実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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 初投稿です。
 0章の話では、原作キャラクターが登場せず、ほとんど主人公の独白になってしまうので、素早く読みたい方は1章の「Dクラス」からお読み下さい。
 一応「Dクラス」の前書きに0章のあらすじが書いてあります。


0章 事前準備
「手順」


 中学校三年生の夏、赤石求(あかいしきゅう)は階段で転んで頭を強く打った。病院に運ばれた後、2日間意識が戻らず、医師も家族には厳しい状態であると告げた。しかし意識が戻った後は急速的に状態が回復し、1週間もかからずに退院した。何の後遺症も残らず、家族は安心したが、赤石求本人は自身の脳におかしな感覚を感じていた。

 

***

 

 ――頭がおかしい気がする。

 

 病院から退院し、体の調子は問題なかった。しかし、数日後、頭の中で何かがぼやけているような感覚がした。何かの後遺症を疑い、パソコンを開きネットで「頭 衝撃 後遺症」と調べようとして、おかしなことが起こった。

 

 検索を行おうとして頭のなかで何かの式や方法が突如として閃いてきた。それが何の方法かはまったくわからなかったが、手が勝手に動いて、その方法を行っていた。

 自分のパソコンに対して次々と頭に浮かぶ謎の手順を入力していった。気がついたら画面には自分の医療記録が出力されていた。

 

 唖然として、よく見ると、その記録はつい退院したばかりの病院の自分の診察結果であった。なぜ医療記録が表示されているのか、そこまで考えて、また新しい手順が頭に浮かんだ。

 僅かな恐怖を感じたが、しかしそれ以上に、頭に思い浮かんだ手順を試したいと感じた。気が付くとまた手が動き、フローチャートのようなものが表示された。フローチャートには自宅からサーバーを通して病院までのアクセス方法が書かれていた。どうやら自分は無意識中に病院のデータにアクセスしていたようだ。

 

 

――そんなことありえるだろうか?

 

 

 自分はパソコンやネットは好きだったが不正アクセスの方法などまったく知らなかったし、ハッカーという存在もせいぜい映画で知っている程度だった。そんなわけがないと思っていると、脳内でさらに新たな手順が生まれていった。なんの手順かはわからなかったが、おそらくこれも何かの情報に接続する方法だと感じた。試したいと咄嗟に思ったが、同時にこうも感じた、

 

 

――バレたらやばいよな、これ。

 

 

 すると脳内の思考がいったん止まり、そしてさらに動き始めた。そして感じた。今度は手順ではなく、この手順により発生する結果が実行前に本能として感じ取れたのだ。

 

 

――あ、このアクセス方法はまったく感知されない方法だ。しかも、さっきの病院へのアクセスも記録に残ってないや。

 

 

 そしてまた、手が動いた。今度は無意識というよりも半ば意識的なものであった。そして次々と自分のパソコンには信じられない事象の数々が表示される。

 それは国家の予算記録だったり、スパイの活動記録だったり、戦争計画だったり、様々な知ってはいけない情報が映し出された。やりすぎたと思う反面、情報を抜き出すときの暗い愉悦感と万能感は薬物のように心を満たしていった。

 

 

 

 

 気がつくと検索をはじめてから数時間が経過していた。いったんパソコンを閉じようとすると、手が再び勝手に動き出した。何をやっているのか少し分からなかったが、画面に映し出される情報と頭の中に残る方法の残滓から、おそらく侵入記録を消しているのだろう。

 パソコンを消すと、頭の中で蠢いている手順が消えた。そして同時に最初の課題であった、頭の中のぼやけがなくなっていた。むしろ、かなり頭がすっきりとしていた。

 もう何も怖くはなかった。というのは少し嘘で、自分のハッキング能力が怖いと感じた。

 

***

 

 あれから2日が経過した。両親は未だに自分の怪我を心配してくれたが、学校に通い元気な姿を見せると安心してくれたようだった。

 中学校の教師にも顔を見せ、無事を確認してもらった。担任の先生に一通り心配していたことと快調したことに対する祝いの言葉を貰い、進路の話になった。なんとも話題転換が急だと思ったが。もう3年の夏であり、重要事項なことであった為、しっかりと聞いておいた。成績はそこそこ優秀だったため、勉強をすればかなり良い所まで狙えるのではという話だった。

 

 

 帰宅するとパソコンを2日ぶりに開いた。不思議と「手順」が頭の中に現れることはなかった。あれ?と思い、もしや夢だったのかと感じたところで、再び頭の中に「手順」が現れ、手が動き、数々の国際機密が画面に表示された。

 

「これは、もはや一種の超能力だな」

 

 そう呟き、今日本当にやるべきことを調べた。進路のことである。

 「高校 難易度」や「高校 地元」などいろいろと探してみた。頭の中の「手順」に従うと、その高校の実績・歴史・在籍教員・生徒、挙句の果てには過去問題や問題の作る指針、ここ数年間でおきた秘密の不祥事なども明らかになった。

 次々の高校の情報を抜いていくと、だんだんと空しくなってきた。どうも完璧に素晴らしい高校というのは存在しないようであった。あたりまえである。

 

 しかし、収穫がないわけでもなかった。1つ非常に面白い高校を見つけたのだ。その名も「高度育成高等学校」。

 なんとこの学校では就職率・進学率が100%の高校らしい。これだけ聞くとなんとも胡散臭いが、「手順」を使って得た情報によると内部はさらに歪であった。「実力至上主義」を伝統としており、弱肉強食、Sシステムという奇抜な制度により優秀な生徒には金をばらまき、そうでない生徒は生活難に苦しむという、ぶっ飛んだ発想により運営されているらしい。

 

 

――完全なる実力至上主義。

 

 

 不思議とこの文面が頭の中を貫いた。そして感じた。試してみたいと。自分のこの歪な超能力とこの歪な学校は、この上なくマッチしているのではないかと感じた。

 そう感じた次の瞬間になると「手順」が暴れ出し、手と指が荒ぶり、「高度育成高等学校」の入学方法と過去の試験と面接結果。そして今年の試験内容と面接方法がパソコンに表示されていた。

 

「うん、これ完全にカンニングだよな……いや実力至上主義って言ってるしいいかな?……ダメな気がする……」

 

 まあいいかと、頭の中で思い込み、入学手順を再び確認した。試験は少し早く12月から準備を行うようであった。まだ5か月もあるが、それまでに色々とやるべきことをやらねばならないと心に決め、計画を立て始めて思ったことがあった。

 

――こんなに明確に行動しているのは15年の人生ではじめてかもしれない……

 

 思えば少々他人より頭が回る程度で、他の能力は飛びぬけたところがなかった。絶望していたわけではないが、自分は成長しても特に何もなく、何もなく、淡々と生きていくのではないかと感じていた。それがこんなにも生き生きと活動をしている。これはとても嬉しいことなのかもしれない。

 

 

 

 

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