿がありありと目視で確認できるようになった。前衛を務めるガガーランとラキュースが、群れの中央を押し返すために突撃せんと脚に力を込める。

 

 その時だった。背後から気味の悪い音がした。瞬時に“蒼の薔薇”が振り返り、少し遅れてアルシェも続く。全員の表情が驚愕に染まった。視線の先に、倒したと思っていた死の騎士が再び立ち上がる姿が映ったのだ。

 

「ウソでしょ、まだ動けるの!?」

「しぶと過ぎんだろ……」

「もしかして不死身?」

「いや……しまった! おそらくそういう特殊技能(スキル)だ。一度っきりか、回数制限か、致命傷に耐えられるとかそういう能力だろう」

「でも、もう見るからにボロボロだから。あと一撃で倒せそう」

 

 アルシェの言葉通りだった。立ち上がっても腹に空いた穴が塞がるわけではない。数々の猛攻に晒されボロボロになったその肢体は弱々しく、か細い糸一本に吊られているかのようだ。もはやイビルアイが警戒するだけの気配もない。

 

 ならば、と手を前に掲げ狙いをすませる。

 

「こいつで終わりだ。誇っていいぞ、お前は強かった。この極大級魔法詠唱者が保証してやる」

 

 〈水晶の短剣(クリスタル・ダガー)〉。水晶で出来たナイフが打ち出された。

 その鋭い刃先が騎士の体に突き刺されば、今度こそ倒れる。それは間違いない。

 回避の前兆はなく、巨大な盾を持ち上げる余裕も見られない。

 

 決着はついた――――そう確信し視線を外そうとした瞬間、何かが水晶の短剣の軌道を塞ぎ、弾いた。

 それは白い壁のようであった。突如地面より生え出て、死の騎士を守る立ち塞がる。だがよくよく見れば、それが人骨を組み上げて構成されたような手であることに気付く。それも爬虫類のような鋭い鉤爪だ。

 

 手一つで壁と感じるほどのサイズ感。

 地中に埋まったままの本体の巨躯を想像し、アルシェは正体に思い至った。

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)!?」

「チッ、こんな時に。……ガガーラン、任せるぞ!」

 

 地面が盛り上がり、人骨で形成された怪物が姿を現す。首が長く、四足で大地を踏みしめる翼を持った存在。その名に相応しく、竜を模ったような造形。一体どこから発声したのか、一丁前な咆哮を轟かせ赤く輝く憎悪の瞳を獲物たるアルシェとイビルアイへ向ける。

 

 二人の反応は険しいものだ。

 骨の竜――その強さは白金級の冒険者でも倒せる程度。だが魔法を無効化するという耐性を持ち、魔法詠唱者にとっては天敵とも呼べる存在であった。

 

 骸骨(スケルトン)系のモンスターに有効な殴打武器を持つガガーランが対応へ動く。

 入れ替わるようにしてイビルアイが距離を取り、遠距離から死の騎士を狙おうとする。だがそこで気付く。いつの間にか騎士の傍らに、ボロ布のようなローブを纏った姿があった。

 その人影がなんであるか、何をしようとしているのかを察知してイビルアイは叫んだ。

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)!? クソッ、まずい!」

 

 おぞましい顔を愉快そうに歪めたアンデッドが魔法を唱える。その手より光が伸び、死の騎士の体を禍々しいオーラで包んだ。

 〈負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)〉。本来であれば負のエネルギーを対象へ送り込む攻撃魔法であるが、アンデッドに使用した場合傷を癒す効果に転換される。

 

 見る見るうちに、腹部に空いた傷が塞がっていく。

 迷っている暇はない。冷徹な思考を持ってイビルアイは回復しきる前に勝負をかける。高威力を孕んだ魔法を放つ。だが今度は上空より白い塊が降り立ち遮った。巨大な竜の形を模した人骨の集合体。ガガーランが現在相手取っているものとは別の個体。

 

「二体目だと!?」

 

 その声にはもはや焦燥の色しか浮かんでいない。

 だが戸惑うことさえも状況は許さなかった。アンデッドの群れとラキュースがついに激突する。彼女一人では押し返しきれない数の暴力が、後ろで援護するティアや骨の竜の相手にかかりきりのガガーランへ襲いかかった。さらに二体目の竜が、獲物である魔法使いの少女たちへとその凶悪な前腕を振るう。

 

 各々なんとか対処し凌いでいる。だが、それでもジリジリと追い詰められてるのを感じた。

 何より――――。

 

「オオオオオオオオァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 けたたましい咆哮が轟いた。

 より深く、強い憎悪を滾らせた死の騎士。完全回復とまではいかないが、目立った傷は全て癒されている。その動きに支障はなく、英雄に匹敵する怪物が再び生者を貶めんと動き出した。

 

 絶望的な第二ラウンド。

 アルシェの頬に冷や汗が伝った。




エルダー・リッチさんが便利過ぎる……



最近体調が優れず、次回更新は少々遅くなるかと思われます
遅くとも来週末くらいには投稿できるかと思いますので、今度ともお付き合いいただければ幸いです
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