モモン・ザ・ダーク   作:テイクアンダー

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おや? ……アインズ様の様子が?

注意:オリジナルの魔法+既存特殊技術の独自設定が登場します



バーサス2

 強烈な一撃がアインズの骨身を襲った。

 

「ぐおおおおおおおおおっ!!」

 

 苦痛に思わず声を上げる。多少のダメージなら鼻で笑い飛ばせる体になったはずなのだが、それでも堪え切れないだけの大きなダメージを負った。

 たたらを踏むことも許されず、咄嗟に〈飛行〉の効力で大きく後ろへ飛び退く。

 

 なんとか距離を取り、詰められぬようにセバスがフォローに入ってくれた。

 体勢を立て直し、失われた体力を魔法によって回復する。痛みによってまやかしが薄れたようだ。今セバスと剣と拳を交えているのは漆黒の戦士に他ならない。

 戦闘中にため息を吐くなど御法度だが、今回ばかりは心の平穏のために必要だった。

 

 ゴンッ、と剣と拳がぶつかり合い、弾かれるように両名が後ろへ下がった。

 セバスがアインズの一歩前にまで後退し、声をかけてくる。

 

「申し訳ございません。私がついていながら……」

「気にするな。先ほどの負傷は完全に私のミスだ。すまない、助かった」

 

 いつもならここからもう一つ二つやり取りがあるはずなのだが、セバスも余裕がないのだろう。

 鋭く相手を見つめ、警戒心を張り詰めている。

 

 体力も完全に回復した。アインズの魔力が少しずつ削れていること以外は振出しに戻ったと言っていい。しかしこのままでは埒が明かない。本気を出すにしても、均衡を崩さなければ後手に回る可能性がある。

 ならば……。

 

「セバス、少々強引だが奴の防御をこじ開ける。私を信用できるか?」

「何をおっしゃいます。このセバス、すべてはアインズ様のためにあるもの。たとえ使い潰されるような命令であっても、それが至高の御方の命ならば本望以外にありません」

 

 心からの言葉。ナザリックにいる部下たちはきっと皆同じようなことを言ってくれるだろう。

 それを利用するようで罪悪感があるが、最上の信頼を寄せられているのだと考えて、アインズは次の一手の指示を出す。

 

「いくぞ、タイミングは私が合わせる。お前は全力で挑め」

「ハッ!」

 

 気合いの篭った返事と共に、セバスが偽モモンに対して何度目かの突撃を行う。愚直なほどに真っ直ぐ、カウンターを合わせて下さいとでも言わんばかりに。ただ素早く、しかし相手に気後れさせるような迫力を伴って。

 そのすぐ背後をアインズが追う。まるでセバスを盾にするように。

 

「ふん、大した主だ……」

 

 迎え撃つ偽モモンは嘲笑するように鼻で笑い、剣を構えた。

 言わせておけ、とアインズも心中で吐き捨てる。だがもし盾になっているのがアルベドやナーベラルなら怒りを露わにしたかもしれないが、流石は落ち着いた執事であるセバス。時と場合を弁えて、冷静に戦いに挑んでくれている。

 

 腰に溜めた拳が放たれる。モンクとしての特殊技術も発動し、隙は大きいが威力が大きく向上された必殺の一撃と成った。それを見て、偽モモンも渾身の一振りで迎え撃とうとしたのだろう。あからさまな大振り。

 

 アインズの狙い通りだ。

 大威力が衝突する寸前、セバスの背に向けて低位階の魔法を放つ。

 

「〈突風(ブラスト)〉」

 

 その名の通り突風が起こる。低位の風を起こし相手にダメージを与える魔法だが、セバスの持つ耐性なら軽々と弾かれ微かなダメージも与えるには至らない。しかしこの魔法には付随する効果がある。それは命中した相手を吹き飛ばす――ノックバック効果が発生するのだ。しかもこちらの効果は抵抗されにくい。背後から直撃させればほぼないと言ってもいい。

 

 低位故に発動が非常に早く、低魔力で扱えることからこの魔法は状況によっては高レベルな者同士の戦いでも時折使われることがあった。

 その魔法を、セバスを吹き飛ばすために使う。

 狙いは前方やや上方。目論見通りセバスの体は吹き飛び、衝突するはずだった拳と剣が空を切った。

 

 その場に残ったのは剣を空振りして不満足な体勢の偽モモンと、次なる魔法の準備を整えたアインズだ。

 凶悪な笑みを浮かべる。もちろん骸骨なので表情は動かないのだが――アインズはそんな気分だった。

 

「くらえ――〈幽現の銃弾(ファントム・バレット)〉」

 

 アインズの右手が銃の形を模る。そして指先から、不可視の銃弾が放たれた。

 偽モモンが一瞬たじろぐのが見て取れた。この魔法の性質を知っていたか、あるいは気付いたのだろう。放たれた不可視の銃弾は対象に命中するまで非実体である星霊界(アストラル)体となり、ほとんどの防御手段をすり抜ける。

 

 大振りを外したせいで回避もままならず、反則臭い剣で魔法を斬るという方法も封じた。

 だが、アインズはこれに相手が対処するところまで読んでいた。

 

 もう一振りの大剣が、異様な輝きを纏いながら振るわれる。

 

「〈次元切断(ワールドブレイク)〉」

 

 たっち・みーをはじめとした最強の戦士職ワールドチャンピオンが使える超弩級最終特殊技術。

 その破格の威力はあらゆる者にチートだと言わしめた。さらに付随する効果として、この攻撃はほぼすべての魔法的防御力を無効化し、星幽界体にすら届く。

 

 最強の一撃が、不可視の銃弾に振るわれる。

 目には見えないが、次元が裂かれるのと同時、魔法の消滅を確認。

 

 ――――そうだよな。この状況に持ち込めば、貴様はその特殊技術を使わざるを得ないよな!

 

 たっち・みーを思い出したせいで一撃貰ったが、この可能性に考えが至れたのだから幸運だった。

 〈次元切断〉はその強力過ぎる威力に対しては短いが、放った直後に動けなくなる硬直時間が存在する。本当にわずかな時間だ。普通に戦っていれば隙にもならないほど短い……やっぱりバランスおかしいよな、とアインズは思いながらもほくそ笑んだ。

 

 読み勝った。完璧に。

 偽モモンは僅かな間だが動けない。対してアインズは彼が動き出すより一瞬早く、第十位階魔法〈現断〉を放てる。これは魔法の中でも最高クラスの高火力魔法。それを直撃させれば形勢は一気に傾く。

 

 後は一気に畳みかければ――――。

 そこまで考えた時だった、異変が起こる。

 

 偽モモンは硬直によって動けないはずだった。それはこちらの世界であっても正常に機能することは、実験によって確認していた。なのに、奴は今目の前で動いている。

 大剣を振り抜いた勢いそのままに体を回転させている。

 

 それが意味すること。

 これから起こること。

 

 アインズは知っていた。アインズの想像だけが追い付いた。

 それ故に、これまでで最大の衝撃を受けた。

 

「馬鹿なッ!!?」

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 咆哮が轟く。踊るように漆黒の体は一回転し、もう一振りの剣を閃かせる。

 

「〈次元切断〉」

 

 二発目――流れるような二連撃。それも最強の剣技を、だ。

 状況が状況なら、おかし過ぎて笑ってしまう者がいるかもしれない。アインズも、初めてそれを見た時は馬鹿笑いしてしまったのだから。

 

 ――――直撃、だけは何とか避けなければ。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉」

 

 苦し紛れに放った魔法が、最強の剣とぶつかり合う。

 効果は似たような一撃同士であったが、向こうの方が上位互換だ。

 当然斬り裂かれるが、それでも威力は減衰した。鋭い破壊の刃が漆黒のローブに切り込みを入れた。

 

「くっ……クソッ、マジかよ……」

「ほう、今のを躱すのか。必中のつもりだったんだが、辛いな」

 

 余裕の態度を醸し出すように、片方の大剣を肩にかける偽モモン。

 対照的に、斬られた傷口を手で覆い、身を屈めながら相手を警戒するアインズ。

 

 立ち上がったセバスと、偽モモンを挟み撃ちにする位置関係に持って行けたが、それでもどちらが優勢化は明白だった。

 

「お前は……お前はなんなんだ!?」

「ん? さっきも言っただろう、私は英雄――――」

「――――違う! さっきの二連撃は俺だけが知っている! いや、俺とたっち・みーさんだけが! どうしてお前がそのバグコンボを知っている!? ……お前は、お前は一体誰なんだ!?」 

 

 アインズの痛々しいまでの慟哭が響く。もはや支配者としての装いも忘れ、ただ一人のモモンガという『プレイヤー』として。

 

 彼がまだアインズ・ウール・ゴウンではなくモモンガと名乗っていた頃、彼の幸せが絶頂だった黄金時代。新戦術の実験と称してたっち・みーと幾度となく模擬戦を繰り返していた。模擬戦とはいえ、モモンガは一度も勝利を掴むことはできなかったが、一度だけたっち・みーをあと一歩まで追い詰めたことがある。

 

 体力には余裕があり、相打ち覚悟で至近距離から魔法をぶつければ相手の体力は確実に削りきれる。

 そう判断して魔法詠唱者ながら、最強クラスの戦士相手に接近戦を挑んだ。それが間違いだった。たっち・みーは迎撃に〈次元切断〉を使い、アインズは紙一重でそれを避けた。これで相手は硬直し勝利は確実、と思った瞬間に白銀の鎧を纏ったたっち・みーの体が回転し、もう一振り必殺の剣を放ったのだ。

 

 これには当時のモモンガも反応ができず、直撃を貰い逆転負けを喫した。

 終わった後話を聞けば、あの二連撃は偶然見つけたバグ技だということらしい。幾つかの特殊技術を組み合わせることで〈次元切断〉を連続で繰り出せる、という運営が見つければ間違いなく修正案件のバグだ。

 

 だがその組み合わせは複雑で、何よりタイミングもシビア。

 彼自身もモモンガ以外のギルドメンバーにすらその存在を知らせず、ギルド対抗戦などで窮地に陥った時に敵の意表を突くために懐へと反則剣を秘めておく、なんて言っていた。結局一度も使うことなく彼は引退し、ワールドチャンピオンの職を持つ『プレイヤー』が少ないこともあって、彼以外にあのバグを発見できた者はいないはずだった。

 

 なのに……。

 

「答えろ! お前は何者だ!? 『プレイヤー』なのか? たっち・みーさんの知り合いか!? それとも――――」

 

 敵の背後で構えるセバスも、たっち・みーの名前が出てきたことで動揺が隠せないようだ。

 戦闘態勢を解いたりはしないが、主にどうすればいいのか、と視線で問うてくる。

 ――――俺が知りたいくらいだよ。

 

 アインズは心の中で悪態を吐きながらも、決して漆黒の鎧から目を離さなかった。

 

「なあ、答えろよ!」

「……………………私は漆黒の英雄モモンだ」

「ふざけんな! それはロールプレイか!? 他人のキャラ乗っ取って楽しいか!? わかったよ、もういい! だからこれだけ教えてくれ! たっちさんとはどういう関係だ!? もしかしてあの人もこっちに来てるのか!? なあ、だったら頼むよどこにいるのか教えてくれ! 頼むからッ!」

 

 外聞を取り繕うつもりなどなくなっていた。アンデッドの精神鎮静化も役に立たない。それ以上に早く、新たな感情が内より湧き出でるのだ。

 かつての仲間の痕跡を前に、アインズの仮面は儚いくらいに脆かった。

 神に懇願するように、彼は答えを待った。口元が見えなくて、漆黒の両頬付き兜がこれ以上ないくらいに恨めしく思えた。

 

 しばらくの沈黙を経て、モモンが口を開いた。

 

「悪いが、そのタッチミーなる人物に心当たりはない」

「ッ――――じゃあどうして! なんで俺たちの邪魔をしに来た!? 意味わかんねぇぞ!」

「……声が聞こえたんだ。あの娘を助けてやって欲しいって。皆を救って欲しいって」

「はぁ? それは――――」

「こんな言葉を知ってるか?」

 

 まるで呪文のように、モモンは言葉を紡いだ。

 

「――――誰かが困っていたら助けるのは当たり前」

 

 決定的だった。

 まるで空間自体がひび割れたかのように、二人の時間が止まった。

 アインズは力なく腕を下ろし、セバスもまた拳を解いて目を見開くしかなかった。

 

「私は、この言葉に従っている。この言葉こそが、英雄というものの在り方なのだ、とな」

 

 戦意はなくなったと判断されたのか、ゆっくりと二本のグレートソードが背にしまわれる。

 そしてアインズに背を向け、アルシェを逃がした方向へと歩き出した。

 

「失礼する。追ってくるならば好きにしろ。その時は本気で相手をしてやる」

「……待て」

「断る。ここでの役割は終えたようだからな」

「……待ってくれ」

 

 弱々しい声にモモンは振り返ったが、一瞥しただけでまた歩み始めた。

 隣を通り過ぎたセバスも、視線でその姿を追うだけに留まる。

 

 遠くなっていく漆黒の姿。その色は真逆だというのに、アインズの目にはかつてたっち・みーが自らのもとを去った時の光景と重なって見えた。

  

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