うざいジジイと異世界に行くという謎の苦行   作:お爺ちゃん作家

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〜prologue〜
第1話 『ジジ専』


 

 

 

 ここは夢の中だろうか。

 

 

 「いや、ここは酒場じゃった」

 

 

 視覚と聴覚を除くあらゆる感覚が淡い。

 

 

「視覚と聴覚を除いたあらゆる感覚ーーっブフォwwそりゃ大変じゃなあ、おい」

 

 

 どうして俺がこんなところにいるのか、全く思い出せない。

 

 

「と、心の中で拗らせる自分がちょっとかっこいいと思った」

 

 

「……あのさ」

「はい?」

「いや、はい? じゃねえよ!? なんなんだよあんたさっきから! なんで心の中読んだみたいにコメントしてきやがるんだよ!」

 

 

 思わず突っ込んでしまった。

 オールバックの初老の男。いや、初老だがやたらと血色と……あと背筋が良い。こんなジジイが他にいるか。

 

 まるでバーのマスターの様な黒と白の服を纏った彼が、空になったワイングラスをタオルで拭いている。

 

 

 

「キュッキュッ、ふぅー」

「…………」

「キュッキュッ、ふぅー」

「…………」

「キュッキュッ、ふぅー」

「…………」

「キュッキュッ、ふぅー」

「…………」

「キュッキュッ…っ

 

「いや1つのグラス磨きすぎじゃねっ!? 終わるのめっちゃ時間かかりそうなんだけど!?」

「あ、ウチこのグラスしか置いてないんでの」

「なんでだよ! 営業出来ねえだろ磨いてねぇで買いに行けよっ!? 」

 

 

 

 まったく、なんなんだよこいつは……。

 

 というか、やっぱり状況が呑み込めない。目が覚めたら訳の分からん酒場のカウンターに座らさられていて、目の前にこの爺さんがいたんだ。

 

 

 

【常連客っぽくかっこいい台詞をお願いします】

 

「は?」

 

 いきなりジジイにテロップを構えられた。

怠そうな顔を向けると、「巻いてるんで」みたいなジェスチャーを向けてくる。うぜえ。

 無視しているとテロップをカタカタと揺らしてきて鬱陶しかったので、渋々付き合ってやる。

 

「おほんっ! い、いつものを頼むよ……」

「承知した、いつものヤツじゃな?」

「ああ、そうだ」

 

 とりあえず伝わったようだ。

 爺さんは踊るようなステップで(……なんで爺さんがそんな軽快な動きを見せられるんだ……)カウンターの奥へ向かったかと思うと、二階に向かって、

 

「あの〜マスター? なんか訳の分からない注文するお客さんが……

「ちょちょーーいっ!」

 

 俺は思わずツッコミを入れた。いや、当たり前だろこれは。

 

「え、なんで伝わったフリしたの!? つーか、お前マスターじゃねぇのかよ!」

「マスターじゃが?」

「は?」

「は?」

 

 うぜええええぇぇぇぇ!!

 

「くそ、こんな面倒な奴に一々付き合ってられるか」

 

 俺は吐き捨てるように告げ、酒場を立ち去ろうと椅子から立ち上がった。

 早く出て行かないと、料金とか請求してきそうだしな。

 

 

 

 そう思って、振り返ったんだ。

 振り返って、無いことに気が付いたんだ。

 出入り口がって? いや違う。

 

 

 

 ーー何もなかった。

 

 

 

 そこも、そこから先も、地平線も、きっと、その先の先だって。

 人の目に視えている色は全て光の反射だ。簡単に言えば色を持つ物体はその色に対応する光を反射している。

 

 だから直感した。“世界(ここ)に反射する物体がないこと”を、“世界(ここ)に色がないこと”を。

 

 

 

「どこへ行かれるおつもりかな?」

 

 

 

 不意に背中へと声が掛かった。

 

 

 

「爺さん……これ、どうなっ……!?」

 

 

 振り返るともう酒場は無くなっていた。そこには先程の老人がただ1人、ポツリと立っているだけだ。

 

 

 

「これからお前さんはワシと行くんじゃよ。()()()()

 

 

 

 なんかいきなり真面目な顔で爺さんにそんなことを言われた。

 

 

 

 うん。

 

 

 

 これ夢だな。

 

 

 

 

「夢じゃないよーん?」

 

 

 

 なんかいきなりふざけた顔で爺さんにそんなことを言われた。

 

 

 

 …………。

 

 

 

「いや、ちょっと待ってそれはないわ。ジジイとはない、絶対ない。だって冷静に考えて意味不明じゃん。美少女とならまだ分かるよ? 王道だし。大変かもしれないけど嬉しいよ。……なんでジジイなの? しかも性格に難があり過ぎるんですが。一緒にいるとものすごく疲れるし。これで喜ぶとかどんなアブノーマルなんだよ。誰得だよそれ。つーか俺を巻き込む意味が分からんわ。1人で行って……

「あれ、ジジ専じゃないの?」

 

 

 

「ジジ専とか聴いたことねぇよっ!? しかも俺男なんですがああああぁぁぁぁ!!??」

 

 

 

 語尾が断末魔になった理由。それは足元が急に抜けたことによる理不尽な重力と自分自身の質量が引き起こしたニュートンの運動方程式でも登場する有名な……

 

 

 とりあえず自由落下しました。多分死にます。

 

 

 




よろしくお願いします。
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